vProの匠

【vPro導入記 第2話】PCの交換は面倒? そのメリットをちゃんと伝えたい

現場に聞いたら「PCリプレイスが面倒くさい」と言われたけども………

 2023年4月、初めて緊急事態宣言が発出されたあの日から、気がつけば3年が経過した。当時、急ぎテレワークのために導入したPCなどにも、そろそろ評価やリプレイスのシーズンが訪れている。

ますます重要性を増すPCとその管理。「安全、かつ効率が良い管理」を求め、さまざまな検討をしている方も多いだろう。特に、インテル vPro プラットフォームは、ハードウェアベースの強力なセキュリティ機能と遠隔管理で注目を集めているが「管理対象のPCがvPro対応である」というハードルがあり、PCのリプレイス費用などをどう説得するかで悩む人も多いだろう。そこで本連載では、実際の取材をベースに「導入の流れ」を紹介していきたい。

「え? 情シスの都合で、PCを入れ替えるの?」

 前回提出したvProの提案書が「会社全体の業務効率化を視野に入れたものにしてほしい」という理由で没になってから1週間。Iさんはその感触を得るために現場をまわり、vPro搭載PCの導入についてのヒアリングを行った。そして、その中で見えたのが、PCリプレイスに対する、想定以上の腰の重さだった。

「PCを交換すると、データの入れ替えが面倒くさい…」

「今のPCで問題ないのに、トラブルが起きたら嫌だなぁ」

「使いやすいようにカスタマイズしているけど、この状態を再現できる?」

 などなど、PCのリプレイス自体に対して、否定的な意見が次々とあがってきた。3年前にテレワーク用PCを支給した時とは、現場の反応が全く違う。

 まぁ、「会社都合でPCを入れ替える」わけなので、そういう声も多いと思ってはいたが、「PC性能も上がるし、サポートも円滑になるし、好意的な声も少しはあるだろう……」と思っていたので、さすがにちょっと考えが甘かったと言わざるを得ない。PCのリプレイスは、それなりのコストもかかるため、消極的でもいいから現場の部署にも賛成してもらわないと話が進まないだろう。

 それにしても、3年前に導入したPCは、コロナ禍のバタバタと品薄の中での調達で、「テレワークのために持ち運べること」「現実的な納期で納品されること」を重視した結果、スペックとしては「ほどほど」なもの。Iさんの目から見て「最近の働き方に対応しにくい」と思う部分も増えていた。

 特に顕著なのが処理性能や通信機能。オンライン会議が想像以上に当たり前になった結果、「オンライン会議中にオフィスアプリを開く」あるいは「オンライン会議や動画マニュアルなどの動画編集」といった処理の重さへの不満はぼちぼち聞くし、通信品質や通信速度に対する不満は日常だ。

 しかし、今、PCを買うのなら、CPU性能もあがっているし、メモリ搭載量も3年前より増えるから、処理性能も高くなる。また、通信だってWi-Fi 6Eや5Gの搭載機を選べるし、カメラやマイク、あるいはディスプレイ出力、バッテリー持続時間だってテレワークを意識して強化された製品が増えている。

 ということで、現場をヒアリングするときに、そうした説明も加えるようにした結果、「なるほど」と理解してくれる人もかなり増えた。もしこの説明をちゃんと練らず、無理に導入していたら社内は不満の嵐になっていただろう。自分としては「PC性能の向上」は当たり前の話だと思っていたが、明言しないとそこまで意識が回らない人も多いのだと気がついた。上司が「現場の声を聞いて」というわけだ。

 上司が話していた、「会社全体の業務を効率化するような提案」。その突破口の一つが見えた気がしたIさんだった。

【現状の課題】
  • 社員がPCのリプレイスに前向きではない
【対策】
  • PCの性能向上は意外と知られていない。ちゃんと説明する

Windows Updateの課題、やっぱり多かった……

 話を聞いているうちに、「やっぱり」と思ったことが1つあった。それが、Windows Updateに対する意識の低さと、スキル問題によるつまずきの多さ。

 Iさんの会社ではWindows UpdateをWSUSで管理しており、各PCのWindows Updateの適用状況はWSUSの管理コンソールで確認できる。しかし、結果として分かっているのは、「アップデートが配布されているはずなのに、インストール待ちで止まっているPC」がかなりあるということ。

 PC台数も多く、情報システム部門の工数も限られるので、普段は「可能な範囲で早めにやってください」ということにして、重要なアップデートやゼロデイ攻撃時などの緊急時のみ、イントラネットでの告知や一斉メールでアップデート反映を促進している。しかし、そんな時でさえ「仕事を止める邪魔な作業」扱いでなかなかやってくれない、とか、何らかのエラーがあって、普通のやり方では止まってしまうなど、一筋縄ではいかないのが実情だ。

 情報システム部門の手数が足りないので、社内では「まぁこれでしょうがないだろう」という話になっているのだが、「最近のランサムウェアの攻撃はばらまき型で、標的は中小企業になっている」という話を聞くにつけ、不安がないと言ったら嘘になる。

 PCが会社に置いてあるなら「本当にどうしても」という時は、個別にPCを見に行く、ということも手軽にできた(いざとなれば該当社員の終業後でも)が、最近は自宅に置いてあることも多いし、そうなるとお手上げだ。「Windows Updateのために出社してほしい」とはさすがに言いにくい。

 現場にヒアリングしてしみじみ分かったのは、社員が自宅に持ち帰っているPCでも「社員の稼働時間外にアップデートを遠隔適用する」ということが普通にできるvProの強力さと、それによってセキュリティの懸念事項が大きく減るということ。BIOS更新までできるので、これはかなりありがたい。

【現状の課題】
  • Windows Updateの課題はやはり多かった……
【対策】
  • 「vProでアップデートを適用する」が「困った時の解決策」になりえる

シンクライアントの現場にvProはいかが?

 さて、ヒアリングしていく中で、どういうことになるのか想像がつかなかったのが、シンクライアントをテスト導入中のバックオフィス部門。

 具体的には経理や人事など、特に秘匿度の高い情報を扱う部署で、これらの部署では、テレワーク初期からMDMによる盗難/紛失対策を実施。万全を期した体制だったが、そうしたノートPCを持ち運ぶリスクとストレスはかなり高く、また、他部署同様、PCアップデートの問題があったので、これを一挙に解決しよう、ということでシンクライアントをテスト導入したのがこれまでの流れ。導入したのは規模やコストからサーバーベースのシンクライアント製品だ。

 ということで、最近の状況を聞いてみたのだが、現場の反応は「シンクライアントは使いにくい」とのこと。機密情報が入ったPCを持ち歩かなくて済むのはいいものの、処理性能が低いため、これまで使っていた膨大なデータ入りのExcelなどは処理が重くなり、通信速度やレスポンスの関係などからも「秘匿性の高いデータはともかく、そうでないデータはローカルに置きたい」という声が出ているそう。また、「キー配置がどうしても慣れずに困っている」という声も出ているとか。サーバーの契約を切り替えるなど、運用の工夫はしているものの、結局、大部分のスタッフはノートPCに戻っている、というのが実情なのだとか。

 そこで、Iさんはシンクライアントを担当している同僚にこんな話を振ってみた。「もし、シンクライアントの代わりに、vProを導入したらどうなるか?」と。

【同僚】: 「……それは、vProのPCを会社に置いて、自宅から仮想デスクトップとして操作するということ?」

【Iさん】: 「そういう運用でもいいし、今のPCの代わりにvProのPCを持ち歩くのでもいいと思う。どちらにしてもMDMで管理するなら、管理できる範囲が広い方が、セキュリティ上の懸念も減ると思うので」

【同僚】: 「なるほど、そういう手もあるのね。今のままのノートPCで使うよりは安全になるし、なんなら会社のサーバー室に、vProのPCを置き、仮想デスクトップとして運用してもいいわけか」

 その後、Iさんはヒアリング内容を元に、まずは経理部や人事部でvProをテスト導入するというプランを立てることにした。テスト結果がよければ、他の部署には、その後のリプレイスでvPro搭載PCを検討してもらえるだろうし、導入が広がれば、加速度的に情報システム部門の負担は減るだろう。

 この提案内容なら、今度こそ上長を説得できるかもしれない、そうIさんは考えていた。

【現状の課題】
  • 経理や人事ではセキュリティ対策が負担になっている
  • シンクライアントは動作速度などで現場に不満がある
【対策】
  • vProならコストを抑えて、セキュリティを強化できるだろう

(第3話に続く)