イベントレポート

5都県の知事とAI企業が自治体AXを語る、都営住宅の管理や下水点検でAI活用の成果も、課題は人材不足〜ガブテックカンファレンス

ガバメントAI「源内」、都職員ら6万人が活用する生成AI基盤「A1」も紹介

東京都知事 小池百合子氏

 東京都と一般財団法人GovTech東京は7月5日、自治体職員向けのイベント「ガブテックカンファレンス オールジャパンで進める自治体DX・AX」を開催した。前半は東京・石川・山梨・広島・香川の5都県知事によるパネルディスカッション、後半は「自治体のAI活用、自治体AXの展望」をテーマに、デジタル庁とGovTech東京、AI関連4社によるプレゼンテーションが行われた。

5都県知事が語った、AIで変わり始めた行政の現場

 前半のパネルディスカッションでは、各知事がDXやAX(AI Transformation)の取り組みを紹介した。香川県はNVIDIAとの連携によるものづくり産業へのAI実装、石川県は平時のデータを災害時に生かすドローンやマイナンバーカードの活用、山梨県は中学・高校・大学を通じた「地域内発型」のDX人材育成、広島県は県と市町によるデジタル人材の共同採用「DXShip(デジシップ)ひろしま」などを挙げた。

 東京都は、3つの事例を挙げた。1つ目が都営住宅の空き室予測だ。都が管理する約26万戸のうち、約22万戸分のデータを学習させ、AIが将来の空き室発生を予測することで、募集戸数を約4000戸増やした。都営住宅は数十倍の倍率になることも珍しくなく、説明した小池知事は「(募集戸数が増えたことで)都民の住宅の選択肢が広がった」と語る。

 2つ目は下水道の巡視点検。1日3時間かかっていた作業を、自律走行ロボットとAIの画像解析に置き換えた。職員が現場に足を運ばなくても、ロボットが撮影した映像をAIが解析し、異常を知らせてくれる。点検を担う職員には、年間1095時間の「手取り時間」が生まれた。手取り時間とは、育児や介護、趣味などに充てられる時間のことだ。

 3つ目は生活保護の窓口だ。膨大な法令や通知、過去の事例からAIが必要な情報を探し出し、根拠を添えて職員に示す。62区市町村それぞれのアイデアをもとに作られたアプリで、現場から出るニーズを継続的に学習していく。すでに3000人以上の職員が活用している。

 5都県の共通課題は、技術者不足。東京都の小池百合子知事は「自治体の垣根を越えた連携が鍵」と強調。さらに「もたもたしていると、あっという間に日本が取り残されてしまう危機感がある。現状維持は後退でしかない」と語った。

政府の生成AI「源内」 ソースコードはGitHubで公開

 後半の口火を切ったのは、デジタル庁の三角育生氏(デジタル監)だ。

デジタル庁 デジタル監 三角育生氏

 欧米ではAIが人の雇用を奪うことが議論されている。だが日本の課題はむしろ、就労人口の減少により「そもそも人がいなくなっていく」ことにある。その影響は小規模な自治体から顕著に表れており、人を支援し、代わりに働くAIエージェントの活用は「待ったなし」だという。

 そこでデジタル庁が開発したのが、生成AI利用環境「源内」(げんない)だ。政府職員が安全・安心にAIを活用できる基盤「ガバメントAI」の第一歩として各府省庁に導入しており、2026年度中には全府省庁約18万人の政府職員が利用できるようにするという。2025年12月に閣議決定された人工知能基本計画では、「隗(かい)より始めよ」(大きな目的に向かうためにも、まずは手近なところから取り組むべきだ、という意味)の観点から政府自らが先導的にAIを徹底活用する方針が示された。並行して、コスト増大やセキュリティなどのリスクを管理するガイドラインの整備も進める。

 特筆すべきは、源内のソースコードがGitHubでオープンソースとして公開されている点だろう。自治体や政府機関が似たAI基盤を重複して開発するムダを防ぎ、特定の事業者に依存せず、それぞれの要件に応じて運用できるようにする狙いだ。三角氏は「行政で使うプラットフォームとして自由に活用してほしい」と呼びかけた。

能登で被災した技術者が語る「車輪の再発明をしない」

 続いて登壇したGovTech東京の井原正博氏(業務執行理事 兼 CTO)は、約30年にわたってソフトウェア開発に携わり、自ら起業してサービスを提供してきた技術者だ。

 転機は2024年1月1日の能登半島地震。妻の実家で被災し、しばらく避難生活を送った。「水や空気のようにいつも当たり前にあるのが行政。その大切さを痛感した」。技術は人の役に立って初めて価値がある。ならば最も人の役に立つ場所で技術を生かしたい。そう考えて、GovTech東京に転じたという。

GovTech東京 業務執行理事 兼 CTO 井原正博氏

 井原氏はAIを「人類史上で最も大きな技術革新のひとつ」と位置づける。「昨日の常識が、今日は常識でなくなるということが現実に起きている。だからこそ、各自治体が個別に試行錯誤するだけではなく、一緒に育てていくことに大きな価値があるのではないか」

 そこでGovTech東京が大切にしているのが、「車輪の再発明をしない」だ。誰かが作ったものをそのまま使えばいいという意味ではない。良いアイデアはみんなで共有する。良い仕組みはみんなで使って、さらに改善する。「ひとつの自治体の挑戦が、他の自治体の力になる。そういう循環を作っていきたい」

 その思想を形にしたのが、生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」だ。都とGovTech東京が内製で構築した共通基盤で、職員が業務に必要なAIアプリをノーコードで開発し、自治体の枠を超えて共有できる。「私たちが作りたかったのはAIツールではなく、職員同士がお互いの知恵や工夫を持ち寄って一緒に育てていくための仕組みだ」と井原氏。現在、都職員約6万人および都内の区市町村に展開している。

「DXがうたわれた頃、みんなで進むという意味では、われわれはもっとうまくできたことがあったかもしれない。ただ、AIというもう一度みんなで挑む大きな波が来ている今、今度は『みんなでつくる』を共に力強く進めていきたい」。

 そして、会場に集まった自治体職員に向けて呼びかけた。「私たちはGovTech東京という名前である以前に、技術者の集団です。われわれ技術者を、どうか人の役に立てさせてほしい」

問われているのはAIの性能ではない Anthropicが示した庁内エージェントの姿

 民間からは4社が登壇した。Anthropic Japanの七尾健太郎氏(公共事業責任者)が示したのは、デジタル庁が公開している生成AI利用環境「源内」の展開スケジュールだ。2030年頃には政府全体がAIネイティブ行政に刷新され、業務フロー、ナレッジ体系、データ体系がAI中心に再構成されるという。

Anthropic Japan 公共事業責任者 七尾健太郎氏
七尾氏が示したデジタル庁のガバメント展開スケジュール

 七尾氏が着目したのは、この資料に「『性能のいいAIを使える』などとは書いていない」ことだ。AIの性能は、今まさにベンダーがしのぎを削り、改善が重ねられているところ。だが現場で問われているのは、AIそのものの性能以前に、AIが働きやすい(十分に性能を発揮できる)ように、庁内の仕組みをどう整えるかだという。

 その上で七尾氏は、庁内の起案・決裁業務を例に、AIエージェントが働く日常のイメージを提示した。職員が決裁区分の書き方が分からず、AIに尋ねる。すると、参照すべきシステムに閲覧権限がないと判明。AIはその場で権限を申請し、承認者である課長にも庁内チャットで連絡してくれる。権限が下りれば、過去の似た起案を探し出し、この案件ならこの決裁区分だと教えてくれる。さらに、決裁履歴に残る財政課長の「この時期は難しいので事前に連絡を」というコメントを見つけ、根回しが必要だという暗黙知まで助言する。先月改正されたばかりの財政規則も反映済み。最後は管理台帳の更新まで済ませてくれる。

 この一連の流れの中で、AIは庁内の多数のシステムに接続する。つまり、AIが働きやすい形にシステムを整備し、庁内に蓄積された情報やナレッジをフル活用することが、生産性に直結すると示唆した。

 日本マイクロソフトの大山訓弘氏(業務執行役員 パブリックセクター事業本部安全保障・自治体戦略統括本部)は、2028年までに世界のAIエージェントが13億に達するとのデータを示した。同社が2026年3月に開催した「Microsoft AI Tour Tokyo」では、宮坂学副都知事が、都庁職員によってすでに約1000のエージェントが作られ、業務で使われていると紹介したという。

 一方、約9割の自治体が何らかの形で生成AIを使っているものの、文章要約などの効率化が中心で、付加価値を生む段階にはまだ来ていないと指摘。効率化は重要としつつ、「AIの知と人間の知を掛け合わせ、どんな新しい価値を作っていくのか」が同時に問われていると述べた。

日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部安全保障・自治体戦略統括本部 大山訓弘氏

 グーグル・クラウド・ジャパンの和泉綾志氏(執行役員 デジタルビジネス・公共社会基盤 営業統括)は、AIエージェントをオーケストレーションする時代に入ったと語る。同社はGeminiに加え、Claudeなど主要モデルをプラットフォーム上で提供するほか、オープンプラットフォームの強みを生かしてChatGPTなど外部の多様なモデルやAPIも視野に入れた柔軟な連携・管理を志向している。「1つのモデルで全てができるわけではない」からだ。自治体向けにはセキュリティ対策、働き方の変革、コスト削減の3点に注力していることを紹介。東北6県と新潟県の258自治体が使うセキュリティクラウドでもGoogle Cloudの技術が使われているという。

 デモでは、住民基本台帳や介護保険、国民年金、生活保護受給などのデータをAIエージェントが横断的に参照。政策の対象となる住民がどれくらいいて、どんな論点を検討すべきかを可視化してみせた。個人情報は削除した上で回答するという。

グーグル・クラウド・ジャパン 執行役員 デジタルビジネス・公共社会基盤 営業統括 和泉綾志氏

 Polimillの谷口野乃花氏は、全国の自治体の4割以上が消滅可能性自治体とされる現状を挙げた。その上で、自社が提供する行政AI「QommonsAI」上に、行政専用のアプリストア「Qommons ONE」(コモンズ ワン)をこの夏開設すると紹介。自社が築いた販路を他社にも開き、データや技術を持つ企業がアプリを直接届けられるようにする。

 自治体にとっては、これまで個別に要件定義や開発を重ねていた業務システムを、スマートフォンのアプリストアのように選んで導入できるようになる。谷口氏は、「自治体DXのOSを目指したい」と語った。

Polimill 代表取締役 COO 谷口野乃花氏

 最後に宮坂副都知事は、このカンファレンスを、行政と企業、自治体同士がつながる場にしたかったと明かした。人がつながることでプロジェクトがつながり、信頼がつながっていく。

東京都 副知事 宮坂学氏

「みんなでつくる」行政AIは、構想から実装の段階へ入っている。