清水理史の「イニシャルB」

80m離れてもネット接続+給電が同時に可能! サンワサプライのPoE→Type-C変換アダプター「LAN-ADPOEC」

サンワサプライのPoE Type-C変換アダプター「LAN-ADPOEC」

 サンワサプライから立て続けに登場した「変わった」製品の第2弾が、今回紹介する「LAN-ADPOEC」だ(第1弾は前回取り上げたUSB TYpe-C→RJ45変換ケーブル「500-LAN6KC」)。LANケーブルで通信と給電を同時に実現する「PoE」を、USB PD対応のUSB Type-C、しかも60W対応(!)に変換するアダプターという、ニッチにも程がある製品となっている。

 実際にPCに給電するとなると、結構コツが必要なのだが、困っている現場にとっては救世主になりうる。実際に試した様子を紹介しよう。

「困りごと」を解決するサンワサプライ

 サンワサプライの「LAN-ADPOEC」は、これまで「例外」として見過ごされてきたネットワーク構築の小さな困りごとを解決できる製品だ。

 代表的な例としてはオフィスの受付端末や飲食店の会計端末が挙げられるが、Wi-Fiの電波が届きにくかったり電源コンセントが近くになかったりする場所に、ネットワークに接続した端末を設置したいケースがある。

 どうしてもその場所に設置したいなら、何らかの配線や工事が必要になるが、それを「LANケーブルを配線するだけ」という最低限の労力と費用で済ませられるのが、「PoE」と「Type-C PD」というソリューションを組み合わせた本製品だ。「普通」ではないケース、特殊すぎて困ってしまうケースを想定し、そこに手を当ててきたわけだ。

 そのような製品なので、用途は限定的で、ただでさえニッチなPoE市場の中でもさらにニッチな製品と言える。正直、商売になるのか心配になってしまうが、どんなに小さくてもユーザーの困りごとを解決しようという姿勢が、製品から垣間見える点は、高く評価したいところだ。

PCやタブレットなどの機器を有線でつなぎたいが、設置場所に電源やネットワークが確保できるとは限らない
サンワサプライの提案は、PoEとType-Cを変換することで、シンプルな接続で、通信と電力の両方を供給すること

何ができるのか?

 それでは、実際に製品を見ていこう。本製品はPoE対応のLANケーブルとPD対応のUSB Type-Cケーブルを変換するためのアダプターだ。

正面
側面
背面
PoE接続のLAN端子、PC接続用のUSB Type-C

 サイズは、100×60×20mm(幅×奥行×高さ)ほどで、名刺サイズくらいを想像すると分かりやすい。インターフェースは片側がPoE対応のLANポートとなっており、PoEスイッチやインジェクターとLANケーブルで接続する。反対側がPD対応のUSB Type-Cとなっており、PCに接続することで、PDによる給電とネットワーク接続が同時に提供される。

 構成はシンプルで、ランプやスイッチなどはなく、LANポートにリンクと給電を示すLEDが搭載されているだけだ。使い方も簡単で、シンプルに両端にケーブルをつなぐだけで済む。

接続イメージ

 仕様としては、LAN側は100BASE-TX対応で、通信速度は最大100Mbpsとなっている。「今どき、100Mbpsかぁ……」と残念に思える点ではあるが、前述したように本製品は、業務用端末などの特定用途向けとなっているため、多くの通信量は想定されていない。実質的に100Mbpsでも大きな問題はないだろう。

 対応するPoEの規格はPoEことIEEE 802.3af、PoE+ことIEEE 802.3at、PoE++ことIEEE 802.3btの全てとなっており、入力は最大90Wまで、出力(PD給電)は最大60Wまで対応する。ただし、後述するように、PCで利用する場合は、実質的にPoE++のIEEE 802.3bt、それも75W以上の給電が可能なClass7以上での利用を推奨する。

 利用可能な距離はPoEの規格上は100mまでとなっているが、安定した給電のために本製品では80mまでの利用が推奨されている。

PoEの種類と供給電力
名称規格タイプクラス最大供給電力電力線距離
PoEIEEE 802.3afType1Class14W2100m
Class27W2100m
Class315.4W2100m
PoE+IEEE 802.3atType2Class430W2100m
PoE++IEEE 802.3btType3Class545W4100m
Class660W4100m
Type4Class775W4100m
Class890W4100m

 同様に、PoEをPD対応Type-Cに変化するアダプターは、従来もなかったわけではない。例えば、UniFiの「UACC-Adapter-PoE-USBC」などがあった。

 今回のサンワサプライの「LAN-ADPOEC」が従来製品と比べて画期的なのは、Type-Cで供給できる電力が最大60Wと大きいことだ。

 このため、タブレット端末だけでなく、ノートPCやミニPCも動作させることが不可能ではない。最新のノートPCや高性能なミニPCでは60Wでも足りないケースはあるが、それでも従来製品よりも幅広い機器に対応できるのが特徴となる。

同社が公開している対応規格と供給電力、距離の目安

60W給電には対応機器が必要

 使い方は前述したように簡単だ。基本的にLANケーブルとType-Cをつなぐだけなので特に面倒なことはない。

 試しに、手元にあるPoE+(IEEE 802.3at)のスイッチを利用して、iPhone 16 Proを接続してみたが、問題なく充電が開始され、同時に有線LANでの接続も認識された。供給されている電力は、4.86V、1.47Aで7.16W前後となっていた。

PoE+対応スイッチを利用してiPhone 16 Proを接続した様子。画面上の「Ethernet」の表記が有線LANで接続されている証

 速度も、Speedtest.netでの計測で上り92Mbps、下り92Mbpsだったので、アダプターの上限となる100Mbpsをしっかりと実現できている。

 続いて、60W給電の威力を確認するために、ノートPCをつなぐことにした。PoE++(IEEE 802.3bt)対応のスイッチを利用し、ASUS Zenbook S14(Core Ultra 5搭載)を接続してみたのだが、ネットワーク接続は認識されるものの、PD給電がうまくできなかった。充電とバッテリー駆動の表示が繰り返し表示され、最終的にバッテリー駆動になってしまった。

手持ちのPoE++スイッチを利用してASUS Zenbook S14を接続
電源接続やバッテリー接続が頻繁に切り替わり、最終的に給電なしのバッテリー駆動となった

 これは、LAN-ADPOECの問題ではなく、筆者の使い方が悪い。

 上記の検証で利用したPoE++対応のスイッチのスペックを調べてみると、PoE++の仕様がClass6(Type3)の60W給電(デバイスへの給電は最大51W)となっていた。つまり、完全な電力不足だ。

 LAN-ADPOECは、製品自体の消費電力が10Wとなっているため、PoEからの給電が75W以上ないと、Type-CのPDで60Wを供給できない。その上、検証に利用したZenbook S14は消費電力が最大65Wとなっており、そもそもLAN-ADPOECの供給上限となる60Wを超えていた。

利用したスイッチではPoE++でも最大60W給電なので電力が足りない

 というわけで、検証機材として、Amazon.co.jpでLINOVISIONというメーカーの格安PoE++スイッチ(実売1万900円)を購入した。4ポート対応の製品で、全てのポートでPoE++ Type4(Class 8)の90W給電をサポートしている(トータル96W)。

LINOVISIONのPoE++(90W出力対応)スイッチを購入

 確実に60W給電したいのであれば、同社が販売している75W PoE給電対応PoEインジェクター「LAN-GIHINJ6」を使うことをおすすめするが、今回は、あえてサードパーティー製品、しかも格安製品との組み合わせで利用してみた。

 この組み合わせの場合、スイッチから75W以上で電力を供給できているため、LAN-ADPOECで60W給電が可能となった。

 ただし、前述したようにZenbook S14は消費電力が最大65Wとなるため、微妙に給電能力が足りず、Windowsの警告で「充電が低速になっています」という警告が表示されてしまった。

 供給電力を確認してみると、56W前後なので、確かに微妙に足りない。昨今の高性能なノートPCの場合、本製品では給電が追い付かない可能性がある。

90W給電のPoE++でZenbook S14を動作
PC側の要求を完全に満たせていないため警告が表示された

 そこで、AMD Ryzen 7 6800Uを搭載したThinkBook 13s G4(AMD)でもテストしてみた。こちらは、前述したClass6(Type3)の60W給電のPoEスイッチでも、LINOVISIONのPoEスイッチのどちらでも問題なく通信+給電(20W前後)が可能だった上、通信もできた。

 組み合わせるPoEスイッチ(インジェクター)、動作させるPC(PD給電の仕様)の組み合わせによって動作が変わるようだ。導入時には、実際に利用するPCを使って検証しておくことをおすすめする。

Ryzen搭載のPCなら問題なく充電しながら利用可能

スペック表と注意書きをよく読んで購入しよう

 というわけで、組み合わせるPoEスイッチとPCに注意が必要だが、製品自体の発想は面白い製品だ。特に、60W給電できることでタブレットだけでなく、PCも利用できるメリットは大きい。店舗の会計端末やオフィスの受付端末など、「有線LANだけは配線できそう……」という環境で利用すると便利だ。

 今回は、実際に試しながら、PoEの仕様や供給できる電力などを紹介したが、本稿で紹介した点は、同社のウェブサイトで公開されているスペック表や注意書きにも記載されている。これらの点をよく読んだ上で、購入することをおすすめする。

 なお、このLAN-ADPOECについては、先週の500-LAN6KCに続いて、YouTubeのイニシャルBチャネルで紹介する予定だ。ぜひご覧いただきたい。チャンネル登録といいねもお忘れなく。

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スペックの情報をよく読み取る必要あり
注意書きも結構重要
清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中