イベントレポート

海のアバターの社会実装を進める会

「水中ドローン」を社会で使うために海でデモ、スラスターの動作や、レーザー給電、高難度ミッションへの挑戦も

「第3回 海のアバターの社会実装を進める会」2日目レポート

福島ロボットテストフィールドの構内案内図
2日目のメイン会場となった福島ロボットテストフィールド 屋内水槽試験棟

 2021年12月10日~11日、水中ドローンや水中ロボットに関するイベント「第3回 海のアバターの社会実装を進める会」が開催された。

 12月10日にはシンポジウムが、12月11日には水中ロボット操縦体験・デモンストレーションが行われた。シンポジウムは、福島ロボットテストフィールド(以下、福島RTF)のカンファレンスホール、操縦体験やデモンストレーションは、福島RTF 屋内水槽試験棟および福島の請戸漁港、長崎の島原港で開催され、それぞれオンラインでもリアルタイム配信が行われた。

 初日のシンポジウムの様子はすでにレポート済みなので、ここでは2日目の水中ロボット操縦体験・デモンストレーションの様子をレポートする。

会場の1つとなった「屋内水槽試験棟」大水槽と小水槽の2つの水槽がある

 2日目のメイン会場となったのが、福島RTF 屋内水槽試験棟である。屋内水槽試験棟には、30m×12m×水深7mで、水流発生装置やクレーンなどを備えた大水槽と5m×3m×水深1.7mで側面が見える小水槽の2つの水槽がある。棟内では安全のため、ヘルメットの装着が義務づけられており、大水槽の近くに行くときはライフジャケットの装着も必要である。

 前述したように今回のイベントは、オンラインでのリアルタイム配信も行われていたほか、会場内では同日に神戸で開催されていた「TECHNO-OCEAN 2021 水中ロボット競技会」の様子も投影されていた。

大水槽は30m×12m×水深7mで、水流発生装置なども設置されている
水槽の周りに、ブースが用意されていた
会場マップ。小水槽ではタカワ精密の水中ロボットのデモが行われていた
開会式の様子。このようにZoomでリアルタイム配信が行われていた
同日に神戸で開催されていた「TECHNO-OCEAN 2021 水中ロボット競技会」の様子が中継されていた
クリスマス近くの開催ということで、クリスマスツリーが飾られていた

 開会式が行われたあと、各社が水中ドローンや水中ロボットの展示やデモなどを開始した。

 会場にブースを出展していたのは、株式会社スペースワン、コスモス商事株式会社、広和株式会社、株式会社タカワ精密の4社と、東京工業大学未来研である。

5基のスラスターを備えた水中ドローン「GLADIUS mini S」を展示【株式会社スペースワン】

 株式会社スペースワンは、大手水中ドローンメーカーChasing社の正規パートナーであり、Chasing製の水中ドローンを多数展示していた。

 「GLADIUS mini S」は5基のスラスターを備えた比較的コンパクトな水中ドローンであり、水深100mまで潜ることができ、オプションとしてロボットアームやスポーツカメラなどを取り付け可能だ。

 上位機の「CHASING M2 PRO」はスラスターを8基搭載し、重量5.7kgで、最大深さ150mまで潜ることができる。販売価格は54万8,800円である。また、「CHASING M2」は同じく8基のスラスターを搭載し、重量4.5kgで、最大深さ100mまで潜ることが可能。販売価格は32万8000円である。

株式会社スペースワンのブース。同社はChasing社の正規パートナーであり、Chasing製の水中ドローンが多数展示されていた
Chasing社の水中ドローン「GLADIUS mini S」。ロボットアームやスポーツカメラなどを取り付け可能
Chasing社の水中ドローン「GLADIUS mini S」のコントローラー。上部にスマートフォンやタブレットを装着すると水中映像を確認できる
Chasing社の水中ドローン「CHASING M2 PRO」。重量は5.7kgで、最大深さ150mまで潜ることができる。販売価格は54万8,800円
Chasing社の水中ドローン「CHASING M2」。重量は4.5kgで、最大深さ100mまで潜ることができる。販売価格は32万8000円。上部に装着されているのはオプションのAC電源モジュールで、ACから連続給電が可能
200mテザーケーブルを手動で巻き取ることができる手動リール。均等に巻き取ることが可能だ

最大深度1000mモデルもある水中ロボット「Boxfish ROV」、4K動画の撮影もOK【コスモス商事株式会社】

 コスモス商事株式会社のブースでは、Boxfish Research製の水中ロボット「Boxfish ROV」の展示とデモを行っていた。

 Boxfish ROVは、4K動画の撮影が可能で、8つのスラスターを搭載した高性能機である。最大深度は300m/600m/1000mの3モデルが用意されている。

コスモス商事のブース
コスモス商事は、Boxfish Research製の水中ロボット「Boxfish ROV」のデモを行っていた
「Boxfish ROV」のコントローラー
「Boxfish ROV」を水中に投入したところ

「水中の無線給電」はレーザー光で!【東京工業大学】

 東京工業大学未来研が行っていた水中での無線給電のデモも興味深かった。

 無線給電というとQiのような電磁誘導を利用したものを思い浮かべる人が多いだろうが、水中では電波はほぼ届かない。そこで未来研では、水中でも透過しやすい波長のレーザー光を使って、光エネルギーで給電するアイデアを考案した。機器に搭載されたソーラーパネルでレーザー光を受けることで、電力に変換するという仕組みだ。

 会場では実際にレーザーや懐中電灯を利用して、光で給電を行うデモが行われていた。変換効率も今後は20%程度まで向上したいとのことだ。

東京工業大学未来研は、海中や水中における光無線給電に関するデモを行っていた
光無線給電のデモ装置。左のレーザーから出た青い光を特殊なレンズを通して一定の幅に広げ、水中にあるソーラーパネルに照射することで、給電を行う
水槽の奥にソーラーパネルが設置されている
レーザーをオフにした状態
【東京工業大学の水中での無線給電デモ】

水深500mまで潜れる広和の水中ロボット、水中LRFのデモも【広和株式会社】

 広和株式会社のブースでは、自社で開発した水深500m仕様のROV「ROV-500」のデモを行っていた。

 こちらはやや大型の水中ロボットであり、サイズは1036×720×603mm、重量は約75kgと重い。10倍光学ズームレンズを搭載したHDカメラを搭載しており、フルHD解像度での動画撮影が可能だ。スラスターは4基だが、水中に設置された四角い枠を通り抜けるといった精細な動きをデモしていた。

 また、水中で周りの障害物までの距離を知ることができる水中LRFのデモも行われた。デモでは実際のLRFではなく、レーザーパターンの表示のみが行われたが、実際に水中LRFとしての動作も確認しているとのことだ。

広和株式会社のブース
広和が開発した水深500mまで潜れる水中TVカメラロボット「ROV-500」
【広和「ROV-500」の動作デモ】
「ROV-500」の上部に取り付けられているのが、水中LRFのデモ機器である
「ROV-500」の重量は約75kgもあるので、クレーンを使って水中に投入する
クレーンで「ROV-500」を移動中の様子
水中LRFによるレーザー照射パターン

放射線環境下でも半自律動作が可能な「ラドほたるⅡ」【株式会社タカワ精密】

 株式会社タカワ精密のブースでは、同社が開発した水中ロボット「ラドほたるⅡ」の展示とデモを行っていた。

 タカワ精密は、前日行われたシンポジウムでも発表を行っていたが、「ラドほたるⅡ」は高い放射線環境下でも半自律動作が可能なことが特徴である。

 「ラドほたるⅡ」のデモは側面が見える小水槽で行われており、マーカーを検出して半自律動作が可能なことをアピールしていた。

タカワ精密のブース
タカワ精密が開発した「ラドほたるⅡ」。放射線環境下でも利用できることが特徴
「ラドほたるⅡ」を水中に投入したところ
「ラドほたるⅡ」のデモは、側面が見える小水槽で行われた
【タカワ精密「ラドほたるⅡ」の動作デモ】

実際の海で水中ドローンをデモ・操縦体験!

請戸漁港の水中ドローンデモ会場。RTFからは20kmほど離れている。風が強く、かなり寒かった

 午後からは、福島RTFから20kmほど離れた場所にある請戸漁港での水中ドローンのデモや操縦体験が行われた。

 当日はあいにく風が強く、波が高かったため、防波堤の中の海水もかなり濁っており、透明度が数十cmほどしかないという、あまり良い条件ではなかったが、「CHASING M2 PRO」と「CHASING M2」が海中に投入され、ソナーのデモや、参加者による操縦体験が行われた。

請戸漁港のセリなどに使われる施設。請戸漁港も震災の被害で壊滅し、新たに立て直された
請戸漁港でのデモはスペースワンが担当しており、まず、デモに使うChasing社の水中ドローンの解説が行われた
ここから水中ドローンを海中に投入する
参加者が水中ドローンの体験操縦を行った
「CHASING M2 PRO」を海中に入れているところ
RTFや長崎会場と繋いで同時配信を行った
もう一台の水中ドローン「CHASING M2」も海中に投入
今回海中に投入した「CHASING M2 PRO」にはマルチビームソナーと水中ポジショニングシステムが搭載されている。これはソナー画面で、水中の構造物などを検出できる

高難易度のミッションにも挑戦!「水中に沈むビスを拾えるか?」

ロボットアーム付きの「CHASING M2」を使って、水中に沈んでいるビスを拾うミッションにチャレンジした

 最後に、スペースワンが、ロボットアーム付きの「CHASING M2」を使って、水中に沈んでいるビスを拾うミッションにチャレンジした。

 ビスはかなり小さく、難易度の高そうなミッションであったが、何度かの挑戦の末に見事ビスを拾うことができ、参加者からの拍手を受けていた。

 また、コスモス商事は、水流存在下での「Boxfish ROV」のデモを行い、強い水流があっても負けずに進めることを示した。

これが水槽の床に沈んでいるビス
ちゃんとビスを挟んでいる
【スペースワン「CHASING M2」とコスモス商事「Boxfish ROV」の動作デモ】

「水中ロボットの作り方」の初歩も解説「そもそも防水をどうするか?」

電子情報通信学会 通信ソサエティ 水中無線技術研究会委員長 吉田弘氏が水中ロボットを作ろうとしている学生のための特別講座を行った。これはよく料理の保存などに使われているパッキン付きの密閉容器の中に水が入るかどうかの実験で、水中ドローンに密閉容器を取り付けているところ

 会場では、前日のシンポジウムでも講演を行った電子情報通信学会 通信ソサエティ 水中無線技術研究会委員長 吉田弘氏が、水中ロボットを製作しようとしている学生のための特別講座を行っていた。

 吉田氏はまず、よく料理の保存などに使われているパッキン付きの密閉容器を水中ドローンに取り付け、水面ギリギリを航行させたところ、中には水が一切入らないことを示した。次にパッキンを抜いて、普通のビニールテープで接合部をグルグル巻きにして、同様に実験をしたところ、中は水で一杯になった。つまりビニールテープは防水の役割を全く果たさないということだ。

 そのほか、自己癒着テープと生ゴムテープを活用した配線の防水加工のテクニックなども実演していた。

特に防水加工などはしていない
このように水面ギリギリの深くないところを航行させる
容器を取り出してフタをあけるところ
中には水が一滴もはいってなかった
今度はパッキンを外し、代わりに容器の接合部をビニールテープでグルグル巻きにして、同様に水中を航行させる
今度は水で一杯になった。つまりビニールテープは防水の役割を一切果たさないということだ

経済産業副大臣も来場、「海のアバターの社会実装」に政府も注目

石井正弘経済産業副大臣

 なお、今回のイベントには、石井正弘経済産業副大臣も視察に来場。熱心に各ブースの担当者の説明を聞き、実際に水中ドローンの操縦体験にもチャレンジしていた。

 開発を進めるメーカー関係者・研究者に加えて、政府としても、この海のアバターの社会実装を進める会に注目していることが感じられた。

石井副大臣は、熱心に説明を聞き、水中ドローンの操縦体験にもチャレンジしていた
参加者の集合写真