清水理史の「イニシャルB」
複数のChromecastを連携制御、店舗のディスプレイやBGM再生に活用できそうなQNAP「Cinema28」
Apple TVやGoogle Home、DLNA/Bluetoothデバイスにも対応
2017年11月13日 06:00
QNAPのNAS向けに「Cinema28」というベータ版パッケージの配布が開始された。NASのHDMIに接続したディスプレイやラインアウト端子のスピーカー、ネットワーク内のChromecast、Apple TV、DLNAレシーバー、Google Homeなどに対して、NASから映像を配信できるコントロールセンターだ。家庭のテレビでの動画再生などにも便利だが、デジタルサイネージのコントロールセンターとしても重宝しそうな機能となっている。
家庭内シアターやデジタルサイネージに
開発者の意図としては、“家庭版マルチシアター”とでもいったところだろうか。
リビングのテレビを“シアター1”、書斎を“シアター2”などとし、シアター1で先日の運動会の映像の再生を開始したら、続けてシアター2で映画を再生する――。
Cinema28を使えば、こんな具合に、自分がマネージャーとして、どのシアターで、どんな動画を再生するかを簡単にコントロールすることが可能だ。
最近のNASにはメディアの配信機能が搭載されており、NASに保存されている写真や動画をネットワーク内のChromecastなどにキャストすることが可能だ。これをもっと進めて、配信のコントロールをもっと手軽にできるようにしたものと考えれば分かりやすいだろう。
「Cinema28」は、QNAPのNAS向けに提供されているマルチゾーン対応のメディア配信マネジメントアプリだ。
NASから、配信可能なデバイス(最大8台)を自動的に認識し、それぞれの機器に対してメディアファイルをドラッグ&ドロップするだけで、写真や映像を配信可能になっている。配信が可能なのは以下のような機器だ。
- NAS本体のHDMI端子に接続したディスプレイ
- NAS本体のラインアウト端子に接続したスピーカー
- NAS本体のUSB端子に接続したオーディオ機器
- Bluetoothスピーカー(NAS本体のUSB端子にBluetoothレシーバーを要接続)
- 同一ネットワーク内のDLNAレシーバー
- 同一ネットワーク内のChromecast
- 同一ネットワーク内のGoogle Home
- 同一ネットワーク内のAirPlay対応機器
冒頭では家庭での利用例を紹介したが、個人的に適していると思うのは、店舗やショールームなどのデジタルサイネージでの活用だ。
例えば、さまざまな売り場がある家電量販店で、それぞれに再生用のディスプレイを設置し、PC売り場ではPCのCMを、テレビ売り場ではテレビのCMを、ゲーム機売り場で最新ゲームのCMを、といったように、それぞれのゾーンにNASからのドラッグ操作だけで簡単にメディアを配信できるようになっている。
もともとQNAPは、デジタルサイネージに積極的なNASベンダーで、専用の配信ソフトウェアや機器も取り扱っている。しかし、こうした高価な製品を揃えなくとも、NASとChromecastなどの受信機だけで、バックヤードから一元管理できるメディア配信システムを構築できるというわけだ。
プレイリストの音楽をGoogle Homeで再生実際の使い方は?
Cinema28は、ベータ版のアプリとなっており、現状はx86 CPUを搭載したNASでのみ利用可能となっている。今回は「TS-453A」を利用したが、対応機種を利用している場合は「AppCenter」の「ベータラボ」にアイコンが表示されるので、ここから簡単にインストールすることが可能だ(Media Streaming add-onパッケージも必要)。
使い方は、設定がほとんど必要ないほどの手軽さだ。アプリを起動すると、自動的に配信可能なデバイスがリストアップされる。
例えば、今回利用したTS-453Aの場合、本体にHDMIが2ポートに加え、スピーカー接続用の「Audio Line Out/Speaker」端子が搭載されているため、これらがリストアップされた。
また、今回のテスト環境では、同一ネットワーク内に設置してあるApple TV(初代)とChromecast(初代)、DLNAレシーバー機能を搭載したテレビ(BRAVIA KDL-24W600A)、さらにGoogle Homeもリストアップされた。
メディアの配信はシンプルだ。リストアップされたこれらのデバイスに、NAS上のメディアをドラッグするだけでいい。
「メディアリスト」ボタンをクリックすると、共有フォルダー、もしくはPhotoやVideoなどのメディアの種類ごとにNAS上のファイルを一覧表示できるので、ここから再生したいメディアを選択してドラッグすると、そのデバイスで自動的にメディアの再生が開始される。
複数のメディアをドラッグすると、簡易的なプレイリストとして使用可能で、複数のメディアを並べた順番で自動的に再生することもできる。
もちろん、再生のコントロールもCinema28上から可能で、再生バーをドラッグして再生位置を指定したり、次の動画に切り替えたり、リピートやシャッフルを指定することもできる。
それぞれのデバイスで何を再生するかを考えたり、実際に再生や停止をコントロールしていると、本当に映画館の中の人にでもなったかのような気分だ。
同じように、デバイスを指定したメディアの配信は、「Video Station」など、ほかのアプリでも可能だが、これらがメディア中心のUIであるのに対して、Cinema28は、複数デバイスの配信をコントロールすることに主眼が置かれており、デバイス中心のUIである点が特徴だ。
家庭での利用もそうだが、店舗など現場での利用を考えると特に、この操作性は非常に分かりやすいし、日々の運用管理もしやすい印象だ。
ただ、現行バージョンはまだベータ段階である影響か、たまに音楽再生が途切れたりする。この点はぜひ改善されることを望みたい。
タイムテーブル上に再生映像を配置できる機能が欲しい
以上、QNAPのNAS向けに提供が開始されたCinema28を実際に使ってみたが、ほかのNASにはない非常に魅力的な機能と言える。
現状のNASは、Synologyがどちらかというとホームやオフィスのデスクワーカー向きに機能を進化させている一方で、QNAPはIoTやIFFFT、そして今回のCinema28のように、どちらかというと現場ウケする機能を強化させつつある。
こうした方向性の違いは素直に面白いが、デジタルサイネージなど、現場には「こういう使い方がしたい」というピンポイントのニーズがあり、そうしたニーズを拾うのがQNAPはなかなかうまい。
現状は、リリースされたばかりのベータ版であるため、機能が非常にシンプルだが、現状の機能に時間管理、つまりタイムテーブル上に再生したい映像を配置するような機能が追加されれば、極端な話、デジタルサイネージ専用機としてQNAPのNASを買ってもコスト的にまったく惜しくはない。
また、x86 CPU以外のバージョンぜひ投入してほしいところだ。特にGoogle Homeとの連携は便利で、NASに保管されている音楽を手軽に再生することができる。AIスピーカーだからと言って、必ずしも音声でコントロールする必要はない。NASからコントロ-ルするというのもなかなか便利だ。
そのうち、機会を見て紹介したいと思うが、QNAPのNASには「QRM+」というクライアント管理用のツールの提供も開始されており、なかなか面白い方向に進化しつつあるので、今後も注目していきたいところだ。