清水理史の「イニシャルB」

Microsoft Edgeの新機能「ワークスペース」を試す。コラボ環境として大きな可能性

 Microsoft Edgeの新機能「ワークスペース」が、一般ユーザーも利用可能なパブリックプレビューとして開放された。

 これは、Edgeのタブと、お気に入り、履歴をまとめて「ワークスペース」と呼ばれる個別ウィンドウで管理し、ほかのユーザーとリアルタイムに共有できる機能だ。今回、実際に使ってみた。

リアルタイムに作業環境を共有できる「共有可能なプロファイル」

 ワークスペースは、一言で説明するなら「共有可能なEdgeのプロファイル」といったイメージだ。Edgeのプロファイルは、サインインするアカウントごとに、お気に入りや履歴、各種設定などを分けるもので、複数のウィンドウを開いて別々のプロファイルで利用できる。

 ワークスペースでは、作成したワークスペースごとにタブとお気に入り、履歴を分けて管理でき、ウィンドウごとに別のワークスペースを利用できる。ワークスペースを開くと、複数のタブが自動的に開く。加えて、共有機能があり、開いたタブ(に表示したウェブページ)を、ほかのユーザーと共有できる。もちろん、お気に入りや履歴も共有でき、ウィンドウ内の作業環境がそのまま共有されるイメージだ。

 複数のタブを開いたまま保存しておけるという点では、既存の「タブグループ」機能にも近い。タブグループとの違いは、お気に入りと履歴も管理でき、共有もできる点だ。

 この機能の何が便利かというと、いくつものウェブページ/ウェブサービス/ウェブアプリを使って作業を進めるプロジェクトで作業環境を分けることができ、さらに、その作業環境を簡単に共有できることだ。

 例えば、筆者の仕事を例にすると、このような感じだ。「できる自宅サーバー」という書籍を執筆するプロジェクトで、共著者や編集者と一緒に作業をする。プロジェクトでは、次のように複数のウェブサービスを使って情報を共有している。

  • Excel for the webで開く目次案
  • PowerPoint for the webで開く企画資料
  • Notionによるタスク管理
  • OneDriveの素材置き場
  • Discordの連絡用サーバー

 従来なら、これらを表示するタブを必要に応じてお気に入りなどから開くか、メールなどで共有されたリンクから開いて使う。しかし、ワークスペースの場合は、ワークスペースを開くことで、前回の作業で開いていたタブもすべて開ける。

ワークスペースの機能の1つが、作業環境の保存。作業に必要なタブを開いておくと、ワークスペースを開くだけで作業環境を再現できる
画面上部を拡大したところ。左上にワークスペース名が表示されており、また、タイトルバー部分の色が異なる。ワークスペース名と色は、ワークスペース作成時に設定する

 要するに、作業に必要な複数のサービスをまとめて共有し、タブを開いておくことができる(サインインが必要なサービスは、各自がアカウントを登録してサインインする必要がある)。しかも、お気に入りや履歴も共有されるので、常時開いておく必要のない資料なども、まとめて共有可能だ。

 一方で、個人的に使うウェブサービスや、プライベートな用事で調べ物をした履歴などは、ワークスペースと完全に分離できる。

 なお、ワークスペースの共有はリアルタイムに行われる。誰かがワークスペースのタブを開いたり閉じたりすると、共有しているほかのユーザーの画面上でも、ワークスペースのタブが増えたり消えたりする。

お気に入りや履歴も共有される
ほかのユーザーにワークスペースを共有する画面

 つまり、ワークスペースには2つの側面がある。

 1つは「個人作業の効率化」だ。プロジェクトごとにタブ、お気に入り、履歴を分けて管理し、1つの目的に対して必要な複数の作業をまとめて管理できる。

 もうひとつは「コラボレーション」だ。全員が共通で使うタブ(ウェブアプリ)、お気に入り、履歴をプロジェクトメンバーで共有し、しかもリアルタイムで情報を更新できるようになっている。

多様な相手・ツールによるコラボレーションを実現

 そんな作業、Teamsでやればいいじゃないか――。

 そう思うのも当然だ。しかし、世の中には、ひとつのコラボレーションツールに作業環境を統一できないプロジェクトも多い。

 筆者のように個人で仕事をしていると特にそうした場面が多いが、A社はTeams、B社はGoogle Workspaceなどと、相手によって使うツールが異なる。場合によっては、出版社とデザイナーがTeamsで情報共有し、出版社と筆者はメールで情報共有するというようなケースもある(コンプライアンスの関係で外部ユーザーがTeamsに入ることが許可されないケースもある)。

 小規模なプロジェクトや外部ユーザーの参加が多いプロジェクトほど、こうした複雑性が増してくる。その結果、何に悩まされるようになるかというと、膨大な数の「共有リンク」だ。

 先に挙げた例のように、ファイルはOneDrive、タスクはNotionなどと、相手ごと、用途ごと、時期ごとに、さまざまな情報のURLが、共有リンクとしてメールや各種アプリのメッセージで送られる。そして、プロジェクトが進行するにつれ複雑さが増し、把握が難しくなってくる。

共有リンクがあふれ返り、どこに目的のデータがあるのかが分かりにくくなってくる

 Edgeのワークスペースは、まさに、こうした大量の共有リンクにより混沌としていくコラボレーションを、効率化できる可能性を持つ機能だ。

 ワークスペースのタブやお気に入りで各種のツールや資料を共有できるだけでなく、タブで表示している内容をリアルタイムに共有できるので、OneDrive上の特定のファイル、Excel for the webやGoogleスプレッドシートで開いた特定のスプレッドシートの特定のセルなどを、ピンポイントに共有できる。つまり、ほかのユーザーにリンクを送って開かせるまでもなく、情報そのものを共有可能だ。

従来なら共有リンクとして扱っていた情報を、ワークスペースでは、ウェブブラウザーのタブとして共有できる

 また、後からプロジェクトに参加したメンバーのオンボードも簡単だ。従来なら「資料はこれ、タスク管理はこれ」とリンク集のようなものを送っていたことが多いと思うが、ワークスペースさえ共有すれば必要なツールや資料はひととおりそろうし、タブがすぐに開くので話が早い。

 メンバーが「今」実施中の作業はタブとしてワークスペースのウィンドウに常に表示される上に、メンバーのサインイン状況やリアルタイムで更新された内容もすぐに確認できる。必要な資料や過去の情報が必要なら、ワークスペース専用の「お気に入り」や「履歴」から取り出せる。

ほかのユーザーがどのタブにいるのかもリアルタイムに表示され、ユーザーアイコンから同じタブにすぐに移動することもできる

ワークスペースを利用するには

 Edgeのワークスペースは、これまで組織向けのMicrosoft 365ユーザーのみに開放されていたが、現在は、個人向けのMicrosoftアカウントでも利用できる。従来の組織ユーザー向けのワークスペースは外部ユーザーを招待できなかったが、個人向けのMicrosoftアカウントの場合は外部ユーザーも招待可能だ。

 使用するには、最新のEdgeに更新した状態で、以下のように「edge://flags」から「試験段階の機能」の一覧を表示し、[Enable Workspaces]を[Enabled]に設定して、Edgeを再起動すればいい。あわせて[Enable Workspaces Comments]をオンにすれば、コメント機能も利用可能になる。

有効になっていない場合は、「edge://flags」から有効化できる

 なお、ワークスペースは順次ロールアウトしている状態で、アカウントによっては上記の設定をしても使用できない可能性がある。そのような場合、筆者と編集部で確認したところでは、Microsoft Edge Insider(ブログ)のパブリックプレビューを紹介した記事にある「Click here to sign up for the Edge Workspaces Consumer Preview.」のリンクをクリックしたところ、利用可能になった。

▼パブリックプレビューを紹介した記事
Edge Workspaces preview for consumer accounts now available(Microsoft Edge Insider)

 再起動後、ワークスペースが使用可能になると、左上にワークスペースのアイコンが表示される。これをクリックしてワークスペースのメニューを開き、[+]ボタンからワークスペース名とウィンドウの色を選択して新しいワークスペースを作成する。これでワークスペースのウィンドウが表示され、普段のウィンドウとは切り離されたブラウザー環境ができる。

左上のワークスペースボタンから、新しいワークスペースを作成する

 あとは、タブでページを開いたり、お気に入りにページを登録したりと、プロジェクトで必要なページを開いておけばいい。

 ほかのユーザーと共有する場合は、ワークスペースのウィンドウに表示される[招待]ボタンからワークスペースのリンクをコピーし、共有したいユーザーに送信すればいい。なお、現状、個人用のアカウントでのパブリックプレビューの場合、招待の回数が5回に制限されている。

ウィンドウの右上に[招待]ボタンが表示される
ウィンドウ左上のワークスペース名をクリックし、[ワークスペースを共有]をクリックしても共有が可能。このメニューから編集(ワークスペース名と色)や退出、削除、複数表示中のワークスペースの選択も行える

 なお、ほかのユーザーとワークスペースを共有する際には、いくつか注意点がある。以下に紹介しよう。

全員が同じタブを見ていることを意識する

 ワークスペースを共有した場合、ブラウザーのウィンドウは全ユーザーで共通となる。つまり、誰かがタブを開いたり、閉じたりすると、ほかのユーザーのウィンドウでも同じようにタブが開いたり、閉じたりする。このことを意識して利用する必要がある。

共有したいページは必ず共有可能なURLで開く

 ワークスペース上で、全員で閲覧したいページは、必ず全員がアクセス可能なURLで開く必要がある。例えば、Googleスプレッドシートなら、共有用のリンクを作成し、そのリンクを自分でも開く必要がある。

 要するに、ページの所有者用のURLと共有用のURLが異なる場合、ページ所有者のURLのままではワークスペースを共有したほかのユーザーがページを表示できない。必ず、自分も含めて全員が共有用のURLを常に使う必要があるわけだ。

プライバシーは保護される

 Gmailなどのタブを共有した場合でも、個人のメールが全員に表示されることはない。ワークスペースでは、以下のような情報は共有されないため、先述したようにサインインが必要なページではユーザー各自がサインインする必要があり、表示される内容はユーザーごとに異なる可能性がある

  • ユーザーのログインIDとパスワード、ダウンロード、コレクション、拡張機能、Cookie
  • 外観や検索エンジンなどの個人用ブラウザー設定
  • ワークスペース外のタブやデータ(別のウィンドウやワークスペースからドラッグしたタブ)
  • メールなどの、ユーザー自身のみがアクセスできるウェブサイトのコンテンツ

 例えば、ワークスペースにDiscordのタブが含まれる場合、タブ自体は全ユーザーに表示されるが、ユーザーAにはユーザーAのアカウントでサインインしたDiscordのページ、ユーザーBにはユーザーBのDiscordのページが表示される(ログインしてないユーザーはログイン画面となる)。

Chromeで開くと?

 ワークスペースは、ChromeなどEdge以外のウェブブラウザーでは利用できない。Chromeでリンクを開こうとすると、Edgeを起動するための画面が表示される。

招待される側にもMicrosoftアカウントが必要

 招待されたワークスペースに参加するにはMicrosoftアカウントが必要。このため、In Privateウィンドウなどではワークスペースに参加できない。

招待される側にflag設定は不要

 前述したワークスペースを有効化するためのflag設定(「edge://flags」での設定)は、ワークスペースを作成するユーザーでのみ必要で、招待される側には必要ない。招待される側はリンクをクリックすると自動的に有効化されワークスペースに参加できる。

退出と削除が可能

 ワークスペースが不要になった場合は、退出と削除ができる。退出はワークスペース自体を残したままユーザーが抜ける操作となる。所有者が抜けても残ったメンバーでワークスペースを継続利用できる。削除は、ワークスペースの所有者のみが可能な操作。ワークスペース自体を削除する。

メールベースの共同作業で重宝しそう

 以上、個人ユーザーでも利用可能になったEdgeのワークスペースを実際に試してみたが、なかなか便利な機能という印象だ。

 自分だけでさまざまな共有リンクの情報を整理するために使うだけでも便利だが、共有によってメンバー同士でさまざまなプラットフォームのサービスを共有できるのはありがたい。

 特に、筆者のように組織外のメンバーとしてさまざまなプロジェクトに短期で参加することが多いユーザーの場合、汎用的なメールベースで会話や共有リンクが共有されるケースが多い。この混沌とした状況も、ワークスペースなら改善できそうだ。

 それにしても、Edgeは、ここのところ機能の進化が著しい。サイドバーも便利だし、コレクションもいい。Bingチャットも面白い。これからも目が離せない存在になりそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。