イベントレポート
IIJ Technical WEEK 2020
IIJが語る「データセンターはコロナで何が変わったか?」ALSOKのロボットも導入……
2020年12月25日 06:55
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)は、ITエンジニアを対象とした年次の技術イベント「IIJ Technical WEEK 2020」を開催した。会期は12月14日から17日の計4日間で、今回はオンライン開催となった。
4日間それぞれにテーマが設定され、DAY1は「セキュリティ」、DAY2は「インターネット・バックボーン」、DAY3が「アプリケーション」、DAY4が「データセンター」となっている。
本稿では、DAY4(17日)のデータセンターのセッションの模様をレポートする。2019年にオープンした白井データセンターキャンパスから2人が登場した。なお、セッション内容は後日、動画でも公開されている。記事の最後に紹介しているので、詳しく見たい方はそちらも見てほしい。
白井データセンターキャンパスの自動化への取り組み
白井データセンターキャンパスのセンター長の橋本明大氏による「コロナ禍での白井データセンターキャンパスの運用施策」では、白井データセンターキャンパスについて、その運用自動化への取り組みを中心に紹介した。
白井データキャンパスは、2019年5月にサービスを開始した。用途は、IIJのITサービスやハウジングサービスの拠点であり、IIJ-DC技術のR&D拠点でもある。
白井データキャンパスを橋本氏は「IIJのこれまでのデータセンター技術を結集し新技術を積極的に導入するシステムモジュール型データセンター」と表現する。システムモジュールを採用した建築や、外気冷却空調とAIを利用した制御による空調、リチウム電池を活用した電源、ロボット利用による運用自動化・省人化が特徴で、PUE(全電力消費をIT電力で割った値)は設計値で1.2台だという。
敷地は約40,000㎡で最大受電容量は50MW。サーバー棟は現在1棟でキャパシティは1,000ラック弱だが、必要なタイミングで増設していき最終的な設備収容は6,000ラックだという。
データセンターの業務は、24時間365日常駐して高品質を保ち、定期巡回なども欠かせない。一方世の中は、労働人口減少などの要因により、人材確保難から運用品質低下、そして運用コスト増という負のサイクルの方向にある。
「これを避けるために、古いデータセンター運用からの脱却が必須と考え、自動化に取り組んでいる」と橋本氏。そうした一連の取り組みの中から氏は、「フィジカルロボット」「松江データセンターパークとの相互監視」の2つを取り上げた。
ALSOKのロボットを導入、案内や施錠確認で活用中
まずはフィジカルロボット。ALSOKのロボット「REBORG-Z」を導入して、2019年度から実証実験をしている。
2019年度には新規入場者をサーバ室へ案内するアテンド業務と、屋内外の巡回のうち扉施錠確認で実験。2020年度現在はそれに加え、屋内外の巡回業務のうち不審物検知とAV機器コントロール、そして搬入作業確認の作業立会いも実験している。また、sXGP(プライベートLTE)による走行エリア拡大も実験している。
2019年度の実証実験の結果としては、屋内巡回が成功率95%に到着、屋外巡回が成功率94%に到達し、1日複数回の巡回でカバー出来ると判断したという。一方、アテンド業務では、まだ課題が多いという結果だが、案内方法の工夫で改善可能と判断しているという。
ここで橋本氏は白井データセンターキャンパスの開所当時の運用業務の内訳を示した。そして、2020年12月現在では、フィジカルロボットで約1%、ソフトロボット(RPA/RBA)で約7%の業務を削減したと報告し、初年度としては想定通りと報告した。
そのうえで氏は、2021年度中には開所当初の約50%の自動化を目指すという目標を掲げ、「それにより、安定したDC運用体制を実現し、そのリソースを2期棟の設計構築業務とDC技術の新規開発業務に転換することを考えている」と語った。
コロナ禍でのデータセンター運用はどうだったのか?
ここで話題は変わって、コロナ禍におけるデータセンター運用の取り組みが紹介された。
白井データセンターキャンパス開所1年目でコロナ禍がやってきた。それにより、データセンターでは現場でないとできない業務があり、消毒をどうするか、マスクや消毒液をどう確保するか、計画していた増設工事は止めるべきかなど考えなくてはならない課題に直面した。
そうしたデータセンターの事業継続の一環として、IIJの松江データセンターパークとの相互監視を強化したことを橋本氏は説明した。
具体的には、データセンターのエンジニアリソースの共有を推進した。監視端末を双方の拠点に設置し、エンジニアやオペレータの技術運用業務を共有することで、監視業務を相互補完した。
たとえば、従来はエンジニアを送りこんでいた保守点検や切り替え作業も、オンラインで両データセンターをつないで相互監視により実施した。「遠隔でできたというのは、自動化推進にとってよい結果だった」と橋本氏は報告する。
最後に、今回の2つのポイントについて、今後の取り組みを橋本氏は語った。まず、ロボット(フィジカル・ソフトの双方)の領域を拡張することや、受付業務の完全自動化をについては取り組み中。相互監視からさらに相互運用に進めていく。さらに、データセンターのオンライン見学会の発展として、バーチャルツアーや、顧客の全ての物理作業をデータセンターで巻き取る可能性についても橋本氏は触れ、「今後もデータセンターの在り方を進化させていきます」と締め括った。
機械学習制御の蓄電池で電力需要をピークカット/ピークオフ
IIJ 基盤エンジニアリング本部 データセンター技術部 技術課の加藤佳則氏は、「データセンターのエネルギーコントロールの仕組み」として、白井データセンターキャンパスの電力についての取り組みを解説した。
白井データセンターキャンパスの空調は、松江データセンターパークで培った外気冷却空調を採用してPUEを下げている。しかし、夏場は通常の冷却が必要なため、電力がいる。そこで、蓄電池によりピークカットを行い、夏場の電力ピーク削減を試みているというのが新しい取り組みだ。
このためにテスラ社製の産業用リチウムイオン蓄電池Powerpackを採用した。データセンターの空調電力の約15%の削減を目指す。
ここで加藤氏は、改めてデータセンターの電力負荷について説明した。データセンターが使う電力のうち、IT電力はほぼ一定で、照明等の電力も大きな変動はないが、空調電力は1日や季節で変動する。その変動する空調電力について、ピークカット(山をカットして平準化する)やピークシフト(夜間の割安な電力を充電して昼に利用する)するというのが目的だ。
検証としては、Powerpackの2つの制御モードについて機能と性能を確認した。1つめは「SITEモード」で、負荷電力が設定値を下回れば充電し、上回れば放電するというモードだ。2つめは「OPTICASTERモード」で、機械学習により充放電タイミングを自動的に判断し制御するというものだ。検証・評価スケジュールとしては、最初にSITEモードを検証し、その後でOPTICASTERモードを電気料金メニューを切り換えながら検証して、OPTICASTERモードの運用に入った。
検証した結果を加藤氏はグラフで示した。日中に電力需要のピークが起きているのに対し、蓄電池によってピークカットされていることがわかる。
また、電気料金メニューの季節別時間帯別電力量料金の単価差を考慮して、充放電が制御されていることもわかる。
これにより、夏場にピークカット効果が高く、月ごとの受電量は8月に10.8%削減された。空調負荷の割合から考えると、単純計算で空調電力の約27%分に相当する数字で、今後、フル実装することで目標である15%を達成できる見込みだとする。
加藤氏はこうした結果をまとめ、蓄電池でピークカット効果があることが確認できたと報告。今後は、蓄電池の利用を進化させ、蓄電池の特性とノウハウを活用して新たなサービスやビジネスモデルを計画していきたいと語った。
IIJ Technical WEEK 2020レポート記事
(協力:株式会社インターネットイニシアティブ)