清水理史の「イニシャルB」

何だかちょっとかわいい無線LAN中継機 TP-Link「RE650」

 ティーピーリンクジャパン株式会社(TP-Link)から、4ストリーム対応で最大1733Mbpsの通信が可能なIEEE 802.11ac準拠の無線LAN中継機「RE650」が発売された。見た目はどことなく愛嬌があるのに、性能的には一級品。無線LAN通信を超高速に中継可能な、その実力を検証してみた。

ちょっとカワイイ

 標準ポジションだと「ワーイ」という感じだろうか?

 耳を垂らして――、両手に動きを付けてみると――。

 「おぉ、どことなく愛嬌のある感じに……」。

 撮影がてら、ポーズを変えてみるのが楽しくなって、いろいろやっているうちに「オレおっさんなのに、何やってんだろう」と、猛省した筆者です。

 TP-Linkから発売された「RE650」は、中央の丸いリングや両サイドの4本のアンテナが、どことなくアニメや映画のキャラクターを思わせるユニークなデザインの無線LAN中継機だ。

 WPS設定と接続状態確認LEDを兼ねる中央の丸いリングと、角丸のやわらかなデザインは、現在の同社の中継機に共通する最新のデザインだが、何と言っても効いているのは、両サイドから控えめに伸びた4本のアンテナだ。

 IEEE 802.11acの無線LAN規格は、MIMOと呼ばれる技術によって、同意周波数帯を使った通信(ストリーム)を同一空間上で多重化することで、高速化を実現するものだ。

 変調方式などによって値は変わる場合もあるが、基本的な通信速度は1ストリームあたり433Mbps。IEEE 802.11acで最大1733Mbpsの通信が可能なRE650は、1733÷433=4(ストリーム)で、各ストリームがそれぞれ1本ずつ使うアンテナが、合計4本搭載されているというわけだ。

 同社の中継機のラインナップの中では、アンテナ2本の「RE350」や3本の「RE450」を凌ぐ、ハイエンドの無線LAN中継機ということになるが、より高い速度を実現するために配置された4本のアンテナが、何ともイイ味を醸し出している。

背面
左側面
右側面
ケースと付属品

ジャンクションの車線が多い

 RE650は、前述した通り、無線LANの通信範囲を広げることができる中継機だ。5GHz帯(最大1733Mbps)と2.4GHz帯(最大800Mbps)のデュアルバンド対応で、この2つの帯域を使って、既存の無線LANルーターと、スマートフォンやPCなどの端末との間で、無線LANの通信を中継する役割を持つ。

 同様の製品は他社からも発売されているが、冒頭で触れた4ストリームに対応した中継機は希少な存在だ。国内ではネットギアジャパンの「Night Hawk X4 EX7300」と、このRE650が主要な製品だが、競合と比べ、若干価格が安い上、2.4GHzの速度が800Mbpsとなっているのが本製品のアドバンテージとなっている。

RE650RE450EX7300
実売価格1万3586円7173円1万4979円
外部アンテナ43なし
5GHz1733Mbps1300Mbps1733Mbps
2.4GHz800Mbps450Mbps450Mbps
モード中継機/AP中継機/AP中継機/AP
MU-MIMO×
中継設定Fastlane
有線1000Mbps×11000Mbps×1
消費電力12W9W
本体サイズ(幅×奥行×高さ)163×86×40163×76.4×66.5161×81.4×44.5mm

 4ストリーム対応の中継機のメリットは、433Mbps×4や866Mbps×2(1733Mbps)の帯域を確保できる点だ。本製品はMU-MIMOと呼ばれる技術に対応しており、1733Mbpsの帯域を各ストリーム(433Mbpsまたは866Mbps)ごとに分割し、異なる端末との同時通信に利用することができる。

 これにより、例えば、親機となる無線LANルーターとの間で866Mbpsの通信をしながら、同時にPCやスマートフォンなどのクライアントとの間で866Mbpsの通信を実現できることになる(もちろん、すべての機器がMU-MIMO対応の場合)。

 要するに、単純に最大速度が速いだけではなく、親機や端末との通信、複数端末との通信などに、豊富な帯域を効率的に割り当てることができるというのが、本製品のメリットということになる。

 言うなれば、高速道路のジャンクションの車線が多いようなものだ。このため、現状、使っている無線LANルーターが1733Mbps対応である場合はもちろんだが、866Mbpsにしか対応していない場合でも、構成次第ではRE650の1733Mbps対応という速度を有効活用することができる。

Tetherで設定してもOK

 使い方としては、コンセントに直結して電源をオンにした後、既存の親機に接続するという流れになる。

コンセントに直結。下の口は狭いが塞がずに済む

 親機への接続は、付属のかんたん設定ガイドでは以下の3通りとなっている。

  • PCから初期設定用のSSID「TP-LINK_Extender_2.4GHz/_5GHz」に接続してウェブ設定
  • WPSにより親機と接続
  • スマートフォンアプリ「Tether」で設定

 手軽なのはWPSの利用だが、今回は利用者が最も多そうな「Tether」で設定してみた。アプリをダウンロード後、PCの場合と同様に設定用のSSIDに接続すると、アプリからRE650を認識できるので、設定ウィザードを使って各種設定を進めればいい。

 注意点としては、「接続先ホスト(親機となる無線LANルーター)」の設定だ。

 本製品は、2.4GHz帯と5GHz帯で、それぞれ個別に接続先を設定できるようになっており、以下のパターンで親機と接続することができる。


    a) 親機―(2.4GHz/5GHz)―中継機
    b) 親機―(2.4GHz)―中継機
    c) 親機―(5GHz)―中継機

 b)やc)で、親機との接続に特定の帯域だけを割り当てる方が、周波数の使い分けとしては賢いが、環境によっては2.4GHz帯が混雑で使い物にならない場合が多いため、実質的にはa)かc)をお勧めする。

 なお、これは余談だが、a)の場合、2.4GHzと5GHzで異なるネットワークに接続することも可能だ。例えば、筆者宅にはフレッツ光プレミアムとNUROの2つの回線が敷設されている。5GHz帯側でフレッツ光プレミアムの無線LANルーター(192.168.1.xxx)に、2.4GHz帯側でNURO光の無線LANルーター(192.168.2.xxx)に接続してみたが、問題なく接続できた上、この2つのネットワークの中継も可能だった(ただ、正確なテストはしていないが、回線断時の切り替えに時間がかかる印象あり)。

2.4GHzと5GHzを個別に接続設定可能。いずれかのみでもOK

 話を戻そう。親機との接続に続いては、PCやスマートフォンなどが実際に接続先として利用する「拡張ネットワーク」の設定となる。

 Tetherを使った設定の場合、親機と同じSSIDとパスワードが自動設定されて変更できないため、そのまま「次へ」で進む設定となるが、PCからウェブUIを利用すると変更が可能な上、2.4GHzと5GHzのそれぞれを個別にオン/オフすることも可能だ。

 これにより、例えば「親機―(5GHz)―中継機―(2.4GHz)―端末」というように帯域を明示的に使い分けることも可能な上(ネットギアの中継機で言うところのFastlane的機能)、中継機のSSIDを親機と別のもの(XXXX_EXT)などに設定し、明示的につなぎ分けたい場合も対応可能となっている。

 設定としては以上で完了で、PCやスマートフォンなどの子機側の設定は特に必要ない(同じSSID/パスワード設定の場合)。電波状況に合わせて、自動的に親機に直接接続するか、中継機経由で接続するかが選択されることになる。

 なお、利用するチャンネルは親機側の設定に依存するが、テストしてみた限り、5GHz帯に関しては、W52の36ch、W53の52ch、W56の100chでの接続が可能だった。もしも、親機側のチャンネルがW52以外でも問題なく中継できるだろう。

拡張ネットワークは標準では親機と同じSSID、パスワードが自動設定される
PCからウェブUIを使えば、各種ステータスや拡張ネットワークの詳細設定が可能

遠い場所でも200Mbps以上を確保可能

 気になるパフォーマンスは良好だ。以下は、木造3階建ての筆者宅にて、1階に親機(ネットギア Nighthawk X10)、3階の階段踊り場に中継機(RE650)を設置し、3階の入口付近ともっとも遠い窓際で、iPerfによる通信速度テストを実施した結果だ。

中継なし中継5―子機2.4中継5―子機5中継2.4―子機5中継2.4―子機2.4
3F入口13810818812059.6
3F窓際36.210519312665.4

※検証環境 親機:ネットギアジャパン Nighthwk X10 R9000 クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 中継機なしの場合、3階では、入り口付近で138Mbpsで通信できるものの、窓際で36Mbps程度にまで低下してしまうが、RE650を踊り場に設置することで、窓際の速度が大幅に改善された。

 ただし、改善の度合いは周波数帯の組み合わせ次第で異なり、最も効果が高かったのは「中継5―子機5(親機―(5GHz)―中継機―(5GHz)―子機)」の組み合わせだった。この場合、3階のどこでも200Mbps近くの速度が実現できており、ハイパフォーマンスルーター単体よりも、確実に高い速度が実現できることが確認できた。

 2.4GHz帯が混雑していなければ、別のパターンでも高い速度が実現できる可能性があるが、現状は5GHzを使う方が速いと言えそうだ。

 階段踊り場に設置していると、夜中に光るRE650が、愛嬌のあるデザインであるだけに、場違いな感じもするが、無線LANの通信エリア拡大にはかなり効果的と言える。現状の無線LANの性能に満足できない場合は、導入を検討してみるといいだろう。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。