第81回:2系統のIP電話通話が可能なIEEE 802.11a/b/g無線LANルータ
「アイコム SR-5200VoIP」



 一般電話や携帯電話からの着信も可能となり、ようやく実用的になってきたIP電話。そんなIP電話をとことん使いこなすことができるのが、今回、取り上げるアイコムのSR-5200VoIPだ。IEEE 802.11a/b/gに準拠した無線LANルータとしての実力も兼ね備えており、かなり注目度の高い製品となっている。





ISDNライクな使い方が可能

SR-5200VoIP

 こと音声通話に限って言えば、ISDNの時代は良かったとつくづく感じることがある。ISDNであれば、回線を1回線引き込むだけで、iナンバーを利用して3つの番号が持てたし、音声通話も同時2系統が当たり前のように使えていた。筆者のように、自宅を仕事場としても使っている場合、自宅用、仕事用、FAX用と電話番号を使い分けられるのは、極めて便利だ。今でもADSLのテストをしなくて済むなら、現在3回線あるアナログ回線をすべて解約してISDNを導入したいと常々感じているほどだ。

 ただ、思い切ってISDNを導入しないのには、理由がある。もしかするとIP電話がISDN並みの機能を備えるかもしれないという淡い期待があるからだ。光ファイバを使ってインターネット、映像配信、電話といったサービスを提供する事業などが進められていることを考えれば、1本の回線で複数の電話番号を持ち、しかも同時通話が可能になってもおかしくはないだろう。

 今回、アイコムから発表された「SR-5200VoIP」は、このようなIP電話の進化を身近に感じることができる製品だ。製品的には、IEEE 802.11a/b/gに準拠した無線ルータだが、本体にアナログポートが2つ用意されており、IP電話を2系統利用できるようになっている。

 この2系統という意味が多少わかりにくいのだが、イメージとしてはISDNライクな使い方ができると考えればいいだろう。もちろん、ISDNほど高機能ではなく、2つのアナログポートにそれぞれ050番号を割り当てられるわけではない。割り当てられる050番号はひとつのみだが、それぞれのポートの電話で同時通話ができるようになっているのだ。iナンバーの契約をしていないISDNのようなものだと考えるのが妥当だろう。





2系統通話に挑戦

 では、具体的にどのようにすれば2系統の通話が可能になるか? 実は、これには特別な設定は必要ない。SR-5200VoIPが対応するのは、フュージョン・コミュニケーションズの「FUSION IP-Phone」だが、普通にFUSION IP-Phoneの契約をし、そのSIPサーバやIDなどをSR-5200VoIPに登録すれば、2系統の通話が可能になる。FUSION IP-Phoneは標準で2系統の通話(くどいようだが050番号は1つ)に対応しているため、契約が2つ必要になるとか、法人向けの契約が必要になるなど、特別な手続きは一切必要ないのだ。


FUSION IP-Phoneに対応したIP電話機能。アナログポート間の内線通話、電話の鳴り分けなど、細かな設定も可能

SIPサーバーやID、パスワードなどを設定するだけで、2系統の通話が手軽にできる

 残念ながら筆者宅にはFUSION IP-Phoneの環境がなかったため、知人宅にてテストをしてみたが、極めて良好な通話ができた。試しに、TEL1ポートに接続した電話機で一般加入回線に電話をかけ、その通話をしたままの状態で、別の回線からSR-5200VoIPの050番号に電話をかけてみたが、何の問題もなく着信し、両方の通話を同時に行なうことができた。2系統通話した場合でも、遅延や音声品質の劣化なども見られず、品質的な問題もないと感じられた。


割り当てられる050番号はひとつだが、1台の電話機で通話中でも、もう1台の電話機でかかってきた電話を受けられる

 これは非常に便利だ。最近では、携帯電話の普及によって、電話の取り合いなどはほとんどないのが実状だが、それでも、大切な電話がかかってくる予定なのに、誰かが電話を占有していて困るといったケースがまれにある。しかし、「SR-5200VoIP」+「FUSION IP-Phone」の環境であれば、こういったケースでも、もう1系統を利用して問題なく通話をすることができる。価格的を考えると家庭で使うには、躊躇してしまうかもしれないが、SOHOや小規模オフィスといったビジネスシーンでは、この2系統の威力が発揮されるだろう。

 ただ、惜しむべきは、ISDNのように複数の電話番号を持てないことだ。もちろん、複数の050番号を割り当てるようなサービスが登場しないと話にならないが、これができればSOHOや小規模オフィスなどの環境で非常に重宝するだろう。

 また、対応するサービスが、現状、FUSION IP-Phoneのみとなっているのも残念なところだ。FUSION IP-Phoneが2系統の通話をサポートするからこそ、この機器が登場したとも言えるが、他事業者のIP電話サービスでも使えるようになってくれると非常にありがたい。他事業者のサービスに対応するためには、事業者から認定を受けなければならないが、今後は機器ベンダーが自由に機器を提供できるような環境を整えていかないと、サービス内容の拡充も図れないだろう。

 現状、IP電話の魅力はおもに料金面が注目されるが、使い勝手という点でも既存のアナログやISDNを超えるような内容にならなければ、本格的な普及は難しいかもしれない。





AP間通信で広がるネットワーク

 SR-5200VoIPの特徴は、IP電話だけに留まらない。その他の機能も非常に充実している。無線LANはIEEE 802.11a/b/gとすべての方式に対応する。ただし、同時通信ではなく、切替え式となっているのは残念ではあるが、同時通信が必要かどうかは環境にもよるので、評価はユーザーによって分かれるだろう。セキュリティに関しても、WPAにこそ未対応なものの、AES暗号化をサポートしており、強固なセキュリティを設定することができる。

 パフォーマンスに関しては、いかにもアセロス製チップらしい特性が見られた。IEEE 802.11aでは高いパフォーマンスを示すが、IEEE 802.11gでは多少、その性能が落ちる。基本的にはIEEE 802.11aで使いたい製品と言えるだろう。

無線規格1F2F
IEEE 802.11a21.01Mbps10.51Mbps
IEEE 802.11g16.46Mbps10.2Mbps
筆者宅(木造)の1Fにアクセスポイントを設置し、1Fと2FにてFTPによる転送テストを実施。IEEE 802.11aのパフォーマンスが高い結果となった

 このほか、特筆すべきなのは、アクセスポイント間通信をサポートしている点だ。これにより、離れた場所にある有線LANを無線ブリッジで接続することが可能となっている。現状、アクセスポイント間通信をサポートする無線LAN機器は数が少なく、しかも802.11bや802.11gのみと規格が限られるケースが多い。しかし、本製品では802.11aなど、すべての規格でアクセスポイント間通信を実現できる。非常に柔軟なネットワーク構成を取ることができるのは、本製品ならではの特徴と言ってもいいだろう。


通信相手となる機器のMACアドレスを登録するだけで、アクセスポイント間通信の設定が可能。無線ブリッジとして有線LANを接続したり、IP電話の無線化が可能となる

 また、今回は時間の関係で試すことができなかったが、アクセスポイント間通信で構築したネットワークにおいて、IP電話を利用することもできる。データと音声の両方を無線によるネットワーク化できる点も大きな特徴だ。


アクセスポイント間通信を利用し、有線LANを接続するだけでなく、IP電話機器を無線接続することもできる




多機能であることが逆に欠点にも

 このように、SR-5200VoIPは、データと音声を統合した無線ネットワークを構築するのに非常に向いている製品だと言える。FUSION IP-Phone環境で利用するには、かなりお勧めできる製品と言って良いだろう。

 しかしながら、この製品の最大の欠点は、多機能、高機能であるがゆえの設定の難しさにあると言える。もちろん、インターネットに接続する、無線LANを構築する、IP電話を使う、といった基本的な設定はマニュアルで丁寧に解説されているし、ユーティリティを使って手軽に設定することができる。しかし、前述したようにAP間通信で電話を複数のSR-5200VoIP(もしくはSR-5000VoIP)を接続し、IP電話を転送するといった設定は、簡単にできるとは言い難い。

 今回、テストで使用した機器は試用版であるため、活用マニュアルなどを入手できなかったのだが、こういった活用的なマニュアルで、さまざまなケースごとに(たとえばAP間通信でIP電話を転送する)、設定例を詳しく紹介しないと、ユーザーがせっかくの豊富な機能を使いこなすことができない可能性が高い。

 機能的には、まったく文句がなく、IP電話の新しい使い方を提案してくれる秀逸な製品だと言えるが、もう少し、使いやすさという面での工夫が望まれるところだ。


関連情報

2003/12/2 10:58


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。