清水理史の「イニシャルB」

EasyMeshを武器に1万円前後の激戦区で戦いを挑むデュアルバンドWi-Fi 6ルーター、Linksys「E7350」

 ベルキン株式会社が発売するLinksysブランドの「E7350」は、最大1201+574Mbpsの通信に対応したデュアルバンドWi-Fi 6ルーターだ。

 実売価格が1万円前後となるWi-Fi 6製品は、各社がエントリークラスの製品を多数ラインアップする激戦区だが、本製品は「EasyMesh」で戦いを挑む。Wi-Fi 6入門モデルとしての実力を検証してみた。

Linksys E7350

「互換性のあるメッシュ」で頭角を現す

 エントリークラスのWi-Fi 6ルーターは、現在、各社がしのぎを削る激戦区だ。

 ざっと挙げても、とにかく安いTP-Linkの「Archer AX20」(実売6800円)、安心安定のバッファロー「WSR-1800AX4」(実売8800円)、国産でもコスパが高いアイ・オー・データ機器の「WN-DAX1800GR」(実売7480円)と「DEAX1800GR」(実売7200円)、ブランド力の高いネットギアの「Nighthawk AX1800 RAX20」(実売7182円)と、実力派がそろっている。

 こうしたクラスへ2020年末に投入されたのが、今回取り上げるLinksysのE7350だ。現在はベルキン傘下の1ブランドとなったLinksysだが、Wi-Fiルーターとしては老舗の存在として、一部ユーザーにとっては特別な響きを持つブランドだ。

 先に挙げた競合製品と比べると、2020年末のデビュー当時は、価格面(実売価格1万800円)も機能面でも、他製品に埋もれてしまっている印象があった。しかし、発売後のファームウェアアップデートによって「EasyMesh」がサポートされるようになったことで、「互換性を持つメッシュ」という特徴から一躍注目すべき製品となった。

 そのEasyMeshとは、Wi-Fi Allianceが定めたメッシュWi-Fiの互換性を確保するための規格となる。現在、一般的なメッシュWi-Fiは、各メーカー(チップベンダー)が独自に提供するメッシュ機能を実装したものとなっているため、基本的に同モデル、もしくは同メーカーの製品同士でしか接続ができない。

 これに対してEasyMeshは、どのメーカーのWi-Fi搭載PCやスマートフォンが、どのメーカーのアクセスポイントにも接続できるのと同様に、EasyMeshに対応した製品同士であればメーカーを問わずに相互接続が可能となっているとされている(詳しくは後述するとおり現実はなかなか難しいが……)。

 このEasyMeshのサポートにより、E7350は、最安値ではなく、特別な付加機能(セキュリティ機能やVPNサーバー機能)がなくても、どの製品ともつながるメッシュ対応という大きな魅力を持つこととなったわけだ。

「サイバー」な雰囲気

 それでは実機を見ていこう。デザインに関しては、以前に上位モデルのE9450をレビューしたときにも触れたように、どこか90年代を感じさせる雰囲気だ。ホワイトのE9450に対し、本製品はブラックなので、より強く「サイバー」っぽさが感じられる。個人的には、いかにも海外製品っぽい雰囲気も好印象だ。

正面

 サイズは77×156×220mmで、アンテナ内蔵でスッキリとしているとは言え、サイズ的にはそこそこ大きい。コストの問題からか、上位モデルと共通の筐体を採用していて、エントリーモデルとは言えサイズダウンは難しかったようだ。

 インターフェースは背面に集中している。全て1Gbpsに対応したLAN×4とWAN×1、ファイル共有用のUSB 3.0×1の各ポートが搭載される。

側面
背面
E7350
実売価格1万800円
CPUデュアルコア880MHz
メモリ256MB
Wi-Fiチップ(5GHz)-
Wi-Fi対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数2
160MHz対応×
最大速度(2.4GHz)574Mbps
最大速度(5GHz-1)1201Mbps
最大速度(5GHz-2)×
チャネル(2.4GHz)1~13
チャネル(5GHz-1)W52
チャネル(5GHz-2)×
新電波法(144ch)×
ストリーム数2
アンテナ内蔵
WPA3
IPoE IPv6
DS-Lite×
MAP-E×
WAN1Gbps×1
LAN1Gbps×4
USBUSB 3.0×1
動作モードRT/BR/WB/Meshノード
ファームウェア自動更新
本体サイズ(幅×奥行×高さ)77×156×220mm

 個人的には、上部にWPSと並んで配置されるリセットスイッチが押しやす過ぎて心配になるが、エントリーモデルながらUSBポートを搭載する点は高く評価したいところだ。

 ちなみに、USBファイル共有時はWindows 10でSMB 1.0クライアントを有効にしないと共有フォルダーにアクセスできないので、実際に利用する際は注意してほしい。

エントリークラスながらUSBポートを装備

EasyMeshで他社製品もつながる?

 注目となるEasyMeshだが、今回はNECプラットフォームズがAmazon.co.jp限定モデルとして販売しているAterm「AM-AX1800HP」(Aterm WX1800HP同等品)を使って検証してみた。

Aterm AM-AX1800HP(Aterm WX1800HP同等品)

 E7350には、残念ながらメッシュを構成するための取扱説明書は同梱されていない。このため、米国サイトのFAQを参考に設定してみた。この中で、E7350は基本的にWPSでの接続方法が紹介されているので、この方法でAM-AX1800HPとの接続した。

 なお、最新版のファームウェアが適用済みの場合は、初期設定ウィザードで自動的にEasyMeshが有効になるが、後からEasyMesh対応ファームへとアップデートした場合は、手動でEasyMeshを有効にする必要があるので注意が必要だ。

WPSを使ったセットアップ(ボタンもしくは設定画面経由)での接続

 で、実際の接続だが、冒頭で少し触れたように、他社製品との接続は、現状では厳しい状況だ。少なくとも今回の検証に使ったAterm AX1800HPとの接続はできなかった。

 WPSによる接続設定後、E7350側では子機の登録に成功したと表示されたが、Aterm側がメッシュモードでは動作しなかった。

一見、メッシュノードとして正常に追加されているように見えるが、Aterm側がメッシュモードで起動しない

 シンプルに各機種での実装の違いが影響している可能性が高いが、いずれの製品もWi-Fi AllianceのEasyMeshのCERTIFIEDは取得しているため、正直、どちらに問題があるのか、どこに問題があるのかすら、判断できない状況だ。

 いずれにせよ、現状、EasyMeshはメーカー間での相互接続が難しいケースが存在するため、ユーザーとしては接続が確認できている機種を選ぶしかない。

 なお、E7350を親機(コントローラー)、他社製品を子機(エージェント)として構成するのは容易だが、その逆の構成で使う方法が不明だ。

 他社製をルーター(コントローラー)として構成後、同様にWPSによってE7350をエージェントとして追加しようとしたが、WPSが失敗し、接続できなかった。どうやら、標準ではE7350はコントローラーとして振る舞うようで、エージェントとしては設定できない、もしくは、エージェントとして設定するのに何らかの別の手法が必要だと考えられる。

 先に挙げたAtermなどは、エージェントとするために背面のスイッチを操作するが、E7350では、そうしたスイッチがない上、内部的にEasyMeshを無効にしたり、ワイヤレスブリッジモードに変更してもエージェントに設定できなかった。

 つまり、E7350をルーターとして使用する場合であれば、EasyMeshの恩恵によって他社製の機器を後から追加することでWi-Fiのエリアを広げられる可能があるが(現状はそれもメーカー間互換性で難しいが……)、その逆は難しいと言える。

パフォーマンスは十分

 パフォーマンスに関しては、単体でも高速だ。

 以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にE7350を設置してiPerf3による速度を計測した結果だ。前述の通り、Atermとの相互接続ができなかったので、単体での計測結果のみを掲載する。

 本製品は、エントリーモデルの割りに単体での性能が優秀だ。最大1201Mbpsなので1階の速度は600Mbps前後と超高速というわけではないが、最も遠い3階窓際で下り238Mbps、上り151Mbpsとなっている。

 筆者宅のようなさほど広くない木造住宅であれば、単体でも文句のない性能と言える。

iPerfテスト
1F2F3F入口3F窓際
PC上り684391205113
下り660427296213
iPhone上り47819710154
下り635317216123

価格差を埋められるか?

 以上、LinksysのE7350を実際に使ってみた。EasyMeshへの対応は魅力的だが、現状は、その実力を発揮できる状況には、まだないと言えそうだ。

 まだ、国内で入手可能なEasyMesh対応機種が少ないため、互換性についての結論を出すのは早いが、異なるメーカー間での相互接続に全く問題ないとは言い難い。

 正直、国産Wi-Fiルーターのような親切なマニュアルやセットアップは望めないことからも、初心者向きとは言い難い面がある。また、細かい部分だが、5GHz帯のサポートがW52のみとなっている点も残念だ。

 しかし、この価格帯でUSBポートを搭載しているのは評価できる上、単体でも性能は十分に高いし、そもそも同社製品同士であればEasyMeshを使えるメリットもある。こうした特徴を理解していれば、購入する価値のある製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。