イベントレポート

Code for Japan Summit 2019 in 千葉

元ヤフー社長の宮坂学氏がその思いを語る――いまなぜ、行政に転職したのか?

副知事となって都庁をクエスト中、目指すは“データ利活用都市”東京

東京都副知事の宮坂学氏

 今年9月から東京都副知事に就任した宮坂学氏。元ヤフー代表取締役社長(のちに取締役会長)の同氏がなぜ、行政の世界に飛び込むことを決めたのか? 副知事として、東京をどう変えていくつもりなのか? 9月末に開催されたイベント「Code for Japan Summit 2019 in 千葉」において、「わたしがいま公共部門の仕事をしようと思った理由」と題して語られたセッションの模様をお伝えする。

 Code for Japan Summitは、テクノロジーの活用により市民の力で社会課題を解決する取り組み“シビックテック”をテーマとした日本最大級のカンファレンスだ。6回目となる今年は、神田外語大学(千葉市美浜区)で開催。国内外でシビックテックに取り組む人々が集結し、さまざまなプレゼンテーションやパネルディスカッション、ワークショップが行われた。

 宮坂氏のセッションでは、Code for Japan代表の関治之氏との対談も実施。「都の行政から印鑑は無くせるか?」「宮坂氏の夢は何か?」など、会場から寄せられた質問にも宮坂氏が回答した。

就任のきっかけは、知事らの前で行ったプレゼン。都市における“データ”利活用の重要性を指摘

 初めに宮坂氏が、東京都副知事に就任した経緯と理由について説明した。宮坂氏は2018年にソフトバンクグループの新会社としてZコーポレーションを設立し、新事業の開拓に取り組む中で、全国各地の自治体との交流を深めていった。その過程で、東京都の研修会において、知事を含めた幹部の前で「東京都の今後について自由に話してほしい」と要請される。今回のセッションでは、副知事に就任するきっかけとなったこのときのプレゼンテーション資料を「東京のデジタルトランスフォーメンション」と題してダイジェストで紹介した。

 宮坂氏はまず、平成に起きたことを振り返り、スマートフォンの普及に注目した。「2010年ごろに社会が急速に変わり、手のひらサイズの端末で全ての人がインターネットがつながってしまった。これが平成に起きたことの中では一番大きなことだったと思います。全ての人がインターネットにつながることに“乗れた”企業や国、地域が伸びましたし、“乗り損ねた”ところはあまり伸びなかった。そして、これからの令和の時代の鍵となるのは“データ”です。データをどれだけ上手に使うかがますます重要になっていくと思います」。

 現在、教育とデータを組み合わせて“edutech”、金融とデータを組み合わせて“fintech”、行政とデータを組み合わせて“gov tech”など、既存の産業やビジネスにデータを組み合わせて再定義される動きが高まっており、既存のビジネスにデータを加えて学習しながら、活用していく取り組みが始まっている。

 一方で、“都市”というのは膨大なデータを生み出していながらも、現状ではデータをうまく使えていないため、都市におけるデータの利活用をもっと推進する必要がある。昭和と平成において、東京はモノ作りのために進化していったが、これに加えて、令和以降はデータを集めて使いやすい街に変わっていくべきである。21世紀は都市間競争の時代であると言われており、東京も、上海やニューヨーク、シンガポールなど外の都市に目を向け、それらに勝たなければならない時代を迎えている。世界の主要都市のどこが最初にデータを利活用する街になるのか、そのような競争がすでにスタートしている。

「Data ready TOKYO」へ向けて必要な2つのステップとは?東京にデータハイウェイを建設、職員にITスペシャリスト採用も

 そしてデータを利活用するために、まずは「Data ready TOKYO」を目指して準備を整える必要がある。それには「つながる街」と「デジタル人材の街」という2つのステップが必要だという。

データの利活用を推進するための2つのステップ

 「つながる街」については5Gネットワークを早期に構築し、5G、Wi-Fiなどのモバイルインターネットがどこでもつながる街にすることを目指す。20世紀の基幹インフラが自動車や新幹線、地下鉄など目に見えるハードの道であったのに対して、21世紀の基幹インフラは電波の道であり、すぐにでも「TOKYO Data Highway」の建設に着手しなければならない。5Gネットワークだけでなく、Wi-Fi利用の環境整備や、災害時のインターネット接続なども課題であり、いつでも、どこでも、誰もがつながる都市を目指すべきである。

 もう1つの「デジタル人材の街」については、新しいイノベーションが起こった際に、規制などを行うのではなく、あくまでも技術で解決する精神を貫くことが大切である。特に東京都の職員は「ICTは本質的にわれわれを豊かにしてくれるテクノロジーである」と考える人材を増やす必要がある。都庁のIT部門の職員は、現状では世界のメガシティと比較すると絶対数・割合がいずれも少なく、まずはITテクノロジストの人材を集める必要がある。このような意見が反映され、東京都ではITスペシャリストの採用を推進する方針だという。

 「『ビジョナリー・カンパニー』という本には、『バスの目的地をどこにするかを決める前に、バスに誰を乗せるかを決めなさい』という有名な言葉があります。東京都くらいになるとバスでは小さく、“船”と言うべきで、まずは船に大勢の人を乗せてから、その上で活発な議論をしていく必要があります。この船の乗せ方についてもいろいろと考える必要があり、今までは都の職員だけが乗っていましたが、これからはそれに加えて、外部のITの専門家を柔軟な雇用制度で採用できるようにするとか、スタートアップや社会起業家、そして今日ここに来ているようなシビックテックに取り組んでいる方も一緒に参加できるようにしたいと考えています。多様な専門能力を持った方が集まれば、物事はどんどん進んでいくのではないかと思います。」

テクノロジーで環境と経済を両立、21世紀の都市のプロトタイプに

 宮坂氏は最後に、これまでソフトバンクグループで働いてきた中で、テクノロジーの進化によって世の中がどんどん便利になってきたことを振り返った。

 「自分がヤフーに入社したころは、インターネットはものすごく遅かったし、モバイルインターネットもありませんでした。それがいまではLTEでモバイル環境から動画を見ることができて、さらにこれからは5Gでもっと快適になる時代が来る。ただし、スペックとしては圧倒的に便利になったのに、その分だけ幸せになったかと言われると自信がありません。もし、テクノロジーの進化イコール幸せであれば、とてもハッピーになっているはずですが、そこについては“横ばい”であると考えていて、これも私が行政の仕事をやってみようと思った理由の1つでもあります。」

 ほかにも、気候変動や都市人口の増加など、東京都にはさまざまな課題があり、これからは都市をどのように変えていくかが重要になる。こうした中で、データの利活用を進めることで、より便利に、もっと生活に選択肢を増やして、経済的にもしっかり稼ぐことが大切であると宮坂氏は語った。

 さらに、現知事が2050年に東京のCO2排出を実質ゼロにすることを目指す「ゼロエミッションTOKYO」を宣言したことに感銘を受けたことにも触れて、「いろいろな自治体の方とお会いしたことがありますが、環境問題と経済やデジタルの課題をセットで取り組もうとしている方はなかなかいらっしゃらないので、それならば私もお手伝いできるのではないかと思いました」と宮坂氏は語った。

 「これまでのように、テクノロジーを次々に社会に実装していくことは必要ですが、それに加えて、持続的な環境など、お金に数えられないようなことも含めて取り組んでいく必要があり、それが両方できた街が21世紀の都市のプロトタイプになると考えています。東京は世界一大きな都市圏であり、そこでテクノロジーを使って環境と経済を両方できるような街が作れれば、やりがいのある挑戦だと思って、この仕事に取り組むことにしました。私はこれから、ぜひとも東京都の職員の中に、テクノロジーを信じて、それを使いこなせる仲間を増やしたい。そうやってテクノロジーを使って街を変えていきたいと思い、行政に転職することにしました。私はシビックテックコミュニティの中では一番の新参者でありますが、行政サイドの仲間として、一緒に汗をかきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。」

経済と環境をテクノロジーで両立

都庁での仕事はドラゴンクエスト!?都庁職員には、もっといいネット環境を

 講演に続いて、宮坂氏と関氏による対談も行われた。以下、その中から主なやりとりをお送りする。

参加者から寄せられた質問に回答

関氏:
 実際に都庁で働き始めて、いま、率直にどのように感じていますか?

宮坂氏:
 ドラゴンクエストですね(笑)。なにもかも初めてで、とにかく新鮮で面白いです。いままで会ったことのない人にも多く会えますし、つくづく社会は広いなあと思います。

関氏:
 僕も神戸市などをはじめ、いろいろな自治体の方とお会いしますが、言葉の使い方などが(民間企業とは)本当に違いますね。そんな中で、宮坂さんの言うビジョンに対してポカンとする人も中にはいると思いますが、そういう人とはどのようにコミュニケーションをしていますか?

宮坂氏:
 これまではいつも、最初の2%くらいの人に理解してもらうのが一番苦労してきましたが、都庁の職員の方にはとても前向きに話を聞いていただけますし、いまは本当に朝から晩まで仕事をしているのですが、非常にサポーティブ(協力的)に取り組んでいただけています。

関氏:
 ここからは会場の皆さんから寄せられた質問をしてみたいと思います。初めの質問は、「東京都の行政から印鑑は無くせますか?」。

宮坂氏:
 結論から行けば、できると思います。しばらく時間はかかるとは思いますが。いま、中に入っていて思うのが、行政で働いていらっしゃる方のIT環境があまり良くないんですよ。そういう環境で仕事していると、なかなかペーパーレスや印鑑レスといった発想にはならない。まずはサクサク使えるインターネット環境を整えて、パッと検索して情報収集したり、スマートフォンでビデオ会議したりすることができるように、“足回り”を作らないといけません。いまのままで最先端のアウトプットを求めるのは無理だと思います。

関氏:
 まずはきちんとした働く環境の整備から、ということですね。

宮坂氏:
 やはり道具は最先端のものを使うべきだと思います。もちろんコストはかかるし、無駄遣いはよくありませんが、ものすごく古い機材を使っていると、そもそも良い人材が入ってこない。そこは僕が入って、良い環境を整えたい。これは職員だけでなく議員さんについても同じで、議員さんにもやはりもっといいインターネット環境で仕事できるようにしてあげたほうが絶対にいい。せめて民間企業の人と同じレベルで使えるようにしたいと思います。

関氏:
 次は、「データを集めるのにも費用がかかります。データを集めるためのインセンティブをどの財源から出せばいいか、ご意見をお聞かせください」という質問です。

宮坂氏:
 いまは集めることよりも、持っているものを出すのが先かもしれませんね。東京都が保有するデータを、コンピューターが読めるかたちで出すのが重要で、それだけで十分にいろいろなことができると思います。行政の情報は(機械判読が難しい)PDFの形式で出すことが多いですが、それは職員の方が日頃からインターネットを使い倒せる状態になっていないからです。インターネットの膨大な情報を日頃から使うようになれば、自分たちのデータの出し方がおかしいのではないか、と分かってくるのではないかと思います。

チャレンジしている行政職員が褒められて、脚光を浴びるような場が必要

関氏:
 「行政職員の評価軸についてアイデアをお持ちでしょうか? いまはチャレンジすることを支援できていない気がします」という質問が来ています。これはどこの自治体にもある問題ですね。やればやるほど仕事が増えて、でも給料は上がらない。それに対してどうモチベーションを作ればいいのでしょうか?

宮坂氏:
 とにかくチャレンジしやすくしてあげたいですよね。

関氏:
 これについては、給与に手を着けるとなるといろいろと難しいですが、例えばやりたい仕事ができるとか、きちんと自分で考えてキャリアパスを設計できるようにすることは大事だと思います。まずは手始めに、東京都でIT系の専門職という役職を決めたというのは、かなり大きな意思決定だし、それでやりやすいことが増える人もけっこういるのではないかと思います。

宮坂氏:
 それと、もう少し行政の方が脚光を浴びるような場を作ってあげたいと思いますね。行政系のシステムで話題になるのって、なにかダウンしたとか、そういうときばかりじゃないですか。なにか新しいことを始めたときは、ほとんど話題にもならないですよね。いろんな自治体の人に話を聞いて、新しいチャレンジをされている人もいるんですけど、そういう人がもっと話題になるといいと思います。

関氏:
 Code for Japan Summitのメディアスポンサーでもあるホルグという会社が、「Heroes of Local Government」というメディアをやっていて、「この公務員はすごい」というのを紹介しているんですね。やはり良いことをしたら、「いいね」って言ってあげるのが大事だと思います。そういうメディアが出てきたというのも、時代の変化があるんじゃないかと思います。文句言う人は多いですけど、褒める人は本当に少なすぎるので、それが皆さんが冒険できるようにするためのポイントではないかと思います。

宮坂氏:
 昔、ヤフオク!を担当していたことがあって、ヤフオク!には非常に多くのお店や個人事業主がいて、みなさんすごく工夫しながら商売しているんですよ。そこで、小さなカテゴリごとに賞を作って年に1回、表彰式を行ったら、僕も驚くくらい、皆さんにとても喜んでもらえたんですね。「なんでそんなに喜んでくださるんですか?」と聞いたら、やはり社長って、普段はあまり褒めてもらえないからなんですよ。人間ってやはり自分が一所懸命にやって、それに対して給料が上がるのもうれしいけど、きちんと見てあげるとか、「すごく面白いね」って声をかけてもらえると、「もう少し頑張ろう」と思うので、声をかけ合うのはとても大事だと思いますね。

Code for Japan代表の関治之氏

関氏:
 職員表彰制度みたいなものがあったら、そういうのも活用して、ぜひ職員のモチベーションを上げていただきたいと思います。さて次の質問は、「行政職員で全てを賄うのは不可能だと思います。そういった中で、シビックテックに求めるものは何ですか?」という質問をいただきました。

宮坂氏:
 都の職員の情報系の人については、外部の人と話す機会が少ないな、という印象を受けるので、「もっと日焼けしろ」と言ってます。とにかく直接会いましょう、と。シビックテックに限らず、スタートアップとか、いろいろなイベントに顔を出すとか、そういう知的好奇心とフットワークをもっと持ったほうがいいと思います。職員は職員としてのプロフェッショナルですが、一方で、外側には外側のプロフェッショナルがいるので、シビックテックやスタートアップ、社会起業家の方たちとどんどんコミュニケーションを取ってほしいと思います。具体的にどうするかは分かりませんが、そういう場も作りたいと考えています。

関氏:
 (周りを見渡して)ちなみにこの中に都の職員の方はいらっしゃいますか? ……あ、いました! 良かったです(笑)。こういう方がもっともっと増えていくといいですね。

宮坂氏:
 人の数も多いですからね。「どのイベントに行っても都の職員がいる」というようになればいいですね。

関氏:
 逆に言うと、われわれもそういう方が参加したくなるようなイベントやワークショップをどんどん企画していきたいと思います。

IT企業からの転職は、給料の安さがネック?フルタイムにこだわらず、副業などによる受け皿を作りたい

関氏:
 次は給料の話題について。Code for Americaで優秀な人材を政府に送り込むと、シリコンバレーで働いていた人が行政職員になるわけで、給料が3分の1くらいになってしまう。でも、1~2年働いて、そこで得た経験をもとに起業するという道があるので、行政の仕事を新しいチャンスとして捉えているんですね。行政で働くと「あそこの職員に選ばれたのはすごい」というような、誰もが憧れるキャリアパスになれば素敵だと思います。

宮坂氏:
 「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略」という本が人気ですが、例えば60年間働くとすると、民間企業で半分、行政で半分とか、民間と行政とNPOで3分の1ずつとか、せっかく寿命が延びるんだから、いろいろな仕事をするのもいいと思うんですよ。伸びた寿命の数年をNPOとか行政で力を発揮するのって、すごく面白いと思います。

関氏:
 フルタイムじゃなくて、週3日でもいいとか、柔軟にするのもいいですね。

宮坂氏:
 もう少し柔軟に民間の人を活用できるように、「週3日でもいいけど、きちんと意思決定できるオプションを付けます」とか、そういう制度ができればすごくいいと思います。今は副業ができる人がすごく増えていますが、もう少し違ったかたちで柔軟に働けるようにすれば、雇用の流動化につながるのではないかと思います。

宮坂学氏

関氏:
 「副知事になって、民間企業やベンチャー企業に対してどんなことを期待しますか?」という質問が来ています。

宮坂氏:
 一番期待するのは人ですね。人を増やしたいと思っているので、そのタイミングが来たら、ぜひ民間企業から転職していただけるとうれしいですね。出向で3年だけやっていただくとか、柔軟なことをやってみたいので。

関氏:
 Code for Japanでは「地域フィールドラボ」という仕組みがあります。民間企業から行政に3カ月くらい、週1日で働きに行くという制度です。すでに実際に活用していただいて、一定期間、その人が行政の名刺を持って名札を付けて働くことで人材が流動するのは、すごく価値があることだと思います。

宮坂氏:
 なにも転職市場で流動性を高める必要もないと思うんですよね。副業というかたちや、週1勤務といった違ったかたちでもいいと思います。やはりITは給料が高いですから、フルタイムは求めないで、それでも自分が住む街のために少し時間を使ってみたいという人がいらっしゃれば、その力をきちんと受け止められるように、受け皿を作りたいと思います。

宮坂氏が1つだけ、都政に絶対に残したいものは“船”都庁のエンジニア文化を生かし、強力なデジタル部隊に

関氏:
 最後の質問です。宮坂さんの夢はなんですか?

宮坂氏:
 縁があって東京都のデジタル化に携われることになって、本当に幸せだと思っているんですよ。多分、この世の中には僕よりもスキルの高い人がたくさんいると思うんです。ただ、縁あって僕のところに来た以上は全力でやろうと思っているので、デジタルの力で民の人が幸せになれる、そんな夢を描いています。

 もう1つ具体的なことを言うと、自分が1つだけ絶対残すべきものはなにかと考えたときに、それは先ほど言った“船”だと思うんですよ。強力なデジタル部隊を作る。これができれば、仮に僕が能力不足で失敗したとしても、船に人が残っていればリカバリーできますよね。ベンチャー企業も同じだと思うのですが、まずは人と組織を作る。都庁には水道や道路などの技術者の集団があり、エンジニアの文化があるんですよ。これからは、東京都の行政の中にデジタルテクノロジーの集団を作り、カルチャーを作っていくわけで、それをきちんと残すのが一番大事だと思います。

対談の模様を記録したグラフィックレコーディング