清水理史の「イニシャルB」

Wi-Fi 6Eでメッシュを「ド安定」に、6GHzの中継はやっぱりよかった! TP-Link「Deco XE75」レビュー

 TP-Link初となるWi-Fi 6E対応ルーター「Deco XE75」が、12月14日より発売される。現状「空いている」6GHz帯は、まさにメッシュの中継にうってつけの帯域だが、その6GHz中継メッシュを手軽に構築できるのが本製品の特徴だ。今のところ干渉とは無縁と言える6GHz帯の中継の実力を検証してみた。

テクノロジーリーダーとしてのTP-Link

 TP-Linkからも、ついに日本市場向けにWi-Fi 6E対応の製品が登場した。

 すでに国内メーカー2社からWi-Fi 6E対応ルーターが発売されているが、これらに次ぐ国内投入で、海外メーカーとしてはかなり早い対応となる。

 TP-Linkと言えば「コスパ」を思い浮かべるかもしれないが、本製品のように最新規格に対応した製品をいち早く市場投入しているうえ、次世代のWi-Fi 7への対応をいち早く表明しており、「テクノロジーリーダー」としての側面も見せつつある印象だ。

 そんな同社から、今回、国内Wi-Fi 6E対応製品の第一弾として投入されたのが「Deco XE75」だ。

TP-Link Deco XE75。Wi-Fi 6Eに対応したトライバンドメッシュルーター

 Deco XE75は、同社がメッシュ対応製品としてシリーズ化している「Deco」シリーズの最新モデルで、最初から複数台がセットで販売されている点、スマートフォンのアプリによって設置や初期セットアップが簡単にできる点などが特徴の製品となっている。

 もちろん、価格も意欲的で、今回、試用した2台がセットになった「2パック」モデルの実売価格は、4万2680円となっている。本稿執筆時点(2022年11月28日)は、年末のセールが各所で実施されている最中で、公平な価格比較は難しいが、Wi-Fi 6E対応トライバンドメッシュの2台セットとしては、なかなか競争力の高い価格設定となっている。

 こうした最新規格の製品は、従来、アーリーアダプタ向けに高価なハイエンドモデルから投入するというのが業界の一般的な戦略だったが、今回、TP-Linkが最初に市場に投入したのは、手ごろな価格帯のミドルレンジとなる、このDeco XE75だ。

正面
背面
有線はすべて1Gbps。WAN/LANは自動認識

 スペックは、無線が2402(6GHz)+2402(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)のトライバンドで、5/6GHz帯の2402Mbpsは、160MHz幅対応の2ストリームとなっており(合計6ストリーム)、有線もすべて1Gbpsで、必要なスペックを手の届く価格帯で提供している。

 もともとDecoシリーズは、「手軽さ」がひとつの特徴なので、その意味では、シリーズのど真ん中、売れ筋を担うモデルと言えるが、6GHzのメリットをより広く活用してもらいたい、という普及の意味合いも込められた製品と言えそうだ。

TP-Link Deco XE75
価格4万2680円(2パック)・2万2880円(1パック)
CPU1.7GHz クアッドコア
メモリ-
Wi-Fiチップ(5GHz)-
対応規格IEEE802.11b/g/a/n/ac/ax
バンド数3
160MHz対応
最大速度(2.4GHz)574Mbps
最大速度(5GHz)2402Mbps
最大速度(6GHz)2402Mbps
チャネル(2.4GHz)自動選択
チャネル(5GHz)自動選択
チャネル(6GHz)自動選択
新電波法(144ch)
ストリーム数(2.4GHz)2
ストリーム数(5GHz)2
ストリーム数(6GHz)2
アンテナ内蔵(4本)
WPA3
メッシュ
IPv6
DS-Lite
MAP-E-
WAN/LAN1000Mbps×3(自動選択)
LAG-
USB-
セキュリティHomeShield
VPNサーバー-
動作モードRT/BR
ファームウェア自動更新
LEDコントロール-
本体サイズ(幅×奥行×高さ)105×105×169mm

6GHz帯の中継でメッシュが「ド安定」

 本製品の最大の特徴は、やはりWi-Fi 6Eの6GHz帯を利用可能な点だろう。

 現状、6GHz帯は対応するPCやスマホが少ないという課題を抱えているが、本製品に関しては、Wi-Fi 6E対応PCやスマホが手元にない環境でも、6GHz帯を活用できるようになっている。

 具体的には、メッシュのバックホールとして6GHz帯を利用する。

 メッシュは、複数台のアクセスポイントを連携させることで広いエリアをカバーする方式となるが、このアクセスポイント同士をつなぐネットワークを「バックホール」と呼ぶ。

 バックホールは、メッシュの命と言ってもいい部分で、アクセスポイント同士の通信、端末の通信など、大量の通信が流れ込む基幹ネットワークとなる。

6GHzをバックホールとして利用することで干渉を避けた安定した通信が可能

 メッシュを利用する際は、バックホールをいかに安定させるかが重要で、複数のアクセスポイントを設置するときは、マンションの廊下や戸建ての階段など、見通しのいい場所に設置することでバックホールを安定させることが重要となる。

 今回のDeco XE75では、このバックホールに6GHz帯を利用できる。

 6GHz帯は、開放されたばかりの帯域となるため、周囲に利用しているユーザーがほとんどいない。また、従来の5GHz帯(W53/W56)はレーダーの干渉を避けるためにDFSという仕組みが搭載されており、干渉を検知すると無線を一時的に停止する必要があったが、6GHz帯はDFSも不要となっている。

 つまり、メッシュの命とも言えるバックホールを、他者からの干渉をほとんど受けることなく構築できるわけだ。

 この恩恵は非常に大きい。実際、2パックのDeco XE75を利用し、1階と3階にそれぞれ設置したメッシュ構成でiPerf3による速度を計測したのが以下の結果となる。

iPerf3テスト結果
1F2F3F入り口3F窓際
上り892589510438
下り943883647611

※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:1TB NVMe SSD、LAN:Realtekオンボード2.5GBASE-T、OS:Windows 11 Pro
※クライアント Lenovo ThinkBook 13s(AMD RZ616)、Windows 11 Pro

 注目すべきは、3階の結果だろう。アクセスポイントを1台しか利用しないケースでは、1階から3階という遠くの通信では、距離、間の床や壁、そして周囲からの干渉によって、速度が低下しやく、100Mbps以下になるようなケースも珍しくない。

 しかし、本製品は3階でも600Mbpsオーバーで通信できており、遠くでもかなり速い。

 同じメッシュでも、5GHz帯のみ(デュアルバンドメッシュの場合)で構成すると、バックホールと端末の通信で帯域をシェアせざるを得なかったり、5GHzのバックホールが外部からの干渉によって速度低下したりするケースもあり、200~300Mbpsほどになるのが一般的だ。

 iPerf3による実効速度でもっとも離れた3階で600Mbpsオーバーを実現できるのは、まさに本製品のトライバンドと6GHz対応という実力の高さを示す結果と言えるだろう。

 また、本製品はAIを活用したメッシュ機能を利用可能になっており、どの部屋にいるときに、複数あるアクセスポイントのうち、どこに接続するのが最も効率的なのかを自動的に判断できるようになっている。

 筆者宅の場合、2階でPCやスマホを利用する際に、1階のアクセスポイントではなく、3階経由で1階に接続されてしまう場合がまれにあるのだが、こうした非効率的な接続をAIによって避けられるのも本製品のメリットだ。

誰でも簡単に最新技術を扱える

 このように高い実力を持ったDeco XE75だが、使いやすさという点でも高く評価できる。

 設定は、スマホのアプリを使って実施する方法となっており、接続の仕方などが画面上で簡単に分かるうえ、メッシュの構成も画面の指示に従って操作すれば簡単にできる。

設定はスマホ向けのアプリで実行。接続方法や初期設定方法などもアプリを利用することで、画面上にて確認できる

 前述した6GHzのバックホールも特別な設定は不要だ。初期設定で自動的に6GHz帯がバックホール専用として構成されるようになっているため(設定でバックホール+クライアント接続に切り替え可能)、意識せずに6GHz帯を利用できる。

稼働状況などもアプリから確認できる
6GHz帯は標準で専用バックホールとして設定される。バックホール+クライアント接続としても設定可能

 「Wi-Fi6E」「6GHz」「メッシュ」と聞くと、難しいのではないか? と気負ってしまうかもしれないが、設定や接続に迷うことはほとんどない。

 このほか、セキュリティ機能としてHomeShieldにも対応しており、ネットワークに接続された機器の通信を監視して外部への不正な発信や悪意のあるサイトへの接続を防いだり、時間制限やカテゴリによるコンテンツフィルタリングなどの保護者による保護機能を利用したりすることもできる。

 家族のために安全・安心なネットワーク環境を構築できるという意味でも、本製品を利用する価値はあるだろう。

 なお、インターネット接続に関しては、IPv6に対応しているうえ、設定画面にもIPv4 over IPv6としてDS-Liteの設定項目が用意されているが、同社による接続確認がなされていないので、基本的にIPv4はDHCPやPPPoEで利用することになる。

HomeShieldは、不正侵入やフィッシングを防ぐだけでなく、子供向けの保護機能としても活用可能。利用時間やコンテンツを制限できる

Wi-Fi 6Eの本命と言っていいモデル

 以上、TP-Linkから登場した「Deco XE75」を実際に利用してみたが、Decoシリーズならではの手軽さや安心さはそのままに、6GHz帯への対応によって、無線LANルーター本来の役割である「無線」の特性が強化された印象だ。

 現状、空いている6GHz帯をバックホールに活用することで、メッシュによるエリアの広さや安定性の高さが存分に発揮できている印象だ。

 PCやスマホが本格的にWi-Fi 6E対応となるのは、もう少し時間がかかりそうだが、バックホールとして6GHz帯を利用する場合は、端末側は2.4/5GHz対応のままで問題ないので、導入を検討してみるといいだろう。

(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。