清水理史の「イニシャルB」

シャオミから「攻め」のWi-Fi 7ルーター登場! 意欲的な価格と機能を兼ね備えた「Xiaomi BE3600 Pro」
2025年4月14日 06:00
小米技術日本株式会社(以下、シャオミ)から、新製品となるWi-Fi 7ルーターが発売された。コスパの高い製品で知られる同社だが、Wi-Fiルーターもかなり意欲的な価格設定がなされている。
それだけでなく、日本環境への対応もなされており、本格的に日本の家庭用ルーター市場を攻めに来た製品という印象だ。その実力を、2台セットのメッシュ構成で検証してみた。
予想外の完成度
海外では、Wi-Fiルーターメーカーとしても高い知名度を誇っているシャオミが、いよいよ日本の家庭向け通信機器市場に本格参入ということになりそうだ。
2019年の日本市場参入以来、国内でもスマートフォンやウェアラブル機器、スマートホーム製品などを販売してきた同社から、2025年3月、Wi-Fi 7対応の「Xiaomi メッシュシステム BE3600 Pro」とWi-Fi 6対応の「Xiaomi メッシュシステム AX3000 NE」という、2種類の製品の販売が開始された。
正直、筆者は、この製品を初めて目にしたとき、「どうせ、IPv4 over IPv6環境とか、日本市場向けの対応はしていないんでしょ?」と思っていた。
かつてHuaweiが日本の家庭向けWi-Fiルーターを販売したときもそうだったし、昨年発売になったAmazonのeeroもそうだが、海外メーカーの参入初期モデルは、海外で販売していた既存モデルを、技適を通し、最低限のローカライズをするだけで、日本向けのカスタマイズ(MAP-EやDS-Lite対応)をおろそかにしたまま販売するケースが多かった。
今回のシャオミの製品も、そうだろうと思い込んでいた。製品情報サイトを見ても、MAP-EやDS-Lite対応などの記述は見当たらなかったため、「これなら、逆にネタになるかな」くらいの気持ちで購入してみた。
しかし、実際に触れてみると、これは筆者の見込み違いだったことが分かった。同社は他社の失敗をきちんと踏まえて、今回の製品を日本市場向けにリリースしている。決して高額ではなく、むしろコスパの高さで知られるTP-Linkとがっぷり四つに組み合えるような低価格の製品なのに、しっかりコストがかけられていることがうかがえる。
同社が得意とするスマートフォンやスマートホーム製品との連携も想定した機能も搭載されており、「あれ? もしかすると、これは新風を吹き込む可能性があるのでは?」と思わせる仕上がりになっている。
イメージだけで判断するのではなく、きちんと実物に触れ、使ってみることが大切だと実感させられた製品だ。
サイズは大きいがデザインはシンプル
それでは、製品をチェックしてこう。本製品は、Wi-Fi 7ことIEEE 802.11beに対応したWi-Fiルーターで、対応する速度は688Mbps(2.4GHz)+2882Mbps(5GHz)となっている。
項目 | 内容 |
価格 | 1万800円 |
CPU | - |
メモリ | - |
無線LANチップ(5GHz) | - |
対応規格 | IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
320MHz対応 | × |
最大速度(2.4GHz) | 688Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 2882Mbps |
最大速度(5GHz-2) | - |
最大速度(6GHz) | - |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GHz-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz-2) | - |
チャネル(6GHz) | - |
ストリーム数(2.4GHz) | 2 |
ストリーム数(5GHz-1) | 2 |
ストリーム数(5GHz-2) | - |
ストリーム数(6GHz) | - |
アンテナ | 内蔵4本 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇 |
IPv6 | 〇 |
IPv6 over IPv4(DS-Lite) | 〇 |
IPv6 over IPv4(MAP-E) | 〇 |
有線(LAN) | 1Gbps×3 |
有線(WAN) | 2.5Gbps×1 |
有線(LAG) | 〇 |
引っ越し機能 | - |
高度なセキュリティ | - |
USB | - |
USBディスク共有 | - |
VPNサーバー | - |
DDNS | - |
リモート管理機能 | 〇 |
再起動スケジュール | 〇 |
動作モード | RT/AP/BR |
ファーム自動更新 | 〇 |
LEDコントロール | 〇 |
ゲーミング機能 | × |
サイズ(mm) | 178×70×217.2 |
Wi-Fi 7といえば、6GHz帯の320MHz幅というイメージが強いが、本製品は、昨今流行している6GHz帯を省いたデュアルバンド対応で、2.4GHz帯、5GHz帯ともに2ストリームのエントリーモデルだ。
6GHz帯が使えないのはWi-Fi 7の魅力が半減する印象だが、実質的に2.4GHz帯、5GHz帯でつなぐ機器が多いことを考えると、実用性は悪くない。
ただ、本製品は「メッシュシステム」として2台セットでも販売されていることを考えると、バックホール用としても有用な6GHz帯か、バックホールに使っても余裕が持てる4ストリーム対応かの、いずれかは欲しかった印象がある。本製品では、バックホール分もWi-Fi 7のMLO(MLMRの2882+688=3570Mbps)でカバーしようという発想となっている。
性能よりも価格を重視した製品なので、このあたりは割り切って使う必要があるだろう。
なお、競合する製品としては、以下のものが挙げられる。
- TP-Link Archer BE220/BE3600
実売9180円、688+2882Mbps 1Gbps(WAN)+1Gbps(LAN)×4 - アイ・オー・データ機器 WN-7D36QR
実売1万4800円、688+2882Mbps 2.5Gbps(WAN)+1Gbps(LAN)×2 - エレコム WRC-W701-B
実売1万800円、688+2882Mbps 2.5Gbps(WAN)+1Gbps(LAN)×2
これら競合製品と比較すると、本製品は有線ポートが2.5Gbps(WAN)+1Gbps(LAN)×3と、2.5Gbps対応に加えて1Gbpsポートも3つ備えているのが特徴となっており、実売価格も2025年4月8日時点で1万800円と安い。ただでさえ競争の激しい1万円クラスのWi-Fi 7ルーターの中に、あえて飛び込んできた印象だ。
デザインは、余計な装飾やロゴが極力排除されたノイズレスデザインとなっており、配色はダークグレーだが、上部が光沢あり、下部がつや消しとなっており、シンプルな印象だ。
また、背面のポートに記載されている「WAN/LAN」や1~4のポート表記、ボタン脇の「MESH/RESET」という説明、さらには上部の「Xiaomi」というロゴさえも、地色と似た配色となっており、目を凝らさないと分からない(初見では2.5Gbpsポートがどこか見逃してしまうほど)、ある意味で割り切ったデザインとなっている。
一般的な企業なら「視認性が悪い」と一蹴されそうな、グレー地に黒文字という表記を苦にしないあたりは、デザイン(全体の美観)のために何か(慣れないユーザーの使いやすさなど)を犠牲にすることも厭わない、新しい感覚を持ったメーカーという印象だ。
LEDも前面に1つのみで、普段は薄いブルーに点灯するだけと地味な上(もちろん消灯設定も可能)、LANポートにリンクを示すLEDすら配置されない。やるなら徹底的というか、自らのデザイン言語を崩そうとしない姿勢が、かえってすがすがしい。
正直、この点は褒めるべきなのか、批判すべきなのか、判断に迷う。デザインと使いやすさのどちらを重視するかによって、人それぞれで判断が分かれそうだ。
DS-LiteもMAP-Eも接続可能
肝心の日本の通信環境向けの対応だが、筆者宅の環境で試したところ、初期設定で自動的にIPoEによるIPv6接続、DS-LiteによるIPv4 over IPv6接続を検出し、自動的にインターネット接続をセットアップすることができた。
正直、これは意外だった。冒頭でも触れたように、DS-LiteやMAP-Eなどの接続方式はVNEによる細かな違いもあり、海外メーカーが折衝と実装に苦労するポイントとなる。
実際、筆者宅で検証できたのはDS-Lite接続(transix環境)のみなので、ほかの方式での接続は保障できないが、設定画面を見る限り、DS-Lite、v6プラス、MAP-E(OCN)には対応している。
ただし、こうした対応状況は同社のウェブページなどで公表されていない上、接続試験の結果やサポート状況なども公表されていない。v6オプションやクロスパス、v6コネクトなどの環境で接続できるのかどうか気になるところだ。同社が次に取り組むべきなのは、こうした検証と情報の公開だろう。
初期設定でパスワードを設定する方式
本製品で興味深かったのは、初期設定の方法だ。
というのも、本製品には初期設定でWi-Fi接続のパスワード(暗号化キー)が設定されていない。最近では、出荷時設定でランダムなWi-Fiパスワードが設定されている製品が多いため、最初は「今どき、パスワードなしとか大丈夫か?」と心配したのだが、これは初期設定でユーザーが設定する方式となっていた。
iPhoneなどで設定すると分かりやすいが、出荷時設定のSSID(パスワードなし)に接続すると、ホテルなどでWi-Fi接続するときと同じようなキャプティブポータルの確認・設定画面が表示される(PCだと単に転送されるだけ)、ここで管理者パスワードと暗号化キーを設定する方式となる。
工場出荷時設定で複雑なパスワードを設定しておくか、初期設定時にユーザーがパスワードを設定する方式にするかは、どちらが優れているのか議論が分かれる点となる。
本製品のように、ユーザー自らが設定する方式の場合、簡単なパスワードを設定されてしまう危険があるが、本製品はこの対策もしっかりとなされている。というか、この条件が厳しすぎる……。
具体的には、管理者パスワードの条件として以下の画面のように、10文字以上かつ、アルファベットの大文字・小文字・記号・数字のうち3種を使う必要があり、さらに同じ文字を連続して使うのはNGとなっており、よく確認せず適当に設定すると、条件を満たせずに次に進めない場合がある。
思わず、画面に向かって、「そんなら、最初からランダムで設定しておいてくれよ……」と、つぶやいてしまった。まあ何も考えずにパスワードを設定しようとすると、ハネられて筆者と同じような気分になることだろう。
なお、初期設定は、前述したキャプティブポータルを利用した方式となるが、初期設定後の管理は「Xiaomi Home」アプリを利用することが可能となる。それなら初期設定もアプリでできればいいんじゃない? とも思えるが、アプリなしで利用を開始できることも重要という考え方なのだろう。
このほか、設定面で気になったのは、クライアント向けのMLOが標準で無効設定される点だ。
MLOを有効にするかどうかは、メーカーによって方向性が分かれるところで、現状、国内メーカーは標準でオン、海外メーカーは標準でオフのケースが多い。本製品も標準ではMLOはオフに設定されているため、利用する場合はオンに切り替える必要がある。
MLOに関しては、クライアント側も対応していないと意味がないが、iPhone 16シリーズやPixel 9シリーズ、Copilot+ PCなど、Wi-Fi 7対応製品も増えているため、こうした機器を利用した場合はオンにしておくメリットがある。
具体的には、通信状況が変化したときの帯域の切り替えがスムーズとなる。本製品ではスマートコネクトという2.4GHzと5GHzを自動的に使い分ける機能も搭載されているが、それよりも高速に2つの帯域を切り替えることができる。
環境によっては、意図しない帯域が使われることで、最大速度が制限される場合もあるが(なのでベンチマークテストなどではオフにした方が無難)、外部の干渉などが発生する環境では通信の安定性に寄与する。
IoT機器の管理も統合されたXiaomi Homeアプリ
個人的に感心したのは、アプリの考え方だ。
まず、このアプリはWi-Fiルーターの管理をするためだけのアプリではない。同社のスマートホーム製品を管理する共通のプラットフォームとなっている。つまり、アプリにとってはWi-Fiルーターが主役なのではなく、同社のスマートホームソリューションを構成する1製品に過ぎないという位置付けとなる。
このため、同社製のスマートホーム製品(例えばカメラなど)を使っている場合は、このアプリから、それらも管理できる。もちろん、Wi-Fiルーター向けのアプリで、IoTデバイスなども管理できる製品は珍しくないが、この主従関係の考え方というか、全体的なプラットフォームとしての考え方が独特だ。
今回は手元に対応機器がなかったため、試すことはできなかったが、Bluetoothゲートウェイ機能も搭載されており、IoT機器に対してネットワーク接続を提供することもできる。同社製IoT機器との組み合わせに最適だ。
もちろん、Wi-Fiルーターの設定も、アプリを利用することで楽になる。
まず、リモートからの設定が可能だ。一度、アプリと紐づけしてしまえば、スマートフォンを使って外出先からも設定を変更したり、再起動したりできる。リモート管理機能は、昨今、採用が増えている機能で、離れたところに住む家族のWi-Fi環境を管理したい場合などに重宝する。
メッシュの構成も楽だ。本製品は、単体のWi-Fiルーターとしても販売されているが、2台セットのメッシュシステムとしても購入することができる。
1台目のアクセスポイントを登録した状態で、2台目の電源を入れ、アプリからメッシュノードの追加を実行すると(自動的に新しいデバイスが検出され、追加するかどうかを選択できる場合もある)、自動的に2台目が検出され、ほぼ自動的にメッシュが構成される。
手動で検出して追加することもできるが、自動的に設定できるように工夫されている。なお、EasyMeshと同様に、LANケーブルで接続して設定することも可能だ。
いや、もちろん、これにも「2台セット販売なら、最初からメッシュ構成にしておいてくれよ……」と思う気持ちはある。が、まあ、少なくともメッシュの設定に手間取ることはない。
性能は十分
気になる性能だが、エントリーモデルとしては優秀な印象だ。
以下は、木造3階建ての筆者宅にてiPerf3による速度を検証した結果だ。今回は、単体で利用したケースと、2台セットのメッシュで利用したケースの両方を計測した。単体の場合は、1階に本製品を設置し、各階で計測。メッシュの場合は、1階と3階に本製品を1台ずつ設置し、同様に各フロアで速度を計測した。
単体/メッシュ | 方向 | 1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 |
単体 | 上り | 1180 | 569 | 382 | 98.4 |
下り | 1200 | 817 | 469 | 183 | |
メッシュ | 上り | 1210 | 465 | 251 | 352 |
下り | 1170 | 792 | 479 | 414 |
※単位:Mbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続
結果を見ると、1台のみでも実用性は十分で、広い環境では2台セットのメッシュで使うメリットがあると言える。
単体の場合、最も離れた3階端で、上り98.4Mbps、下り183Mbpsとなるが、メッシュ構成では同じ場所の速度が上り352Mbps、下り414Mbpsとなる。長距離で使うなら、メッシュ構成がおすすめだ。設置場所にも依るが、家中を400Mbps前後で接続できる可能性が高い。
ただし、中距離は単体の方が高速で、2階は上下ともに100Mbps前後、単体の方が速い。わずかな差となるが、デュアルバンドでメッシュ構成する場合、MLOを活用したとしても、中継のボトルネックが影響してしまう。環境によっては、このあたりのデメリットが大きく現れる可能性もあるだろう。
ちなみに、今回は手元に同社製スマートフォンがなかったので検証できなかったが、Redmi、POCOなどの同社製のスマートフォンを利用している場合は、自動的にQoSによる優先処理が適用されるとされている。自社製品の豊富なラインアップを生かしている印象だ。
全体的によくできている
以上、XiaomiのWi-Fi 7対応製品「Xiaomi メッシュシステム BE3600 Pro」を試してみたが、普通に使いやすく、性能も十分ないい製品という印象だ。
既存のWi-Fiルーターとは、デザインやアプリの位置づけなどに、異なる発想が見えるため、当初は違和感があるが、世代によっては、こちらの方が好みと考える人も多そうだ。
以前に取り上げたUGREENのNASも、スマホネイティブというか、パーソナルストレージという位置づけで、既存のNASに対抗している点が面白いが、本製品もIoTネイティブ的な発想で、Wi-Fiルーターを見直そうとしているように思える。
価格的に、TP-Linkと真っ向勝負できる点も興味深く、今後、ラインアップが増えてきたら、面白い戦いになるのではないかと思える。ただし、そうなったら、そうなったで、国内メーカーは今以上に厳しい価格競争に巻き込まれることにもなりそうなので、複雑な心境だが……。今後の同社の動向次第では、勢力図の変更もあるかもしれない。
本日(14日)20時からYouTubeでライブ配信
本日4月14日20時から、YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で、「XiaomiメッシュシステムBE3600 Pro」に関するライブ配信を行います。購入前に考えていたこと、実際に使ってみての驚きなど、記事に書ききれなかった本音を語ります! チャンネル登録して配信開始をお待ちください!(編集部)