vProの匠

【vPro導入記 第3話】長期計画を考えて、目先の戦術も考えて……

でも、結局は根回しなのね(笑

 2023年4月、初めて緊急事態宣言が発出されたあの日から、気がつけば3年が経過した。当時、急ぎテレワークのために導入したPCなどにも、そろそろ評価やリプレイスのシーズンが訪れている。

ますます重要性を増すPCとその管理。「安全、かつ効率が良い管理」を求め、さまざまな検討をしている方も多いだろう。特に、インテル vPro プラットフォームは、ハードウェアベースの強力なセキュリティ機能と遠隔管理で注目を集めているが「管理対象のPCがvPro対応である」というハードルがあり、PCのリプレイス費用などをどう説得するかで悩む人も多いだろう。そこで本連載では、実際の取材をベースに「導入の流れ」を紹介していきたい。

まずは長期計画を考えてみる

 増え続ける社内サポートで、本来必要な情報システムの改善が一向に進まないIさん。

 セキュリティ向上と社内サポートの効率化を一挙解決する手段として「インテル vPro プラットフォームの導入」を考えたものの、「会社全体のメリットが見えにくい」と却下されてしまった(第1話)。そこで、今度は現場のヒアリングを通して、「社内の情報システムの現状」を詳細に把握。最近のPCの性能向上が意外と知られていないことや、シンクライアントの導入が難航していること、また、やはりWindows Updateなどのアップデートに課題が発生しがちなことを再確認した(第2話)。

 ヒアリングして分かったのは、やはり「会社全体でのメリットはある」ということと、「個々の利用者のセキュリティ意識やスキルが千差万別で、本来は会社(全体)で対処すべき」こと。しかし、その一方で、PCのリプレイスは多額のコストと手間がかかることもあり「本当に価値があるのか、テストを経て導入したい」と経営層が考えるのももっともなことだ。

 そこで、今回、Iさんが考えた戦略はこうだ。

▼プロセス1:
シンクライアントをテスト導入しているものの、不満が強く、現状を変えていきたい経理や人事などのバックオフィス部門でvPro搭載PCとEMAを導入。台数は10台弱。導入によるコスト削減効果とセキュリティ向上の度合いを確認し、また、EMAによる管理基盤を整える。実施時期は「なる早」。

▼プロセス2:
プロセス1の結果をもとに、全社展開を検討する。全社一括の切り替えはコスト面からも難しいと思うので、部署ごとのリプレイスにあわせて導入する。まずは、方向性としての承認を経営層に求め、承認されたなら、まずは故障入れ替えのPCをvPro搭載機にしてしまう。この承認を求める時期は、プロセス1の結果が出るだろう、今から3カ月後~半年後がめど。

▼プロセス3:
なにもしなければ「部署でまとまったリプレイス」は発生しないので、今のPCに不満がある部署や故障入れ替えで大部分がvPro搭載機になっている部署を対象に「まとまったリプレイス」を働きかけていく。実質的には、性能向上などを社内に周知していく、ということになると思われるが、時間は結構かかるかもしれない。


 もう少しお手軽な話にしたかったのだが、全員のPCをリプレイスする、という話でもあり、使う予算や工数を考えると、こんな風にせざるを得ないだろう。

 ここまで考えて、上司に相談したIさん。

 上司の反応は………

「うん、いいんじゃない」

 「うん、いいんじゃない」

 え……。Iさんも大人なので「なんだよ、最初から言ってくれ」とは言わなかったが、なんだか拍子抜け。

 とはいえ、上司の助言で特にプロセス3は結構変わった。PCをまとめてリプレイスするのは「なかなか難しいだろう」というのは上司も同意見だったのだが、そこは老練(?)たる上司、「そういや、テレワーク導入時に入れたPCはそろそろ3年経過するよね」と。

 つまり、それらの機材なら「まとめてリプレイス」しやすいだろう、ということだ。PC性能ももちろん向上しているし、部署によっては早めに変えたほうがいい部署もあるだろう。

 そこで修正したのが、以下のプロセスだ。変更部分を太字にしてある。

▼プロセス1:
シンクライアントをテスト導入しているものの、不満が強く、現状を変えていきたい経理や人事などのバックオフィス部門でvProとEMAを導入。台数は10台強。導入によるコスト削減効果とセキュリティ向上の度合いを確認し、また、EMAによる管理基盤を整える。 この段階では、情報システム部門の工数は若干必要になるだろう。 実施時期は「なる早」。

▼プロセス2:
プロセス1の結果をもとに、全社展開を検討する。全社一括の切り替えはコスト面からも難しいと思うので、部署ごとのリプレイスにあわせて導入する。まずは、方向性としての承認を経営層に求め、承認されたなら、まずは故障入れ替えのPCをvPro搭載機にしてしまう。この承認を求める時期は、プロセス1の結果が出るだろう、今から3ヶ月後~半年後がめど。 承認さえ得てしまえば、情報システム部門の工数はさほど増えない(または微妙に減る)が、管理がチャンポンになることもあり、大きな工数削減にもならないだろう。

▼プロセス3:
普通にしていると「部署でまとまったリプレイス」は発生しないが、2020年に入れたPCが2024年ごろから更新周期を迎えていくことや、それ以前のPCでWindows 11に対応できないものもあるため、できるだけ時期をまとめて「部署でまとめてリプレイス」を進めていく。実施時期のイメージは、今から1年後~2年後になる。情報システム部門の負担は、普通のPC入れ替え作業+わずか程度だが、なにぶんPC台数が多いので、それなりに大きな工数がかかるだろう。


 これが新しい導入プロセスだが、これには情報システム部門の負担量も簡単に追加してみた。

 プロセス1はそれなりに重く、プロセス2はこれまでと同程度、プロセス3の後半あたりからは、今よりも余裕が出てくるのではないか、というのが上司の見立てだ。結果として、1年半~2年後には、整備が遅れていた「最近風」のITシステムをテストしたり、導入したりできるだろう。

最後は社内プレゼン!何を説明するのか?

 さて、あとは、会社に対して説明していくだけだ。今回、会社に対して、説明するのは以下のプランだ。


【提案】
バックオフィス部門でvPro搭載PCとEMAを導入し、業務効率を上げていきたい

【バックオフィス部門の課題】
バックオフィス部門では、シンクライアントの導入などでセキュリティ向上と効率化を進めているが、性能不足で導入が進んでいない。これをvPro搭載PCの導入で解決したい。

【解決したい課題】

  • 増え続けるランサムウェアなどの攻撃を未然に防ぐ環境を整えつつ、シンクライアントで落ちてしまった生産性を回復する

【セキュリティに関する課題】

  • ランサムウェアなどの攻撃対象がばらまき型になり、中小企業の被害(金銭の略取や業務の停止)も拡大している
  • 「攻撃の入り口」である偽メールがAIの進化で巧妙化する一方、「攻撃の穴」はOSやソフトの脆弱性で変わりなく、これはしっかりアップデートしていれば基本的には大丈夫だが、その「しっかりアップデート」の徹底が難しい。イントラネットの告知やメール、場合によっては個別に連絡して対応しているが、どうしても対応しにくい場合があり、それを含めて万全な対策をとるには情報システム部門の工数が不足している。

【生産性に関する課題とは?】

  • セキュリティに関する問題は、テスト導入中のシンクライアントで解決を図っているが、シンクライアントでは性能が不足していることが判明。通常のノートPCに戻っているスタッフが多い。
  • 一方、普通のPCに戻ったことで、「セキュリティ」に関連する、利用者への依頼事項(不調のWindows Updateの再実行など)や設定作業が増えており、利用者のPCスキルのレベルが高くないこともあり、現場の生産性が落ちている。

【導入パターン】
 以下の2パターンを考えているが、基本的にはaのパターンとし、状況に応じてbもテストする。

  • a) vPro搭載のノートPCを従来のノートPCの代わりに導入する
     →利用方法は従来通り。管理はEMAと資産管理ツールを利用する
  • b) vPro搭載のPCを社内のサーバ室に設置し、従来のノートPC(vPro非搭載)からリモートデスクトップで利用する
    →従来のノートPCは、自宅/オフィスの双方で使うが、秘匿度の低い作業はそのノートPCでそのまま扱うことも許可する。(なお、本来はこのPCもvPro対応が良いため、コストが許せばこちらもリプレイスする)

【検証とその後の展望】

  • 導入一カ月後と、四半期末をめどに、効果を検証する
  • 効果によっては、他部署での導入も検討する

 見ての通り、バックオフィス部門に導入するための内容に絞ったものだ。

 ちなみに、Iさんがまとめた、本来の「解決したい課題」は以下のもの。

 Iさん、当初は、これをガッツリ書こうとしていたが、「そこまで書くと、話が大きくなりすぎてまとまらなくなる」(上司)ということでこうなった。プレゼンテーションの場で聞かれたら、「このような方向性を考えている」と口頭説明しようと考えている。


【解決したい課題】

  • PCを使った作業をより効率化し、各スタッフ本来の業務に集中できる環境を整える
  • 増え続けるランサムウェアなどの攻撃を未然に防ぐ環境を整える
  • AIやDXなど、将来の業務効率をたかめるための研究を行える工数を捻出する
  • 上記をできるだけ低コストで実現する

【生産性に関する課題】

  • オンラインの仕事が増え、PCの重要性が増している
  • 一方、「PCの不調」で生産性が落ちることも増え、結果としてPCサポートの重要性や総数が増えている
  • 情報システム部門も「増えるPCサポート」に対応しているが、出社が必要な作業も発生しやすい上、工数上の問題もあり限界がある
  • また、後述の「セキュリティ」に関連する、利用者への依頼事項がかつてより増えており、そうしたことに関わる作業時間や、学習時間、あるいはそれによるストレスなどで業務効率が低下している。

【セキュリティに関する課題】

  • ランサムウェアなどの攻撃対象がばらまき型になり、中小企業の被害(金銭の略取や業務の停止)も拡大している
  • 「攻撃の入り口」である偽メールがAIの進化で巧妙化する一方、「攻撃の穴」はOSやソフトの脆弱性で変わりなく、これはしっかりアップデートしていれば基本的には大丈夫だが、その「しっかりアップデート」の徹底が難しい。イントラネットの告知やメール、場合によっては個別に連絡して対応しているが、どうしても対応しにくい場合があり、それを含めて万全な対策をとるには情報システム部門の工数が不足している。

【研究開発の課題】

  • 現在の重要性にかんがみて、情報システム部門の工数を社内サポートに多く充てているが、充てられるものは限界で、効率化か人員増が必要
  • 会社の規模拡大を考えると、「情報システム部門の人数を増やす」よりは、「1つの仕事を効率よくできるやり方」を導入したほうが長い目で見て効率的
  • 現在は、工数不足のために「言わないと動かない情報システム部門」になってしまっているが、効率化を進めて余力が出てくるのなら、「DXやAIなど最新技術を自ら調査・研究し、事業部門に提案できる情報システム部門」への成長を図る

 「ここまで考えたうえで、出すのはこれだけか」と思わないでもないIさんだったが、会議の場はともかく、「内々でこういうことを考えている」という話は、どうやら上司が事前に話しておいてくれるのだそう。

 「こういうのが日本的、というのだろうか……」と思いつつ、話が進むことが重要なので、なんとなく納得したIさん。そして、あとはプレゼン当日の話なのだが……、実はこれ、とてもあっけなく「OK」となった。

 結局、上司がバックオフィス部門の部門長と経営層に、個別にvProの話をしていたそうで、両方とも興味を持ってくれていた模様。導入台数はスタッフの数である「10台弱」ではなく、「まず3台」になったのは微妙だが「良ければ順次入れようか」という話になったので、ひとまずはいいことにしておこう。

「事業部門に提案できる情報シス」を目指して

 こうして、Iさんの会社ではvProの導入をめぐる攻防に、ひとまずの決着を見た。

 導入されたら、「安心できる仕事PC」を提供することで、現場の工数を減らし、生産性をあげることができるだろう。目先、ある程度手間が増えるのはやむを得ないが、長期計画通り進められれば、2年先、3年先はかなり余裕のある体制になるだろう。

 次の段階、次の段階、と一歩ずつ進めるのはどうも面倒だが、「効率化を進める」という仕事自体は性に合っている、と思うIさん。余力ができれば、昔のように積極的に情報収集したり、勉強する時間も出てくるはず。DXやAIなど、どんどん進んでいくIT技術をテストし、事業部門に提案したり、将来の事業をイメージしてみる、というのはいかにも楽しそうだな、と思いをはせつつ、まずはvPro搭載PCの機種選定をはじめるIさんだった。