第181回:テレビとインターネットの「いいとこ取り」
放送と通信の融合をPCで実現したシャープの「PC-TX100K/32MD3」



 シャープからテレビ機能を備えたAVセンターパソコンの最新機種「PC-TX100K/32MD3」が発売された。本製品の特徴は、デジタル放送の視聴・録画に加えて、インターネット上のコンテンツを手軽に楽しめる「チャンネルUI」やホームAVネットワーク機能など、多彩な機能を備えている。その実力を検証してみよう。





AV機能中心のPC

PC-TX100K/32MD3

 PCにテレビ機能が搭載されるようになって久しいが、その方向性は次第に変化しつつある。従来の製品はあくまでもPCの機能が中心で、テレビの視聴や録画は付加的な機能にすぎなかったが、最近ではテレビ並みの大きな液晶を搭載し、デジタル放送への対応やリモコンでの操作が可能なモデルも多い。もはやPCというより、AV機器に近い製品という印象だ。

 シャープから発売された「PC-TX100K/32MD3」もそんな製品の1つだ。AVセンターパソコンという名前だけでなく、32型ワイドの大型の液晶ディスプレイ(チューナー搭載なので液晶テレビとも言える)が付属しており、PC本体もDVD&HDDレコーダのようなデザインだ。

 リビングでの利用という意味では、先日、インテルから発表された「Viiv」テクノロジを採用した製品が注目を集めているが、PC-TX100K/32MD3は、Viivテクノロジを採用したPCではない。PCにテレビ機能が搭載されはじめた時代からリビングでの利用を提案してきたこともあり、独自路線で進化してきたリビングPCだ。


PC-TX100K/32MD3のPC部、TV部と付属のリモコン一見するとレコーダのようなPC部

PC部全面左側にはB-CASカードスロット、IEEE 1394ポート、USBポートを搭載全面右側にはSD/CF/メモリースティック/xDピクチャーカードスロット

PC部背面付属のリモコン




デジタル放送の視聴・録画に対応

 PC-TX100K/32MD3の特徴として挙げられるのは、デジタル放送への対応だろう。PC本体部分には地上アナログチューナーに加え、地上・BS・110度CSデジタルチューナーが搭載されており、アナログ放送とデジタル放送の2番組を同時に録画できる。また、液晶部のPC-32MD3(HDCP対応DVI-D接続)にも同様に地上アナログチューナーと地上・BS・110度CSデジタルチューナーが搭載されており、液晶側のチューナーでデジタル放送を視聴しながら、本体側で別番組を録画するといったことも可能だ。

 使い方は簡単で、PCの電源をオンにしてWindows XP(Home Edition)を起動。リモコンの「地上D」を押すと「Station TV Digital」(Pixela製)が起動し、地上デジタル放送が視聴できる。同様に「地上A」を押すと「Station TV G2」が起動し、地上アナログ放送の視聴が可能で、「番組表」ボタンを押せば番組表の参照、録画予約などが可能となる。いずれもWindows上のアプリケーションのため、HDDへのアクセスによって起動時に若干時間がかかる印象はあるが、操作性としては確かに家電に近い感覚で扱える。なお、TV部とPC部がセパレートタイプになっているため、TV部で視聴する場合は一般的なテレビと同等の感覚で操作が可能だ。


本体に内蔵したデジタルチューナーによって、地上デジタル放送の視聴や録画が可能。番組表からの録画予約も手軽

 なお、デジタル放送はフルHD(1,920×1,080ドット、1080i)でHDDに録画されるが、付属のディスプレイは解像度が1,366×768ドット(PC利用時は1,360×768ドット)のため、1080iの解像度では再生できない。また、録画したデジタル放送の番組をDVDなどの外部メディアにムーブする機能にも対応していない。

 ただし、デジタル放送の録画データ自体はCドライブの「DTVApp」フォルダに保存されており、データとしてコピーすることなどは可能だ。コピーしたファイルを他のPCで再生することはできないものの、一時的に外部メディアやNASなどに待避させ、見たいときに戻すということは可能となっている。





放送と通信のいいところ取り

 このように、PC-TX100Kではテレビを手軽に楽しめるようになっているが、これだけでは単にデジタル放送に対応したパソコンに過ぎない。PC-TX100Kの興味深いところは、テレビとインターネットの機能がうまく連携している点だ。

 たとえば、液晶ディスプレイ側のチューナーを使ってテレビを視聴しているときに、リモコンの「WEB情報」ボタンを押すと、テレビ画面が子画面に切り替わり、メイン画面に、現在、視聴している番組に関連するホームページが表示される。表示される情報は、インターネット上のテレビ情報サイト「ONTV」によって提供されており、番組の詳細はもちろんのこと、番組に関連する別のサイトの情報なども表示できる。試しに、相撲中継を視聴中に、「WEB情報」ボタンを押してみたところ、相撲協会の公式ホームページへのリンク、「大相撲初場所」をキーワードに指定したGoogleでの検索へのリンクなどが表示された。


液晶側でテレビ視聴中に「WEB情報」ボタンを押すと、番組に関連するホームページを表示できる

 テレビを見ているときに、番組で紹介されたお店などをPCで調べるというのはよくあるが、PC-TX100Kでは、このようなことがリモコンからの手軽な操作で、しかもテレビを見ながらリアルタイムにできるようになっている。これはなかなか便利だ。

 また、同様にテレビを見ているときに「テロップ表示」ボタンを押すと、テレビ画面の上部にRSSを利用して配信されたニュースがティッカー表示されるようになっている(音声による読み上げも可能)。言わば、PC-TX100Kならではの切り口による「放送と通信の融合」と言ったところだ。テレビ放送とインターネット上の情報がうまく連携し、同時に楽しめるようになっているのは画期的だ。


リモコンの「テロップ表示」ボタンにより、テレビ画面上に最新ニュースなどを表示することも可能




チャンネルUIでオンラインコンテンツを手軽に楽しめる

 外見こそテレビとレコーダに近いが、PC-TX100Kの基本的な位置付けはやはりPCだ。トラックボールを搭載したワイヤレスキーボードによるソフトやメールソフト利用など、普通のPCとしても利用できる。しかし、「AVセンターパソコン」と名乗るだけのことはあり、PC機能の面でもPC-TX100Kならではの工夫が盛り込まれている。それが「チャンネルUI」と呼ばれる機能だ。

 チャンネルUIは、簡単に説明すると、インターネット上のホームページをリモコンによる操作で閲覧できるようにする機能だ。液晶ディスプレイにWindows XPのデスクトップが表示されている状態で、リモコンの「インターネット」ボタンを押すと、画面右上にチャンネルのリストが表示される(お好みチャンネル、IPテレビ電話、OCNスーパーチャンネル、TV Bank)。ここからジャンルを選択後、リモコンの「1」、「2」……、と並んでいるチャンネルボタンを押すと、各番号に割り当てられたホームページを表示できる。


インターネット上のホームページにチャンネル番号を割り当て、リモコンから手軽に閲覧することができる「チャンネルUI」。あらかじめ登録されているホームページ以外に、自分の好みのホームページを登録することも可能

 これは、テレビのチャンネルという考え方をホームページに適用したUIだ。テレビでは見たい放送局のチャンネルボタンを押すだけで、そのチャンネルで放送中の番組を見ることができるが、これと同様によく見るホームページにチャンネル番号を割り当てておき、リモコンからチャンネルを選ぶ感覚でさまざまなホームページを表示できる。

 これにより、いわゆるテレビのザッピングのような感覚でホームページを閲覧することができる。たとえば、ニュースサイトでどんな最新ニュースが報道されているのか、TV BankやGyaOでどんなコンテンツが見られるのか、ショッピングサイトでお買い得品はないか、といった具合に、リモコンのチャンネルを次々に押しながら、さまざまなサイトを眺めることができる。タブブラウザでお気に入りのサイトを一通り表示しておいて、あとからタブを切替えて見るようなイメージと言っても良いかもしれない。

 TV Bankなどのページでは、動画コンテンツのカテゴリがチャンネルボタンに割り当てられており、カテゴリを選ぶとそのままコンテンツを再生できる。インターネット上の映像配信サービスをテレビのひとつのチャンネルと同じような感覚で扱えるのは実に画期的だ。

 URLの入力や検索サイトへのキーワードの入力などにはキーボードが不可欠であり、リモコン中央のスティックとマウスの左右クリックに相当するボタンを使ってリンクをクリックするのに慣れが必要なため、ホームページが表示された後の操作は通のPCと変わらないものの、ホームページを見るという点に関しては非常に優れたUIと言える。PCをリモコンで操作するという、これまで最大の課題とされてきたリビングPCの欠点を解消する可能性があることを考えると、非常に高く評価したい機能だ。





DLNAガイドライン機器との接続も可能

 このほか、ネットワーク機能としては、DLNAガイドライン機器との相互接続も可能となっている。PC-TX100Kには、DLNAガイドライン対応予定のホームAVネットワークソフト「AV Library」がプリインストールされており、自身がサーバーとなって他の機器にコンテンツを配信することはもちろん、他のDLNAガイドラインサーバーで公開されているコンテンツをネットワーク経由で再生することが可能となっている。

 試しに、ネットワークで接続された他のPCに、デジオンのDiXiM Media Clientをインストールし、PC-TX100Kに接続してみたが、PC-TX100Kで録画したテレビ番組(地上アナログ放送のみ)を問題なく再生できた。リビングのテレビが他の人に占有されているときに、PCを使って自分の部屋で録画しておいた番組を見るといった使い方ができるのはありがたい。


DLNAガイドライン対応機器との相互接続も可能。サーバーとして利用し、他のPCから参照して録画したテレビ番組を再生することに加え、クライアントとしても動作させることができる

 ただし、筆者宅の環境では、バッファローのHS-D300GLをサーバーとして利用した場合に、PC-TX100Kからコンテンツを再生しようとするとプログラムエラーが発生するなど、機器同士の相性によってはうまく動作しないケースも見られた。ネットワーク経由でのコンテンツ共有を行なう場合は、機器の組み合わせに注意すべきだろう。





さらなる操作性のブラッシュアップが必要

 このように、PC-TX100Kは、単にテレビ機能を搭載したPCではなく、テレビ機能とインターネット上の情報の連携がきちんと行なわれており、チャンネルUIなどの画期的な機能を搭載するなど、かなり魅力的な製品に仕上がっている。

 しかしながら、個々の機能は申し分ないのだが、全体的な調和があまりうまく図られていない印象を受けた。たとえば、Windows上のマウス操作はスティックと左右クリックのボタンで、テレビ機能の項目選択はスティックの周りの方向ボタンとスティック押し込みによる決定で、と常に2つの操作系統を意識しないと、うまく操作できない。また、テレビ機能の終了は、リモコンの「メニュー」ボタンを押してメニュー項目から終了を選ぶといったPCライクの操作性となっており、マウスを前提とした操作体系が残っている印象がある。

 このほか、前述したWeb情報は液晶側のチューナーでテレビを視聴している場合の機能で、PC本体のチューナーでテレビを見ているときには利用できないなど、2系統あるチューナーによる機能の違いも意識させられるシーンも目立った。液晶と本体のチューナー、Windowsとテレビの操作など、PC-TX100Kの仕組みを理解して操作すれば問題ないのだが、家電的に扱おうとすると、どこかに弊害が出てきてしまう。

 実際、筆者はなんとか操作に慣れることができたのだが、家族はこの違いを理解することが難しく、録画ができない、テレビが終了できないなど、いろいろなところで操作にとまどう傾向が見られた。多機能であるがゆえに、操作の煩雑さと複雑さが生まれてしまっているような印象だ。

 インテルのViiv、もしくはマイクロソフトのWindows XP Media Center Editionとは別の路線でリビングの情報端末を実現しているのは高く評価でき、それゆえの製品的な魅力も存在する。また、前述したチャンネルUIのように開発者が何を目指して、その機能を搭載したのかがよく伝わってくる製品でもあるのだが、まだPC的な使いにくさが若干残っているのが残念だ。今後、よりわかりやすくシンプルな操作体系へと進化すれば、さらにリビングに適した製品になると考えられる。


関連情報

2006/1/24 11:06


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。