生まれ変わったWindows Live

Windows Live担当ジェネラルマネージャ ブライアン・ホール氏に聞く


 Windows Live Esseintialsのベータ版がリリースに合わせて日本を訪れていた米MicrosoftのWindows Live Business Group Online Servicesジェネラルマネージャー、ブライアン・ホール(Brian Hall)氏にインタビューを行った。ブライアン氏は、コンシューマー向けのオンラインサービスWindows Liveの開発を統括している。

多くのユーザーに確実に使ってもらえるサービスに

米Microsoft米MicrosoftのWindows Live Business Group Online Servicesジェネラルマネージャー、ブライアン ホール(Brian Hall)氏。ビル・ゲイツ氏やスティーブ・バルマー氏のプレゼンテーション作成を担当していたこともあり、技術面だけでなく、マーケットもよく知る人物だ

――2010年度版のWindows Liveですが、どのようなコンセプトを持って開発されたのですか?

ブライアン氏:Windows Liveは、ウェブ上のサービスということで、多くのユーザーに確実に使ってもらえることを考えて作りました。

 たとえば、Hotmailですが、以前のHotmailは使い勝手などが悪かったり、迷惑メールが多数来ることで、多くのユーザーはアカウントを取得しても、メールサービスとして常用してもらえませんでした。

 そこで、2010年版のHotmailでは、新しい機能を追加するよりも、ベーシックな機能をきちんと提供する事に主眼を当てました。具体的には、ほとんどの迷惑メールをカットするフィルタリング機能「SmaretScreenテクノロジー」を全面的に採用し、必要なメールだけが受信フォルダーに残るように、メールの仕分けルールを自動的に生成するようにしました。

 また、簡単に複数のメールを削除したり、別のフォルダーに移動したり、迷惑メールとしてゴミ箱に移動したりすることができるように、使い勝手も向上させました。

 2010年度版のHotmailでは、ライバルのメールサービスにやっと追いついたと思っています。今後は、多くのユーザーに常用していただくことで、さまざまな機能アップを行っていきたいと考えています。また、日本のユーザーの方には、Hotmailのメールサーバーを日本国内に置くことで、レスポンスが大幅にアップしたと思います。これも、ユーザーの使い勝手を向上するための1つの施策です。

ウェブサービスとしての融合~2010年版Windows Live

 もうひとつ、2010年度版のWindows Liveにおける重要なコンセプトは、ウェブサービスとしての融合です。

 Windows Liveには、オンラインストレージのSkyDrive、Messengerなど、様々なサービスがありますが、それぞれが独立していて、連携していませんでした。2010年度版のWindows Liveでは、それぞれのサービスを根本的に考え直して、それぞれの機能を融合させています。

 例えば、HotmailにOffice文書が添付されていたときは、Hotmailで添付ファイルをクリックすれば、自動的にOffice2010のWeb版「Office Web Apps」が起動するようになっています。これを利用すれば、ブラウザー上でOffice文書を見たり、編集したりすることができます。もちろん、編集時には、自動的に個人のSkyDriveに添付ファイルがコピーされるようになっています。

 ユーザーがWindows Live上で何か操作すれば、サーバー側のさまざまなサービスと連携して、自動的にユーザーが必要とする操作を行ってくれるようにしました。

 これまでは、添付ファイルをいったんローカルPCにダウンロードし、再編集してメールに添付するといった、複雑な手順を踏む必要がありました。今回リリースしたHotmailでは、ダウンロードやアップロードの必要なく、Windows Live上ですべて作業が完結します。

 ユーザーインタフェイスがシンプルになり、初心者ユーザーでも、複雑な手順を覚えなくても、必要な作業が行えるようになったのです。

Windows Liveは、さまざま製品をクラウドを経由して連携させている
Windows LiveとWindows Live Essentialsは、マイクロソフトのソフトウェア+サービスとコンセプトを実現したモノだWindows LiveとWindows Live Essentialsの代表的なサービスとソフトウェア

Windows Live Essentialsのコンセプト

――今回、Windows Liveと連携するWindows Live Essentials(旧Windows Liveおすすめパック)もバージョンアップされましたが、これらのソフトはどういったコンセプトで開発されたのですか?

ブライアン氏:Windows Live Essentialsは、2010年度版のWindows Liveというクラウドサービスのパワーを最大限に活用できるように開発されています。これは、マイクロソフトが提唱している「Software+Service(S+S)」というコンセプトに基づいています。

 ただ、Windows Live Essentialsは、Windows Liveだけに特化していているわけではありません。

 メールで言えば、Hotmailだけでなく、他社のウェブメールサービスと連携したり、プロバイダーのメールを受信するクライアントとしても利用できます。また、Photo Galleryは、編集した写真をSkyDriveだけでなく、他社のWebサービスに簡単にアップすることができます。

 このように、Windows Live Essentialsは、インターネット上のさまざまなサービスのクライアントとして利用できるようになっています。これは、マイクロソフトが、すべてを自社で抱え込むのではなく、オープン性をもっていることの現れだと思います。

 前バージョンのWindows Live Essentialsをリリースした後、いろいろなユーザーの意見をお聞きしました。Windows OSとWindows Liveをより密接に連携させた方が使いやすいという人がいる一方で、クラウドサービスはオープンであるべきで、専用のWindows Live Essentialsというソフトを用意するのはおかしいという正反対の意見を持つ人まで、さまざまな意見を持つユーザーがいます。

 こうしたユーザーのさまざまな意見をお聞きした上で、2010年度版のWindows Live Essentialsでは、Liveサービスがシームレスに、しかし他社サービス、とりわけSNSサービスとの連携を重視した結果、今回のような連携機能を搭載しました。

 将来的には、Windows OS自体もクラウドをより意識した製品になっていくので、Windows Live EssentialsやWindows Liveと連携する度合いがアップしていくと思います。

 その場合も、Windows Liveでは、ウェブブラウザーベースでWindows OS以外のOSを使っている多くの人たちに利用していただけるサービスは提供し続けていきます。もちろん、Windows Live Essentialsの各ソフトウェアも、Windows Live以外のサービスでも利用できるようにしていくつもりです。

 オープン性は非常に重要で、オープン性を失っては、多くのユーザーから使っていただけないサービスやソフトウェアになってしまうと考えています。

Windows Live Essentialsは、クライアントPC上で動作し、クラウドと連携して、ブラウザーベースとは異なる使いやすさを提供している2010年度版のWindows Live Essentialsも、多くのPCにプリインストールされる予定だ

Windows Live MessengerのSNS連携機能

――MessengerのSNS連携は、興味深い機能だと思います。しかし、今後こういった機能がユーザーに受け入れられるでしょうか?

 今回のWindows Live、Windows Live Essentialsで機能強化したのが、他のコミュニケーションサービスとの連携です。PCやインターネットが進化しても、多くのユーザーが行っていることは、コミュニケーションなんです。ただ、最近のコミュニケーションサービスは、新しいコミュニケーションをユーザーに提供していますが、ユーザー側からすれば新しいコミュニケーションサービスですべてが終わるわけではないんです。

 たとえば、Twitterを使っていても、メールやSNSも使っているという人たちが多いでしょう。しかし、多くのコミュニケーションサービスが連携していないため、ユーザーは新しい情報を得るために、それぞれのWebサイトを回覧したりする作業が必要でした。はっきりいって、これは面倒くさいことです。

 そこで、いつも起動されているMessegerがユーザーインタフェイスとなって、さまざまなSNSやコミュニケーションサービスの情報を表示するようにしたのです。これにより、いちいち、IDとパスワードを入れて、特定のSNSに情報を確認にいかなくても、新しく情報がアップデートされれば、Messengerに表示されます。実際に使ってみると非常に便利になりました。

 ただ、連携できるSNSやコミュニケーションサービスは、Windows Liveと相互接続されている必要があるため、すべてのサービスをカバーできるわけではありません。

 具体的には、現状ではTwitterはサポートされていませんが、できるだけ早期にサポートしたいと交渉をしています。また、日本のSNSサービスとも連携する予定にしています。このあたりは、Windows Liveが正式リリースになる、秋頃に発表できればと思っています。

 Messengerのソーシャルビューアは、ディスプレイ上で大きなエリアを必要とするため、多くのユーザーはソーシャルビューアは必要なときに、切り替えて使うようになるでしょう。Messengerをコンパクト画面にしていれば、今までのMessegerと変わらないため、今までMessengerをヘビーに使っていたユーザーにとっては変わらないでしょう。

Messengerのソーシャル機能を使えば、SNSからの情報をMessengerで一括して確認できる。共有した写真もWindows Liveアルバムで確認できる。

メインで常用できるクオリティと使いやすさを~Hotmailの進化

――今回のWindows Liveでは、Hotmailの改良に力を入れていますが、Hotmailには、あまり良い印象を持っていないユーザーもいます。

 従来のHotmailに関して、いい印象を持っていなかったユーザーが多くいることは知っています。だからこそ、そういったユーザーの方々にも満足していただけるメールサービスとして、2010年度版のHotmailでは大幅なバージョンアップを果たしました。

 以前Hotmailを使ってみて、使いにくいと感じて、Hotmailを使わなくなってしまったユーザーの方々に、ぜひもう一度2010年度版のHotmailを試していただきたいのです。

 Hotmail自体は、15年間もサービスを続けています。これは、ウェブメールサービスとしては老舗といっていいでしょう。マイクロソフトはHotmailのサービスを行うために、世界中に膨大な数のサーバーやストレージを展開しています。ある意味、覚悟を持ってサービスを提供しているのです。

 例えば、メールのディスク容量は無制限になっていますし、添付ファイルの容量も50MBと大きくなっています。

 登録して一時的に使う“捨てアドレス”ではなく、常にメインとして使っていただけるにふさわしいクオリティのメールサービスとして開発をしています。個人的には、今回のHotmailは、多くのユーザーに満足いただけるラインまできたと感じています。

日本国内にHotmailのサーバーを置くことで、回線のボトルネックを解消し、パフォーマンスを向上させている。また、日本の携帯電話に対応するため、モバイルの開発チームを日本国内に設置している新しいHotmailでは、ExcelシートをローカルPCにダウンロードして、Excelで確認・編集し、またメールに添付するといった手順を不要として、Officeドキュメントの添付ファイルもWebブラウザーの操作だけで編集・送受信できるようになった
Hotmailの競合サービス比較表。実は、Hotmailにはこれだけのアドバンテージがある

――Hotmailの問題点として、多くのアカウントが発行されているため、自分が欲しいメールアドレスが取得できないということがありますが、その点はどうお考えでしょうか。

 すでに数多くのアカウントを発行しており、ユーザーが欲しいメールアドレスが取得できないということは確かにあります。このため、日本なら、「hotmail.co.jp」や「live.jp」ドメインを用意するなど、各国ごとに独自のHotmailアカウントを用意しています。

 これでも、自分の欲しいメールアドレスがない場合は、個人でドメインを取得していただいて、そのドメインのメールサービスとしてHotmailを使っていただけるサービス「Windows Live アドミンセンター」も無償で提供しています。このサービスを使えば、メールだけでなく、Windows Liveで提供しているすべてのサービスを独自ドメインで利用することができます。

 また、すでにISPメールを持っているユーザーのために、Hotmail側にメールを転送する機能や、またはHotmail側からISPメールのPOPサーバーにアクセスしてメールを取得する機能を用意しています。これらの機能をお使いいただくうことで、ISPメールなどもHotmailで一括管理できます。どこにいても、Hotmailのクラウド上で同じようにメールの送受信と管理ができます。

 またHotmailではクラウド上でメールを管理・保存するため、携帯電話やスマートフォンからもPCと同様にアクセスできます。メールが特定のPCに保存してあって外出先では見られない、というようなこともなくなります。いつでもどこでも、PCでも携帯電話でもスマートフォンでも、同じ環境でメールを利用できます。

 もちろん、Hotmailが持つ強力なBingサーチエンジンを使って、必要なメールを検索することも可能です。

Office 2010やEssentialsとの融合で、意識せずに使えるSkyDrive

「Windows Live EssentialsのSyncをSkyDriveと融合させました。Syncを使って、PC同士でファイル共有するだけでなく、PCとSkyDriveでファイル共有することが可能になりました。容量もユーザーあたり25GBを用意しています」(ブライアン・ホール氏)

――ストレージサービスのSkyDriveは使いやすくなりましたね

 2010年度版のWidnows Liveでは、SkyDriveをクラウドサービスの基本的なストレージとして大幅に作り替えました。

 Hotmailでも、容量の大きな添付ファイルを送信する場合は、自動的にSkyDriveにアップして、URLをメールに添付するという方式を採用しています。また、Web版のOffice 2010が使用するストレージもSkyDriveがになっています(この他、フォトアルバムのストレージもSkyDrive)。

 これ以外に、Windows Live EssentialsのSyncをSkyDriveと融合させました。Syncを使って、PC同士でファイル共有するだけでなく、PCとSkyDriveでファイル共有することが可能になりました。これを使えば、PCの特定のフォルダーに保存すれば、自動的にSkyDriveにアップすることができます。

 SkyDriveは、現在25GBの容量を無料で提供しています。当面は、1ユーザー25GBで十分だと思いますが、もしこれを超える容量が欲しいというユーザーが出てくれば、有償でストレージを提供することも考えられると思います。現状では、アップロード時にファイルサイズは50MBとしていますが、これも有償サービスになれば変更されるかもしれません。

――Windows Liveは、2年をめどに大幅なバージョンアップをしてきていますが、Googleなどのライバルは頻繁に機能アップを繰り返しています。ユーザーにとっては、Windows LiveはDOGイヤーで進化していかないモノと感じられるのですが?

 実は、Windows Liveの細かな機能アップは、日々行っています。我々は、細かすぎるアップデートは、さも大きな改良というように伝えないため、アップデートが行われていないような印象があるのかもしれなせん。

 もう1つ、膨大なユーザーがWindows Liveを使っているため、新機能ができたとしても、頻繁にリリースするという事はしません。あまり頻繁に新機能をリリースすると、ユーザー自身が戸惑ってしまいます。だからこそ、キチンとテストを繰り返してから、ユーザーに新機能を届けていこうと考えています。

 このあたりが、ライバルとの考え方の差なのかもしれません。ただ、ある程度のアップデートは、3カ月毎に行っています。大幅なアップデートは、だいたい2年に1回ぐらいを目処にしています。

今後のWindows Live強化ポイントは

――将来的にどのようなサービスをWindows Liveに追加していこうと考えていますか。

 現在、写真アルバムの共有は、個人単位で行っています。しかし、写真にはいろいろなものがあると思います。例えばわたしの場合、子供の写真なら、自分で撮影した写真、おじいちゃんやおばあちゃんが撮影した写真、学校行事で先生が撮影した写真など、さまざまな人が取った写真があります。

 できれば、写真を個人のアルバム単位ではなく、撮影された人単位のモノをサポートしたいと思っています。これは、被写体の人を中心としたSNSという形になるのかもしれません。

 もう1つは、マップとの連携です。2010年版のWindows Liveでは、デジカメのジオタグ(GPS情報)を使って、撮影した写真の場所を地図上に表示できるようになりました。マップとの連携は、まだ始めたばかりなので、今後もっと新しいサービスを提供していきたいと考えています。


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(山本 雅史)

2010/8/9 06:00