第302回:ブロードバンド+携帯で映画やアニメを楽しむ
au携帯電話向けの動画配信サービス「LISMO Video」



 KDDIから、au携帯電話向けの動画配信サービス「LISMO Video」が開始された。携帯電話向けのサービスだが、ダウンロードと転送にPCを利用するだけでなく、PC上でも動画を視聴できるサービスとなっている。その使い心地を試した。





「携帯電話で動画を視聴」で8万円

 先日、とある友人から、こんな失敗談を聞いた。

 業務で携帯電話についてのレポートを書くためにいろいろサービスを試していたところ、なつかしいアニメをストリーミングで見られることに気がついた。夢中になって何本も見ていたら、いつのまにか8万円の料金を請求されていたそうだ。

 かつてはよく聞いた話で、まだそんな例があるのかと驚かされたのだが、確かに最近では携帯電話のサービスはパケット定額制を前提にどんどん大容量通信が必要なサービスへと移行しつつある。その一方で、音声しか使わないと割り切って契約していたユーザーが、ある日突然面白そうなサービスに出会い、契約など考えずにサービスを使いまくって請求に驚くというわけだ。

 最近まで筆者は、もう意図しないパケット代で悩むなんて人はいないだろう……、と考えていたのだが、実際にはそんなこともないようで、まさかそれが身近で起こるとも思わなかった。

 と、同時に、実家の両親の携帯電話も、たまに見ると新型に変わっているのだが、パケット定額制に加入したという話はまだ聞いたことがない。我が家の娘、つまり孫が携帯電話でアニメを見たいなどと言い出したら、同様に料金など考えずに見せてしまいそうで、ちょっと恐ろしくなった。

 契約とサービスに対する意識の解離というのは、実はサービスや通信速度がリッチになっていくこれからの方が大きな問題になりやすいのかもしれないと実感した。





動画のダウンロードはPCで

 身近でそんな話があったからというわけではないのだが、今回取り上げるauの「LISMO Video」は、リッチな動画コンテンツを携帯電話で楽しむための新しい形態のサービスだ。

 LISMO Videoを簡単に説明するならば、auが今まで提供していた音楽配信サービス「LISMO」の動画版だ。同社の携帯電話では、従来からPC向けの専用アプリケーション「au Music Port」を利用することで、インターネットから音楽をダウンロード購入し、携帯電話に転送して楽しむことができたが、LISMO Videoではこの音楽が動画になっている。

 具体的には、PCに専用ソフトとなる「LISMO Port」をインストールすることで、インターネット上の「LISMO Video Store」から動画を購入。FTTHやADSLなどのブロードバンド回線を利用して動画をダウンロードした後、USBケーブル経由で携帯電話に転送することで、どこでも動画を楽しめるようになる。


auが新たにサービスを開始した「LISMO Video」。専用ソフトとなるLISMO Portを利用し、オンラインストアで動画を購入。ストリーミングでの視聴や携帯電話への転送が可能となっている

 もちろん、これだけでは新しい形のサービスとは言いがたい。では何が新しいのかというと、PCがファイルのダウンロードだけでなく視聴もできるようになっている点だ。

 前述した専用ソフト「LISMO Port」、および動画再生ソフト「LISMO Video Player」をインストールすると、LISMO Videoで提供されているコンテンツをPCで再生することができるようになる。携帯電話向けのコンテンツはH.264(MPEG-4 AVC)形式、ビットレートは384kbps、フレームレートは30fpsというコンテンツだが、PC向けには高画質で2.5Mbps、標準画質で768kbps(ファイル形式非公開)の映像が提供されており、PCの大きな画面できれいな映像を楽しむことができるというわけだ。

 つまり、携帯向け動画ダウンロード+PC向けストリーミングというサービスとなっており、1つのコンテンツを購入することで、再生期間内であればPCと携帯電話の両方で利用できることになる。再生期間が限られているとは言え、1コンテンツを異なる媒体で楽しめるというのはなかなか面白いサービスと言えるだろう。





PCスペックや対応端末などが利用の壁に

 しかも、このLISMO Videoは、KDDIがFTTH向けに提供しているSTBを利用した動画配信サービス「MOVIE SPLASH」のコンテンツの一部が提供されており、ハリウッドメジャースタジオ5社のコンテンツも楽しめるなど、新しく開始されたサービスとしては動画の質、量ともに比較的充実しているサービスとなっている。

 たとえば、6月あたりから、FTTHを利用した動画配信サービスやCATVのVODサービスなどでは、昨年公開された「バイオハザードIII」の配信が開始されているが、LISMO Videoでも、このコンテンツを購入できる。人気連続ドラマの「24」、バンダイチャンネルや東映BB提供のアニメなどもある。価格は105円~420円前後で、再生期限も24時間~7日間とコンテンツによって異なるが、ラインナップや価格などのバランスは悪くない印象だ。

 しかしながら、その一方で、このサービスは世間的にあまり話題になっていない。もちろん、ニュースなどでサービスの開始は報道されたが、身近で使っているという人をほとんど見かけないことだろう。

 それもそのはずで、とにかく利用するための条件が厳しい。ざっと条件を挙げると以下の通りだ。

  • 対応携帯電話が必要
      W62H、Sportio、W62CA、W64SA、W62T、W62SH、 W63SA、フルチェンケータイ re、W61SA、W61T、W61S、W56T、W54S、W54SA

  • 専用ソフトが必要
      LISMO Port
      LISMO Video Player

  • PCが著作権保護の動作環境条件を満たす必要がある
      COPP対応ビデオドライバ
      HDCP対応ディスプレイ(DVIの場合)

 まずは、携帯電話だが、今年の夏モデル+αというラインナップだ。一部機種の発売がようやく開始されたこともあり、まだ対応携帯電話を持っている人の方が珍しいという状況だろう。




今回利用したau W62SH。今年発売された新しいモデルでないとサービスを利用できない

 そもそもLISMO Videoには、LISMO Portを利用してアクセスする必要があるのだが、上記対応機種以外ではLISMO Portが利用できない。また、LISMO Videoから動画を購入する際は、USBケーブルで接続した携帯電話との間で課金処理に必要な認証情報をやり取りする必要があるのだが、対応携帯電話でないとそもそもLISMO Portに登録できないことになる。

 一方、PC側の環境だが、これは最近登場してきたPC向け地上デジタルチューナーの利用環境と同じ条件と考えるとわかりやすいだろう。再生する動画は著作権保護機能によって再生環境が制限されているため、どのようなPCでも再生できるとは限らない。

 ハードウェアに関しては、ディスプレイがDVI接続の場合はHDCP対応が必須だ。ただし、アナログRGB、もしくはノートパソコン内蔵のディスプレイにも対応しており、この条件は比較的クリアしやすいだろう。

 COPPドライバに関しては、基本的に最新のドライバをインストールしておけばほぼクリアできるはずだ。試しに、筆者宅にある3台のノートPC(ThinkPad T60/ThinkPad Z61、FMV LOOX R70)、および自作のデスクトップPC(AMD 690チップセット内蔵グラフィック)で試してみたところ、問題なく対応することができた。

 よほど古いPCでない限り、Windows Update、もしくはメーカーの最新ドライバを適用していれば対応できるだろう。

 なお、同社ではPCが再生環境を満たしているかどうかを確認するためのツールを配布している。あらかじめこれを利用してチェックしておくと安心だろう。


PCの利用環境が条件を満たしているかどうかをチェックするツール。ただし、再生するための最低条件のチェックであり、快適に再生できるかどうかはPCの性能や回線速度に依存する




ブロードバンドで高速ダウンロード

 実際に使ってみた印象としては、悪くはないが、もうひと工夫欲しいという印象だ。

 まず、PC側での映像再生だが、画質的には良好なレベルであり、PCのスペックにもよるが映像も駒落ちなどせずに再生できた。PCはストリーミングでの再生だが、これについては一般的なPC向けストリーミングサービスとほぼ同等と考えて差し支えないだろう。

 ただし、前述したように本サービスではコンテンツの購入時に携帯電話の情報を利用するため、決済する際にUSBで携帯電話をつないでおかないとコンテンツを購入できない。はじめから携帯電話にダウンロードするつもりなら良いのだが、PCで見たいというだけで携帯電話をつながなければならないのは若干面倒だ。


LISMO Portで動画を視聴することも可能(再生には専用ビューアを利用)。感覚としてはPC向けの動画配信サービスと同じだが、携帯電話をUSB接続しておかないと視聴できない
購入の際は携帯電話の情報を利用。請求も携帯電話と一緒にされる

 一方、携帯電話での利用は非常に快適だった。携帯電話向けのコンテンツはアニメなどの20分程度のもので70MB弱、映画などの2時間のもので380MB程度の容量があるが、光ファイバなどを利用すれば数分~十数分もあればダウンロードできてしまう。

 ダウンロード後の携帯電話への転送に関しても、たとえば映画などはチャプター単位で転送できるようになっており、さほど時間がかからないように工夫されている。


携帯電話への転送はチャプター単位で可能。容量は1ファイル60~80MB前後

 PCと比べると画面サイズが小さいためさすがに映像は見劣りするが、たとえば今回利用したW62SHなどは3.0インチ、480×854ドットの液晶を搭載しており、横向きのフル画面表示で再生すれば、映像自体は見やすい印象だ。外出先や電車の中などで楽しむ分には十分と言えるだろう。


携帯電話に転送して再生したところ。横向きにするとかなり見やすい。電車の中などでの視聴には十分だ

【動画】携帯電話で再生した様子

 ただ、せっかくPCと携帯電話の両方向けのサービスなのだから、両者の連携ができるようになるとさらに面白いと感じた。たとえば、映像の再生時間を携帯電話とPCで共有できるようにしておき、外出先で途中まで見た映像の続きをPCで自動的に再生できるようになるなどの工夫があれば、もっと便利だろう。

 現状、携帯電話とPCの連携に関しては、携帯電話からLISMO Videoのサイトで見たいコンテンツをお気に入りに入れ置いて、PC側で参照するといったことができるが、こういった連携にもう一工夫欲しいところだ。

 サービスとしては、前述したように敷居が高いものの、内容的には充実しているので、対応機種が増えてくればなかなか面白いサービスになるのではないだろうか。


関連情報

2008/7/22 11:03


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。