清水理史の「イニシャルB」

2023年の「イニシャルB」を振り返る〜Wi-Fi 7にAI、そして趣味の自宅サーバー

今年の連載記事を振り返り。AIで埋め尽くされた1年だった

 例年、あまり総括的な話はしない筆者だが、今年の本連載で大きな話題がいくつかあったので、振り返っておこうと思う。「Wi-Fi 7」と「AI」が2023年の大きなテーマだったが、趣味の自宅サーバーネタも、折々に取り上げてきた1年だった。

気づいたら「AI」ばっかり

 もちろん、気づいていたというか、意図的にやっていたのだが、今年、もっとも多く取り上げたテーマは「AI」だった。

 5月中旬からは、ほぼ毎週AIネタで、「rinna」や「RTX3090購入記」「ChatGPTによるダミーデータ作成」、さらには「Flowise」「カスタムChatGPT(GPTs/Assistants)」と、我ながら飽きもせず、よく書いたなあという印象だ。

 正直、AIネタは、読者ウケがどうなるかがまったく読めないので、毎回、公開日の反応が怖いのだが、書き手として素直に面白いと思って書いたネタは、読者の皆さんからも評価されたようで、それなりに安心している。

 過去記事の反応を見ていると、読者の皆さんが求めているのは、何かを作るとか、試してみるとか、「手を動かして」追体験ができるネタのように見える。

rinnaの記事(6月5日公開)。GPU非搭載のPCを使ってCPUで動かすという、追体験しやすいな切り口が評価されたようだ

 もともと、筆者の連載を長く読んでくださっている読者は、ネットワークとかPC自作に関心がある方が多い。それらの分野のネタでも、できるかぎり具体的な方法を紹介するように心がけてきたが、AIも同様に「自分で試したい、動かしてみたい」と考えている読者が多いのだろう。

 後述するように、なるべく読者が追体験しやすくなるよう誌面上の工夫もしてきたが、今後も、同じ方向性で工夫を続けながら、何かしら「試せる」記事を作っていきたいと思う。

本業の最大の話題は「Wi-Fi 7」

 本業であるネットワーク関連では、最大の話題は「Wi-Fi 7」だろう。

 とはいえ、製品はTP-LinkのDeco BE85(レビューはこちら)しかなく、しかも320MHz幅の通信がまだ日本で認可されていないため、その実力の半分ほどしか発揮できない状況だが、実効5Gbpsというテスト結果を見たときは、驚きしかなかった。

Deco BE85のレビューで、Wi-Fi 7の実機を初体験した

 2023年12月22日に320MHzが解禁されたことで、2024年には、各社ともにWi-Fi 7対応モデルを市場に投入するはずだ。「ベンチ取るの大変だなぁ」と思いつつも、ワクワクしているところだ。

 いずれにせよ、Wi-Fi 7の登場によって、Wi-Fiはトライバンドが当たり前になり、MLOによるメッシュ構成が生きる時代になる。今までのWi-Fi 6/6Eの時代から、ワンランク上の速度や安定性が手に入ることは確実だ。時代が変わるひとつの節目になると言っていいだろう。

 ただ、ユーザー視点で見ると、当面は価格が高いので、すぐにWi-Fi 7環境を手に入れよう! と簡単には言えないところが心配だ。

 おそらく、Wi-Fiルーター単体で利用するケースはWi-Fi 6Eの普及価格帯のモデルが本命となり、Wi-Fi 7はメッシュの高級路線にしばらくとどまると予想される。Wi-Fi 7対応モデルの価格が下がり、誰の手にも届くようになるのは、さらに先、2025年以降になりそうだ。

 Wi-Fi関連では、もうひとつ、11月11日に実施した「Wi-Fiルーター見直しの日」の企画が印象深かった。INTERNET Watch編集部が今年から始めた、11月11日に「(家で置きっぱなしになりがちな)Wi-Fiルーターを見直そう」と呼び掛けるものだ。

 同企画の関連で、5〜10年ぶりにWi-Fiルーターを買い替える人のためのガイドや、メーカーのインタビュー記事を担当した。

 なかなか準備時間が取れなかったという言い訳もあるが、もう少しまとめて11月11日近辺に記事を掲載したかったという反省はある。しかし、各社のセキュリティに対する考えを聞ける貴重な経験となった。

 編集部の方針としては、毎年やるというということなので、来年は、もう少し別の企画(やはり手を動かせるような企画)を考えたいと思う。

冬になるとやりたくなる自宅サーバーネタ

 今年も、すでにN100の小型PCで作る自宅サーバーをネタとして取り上げたが、どうも筆者は年末年始に自宅サーバーネタを取り上げる機会が多いことに気づいた。

 おそらく、これは筆者自身の仕事が年末年始に立て込むからだ。

 年末年始が忙しいのは誰でも同じだが、筆者の場合、「年明けに原稿ください」というリクエストが多い。もう30年もそんな感じなので「あれ? オレの休みは……」と、あらためて思うこともなくなったが、まあ、世間が休みになると忙しくなるわけだ。

 そんなわけで、忙しいと、自分の好きなことに逃避したくなるもので、筆者の場合は忙しくなると、PCを買って自宅サーバーを作りたくなる。

 サーバーをインストールし、使う予定のない仮想マシンの設定を整えてテンプレート化したり、「Proxmox 8.1のSDN!?」なんて見つけた新機能を試したりしていると、締め切りが頭の中から消えていくわけだ。

 なので、おそらく来年も年末に自宅サーバーネタが掲載されるはずだ。

NASの話題がすっかり減った

 一方で、筆者のテーマのひとつでもあったNASの話題がすっかり減った。

 まったくなくなったわけではなく、AIと組み合わせて、Flowisen8nを動かすネタなどは書いたのだが、NASというよりサーバーとして使っているだけなので、純粋なNASのネタではない。

 クレジットカード明細にサブスク費用が積みあがり続ける中で、クラウドからローカルへという揺り戻しの中でNASが脚光を浴びる機会もありそうだし、AI関連の機能がNAS組み込まれる可能性もありそうなので、2024年は、もう少しNASの進化にも期待したいところだ。

画面もひと手間加えて見やすくしてみた

 連載の内容ではなく、誌面の見やすさついても、今年はひと工夫してみた。手間がかかるので、全てではないのだが、なるべく画面や写真に引き出しで説明を追加するようにした。

 担当編集が画面サイズや文字サイズ、見やすい色合いなども調整してくれたおかげで、細かい画面の設定やテキストベースの設定なども、かなり見やすくなっている。

 前述したように、筆者の記事は、読者も一緒に手を動かせるようなネタが高く評価される傾向があるので、なるべく操作や理解しやすいようにしてみたのだが、こちらも評判はいいようなので、続けていきたいと思う。

今年から画面の見せ方を工夫している

2024年もよろしくお願いします

 というわけで、今年の連載を振り返ってみたが、来年も、当分はAIネタを拾っていきたいと思うが、単に新サービスを紹介するのではなく、何かしら自分で作ったり、試せたりできるネタを提供していきたいと思う。

 もちろん、本格化するWi-Fi 7も適宜レポートするつもりだし、NASもサーバーも取り上げていくので、お付き合い願いたい。

▼2023年の記事一覧
清水理史の「イニシャルB」 2023年

編集部より

2023年4月に、イニシャルBは連載1000回の節目を迎えました。2001年の連載開始からを振り返った「1000回記念ロングインタビュー」も、ぜひあわせてお読みください。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。