Windows Home Server搭載の小型ホームサーバー
ASUSTeK Computer「TS mini」


 ASUSからWindows Home Server搭載の家庭向けサーバー「TS mini」が発売された。小型ながら拡張性に優れ、オリジナルのアドインも追加された注目の製品だ。その実力を検証してみた。

小型ながら高い拡張性

 ASUSから登場した「TS mini」は、サイズ、拡張性、性能、使い勝手、価格など、さまざまな点で見たときの製品としてのバランスが非常に良いホームサーバーだ。

ASUSのWindows Home Server搭載機「TS mini」。ファイル共有、バックアップ、リモートアクセスなどの機能が使える家庭向けのサーバー製品

 まず目に付くのは、そのサイズだろう。本体サイズは幅96×高さ245×奥行き204mmとなっており、一般的なMini-ITXのケースを一回り小さくした程度とコンパクトな設計になっている。これくらいのサイズであれば、部屋の隅や棚の上などに設置しても邪魔になるようなことがなく、家庭内での置き場所に困るということはないだろう。

 もちろん、最近では3.5インチ2台分ほどのコンパクトなNASや、2.5インチHDDを採用することでさらに小型の製品も存在するため、単純なサイズ比較では他社製品に劣る場合もあるが、単に小型なだけでなく、拡張性に優れているのがTS miniの特徴だ。

正面(左)と背面(右)側面

 標準では1TBのHDD(Seagate Barracuda 7200.12)を1台内蔵しているが、これに加えてさらに内部に3.5インチHDDを1台内蔵可能となっている。本体背面のネジを2本外し、側面のパネルを取り外すと、金属製の内部フレームに取り付けられた取っ手が姿を現す。3本のネジを取り外してから、この取っ手を引き上げれば、HDDのマウンタが登場する。

 HDDは側面にネジを取り付けて、マウンタのレールをスライドさせるようにして装着するのだが、このネジは専用となっており、本体に同梱されている増設用の6本を紛失するとHDDを増設できなくなってしまう。なくさないように十分注意した方がいいだろう。

ケースを開けると取っ手が着いた金属の内部フレームが登場取っ手を引っ張ると取り外した部分がHDDのマウンタとなっている
HDDは側面のネジでマウンタのレールにスライドさせるように装着するHDDを増設した場合でも、Windows Home Server上で追加するだけで合計容量を増やすことができる

 装着したHDDの認識も簡単だ。Windows Home Serverの場合、Drive Extenderによって、コンソール画面からHDDの追加操作をするだけで、手軽にHDD容量を拡大できる。市販のHDDを利用でき、しかも容量の拡張も手軽にできるのは大きなメリットだろう。

 このほか、本体背面にはUSBが6ポート用意されているうえ、eSATAも2ポート用意されている。前述したWindows Home Server のDrive Extenderは、外付けのHDDでも利用可能なため、これらのポートが許す限りHDDを増設することも可能というわけだ。

 このため、仮に2TBのHDDを内蔵×2(OS再インストールも手軽に可能)、USB×6、eSATA×2でフル搭載すれば、合計20TB(OS領域20GB消費)という、とんでもない容量のストレージとして利用することもできる。

 電源の問題を考えると、内蔵×2、eSATAかUSB×2程度が現実的だと思われるが、これなら大量の画像や映像ファイルの保存、データの複製、複数台のクライアントのバックアップとさまざまな用途に容量を消費しても不足はないだろう。

十分なパフォーマンスと高い静音性

 続いて、性能面について見ていこう。クライアントにThinkPad X201s(Core i7-620LM 2GHz/RAM4GB/Intel X25-M G1/Intel /WiFi Link 62)を利用し、Crystal DiskMark 3.0を利用して計測したのが以下の画面だ。

CrystalDiskMark3.0テスト結果。ベンチマークデータサイズ100MB 時CrystalDiskMark3.0テスト結果。ベンチマークデータサイズ1000MB 時

 CrystalDiskMark3.0からベンチマークデータのサイズが1000MBが標準になったため、従来製品との比較のために100MBの値も合わせて計測したが、Windows Home Server搭載機としては一般的な速度で、一般的なNAS製品と比較しても、いわゆる高速モデルと同等の高いパフォーマンスを実現できている。

 TS miniは、CPUにネットブックなどで多く採用されているAtom N280(1.66GHz)を搭載しており、1GBのメインメモリを搭載している(最大2GBだがSO-DIMM×1で標準メモリ取り外した場合保証を受けられない)。10人までの環境で利用することを考えると、必要十分なパフォーマンスと言えるだろう。

メモリは反対側のカバーを開けると登場する。ノート用のSO-DIMMで最大2GBまで増設可能だが、標準モジュールを取り外すと保証が受けられなくなる

 続いて、無線LAN環境での速度も計測してみた。NECアクセステクニカのAterm WR8700Nを利用し、先ほどと同じクライアント(ThinkPad X201s)を利用して、内蔵の無線LAN経由でCrystalDiskMark 3.0を実行した。

クライアントを無線LAN(IEEE802.11n 2.4GHz)で接続した際の結果(ベンチマークデータ 左100MB/右1000MB)

 やはり、無線LAN経由では、だいぶ速度が落ちてしまうが、それでも10MB/sは確保できているので実用上は問題ないだろう。もちろん、アクセスポイントとの距離が離れ、無線LANの速度が低下すれば、さらに結果は悪くなるが、大きな映像ファイルをコピーするのに時間がかったり、クライアントの初回のバックアップに若干時間がかかる点を覚悟すれば、実用も難しくはないだろう。

 なお、製品としても、Windows Home Serverとしても完全にサポート外の使い方になるが、TS miniにUSB接続の無線LANアダプタ(Aterm WL300NU-G)を装着し、サーバー、クライアントともに完全無線LANの環境でもテストしてみたので、参考までに値を掲載しておく。

TS mini側も無線LANに接続した場合の100MBの結果。1000MBはタイムアウトで計測不可となった

 サーバー、クライアントとも2.4GHz帯を利用したため、100MBですら、とても実用的とは言えない結果となったうえ、1000MBではシーケンシャルリードのあたりでタイムアウトが発生し、計測ができなかった。同時通信対応のアクセスポイントを利用して5GHzと2.4GHzを使い分けるなどの工夫をすれば、まだ使える可能性はあるが、やはりサーバーを無線LANで利用するというのは、まだ無理がありそうだ。

 一方、静音性についてだが、これは非常にレベルが高い。CPUはファンレスとなっているが、本体上部に4cmのファン2基が搭載されており、これが1200~1300rpmほどで回転しているのだが、耳を澄ませば回転音が聞こえるという程度で、ファンの音はほとんど気にならない。

 さすがにクライアントからアクセスすると、HDDのアクセス音が聞こえてくるが、普段は動作しているかどうかの判断さえ難しいほど静かだ。静音性を求めるなら、メインのHDDを5400rpmの静かなモデルに交換するといったことも可能なので、動作音を気にするユーザーでも、本製品なら大きな不満はないだろう。

ASUSならではのアドインを搭載

 Windows Home Serverは、これまでに紹介したようなストレージとしての使い方に加えて、バックアップ、リモートアクセスなどの機能も利用できるようになっているが、これに加えてアドインによる機能拡張ができるようになっている。

 もちろん、TS miniでも、Windows Home Server向けに提供されている各種アドインを利用することができるが、ASUSオリジナルとして、「ASUS Xtor Manager」、「ASUS WebStorage」、「ASWM」という3つのアドインがインストール済みとなっている。

 ASUS Xtor Managerは、言わばファイルのコピーツールのようなアドインだ。USBメモリなどの外部記憶装置のデータを内蔵HDDの指定フォルダにバックアップしたり、外部記憶装置と内蔵HDDの特定フォルダのデータを比較して、更新されたファイルや新しいファイルをコピーすることができる。

 USBメモリの装着などをきっかけとして、バックアップの実行や同期の開始を自動的にやってくれるとありがたいのだが、残念ながら手動での開始操作が必要だ。とは言え、デジタルカメラやデジタルビデオカメラで撮影したデータをコピーしたり、いつも持ち歩くデータをUSBメモリーで同期させておくなどといった使い方ができるのは便利だ。

ASUS Xtor Manager。USBポートに接続したメモリやHDDからのファイルコピー、バックアップ、同期などを行うことができるWindows Home Serverの共有フォルダとUSBメモリの内容を比較し、存在しないファイルをお互いにコピーすることができる

 続いてのASUS WebStorageは、オンラインストレージとの連携機能だ。TS miniから利用を開始すると、500GBの領域を1年間無償で利用することができるようになっており、Windows Home Serverの共有フォルダに保存したデータをオンラインへとバックアップしたり、あらかじめ用意されてる「MySyncFolder」に保存したデータをオンラインと同期することができる。

 2年目以降の利用は料金が必要だが(容量無制限の場合3860円/年)、ローカルでのデータ複製やサーババックアップに加えて、さらにオンラインにもデータをバックアップしておけば、二重、三重の安心が得られることになる。アドイン自体は、ASUS WebStorageのサイトからダウンロードすることができるので、すでにWindows Home Serverを利用している場合は、試してみるのも良いだろう。

 バックアップにはさすがに時間がかかるが、設定で低速モードを選択することで、ネットワークへの負荷を少なくしながらバックアップを継続することも可能だ。

 なお、すでにASUS WebStorageを契約している場合(ネットブックなどから登録している場合)、同じアカウントでTS miniから登録すると、500GBではなく、以前に登録した際の容量になってしまう。実は画面の表示が60GBとなっているのは、その影響だ。くれぐれもアカウントが重複しないように注意しよう。

オンラインストレージのASUS WebStorageを利用してWindows Home Server上のデータをバックアップできるアドイン。TS miniユーザーは500GBを1年間無償で利用できる

 最後のASWM(ASUS System Web-based Management)は、システムの状態を確認できるアドインとなる。ファン、温度、ディスク、ネットワーク、CPUなどの状況を確認することができる。英語版のみとなるが、ディスプレイレスのWindows Home Server機には必須の機能とも言えるだろう。

サーバーの状況を確認できるASWM。モニタレスの製品なので、このアドインがあると温度や負荷などを判断しやすい

「いじり甲斐」のある内部構成

 このほか、完全にサポート外、かつ自己責任の世界の話となるが、ちょっとしたカスタマイズも楽しむことができる。

 まず、ケースを開ければ、すぐに気がつくのだが、本製品にはVGAコネクタが用意されている。バックパネル側で隠されているため標準のままでは使えないが、カッターなどで接続部分を切り取ればディスプレイを接続することが可能だ。

内部にVGAコネクタが存在するがカバーで覆われている。カッターなどでカバーを剥ぎ取れば利用可能だ

 この状態で、USBキーボードなどを接続して起動すれば、BIOSも表示可能で、RAIDの構成も行うことができる。TS miniでは、内蔵HDD用のSATAはPCI-E 1xに接続されたライザーカード経由で接続されているが、背面に用意されているeSATAポートはMarvelのRAIDコントローラー(88SE6121)に接続されており、起動時に「Ctrl+M」キーを押すことでRAIDの構成が可能だ。eSATA側には2台のHDDしか接続できないため、RAID0/1の構成しかできないが、一応、RAID0/1/5/10の構成にも対応している。

 ただし、実際に試してみたところ、RAID構成でのブートは可能なものの、付属のリカバリDVDからの再インストールには失敗してしまった。パッケージ版やDSP版のOSを新規インストールも可能だが、RAIDのドライバを指定する必要もあるので、それなりの手間は覚悟すべきだろう(Atom N280なので64bit版は非対応)。

MarvelのRAIDコントローラ側(eSATA)にHDDを装着すればRAID構成も可能。ブートもできるが、リカバリに失敗するうえ、新規インストールもドライバの導入が困難リカバリはクライアントからネットワーク経由で実行する形式

 とは言え、ユーザーが手を入れられる可能性が残されているあたりは、さすがASUSといったところだろうか。

 なお、マザーボードの交換に関しては、ほぼ無理と考えた方が良さそうだ。サイズ的にMini-ITXのマザーボードは固定できそうだが、バックパネルのサイズが異なるうえ、内部のHDDベイが大きなスペースを占めるため、CPUやチップセットの位置など、マザーボードのレイアウトが合わないと内部に収まらない。もちろん、電源もACアダプタで供給する必要があるうえ、スイッチ類の接続も工夫が必要だろう。

初心者から上級者まで楽しめる1台

 以上、ASUSTeK ComputerのWindows Home Server搭載機「TS mini」を実際に使ってみたが、小型で静音、それでいて拡張性が高く、場合によってはいじくり倒せると、なかなか面白い製品となっている。

 価格が実売で4万8800円前後と、同容量のNASと単純に比較してしまうと割高だが、Windows Home Serverの高度で使いやすいバックアップ機能やリモートアクセス機能が使える点、ASUSならではのアドイン、特にWebStorageと連携した500GBものオンラインバックアップが使える点を考慮すると、お買い得感としても悪くないだろう。

 個人的には静かで拡張性が高いというだけでも高く評価できる製品だが、初心者が手軽に使えるのはもちろんのこと、上級者でもハードウェア的にも、ソフトウェア的にもいろいろ楽しめる製品となっている。実用にも、遊びにも、1台持っていて損はない製品と言えるだろう。


関連情報


2010/4/6 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。