清水理史の「イニシャルB」

安さ以外にも魅力満載 高速で設定カンタンなWi-Fi 6ルーター TP-Link「Archer AX73」

v6プラスもtransixも使え、独自メッシュ「TP-Link OneMesh」にも対応

 そろそろTP-LinkのWi-Fiルーターを安さ「だけ」で語るのは終わりにすべきだ。

 最近の同社製Wi-Fiルーターは、設定画面まわりや取扱説明書の品質がかなり向上している上、国内で主流になりつつあるMAP-EやDS-Liteを使ったIPv4 over IPv6接続方式への対応も進めており、日本市場に合わせた最適化がかなり進んでいる。

 今回登場した「Archer AX73」は、後述するようにパフォーマンスは圧倒的だし、リーズナブルな価格でユーザビリティーの向上までもが実現されている。まさにこうした新世代のTP-Linkを代表するような製品だ。実際に、その実力を検証してみた。

TP-Link「Archer AX73」。リーズナブルな価格で圧倒的パフォーマンスとユーザビリティーの向上までを実現したWi-Fi 6ルーター

価格競争力は当然、v6プラスやtransixでも使える!

 TP-Linkの「Archer AX73」は、最大4804Mbps+574Mbpsの通信に対応したWi-Fi 6デュアルバンドルーターだ。

 Wi-Fi 6対応ルーターとしてのカテゴライズではミドルレンジに位置する製品となり、2021年6月時点の実売価格もAmazon.co.jpで税込1万3600円と、Wi-Fi 6対応ルーターとしては手に取りやすい価格になっている。

 同クラスの競合製品としては、バッファローの「WSR-5400AX6」あたりが挙げられるが、実売価格で2千円ほど安くなっており、価格面での競争力の高さは相変わらずという印象だ。

 しかしながら、冒頭でも触れた通り、本製品は単に価格面での競争力だけを誇る製品ではなく、その中身がかなり充実している。

 特筆すべきは、国内のインターネット接続環境として利用者が増えてきたIPoE IPv6接続サービス、およびIPv4 over IPv6接続に対応した点だ。

 IPv6のみであれば従来モデルでも対応していたが、本製品は、v6プラスやOCNバーチャルコネクトで採用されているMAP-Eや、transixで採用されているDS-LiteといったIPv6上でIPv4接続を実現する技術(IPv4 over IPv6)に対応している。

 こうした接続方式は、事業社側の仕様を考慮する必要があり、国内の通信事情に詳しいメーカーでないと対応が難しい。このため、日本から海外の開発陣に正確にリクエストを伝え、さらにそれを開発ロードマップに乗せるというのは、かなりの難関となる。

 海外のWi-Fiルーターメーカーで対応しているメーカーがごくわずかなのは、こうした理由もあるだろう。

 TP-Linkも、まだ対応機種は少ないが、こうした努力によって、以下のサービス、および機種でIPv4 over IPv6接続が利用可能となっている。

 これまで、TP-Linkのルーターに魅力を感じていても、IPv6環境の問題であきらめていたという人も少なくないはずだ。こうした人にとって、本製品は、待望の新モデルと言えるだろう。

Archer AX73
実売価格1万3600円
CPUトリプルコア、1.5GHz
メモリ512MB
Wi-Fiチップ(5GHz)-
Wi-Fi対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数2
160MHz幅対応
最大速度(2.4GHz)574Mbps
最大速度(5GHz-1)4804Mbps
最大速度(5GHz-2)-
チャネル(2.4GHz)1~13
チャネル(5GHz-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz-2)-
新電波法(144ch)×
ストリーム数6
アンテナ外付け
WPA3
IPoE IPv6
DS-Lite
MAP-E
WAN1Gbps×1
LAN1Gbps×4
USBUSB 3.0×1
動作モードRT/AP
ファームウェア自動更新
本体サイズ(幅×奥行×高さ)272.5×147.2×49.2mm

デザインは独特

 それでは製品を見ていこう。

側面

 本体は横置きタイプで、サイズは272.5×147.2×49.2mmと、大きくもなく小さくもない一般的なサイズ感だ。

 アンテナは、5GHz帯用の4本と2.4GHz帯用の2本の合計6本が全て外付けとなっていて、それぞれ角度を調整できるのが特徴だ。外付けタイプは見栄えがあまりよろしくなく、調整にも手間がかかるものの、内蔵タイプに比べて無線性能を確保しやすいというメリットがある。詳しくは後述するが、実際、本製品の長距離での性能には、目を見張るものがある。

正面
背面

 とは言え、そのデザインは独特で、アンテナの主張も強いが、本体の天板が扇型というか波模様というか鱗というか、独特の形状で切り抜かれているのが見た目のポイントとなる。

 デザイン的な意味合いだけでなく、放熱のための役割もあるのだが、正直、このデザインは存在感が強いため、人によって好みが分かれる部分とは言えるかもしれない。

筐体のデザインは独特の感性?

 インターフェースは、側面にUSB 3.0×1が、背面には全て1Gbps対応のLAN×4ポート、WAN×1ポートが配置されている。このあたりは過不足のない印象だ。

 個人的には、LEDのオン/オフ機能が、ボタンとして背面に用意されている点を評価したい。これにより、普段はLEDをオフで運用し、確認したいときだけオンにするという使い方が簡単にできる。寝室を兼ねた部屋に設置する場合は、こうした機能が地味に便利だ。

LANポートは全て1Gbps対応。LEDオン/オフボタンがあるのが便利

 最近は、NASの普及によって、Wi-Fiルーターにファイル共有ストレージなどを接続できるUSBポートを設ける機種も少なくなってきたが、本製品ではUSBメモリーなどを接続して、家族でファイルを共有したり、Time Machineのバックアップ先として利用することができる点も特徴だ。

 一応、メディア共有ができたり、ユーザーとパスワードでアクセス権を設定することもできるが、あくまでも簡易的な機能となっていて、大容量のストレージの接続や大量のアクセスは想定していないようだ。

 以下のように動作保証はされない旨も記載されているので、あくまでも家庭でのライトな利用向けと考えるといいだろう。

「ぷららv6エクスプレス」の回線でも自動接続できてビックリ

 感心したのは、やはり使いやすさだ。

イラストが多用された分かりやすい取扱説明書

 同梱の取扱説明書はイラストが多用された分かりやすいもので、初回セットアップはPCからはもちろん、スマートフォン向けアプリ「Tether」でも実行可能となっている。

 最初の1歩で躓きがちな初期設定SSIDとパスワードによるWi-Fi接続についても、同梱のセットアップカードに記載されているので、設置後に本体を裏返して小さな文字を懸命に読み取るような無駄なことをしなくて済む。

Tetherアプリを使って設定可能

 しかも、前述した通り、v6プラスやOCNバーチャルコネクト、transixの各種サービスに対応している上、インターネット接続の設定はケーブルをつないで電源を入れるだけで自動的に実行されるため、インターネット接続設定で困ることもない。

 特に感心したのは、「ぷららv6エクスプレス」で自動接続できた点だ。

 ぷららのIPoE IPv6接続サービスはちょっと特殊で、契約形態やタイミングによって接続先のVNE事業が2種類ある。本製品は、上記リストに掲載されているように、NTTぷららの「OCNバーチャルコネクト」(MAP-E)には対応しているが、もう1つの方式であるASAHIネットの「v6コネクト」(DS-Lite)への対応は明記されていない。

 この方式は、大手国内メーカー製のWi-Fiルーターでも対応している機種が限られ、自動判別で設定できないケースが多い(もちろん、AFTRを手動設定すれば接続できる)。

 筆者の契約は、まさに後者(ASAHIネットのv6コネクト)なので、自動判別はあきらめていたのだが、実際には、DS-Liteの自動判別で、何の設定もせずに接続できてしまった。

 手動設定するつもりだったので、これにはちょっと驚いた。こう言ってはなんだが、海外メーカー製品らしくない使いやすさだ。

DS-Liteの自動判別で「ぷららv6エクスプレス」(ASAHIネットの「v6コネクト」)に接続できてしまった!

 こうした接続もそうだが、箱から出して、ケーブルをつないで、セットアップを完了させるまでのステップが流れるように自然にできる点に感心した。

 幅広い層のユーザーが手に取る可能性があるミドルレンジ製品として、かなり扱いやすい製品の1つと言っていいだろう。

独自メッシュ「TP-Link OneMesh」もOKIPv6接続環境以外なら「TP-Link HomeShield」も便利

 機能面では、同社のメッシュWi-Fi機能である「TP-Link OneMesh」に対応している点も特徴となる。

 ほかの同社製モデルであっても、TP-Link OneMeshに対応した製品であれば、相互に接続して簡単にメッシュを構成可能となっており、Wi-Fiの通信範囲を簡単に拡大できる。

 とは言え、後述するように本製品のパフォーマンスはかなり高いため、筆者宅のような平均的なサイズの木造住宅で使う場合であれば、単体での利用でも電波範囲は十分なものと言える。マンションなど電波が通りにくい環境などで、必要に応じてメッシュWi-Fiを選択できるのがメリットだ。

「TP-Link OneMesh」に対応し、後から対応のルーターや中継機を追加すればメッシュWi-Fiを構成して利用可能

 TP-Link HomeShieldは、セキュリティベンダーであるAviraの技術を使ったセキュリティ機能だ。

 接続機器の識別、ネットワーク保護(コンテンツフィルター、DDoS保護など)、QoS、保護者による制限、レポート、通知などの機能を提供するもので、初期設定や管理などに利用した「Tether」アプリから利用できる。

 フル機能を利用するには月額650円、または年額5900円の課金が必要となるが、無料のBasicプランでも、リアルタイムネットワーク保護や保護者による制限のインセンティブ機能といった高度な機能を除いた基本的なセキュリティ機能が利用可能となっている。

 テレワークやオンライン授業の普及で、家庭のネットワーク環境のセキュリティ対策に注目が集まっているが、本製品であれば、標準の機能で脆弱な管理者パスワードが設定されていないかをスキャンしたり、子どもの利用時間を制限したり、アダルトサイトなど不適切なサイトへのアクセスを遮断したり、接続先サイトのレポートなどを閲覧したりできる。

 このほか、VPNサーバー機能(OpenVPN/PPTP)もあるので、小規模な環境ならテレワークでのオフィスへのVPN接続用としても活用できる。

コンテンツフィルタリングや利用状況分析などが利用できる「TP-Link HomeShield」

 ただし、これらの機能の一部は、前述したDS-LiteやMAP-Eなどの接続方式を選択した場合)は自動的に無効となってしまい、利用できない。

 具体的には、保護者による制限(Home Shield含む)、QoS、NAT転送、VPNサーバーが自動的に無効になる。

 IPoE IPv6サービスでは、利用できるポートが限られるため、外部から接続するVPNサーバーなどが利用できない。また、保護者による制限などはIPv4のパケットを検査する機能なので、通信が基本的にIPv6で行われるようになるIPoE IPv6サービスでは利用できないというわけだ。

 こうした状況は、本製品に限らず、他メーカーのWi-Fiルーターでもありがちな仕様なので仕方がないところだ。

DS-Liteなどの接続方式を選択すると、TP-Link HomeShieldやVPNサーバー機能などは自動的に無効となる

3階でも500Mbpsと激速

 気になるパフォーマンスだが、かなり優秀だ。

 以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にArcher AX73を設置し、各フロアでiPerf3の値を計測した結果となる。

 160MHz幅での通信を有効に設定した状態で、同じく160MHz幅通信に対応したIntel AX200搭載ノートPCを使って値を計測している。

 なお、計測値は5GHz帯のみとなる。筆者宅は周囲にアクセスポイントが多く、2.4GHz帯はほぼ使い物にならないため、2.4GHzと5GHz帯のSSIDを同一にする「スマートコネクト」は無効にし、5GHz帯にのみ接続した状態で計測している。

 また、アンテナは上下方向に届きやすいように水平近くに調整して計測した。

iPerf3テスト
1階2階3階入口3階窓際
上り929563310208
下り946697606503

 1階は900Mbpsオーバーと、ベンチマークの接続先が接続された1Gbpsの有線LANの限界値まで値が出ており、近距離のパフォーマンスは文句ナシだ。ここまで速いと2.5Gbpsでつなぎたくなるほどだ。

 2階も優秀で、下りに関しては697Mbpsが出ている。さすがに床を1つ隔てると速度は落ちるが、それでも700Mbps近い速度はかなりのものだ。

 圧巻は3階で、階段付近の見通しの良い場所では606Mbps、最も遠い3階窓際でも下りで503Mbpsとなった。ここまでの値は、なかなか見かけることがないので、かなりの驚きだ。

 あまりに値が良すぎるので、日程を変えて何度か計測してみたが、それでも3階で500Mbpsをマークするのは変わらないので、パフォーマンスは文句なしと言っていいだろう。

高性能、高機能、低価格で非常にお勧めできる

 以上、TP-LinkのArcher AX73を実際に試してみたが、非常に完成度が高い。

 国内の通信事情を考慮したIPv4 over IPv6対応は見事だし、国内参入以降に改善を重ねてきた取扱説明書などのユーザビリティーも国内メーカーに引けを取らない。まさか「ぷららv6エクスプレス」でも自動接続できるとは思わなかった。

 それでいてパフォーマンスが高く、機能も充実し、価格もリーズナブルなのだから、文句の付けようがない。

 強いて欠点を挙げるとすれば、やはり見た目だろうか。6本のアンテナと独特の感性を持つデザインは好みが別れる点となる。とは言え、設置してしまえば(特に高い位置に)、気にならないので、実用上は問題ない。

 個人的には完成度が高いと感じる製品の1つで、現時点で同社製ラインアップの中では最もお勧めできるモデルと言っていい。誰でもお勧めできる製品と言えそうだ。

(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。