イベントレポート
「ワーケーション・スタートアップ!」フォーラム
北鎌倉の建長寺でテレワークを行う「寺ワーク」など、各地の自治体で“ワーケーション”誘致の取り組み
2019年7月25日 12:00
リゾート地で余暇を楽しんだり地域活動を行ったりしながら、テレワークを活用して仕事も行う働き方のスタイル“ワーケーション”の推進を目的とした「ワーケーション・スタートアップ!」フォーラムが7月18日に開催された。長野県および和歌山県がワーケーションの普及を目的とした組織「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」の設立を提案し、全国の自治体に参加を呼び掛けるとともに、協力自治体によるワーケーションの取り組みについての講演も行われた。その中から長野県、和歌山県、そして神奈川県鎌倉市の3自治体の事例を紹介する。
「信州リゾートテレワーク」推進、7市町村でテレワーク拠点を整備~長野県
長野県では、休暇を楽しむビジネスパーソンに旅先での気軽ワークスペースを提供する「信州リゾートテレワーク」を推進している。
長野県は、東京や名古屋から2時間前後で圏内に到着可能な身近なリゾート地であり、ロングステイ地域としても高い人気を誇る。豊かな自然や暮らしやすさも魅力で、スキーや温泉など多彩なアクティビティを楽しめる。また、日本酒の酒蔵数やワイナリーの数でも全国トップクラスとなっている。長野県では、このような地域の魅力を生かしてワーケーションを推進していきたいと考えている。
具体的には、県内にある30以上のコワーキング施設を紹介するとともに、拠点整備事業として、白馬村の「白馬ノルウェービレッジ」、信濃町の「ノマドワークセンター」、茅野市の「ワークラボ八ヶ岳」、軽井沢町の「ハナレ軽井沢」など、7市町村をモデル地域としてテレワーク環境を整備している。2018年度は4地域だった施設は、2019年度は7地域へと拡大しており、同県は引き続きこの取り組みを推進する。
Wi-Fiスポット密度が全国2位・1500カ所、ビーチでも仕事ができる環境~和歌山県
和歌山県は熊野古道や高野山、アドベンチャーワールドなどトップレベルの観光資源を持つとともに、Wi-Fiスポットの密度も沖縄に次いで2位と高く、県内のWi-Fiスポット数は1500カ所に上る。さらに白浜町では、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)による、災害時でも途切れない地域分散ネットワーク「NerveNet」を整備している。
ワーケーションに最適な施設としては、無料Wi-Fiや電源、座席、カフェ、レストラン、売店、貸し会議室などを備えた和歌山県立情報交流センター「Big・U」(田辺市)や、廃校舎を再利用した「秋津野ガルテン」(田辺市)などを備えている。
秋津野ガルテンは、宿泊場所や会議室を備えており、来年度はシェアオフィススペースもオープンする予定。さらに、白根浜では屋外でも接続可能な無料Wi-Fiが提供されており、ビーチでも仕事できる環境が整っている。
和歌山県ではこのほか、NECソリューションイノベータが、総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」に採択されたことをきっかけに、2016年に白浜町にサテライトオフィス「白浜センター」を開設。テレワークや地域との共創活動、社内外の分科会や社員研修、実証実験などを行っている。
また、三菱地所も、白浜町に、テナント向けの「WORK×ation Site(ワーケーションサイト) 南紀白浜」を開設。使いたい日数だけ一時的に使える施設で、プロジェクターやホワイトボード、文具、給茶などの備品が用意された約60平米のスペース(最大16名まで利用可能)を1日10万円で利用できる。プロジェクトの立ち上げのための合宿や開発合宿、サテライトオフィス、研修、リクルーティングなどさまざまな用途に利用されている。
和歌山県ではNECやNTT、日本マイクロソフト、JALなどによるさまざまなICTの実証実験が行われているほか、地域の起業家を育成するためのイベント「たなべ未来創造塾」なども実施されており、新たな地域ビジネスの創出を支援している。和歌山県は、ワーケーションをオープンイノベーションプラットフォームであると捉えており、2019年もアウトドアでの親子ワーケーションや、都会と地域の企業同士との協業など、さまざまな取り組みを進めていく予定だ。
「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」発足、旧村上邸を改装したワークスペースも~鎌倉市
鎌倉市は知名度が高くアクセスの良い観光地であり、豊かな自然があるという特性を生かしたテレワークの実現に向けて、「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」(事務局:鎌倉市市民生活部商工課)を発足した。同研究会は、テレワークに関する周知啓発や情報発信などを行うもので、市と民間企業、個人が一体となって2018年11月にスタートした。東京都内へ通勤するという仕事に縛られたライフスタイルを転換し、地域に関わりながら豊かに生活する新たなライフスタイルの創造を目指している。
発足後は、鎌倉に滞在しながらテレワークを行うイベントや、テレワークを題材にした講演会などの協力を行うとともに、市役所の職員にもテレワークを行う環境を提供してきた。今年も8月23日に建長寺にて「寺ワークin鎌倉」というイベントを開催し、テレワークや講演、ワークショップを実施する。
また、民家を改装した新たなワークスペースとして、2016年に市が寄付を受けた和風邸宅(旧村上邸)の保存活用事業が「自治体SDGsモデル事業」に選定され、現在は企業の研修所としても使用できる。同施設は、鶴岡八幡宮の裏手に位置しており、能舞台や茶室、日本庭園を兼ね備えた景観重要建築物に指定されている。
このほか、鎌倉市では、シェアオフィスや情報通信業のオフィスを設置する際のリフォーム費用や賃料について助成も行う「鎌倉ビジネスサポートプラン」も実施している。