清水理史の「イニシャルB」

「フレッツ 光25G」の実測値は16.7Gbps! 「やってみてわかったこと」を大切に技術者視点で最前線を走るASAHIネット
2026年9月24日 06:00
2026年3月末にサービスを開始した、最大25Gbpsを実現するNTT東日本の「フレッツ 光25G」。その数少ない対応プロバイダーとして知られる「ASAHIネット」が、実際に通信可能なフレッツ 光25G回線を社内導入したとの知らせを受け、さっそく同社にお邪魔してきた。
自作感満載の25G用ルーターも興味深かったが、それ以上に印象に残ったのは、「やってみてわかったこと」に価値を置く姿勢だ。最前線の技術に実際に触れる機会を若手エンジニアへ渡し、その挑戦を管理層も一緒に面白がる。そんな組織の熱量が印象的だった。
チャレンジャー「ASAHIネット」
ASAHIネットは、現状の国内では中堅のプロバイダーだ。世代によってパソコン通信時代を思い浮かべるかもしれないが、個人的には「老舗」というよりも、常に最前線で奮戦しているチャレンジャーというイメージが強い。
代表的なのがVNE事業者としての一面だ。プロバイダーとして、自らVNE事業者となるか、既存のVNE事業者と連携するかの岐路となった2018年、自らVNE事業者となる決断をし、自前で設備を持ち品質をコントロールする道を選択した。
そして今回、フレッツ 光25Gという次世代の回線についても、対応プロバイダーとしていちはやく名乗りを上げ、実際に、しかも2本も社内に回線を導入し、実践的な検証を開始したという(現状、フレッツ 光25Gの提供エリアは東京都中央区の一部に限られているが、朝日ネットのオフィスは提供エリア内にある)。
朝日ネットの澁谷晃生氏(サービス企画室 担当部長)は、「今回、NTT東日本様から『フレッツ 光25G』について開示された際も、次世代のネットワークの可能性を自ら検証し、お客様にいち早く価値を提供すべきだと考え、すぐに対応を決定いたしました。『対応する』という方針については、迷いはありませんでした」と話す。
同じく市川恵理氏(サービス企画室担当課長)は、その目的について次のように語った。「25Gbpsという帯域は、一般的な個人利用からすれば『まだ時期尚早』と思う点は正直あります。現時点では、技術検証の意味合いが多くあります。これまでの1G/10Gの延長線上では見えなかった問題/課題を先行して抽出し、運用ノウハウを蓄積しておくことが、将来的に25Gが普及した際の安定したサービス基盤づくりに必要だと考えています」という。
この言葉通り、同社は、現状、数少ない(筆者が2026年8月末時点で確認できた限りではASAHIネット1社のみ)フレッツ 光25G対応プロバイダーとなっており、それと同時に、実際にフレッツ 光25Gを2回線も導入している“ユーザー”にもなっている。もちろん、たまたま同社の所在地が中央区という対応エリアに位置していた点は大きいが、他社が二の足を踏むような未開の地にも、いちはやく飛び込んでいく姿勢には驚かされる。
そして、この回線は、1本は顧客へのデモやパートナーとの共同検証、イベントでの公開デモ用という位置づけだが、もう1本は技術者向けの検証スペースに引き込まれ、社員も使えるようになっている。
市川氏によると、検証環境の回線は技術者がより幅広いテストに使っているという。さらに別のオフィスへ回線を引き、業務で使うことはできないかという話まで技術者の間で盛り上がっているという。「まだ、会社で正式に検討されている話ではありませんが、そんな声も結構技術者の中ではありますね」と市川氏は笑う。
25Gbpsの回線をただの検証環境で終わらせず、次はどこで、どう使えるかを考える。その発想の広がりに、ASAHIネットの技術者がこの回線を面白がっている様子がうかがえた。
澁谷氏は「ASAHIネットは、技術が好きな人が多いですね。技術に誇りを持っているというか、技術が組織のコアのようなものなので」と話す。25Gの検証は「多くの技術者が自律的に積極的に動いてます」と状況を語ってくれた。
取材の場で感じたのは、最新技術をビジネスにしようという義務感よりも、まず触れてみたい、動かしてみたいという空気だ。技術を仕事として扱うだけでなく、楽しんでいることが、結果として先へ進む力になっているのだろう。
フレッツ網内での折り返しで16.7Gbpsを実現
肝心のフレッツ 光25Gの実力だが、同社が独自に用意したスピードテスト用のアプリに表示されたのは「16.7Gbps」という驚異の速度だった。
もちろん、今回の検証環境は、インターネット上の速度測定サイトではなく、同社が導入した2本の回線の両端に接続された端末同士が、IPv6を利用して、NTT東日本のNGN網内の折り返しで接続された状態となる。つまり、端末からの通信は収容先のNTT局舎内の設備内ですぐに折り返しされた状態で、混雑の影響を受けにくい。同様のデモは今年のJANOG58でも展示され人気となった。
測定環境が違うため直接比較することに意味はないが、現状、10Gbps対応の回線でも実行速度は4~7Gbps前後といったところの速度が16.7Gbpsになるメリットはやはり大きい。将来的に経路上のボトルネックが解消されれば、大きな動画ファイルなどのダウンロード、大量のソフトウェアアップデートなどにかかる時間が半分近くになる可能性がある。
ただ、同社は速度そのものよりも、測定環境の周囲にある、インターネット上のサーバーや経路まで含めて、どこが先に限界になるのかを探ることに重きを置いている。このサービスを提供することで、バックボーンにどのような変更が必要になるのか? サービスとして顧客に提供する際の課題はどこにあるのかを探ろうというのが主な狙いだ。
技術的にはフレッツ光クロスと共通
フレッツ 光25Gの基本的な技術仕様は10Gbpsの「フレッツ 光クロス」と大きく変わらない。もちろん、ONUなどの機材や物理層の仕様に違いはあるが、IPoEであることやIPv6アドレスがどのように割り当てられるかの仕様はフレッツ光クロスと共通点が多い。
▼フレッツ 光25G サポートページ
フレッツ 光25G サポート情報(IP通信網サービスのインタフェースを参照)
だが、澁谷氏によると、「実際に使ってみないとわからないことが、やはりかなりあった」と話す。違いが出たのは、IPoEの開通、NTT東日本との連携などの周辺のオペレーションだという。
市川氏は「これがどれくらいの期間で開通まで持ってこれるかを、自社で導入して検証してみようとなりました」と説明する。25Gをサービスとして届けるには、ネットワーク部分だけでなく、申し込みから開通までをプロバイダーがどう扱うか、どうオペレーションに落とし込むか、顧客にどう案内するかも検討しなければならない。
技術仕様の表面だけを追っていると、25Gは10Gの延長線上で利用できそうに思える。筆者も上記の「IP通信網サービスのインタフェース」のドキュメントを読んで、てっきりそう思っていた。しかし事業者にとっては、工事、開通、社内外の運用までをサービスとして提供する必要がある。そこを実回線で確かめることが、今回の導入の目的のひとつになっていたわけだ。
澁谷氏によると、実際に、導入から開通、検証に至るまで、既存のネットワークを大きく変更するような設定や業務に影響するようなトラブルはなかったという。一方で、開通処理には、従来の1G/10Gとは異なる手順が必要で、想定より時間がかかった。市川氏は「開通までに少し時間がかかった点は、先行して対応したからこそ得られた知見です」と説明する。
事業者にとって、どこで手間がかかり、何を事前に整えるべきかを知ることは、そのままサービス品質につながる。同社が実回線を引いた意味は、こうした目的も兼ねているわけだ。
新しい規格に対応することは、新サービスをいちはやく売る、という華々しい効果を期待したものではない。むしろ、未知の課題を1つずつ見つけ、実際の利用者に対して満足のいくサービスを提供するための地道な努力と言えるだろう。
最大のポイントはユーザー環境
フレッツ 光25Gを利用する際、NTT東日本の責任範囲はONUまでで、その先は利用者が用意する機器の世界になる。このため、実際に25Gbpsで通信できるようにするには、ONUのインターフェースに合ったモジュールや光ケーブル、25GbE対応のルーターやNIC、性能を発揮できるPCなどが必要となる。
今回の取材で見せてもらった検証環境も、従来の回線とはかなり違うものだった。あくまでも検証環境となるため、写真や具体的な製品名については公開できないのだが、ひと口に言えば「自作感たっぷりの通信機材」という印象だった。
小型のLinux PCに25Gbps対応のネットワークアダプターを搭載し、SFP28トランシーバーとLCコネクタ付きのOM3ファイバーでONUへ接続していた。たまたま筆者も同じ機材を手元に持っているが、一式そろえるには、それなりの知識とコストがかかる構成となる。
市川氏によると「光ファイバーの扱いも、LANケーブルのようにはいかないので注意が必要です」という。市川氏自身も配線を強く曲げない、抜き差しをあまりしない、埃に注意する、といった点を技術者に注意されましたと、エピソードを紹介してくれた。
澁谷氏は、IPoEの部分はVNE側の努力で既存サービスと近い形にできる可能性がある一方、利用者側の準備は簡単ではないと話す。「特に機材に関しては、そもそもユーザー自身でそれを手に入れ、環境を構築するのが難しい」という。
つまり、現状(あくまでも現状)のフレッツ 光25Gに関しては、VNEやプロバイダーがバックボーンを整えるだけでは完結しないという点だ。利用者に対して満足できるサービスを提供するには、さらに一歩踏み込んで、どんな装置を選び、どこまで安全に運用できるかも、現段階ではサービス設計の一部になりかねない。
特に懸念されるのがセキュリティだ。現状の自作Linuxルーターの場合、脆弱性対策などの不備で乗っ取られる危険も心配される。しかも仮に乗っ取られた場合、25Gbpsという回線の豊富な帯域がそのまま脅威につながる。DDoS攻撃や不正なプロキシ利用による影響は、25Gbpsという帯域が大きいほど深刻になる。市川氏は「一般のお客様が安全に使える状態かを検証してからサービスとして広く提供したい」と話す。
サービスとしてのフレッツ 光25G
現時点でASAHIネットが描くフレッツ 光25Gのサービスは、誰でもオンラインで申し込める大量販売型のサービスではない。このため、問い合わせを受けた顧客ごとに、利用目的、設置場所、必要な機器、開通時期を確認しながら、個別に導入を相談しているという。
想定されるのは、現状、複数の回線を併用している拠点、多人数が同時に帯域を使う環境、映像制作のように大容量データをやり取りする業務だ。すでに映像関連の企業からは関心が寄せられているという。
このため、料金や提供仕様は、「これからの検証結果と利用者側の環境を見ながら詰めていく(市川氏)」という。25Gを必要とする人に、必要な条件をそろえて届ける。そのための準備が続いているという印象だ。
25Gbpsという数字だけを聞くと、まずは「どれほど速いのか」に目が向く。しかし、実際に回線を引いてみると、見えてくるのは速度のインパクトだけではなかったわけだ。開通までの運用、利用者側の機材、光ファイバーの扱い、そして大容量回線を安全に提供するための仕組みまで、インターネットを支える条件があらためて問われる。
だからこそ、ASAHIネットの取り組みは興味深い。すぐに商品化に取り掛かるのではなく、実際にユーザーが何に困るのか? そのために何ができるのかを判断することに重きを置いている。同社の技術者たちが、25G回線を少し先の未来を楽しむ場所として活用している様子も印象的だったが、実際のサービスとして広く提供するための準備を着々と進めていることも興味深かった。




