清水理史の「イニシャルB」

ZTEのWi-Fiルーターはまさかの変化球!? Wi-Fi 6モデル2台で勝負に出た「Sora」「Kumo」の実力を試す
2025年8月4日 06:00
家庭向けWi-Fiルーター市場に、新たなプレイヤーが登場した。
もともと事業者向け製品では存在感を示していた中国のZTEが、新たに「ZTE Sora」と「ZTE Kumo」という家庭向け製品のWi-Fi 6ルーターを発売した。製品としての完成度は完璧ではないが、手薄な市場を狙って「安さ」と「個性」という武器を備えて切り込んでくる、という戦略は面白い。その狙いと、実際の製品について掘り下げていく。
ここなら戦える、という決断
今回、ZTEから登場した「Sora」と「Kumo」という2つのコンシューマー向けWi-Fiルーターは、なかなか興味深い位置付けの製品だ。
まず、新製品ではあるものの、「Wi-Fi 6」対応となっている。SoraとKumo、どちらもIEEE 802.11axに対応したデュアルバンドの製品で、5GHz帯が2402Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsと、いずれも2ストリームに対応した最大速度だ。
現状、Wi-Fiルーター市場は、Wi-Fi 7への切り替えが進んでいる最中で、当初ハイエンド向け製品から展開が始まった各社のラインアップは、すでにミドルからエントリーへと広まっており、現状の主戦場は2882Mbps(5GHz)+688Mbps(2.4GHz)の1万円台の製品になりつつある。
しかし、このクラスは、超絶激戦区だ。TP-Link、バッファロー、NECプラットフォームズ、エレコム、アイ・オー・データ機器といったおなじみのメーカーの主力製品がしのぎを削っているのに加え、最近の本稿で取り上げたように、XiaomiやAmazon(eero)なども新製品を投入している。
ZTEは、もともと日本市場でも事業者向けに通信機器を提供してきたが、家庭向けWi-Fiルーターでは新顔の存在となる。
そこで、この激戦区での勝負はあえて避け、手薄なWi-Fi 6を狙ってきた。
確かに、この市場はライバルが少ない。もちろん、TP-Link「Archer AX3000V(実売7000円)」、バッファロー「WSR-3000AX4P(実売8980円)、エレコム「WRC-X3000GS3(実売9880円)」とった製品は存在するが、いずれも新製品ではなく、価格的にも前述したエントリークラスのデュアルバンド2ストリームWi-Fi 7ルーターに近い価格設定になっている。つまり、わざわざ「前」世代を選ぶメリットが薄いわけだ。
しかも、今回のZTEは、Soraは「安さ」、Kumoは壁掛けという「個性」という武器を備えて、この市場に切り込んできている。
この判断が吉と出るか凶と出るかはわからないが、あえて正面突破を避けたというよりは、確実に勝てそうなところを狙ったという印象がある。なかなか面白い判断と言えそうだ。
SoraとKumo
では、製品を見ていこう。まずはスペックだが、前述したように両製品とも無線のスペックは同じだ。Wi-Fi 6対応で、5GHz帯が2402Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsとなっている。
違うのは、価格、有線ポートの数、サイズで、このうちのSoraは価格に、Kumoはサイズに、ステータスを重めに振っている。
Sora AX3000 | Kumo AX3000 | |
価格 | 6631円 | 8531円 |
CPU | デュアルコア | デュアルコア |
メモリ | - | - |
無線LANチップ | - | - |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 | 2 |
320MHz対応 | - | - |
最大速度(2.4GHz帯) | 574Mbps | 574Mbps |
最大速度(5GHz帯-1) | 2402Mbps | 2402Mbps |
最大速度(5GHz帯-2) | - | - |
最大速度(6GHz帯) | - | - |
チャネル(2.4GHz帯) | 1-13ch | 1-13ch |
チャネル(5GHz帯-1) | W52/W53/W56 | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz帯-2) | - | - |
チャネル(6GHz帯) | - | - |
ストリーム数(2.4GHz帯) | 2 | 2 |
ストリーム数(5GHz帯-1) | 2 | 2 |
ストリーム数(5GHz帯-2) | - | - |
ストリーム数(6GHz帯) | - | - |
アンテナ | 内蔵(5GHz×3、2.4×2) | 内蔵(5GHz×3、2.4×2) |
WPA3 | 〇 | 〇 |
メッシュ | EasyMesh | EasyMesh |
IPv6 | 〇 | 〇 |
IPv6 over IPv4(DS-Lite) | 〇 | 〇 |
IPv6 over IPv4(MAP-E) | 〇 | 〇 |
有線(LAN) | 1Gbps×2 | 1Gbps×3 |
有線(WAN) | 1Gbps×1 | 1Gbps×1 |
有線(LAG) | - | - |
引っ越し機能 | - | - |
高度なセキュリティ | - | - |
USB | - | - |
USBディスク共有 | - | - |
VPNサーバー | - | - |
DDNS | 〇 | 〇 |
リモート管理機能 | 〇 | 〇 |
再起動スケジュール | - | - |
動作モード | ルーター/リピーター | ルーター/リピーター |
ファーム自動更新 | 〇 | 〇 |
LEDコントロール | - | - |
ゲーミング機能 | - | - |
サイズ(mm) | 182.5×52×124.5 | 210×160×20.7 |
まずは、Soraから見ていこう。こちらは、コンパクトな据え置き型の製品だ。昨今主流のノイズレスデザインで、ZTEのロゴは若干主張が強めに思えるが、本体はホワイト一色で、余計なデザインラインがないのが特徴だ。
Soraの特徴は、何といっても価格だ。本稿執筆時点でのAmazon.co.jpでの販売価格は6631円で、さらに15%オフのクーポン、2台以上で5%オフのクーポンも適用可能となっている。
前述したように、競合製品は最も安いTP-LinkのArcher AX3000Vでも実売7000円(本稿執筆時は12%オフクーポンあり)なので、クーポンなしでもワンランク安いし、クーポンを活用すれば5千円台で買えてしまう。
本製品は有線ポートが全て1Gbpsで、LAN側も2ポートしかないのがハードウェア的な欠点となるが、この安さは大きな魅力だ。
一方、Kumoは価格ではなく個性が際立つ製品だ。本体を見てわかる通り、とにかく薄い。サイズは、210×160×20.7mmとなっており、厚さは20mm台に収められている。そして、この製品は、壁掛け用だ。
壁掛け「も」できる製品は、いままでも珍しくなかったが、本製品は事実上、壁掛け専用となる。同梱のマニュアルに設置方法が載っているが、倒して置いたり、横向きに置いたりするのは「×」と記載されている。
確かに家庭用製品で、壁掛けを前提とした製品は、今まで多くなかった(筆者の知っている限りではTP-Link Archer Air)ので、「壁掛けが欲しい」という人をピンポイントで狙っていることになる。
もちろん壁掛け方法も工夫されている。普通に思い浮かぶのは、壁にネジやブラケットを固定してそこにひっかける方式だが、本製品はそれに加えて、マグネットでの簡易壁掛けが可能だ。付属の金属製ブラケットを両面テープで壁に貼り付け、そこにKumoを載せるように固定する。Kumoの底面には強力な磁石が埋め込まれており、これによって壁に固定できるようになっている。
壁の材質や形状によっては、両面テープの粘着力が問題になりそうだが、手軽に壁掛けで使えるようになっている点は高く評価したい。
ただし、その分、価格はSoraに比べると高く、実売で8531円(本稿執筆時点では15%オフクーポン、2台セットで5%オフクーポンあり)となっている。Soraと違って、LANポートが3つに増えるが、価格よりも、壁掛けという個性で勝負する製品という印象だ。
使い勝手が前世代
このように、ZTEのSoraとKumoは、価格と個性という武器で、あえて前世代のWi-Fi 6市場に切り込んできた製品だが、残念ながら使い勝手についても、前世代的な印象を受ける。
まず、IPv6 IPoEに対応しているのはいいのだが、筆者宅の環境(フレッツ光クロス、ASAHIネットのv6コネクト)の環境で、回線の自動判別に失敗した。設定画面を見ると、DS-LiteのAFTRの値としてTransixの接続先が入力されているので、VNEを正しく判定できていない、もしくはTransix固定になっているのではないかと推測できる。
前述した競合製品は、こうした自動判別の精度が高く、間違える方がめずらしいくらいなので、ソフトウェアというか初期設定まわりの設計が前時代的という印象だ。「安さ」や「個性」という武器にばかり気を取られ、防具の用意が不十分、といった感じだろうか。
また、本製品ではスマートフォン用のアプリも提供されているのだが、このアプリはリモート管理用で、Wi-Fiの初期設定や接続には使えない。そして、筆者宅で試したときは、「このデバイスがすでに登録されているか、サーバー側でエラーが発生した」というメッセージが表示され、アプリを利用できなかった。
それ以外の点については、ごく一般的な印象で、ホーム画面に通信速度が表示されるのと、ペアレンタルコントロール的に使える利用制限設定が用意されているくらいで、特別な機能は見当たらない。メッシュもEasyMesh対応でWPSボタンを押すだけで簡単に構成できるようになっており、ごくごく一般的、普通に利用するには困らない構成になっている。
個人的には、面白みがないと感じてしまうが、普通はWi-Fiルーターに面白さは必要ないので、一般的には十分な機能と言えるだろう。
安いのでメッシュで使うのがおすすめ
パフォーマンスも満足できる印象だ。以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅でiPerf3による速度を計測した結果だ。今回は、SoraとKumoの組み合わせによるメッシュ構成と、3階のみ1台(Soraのみ)の構成で速度を測定した。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |
メッシュ(上り) | 859 | 598 | 316 | 295 |
メッシュ(下り) | 948 | 640 | 500 | 482 |
1台(上り) | - | - | 108 | 54.9 |
1台(下り) | - | - | 79 | 24.5 |
※単位:Mbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
まず近距離に関しては、1Gbps有線の上限近くの速度を実現できているので文句ない性能と言える。また、2階も下りで640Mbpsなので、壁や床を1枚隔てた中距離でも優秀なパフォーマンスを発揮できている。
3階に関しては、メッシュらしい結果になった。3階に設置したKumoのおかげで、3階はどこにいても電波強度が高く、速度も400~500Mbpsが安定して発揮できる。デュアルバンドなので、効率はよくないが、家中にまんべんなく通信エリアを広げたいというニーズに対応できると言えそうだ。
一方、1台構成(1階のSoraのみ)の場合は、1階や2階では変わらないが、3階では1階まで通信しなければならなくなるため、速度が落ちる。特に2.4GHz帯が優先された場合は、速度が低くなりがちで、グラフのように3階入り口で下り79Mbps、窓際で24.5Mbpsとなった。
このくらいの広さの住宅なら、1台でも十分にカバーできるとは思うが、場所によっては速度が遅く感じられる地点が増えると予想される。
わかってる人向け
以上、今回はZTEのSoraとKumoの2製品を取り上げた。今となってはめずらしいWi-Fi 6対応の新製品だが、Soraは価格が安く、Kumoは壁掛けで利用できるという、分かりやすいアピールポイントを備えている。
現状、Wi-Fiルーターを購入するのであれば、もはやWi-Fi 7を選ぶことをおすすめしたいが、今回の製品は「あえて」Wi-Fi 6を選ぶということになるので、その理由がはっきりとしている人向けと言える。安さや壁掛けという、今回の製品のコンセプトに共感できるかどうかがポイントとなる。
ただし、前述したように、設定回りに関しては完璧とは言えないので、個人的には初心者にはおすすめしない。それなりに、ネットワークの知識がある人向けの製品と言えるだろう。