イベントレポート

Interop Tokyo 2017

「マストドンを作った理由」、生みの親のオイゲン・ロッコ氏が語る、Interopの基調講演に生出演

講演の模様

 幕張メッセで開催中の「Interop Tokyo 2017」では、この春にIT界の話題を席巻した新SNS「Mastodon(マストドン)」に関する講演が設けられた。7日には、マストドンの生みの親であるオイゲン・ロッコ(Eugen Rochko)氏がSkypeのビデオ通話機能で遠隔出演。「マストドンを作った理由」と題し、開発の経緯や自身の経歴について語った。

「マストドン」のソースコードは極めて教科書的で美しい

 講演は、幕張メッセ内の講演会場と、ヨーロッパにいるロッコ氏をSkypeのビデオ通話で結び、インタビューするかたちで進行した。聞き手はさくらインターネット株式会社さくらインターネット研究所所長の鷲北賢氏と、プログラマーでもあるタレントの池澤あやか氏。司会進行は株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員の遠藤諭氏が務めた。

 マストドンは、一見してTwitter風のユーザーインターフェースを採用していながらも、「インスタンス」と呼ばれるサーバーを誰でも運用できる点が特徴。ある1つの企業が中央集権的に管理するSNSとは異なるため、「分散型SNS」とも呼ばれる。ユーザー数は約60万とされるが、そのうち約半数が日本のユーザーという。

「マストドンを作った理由」生みの親のオイゲン・ロッコ氏

 ロッコ氏は、ティーンエイジャーのころからプログラミングに親しみ、これまでに6年ほどウェブ関連の開発を手がけてきた。メインに使っているプログラミング言語はRuby。ほかにもJavaScriptなどを利用するが、PHPは最近あまり使わなくなってしまったという。

 池澤氏はマストドンのソースコードを目の当たりにした際、その読みやすさに非常に感心したという。鷲北氏の周囲でも、マストドンのソースコードは極めて教科書的で美しいとの評価が多かった。

 ロッコ氏自身も、Rubyにはコードを読みやすくするための仕組みが多数ある点が気に入っているという。

「シリコンバレーのルールを適用しなくてもいい」自由度が魅力

 マストドンをそもそも開発した理由は何だったのだろうか。ロッコ氏はTwitterのヘビーユーザーであったが、2016年5月ごろ、Twitterで人気のない機能変更が相次いで行われたことが1つのきっかけになったという(筆者注:該当月には140字制限についての仕様変更が発表されている。その直前数カ月には、字数制限が撤廃されるのではないかという噂も出ていた)。

 それまでにもロッコ氏は、SNSを連邦制にするというアイデアを友人から聞かされていた。そこで、オープンソースのミニブログサーバー「GNU social」をベースに、ゼロからマストドンの開発をスタートさせた。

 Twitterは商業目的の企業であり、運営も中央集権的なのはある意味当然。しかし、Twitterでは、運営とユーザーの間のコミュニケーションが足りなかったのもまた事実ではないかとロッコ氏は指摘する。

さくらインターネット株式会社さくらインターネット研究所所長の鷲北賢氏(左)とタレントでプログラマーの池澤あやか氏(右)
株式会社角川アスキー総合研究所取締役主席研究員の遠藤諭氏

 こうしてできあがったマストドンは、莫大な数のサーバーをいち企業が運用するTwitterとは真逆のつくりとなった。いくつかのインスタンスさえあれば、企業の事情に左右されず長期に渡って運用を続けられる。ロッコ氏は「自分自身のルールでやれる」「シリコンバレーのルールを適用しなくてもいい」と、マストドンはその自由度が魅力だと話す。

 鷲北氏は「分散型という発想自体はインターネットとしては決して新しくないものの、近年は『サービスの中央集権化』が一部の大企業を中心に進んでいる面はある。そういった事情に一石を投じたのではないか」と指摘する。

 マストドンが流行った理由については、ロッコ氏は「ユーザーインターフェースが良かったのではないか」と分析する。一方で、APIを充実させるなど、開発者の期待に応えられるような仕組み作りも意識したという。

クラウドファンディングで開発はまだまだ続く

 マストドンは現在、クラウドファンディングサービスの「Patreon」で資金を調達しながら、開発を進めている。Patreonはクリエイターやアーティストの支援を目的としたサービスで、制作者(支援を受ける側)は1カ月単位で資金を受け取ることが可能。

 ロッコ氏は、マストドンが製品としてそもそも成功するか分からないため、(導入が容易な)クラウドファンディングをまず利用した。現在のような知名度があれば、ベンチャーキャピタルから出資を受けたり、有料プラットフォーム化するという選択肢もある。ただ、ロッコ氏は、マストドンはクラウドファンディングを活用するのが好ましいとしている。

 また、開発にはさまざまな国の人々がかかわっており、ロッコ氏だけでは思いつかないアイデアなどにも助けられているという。

ロッコ氏の話を聞くため、多くの聴講客が集まった

 講演終盤では、鷲北氏がマストドンのインスタンス運用にかかわる立場から、アップデート作業が現状では非常に難しい点を挙げ、ロッコ氏へ改善を要望するシーンもあった。ロッコ氏もその状況を認識しているようで、特に直近のアップデータは複数の機能を搭載したことで重くなっていたという。

 マストドン全体の改修予定については、レポートなどの管理機能の充実に加え、プロトコルの追加などを検討。開発ロードマップについても今後は公開していく。

 また、W3Cでソーシャル関連のワーキングループが立ち上がっていることに触れ、オープンな規格のいち早い採用にも積極的な姿勢を見せた。