清水理史の「イニシャルB」
2台2万円で手に入るWi-Fi 6メッシュ、TP-Link「Deco X20」
2020年6月22日 06:00
TP-Linkから、実売価格が2万800円(税込)と、非常にリーズナブルなWi-Fi 6対応のメッシュWi-Fiシステム「Deco X20」が発売された。メーカーによっては、入門用でも1台2万円前後のWi-Fi 6対応ルーターが、2台のメッシュ構成でも2万円なのだから驚く。その実力を検証してみた。
Wi-Fi 6×メッシュが買える価格になってきた
TP-Linkと言えば、以前の本連載で紹介した実売8000円のWi-Fiルーター「Archer X10」も衝撃的だったが、今回の「Deco X20」もかなり衝撃的だ。
モノによっては2台セットで10万円近くにもなるWi-Fi 6対応の2パックメッシュが、わずか実売2万円ちょっとと、格安の価格設定になっている。
もちろん、10万円を超えるようなハイエンドのメッシュシステムに比べて劣る部分はある。
そうしたハイエンドモデルのスペックが、最大通信速度4804Mbpsのトライバンド対応なのに対し、同じ2パックのメッシュでも、本製品は最大で1201Mbps(2ストリーム80MHz幅)に抑えられ、同時通信が可能な帯域も2.4GHz帯(574Mbps)と5GHz帯(1201Mbps)のデュアルバンドのみとなる。
中継がボトルネックになりやすいメッシュWi-Fiであれば、個人的にはトライバンドに対応した製品をお勧めしたいところではあるが、シンプルに通信エリアを広げることが目的なのであれば、本製品のようなデュアルバンドの低価格モデルを選ぶ意義はある。
最新のWi-Fi 6に対応するだけでなく、メッシュでエリアを広げたいと考えているユーザーにとって、2万円で買えるDeco X20は、魅力的な存在と言えるはずだ。
どの業界もそうだが、先進的なユーザー向けのハイエンドモデルが普及した後、次第に一般向けのリーズナブルなモデルが登場し、普及への道をたどっていく。Wi-Fi 6についても、単体ルーターに加えてメッシュの低価格化も進んできたことで、ようやく普及期に突入しそうな雰囲気だ。
従来シリーズのいい点をミックスした筐体デザイン
それでは外観を見ていこう。本製品は、TP-Linkがリリースしているメッシュシステム「Deco」シリーズの最新モデルとなる。
円筒系のデザインを採用した従来モデルと同様、本製品も直径が110mmの筒型デザインとなっている。
同じDecoでも、初期のDecoシリーズ(M5やM9)は、同じ筒型でも背の低い(144×64mm)テントのような外観だった。その後に登場した「Deco M4」の筐体は背の高い(90.7×190mm)ものだったが、本製品は、まさにこの両シリーズの特徴をミックスしたようなデザインと言える。
デザインアイコンと言える円錐状のキャラクターラインも受け継がれているが、その形状は初期Decoシリーズの凸型から凹型へ変更され、控えめな印象になった。通信機器に個性は不要との指摘もありそうだが、ロゴを隠してしまえば、どのメーカー製なのか判断しにくくなった印象を受けるほどだ。
初期Decoシリーズとの違いを挙げれば、LEDの主張が強くなった。従来モデルはLEDの発光は控え目だったが、本製品はフロント側の底面部分に大きめのLEDが配置されており、夜間などでも目立つようになった。
もちろん、不要なら設定で消灯してしまえるので、どうでもいいと言えばいいのだが、初期シリーズと比べると、だいぶ実用性に振った本体デザインになったという印象だ。
インターフェースは背面にあり、有線ポートは1000Mbps対応が2ポートとなっている。Decoシリーズは全てそうだが、本製品もこれらがLAN/WANの区別なく使えるようになっており、接続した機器に応じて自動的にWANまたはLANとして構成されるようになっている。
いちいちポートを確認せず、ケーブルを無造作に繋げられるのは、本製品のいいところだ。
最大速度は1201Mbps、設定や2台目の追加はスマホアプリで簡単
スペックは、冒頭でも少し触れたが、最大1201MbpsのWi-Fi 6対応となっている。
Wi-Fiの最大速度は、MIMOによって多重化したストリーム数と帯域によって決まるが、本製品は2ストリーム、80MHz幅対応の製品だ。スマートフォンであれば、同じ1201Mbpsまでに対応する製品がほとんどだが、160MHz幅対応で2402Mbpsに対応できるノートPCなどを利用していても、最大速度は1201Mbpsまでとなる。
Deco X20 | Deco M4 | |
台数 | 2 | 2 |
実売価格(税込) | 2万800円 | 1万600円 |
CPU | クアッドコア、1GHz | Qualcomm製 |
メモリ | 非公表 | 非公表 |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/g/b | IEEE 802.11ac/n/g/b |
バンド数 | 2 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps | 300Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 1201Mbps | 867Mbps |
最大速度(5GHz-2) | ― | ― |
チャネル(2.4GHz) | 自動選択 | 自動選択 |
チャネル(5GH-1) | 自動選択 | 自動選択 |
チャネル(5GH-2) | ― | ― |
ストリーム数 | 2 | 2 |
アンテナ | 内蔵(4本) | 内蔵(2本) |
WAN | 1000Mbps×1※1 | 1000Mbps×1※1 |
LAN | 1000Mbps×1 | 1000Mbps×1 |
Bluetooth | ― | ― |
USB | ― | ― |
動作モード | RT/BR | RT/AP |
IPv6 | ○ | ○ |
DS-Lite | ○※2 | ○※2 |
MAP-E | ― | ― |
WPA3 | ○ | ― |
TP-Link HomeCare | ○ | ○ |
110×114mm | 90.7×190mm |
※1 LAN/WAN自動認識、※2 メーカーでの動作検証中
初期設定には、スマートフォン用の「TP-Link Deco」アプリを使う方式となる。
本製品にはBluetoothは搭載されていないので、初期設定のためには、製品に設定済みの初期SSIDへ接続する必要がある。ただ、ウィザードに従って操作していけば、新しいSSIDやインターネット接続などを簡単に構成できるはずだ。
また、本製品は2パックとなるため、メッシュWi-Fiを構成するには、1台目をルーターとしてインターネット回線の引き込み口付近へセットアップした後で、2台目を別の場所に設置する必要がある。
ただ、こうしたメッシュポイントの追加についてもアプリから簡単に実行できるようになっているので、設定に苦労することはないだろう。
TP-Link製品は、海外メーカーとしては珍しくIPoE方式のIPv6インターネット接続サービスおよびIPv4 over IPv6に対応している。その機種は限定されているが、本製品もDS-Liteでのインターネット接続をサポートしている(ただしMAP-Eは非対応)。
実際にtransix環境でテストしてみたが、ひかり電話ありの筆者宅では、DHCPv6-PD方式でのIPv6の取得自体ができず、DS-LiteによるIPv4接続もできなかった。
DS-Lite接続を目当てに購入する場合は、TP-Linkの「IPv6(IPoE/IPv4 over IPv6)対応確認済みリスト」などを参考に、メーカーでの動作確認が取れてからにするといいだろう。
実用的なパフォーマンス
実際のパフォーマンス結果を見ると、3回端でもPCで200Mbpsを実現できているので良好なものと言えるだろう。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階と3階の階段踊り場に本製品を設置し、各階でiPerf3を実行した際の値だ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
PC | 上り | 732 | 308 | 167 | 198 |
下り | 691 | 424 | 234 | 200 | |
iPhone 11 | 上り | 555 | 212 | 114 | 101 |
下り | 657 | 122 | 132 | 157 |
※サーバー:Synology DS1517+、PC:ThinkPad P1(Intel AX200)、ノード(2台目)は3階の階段踊り場に設置
1階の同一フロアでは700Mbps近い速度を実現できているので、最大1201MbpsのWi-Fi 6対応製品らしい高速な結果だ。先にも触れたが3階の結果も良好で、入口付近、窓際ともに200Mbps前後と、それなりの速度を維持できた。
ただし、3階に比べると2階の結果が今ひとつで、特にiPhone 11での下りがやや遅い。これは推測になるが、2階の端末から3階のメッシュポイントへいったん中継され、そこから1階へと通信していると考えられる。
こうした経路の選択が自動化される点は、メッシュWi-Fiの美点でもある一方で、今回のケースのように速度が伸び悩む原因ともなる。これは、メッシュポイントの設置場所を工夫することで改善する場合もあるが、基本的にはトライバンドに切り替える方が話が早い。こうした部分では、やはりハイエンドのメッシュ製品との違いを感じてしまうところだ。
なお、Wi-Fi 6に対応した製品は、メッシュではない単体のルーターでも通信速度は高速で、同じ環境の3階でも200Mbpsを実現できる製品も少なくない。実際、筆者宅で以前テストした「Archer AX10」は1台構成ながら3階端となる窓際で200Mbpsを実現できた。
こうした結果を考えると、2台構成のメッシュで、フロアによっては同等かそれ以下の速度の場合もあることから、やや物足りない印象も受ける。しかしながらメッシュWi-Fiは、ピークパフォーマンスよりもエリアを広くとることが目的の製品だ。速度は控えめになりがちだが、致し方ない点と言えるだろう。
つまり、木造の一戸建てならArcher AX10のみで十分な場合もあるが、マンションなどの電波が通りにくい環境では、やはりメッシュWi-Fiによるエリアの広さが生きてくる。環境によっては、本製品のメッシュの威力がさらに発揮されるケースもあると言えそうだ。
HomeCareも使える
以上、TP-LinkのDeco X20を実際に試してみたが、低価格なWi-Fi 6対応メッシュとしてはよくできた製品と言える。メッシュ製品らしい設置や設定の手軽さと、Wi-Fiの電波エリアの広さは秀逸だ。移動しながらの利用でも、シームレスにローミングしてくれる。誰でも手軽にWi-Fi環境を改善できる優秀な製品と言って良さそうだ。
今回は触れなかったが、本製品には、トレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ機能である「TP-Link HomeCare」も搭載されており、ネットワーク経由での脅威の保護や保護者による制限なども利用できる。
こうした機能は低価格モデル(Archer AX10など)では省かれるケースも多いが、本製品にはきちんと搭載されている。メッシュWiーFiは、子どもがいる家庭での利用も多いと考えられるので、この機能が使えることはありがたいところだ。
そもそもWi-Fi 6のメッシュというだけでもリーズナブルな製品だが、機能が充実している点も、本製品のメリットと言えそうだ。