新gTLDビジネス成功への道のりは、インディ・ジョーンズ並み?


 秋葉原コンベンションホールで開催中の「Internet Week 2009」で25日、「新しいドメイン名空間が拓く明日」と題したセッションが行われた。現在導入に向けた検討が進められている新gTLDやIDN ccTLDの動向が紹介されたほか、レジストリやレジストラといったドメイン名関連事業者に加え、自治体やブランドマーケティング事業者の立場から、こうした新しいTLDへの期待が語られた。

“地名TLD”の実現に、自治体は期待と困惑

 倉敷市企画財政局まちづくり部情報政策課の西川俊作氏は、新gTLDのうち、やはり「.tokyo」「.大阪」のような“地名TLD”に期待・関心があるとし、「自治体としてはインパクトがある。ドメイン自体をコミュニティとした活性化も期待できる」と話す。しかし一方で、「どのように運用するのかについては不安がある。倉敷市としては、技術的な敷居が高すぎて申請はできない」とした。

(右から)JPNICの丸山直昌氏、倉敷市の西川俊作氏

 地域ブランドのコンサルティング事業「abic(area brand incubation core)」を展開する電通中部支社マーケティング・プランニング室の若林宏保氏も、“地名TLD”があれば地域ブランドの活性化につながると関心を示す一方で、運用にあたってはその地域のブランドイメージが守られることが重要だとし、オープンでコントロールしやすいことが求められるとした。

 なお、“地名TLD”をICANNに申請するには、申請者は、その地名に関係する自治体の支持を得ることが必要となる。例えば、どこかの企業が「.倉敷」を申請するには倉敷市の支持が必要になるわけだが、裏返せば、自分の地域の名称の新gTLDが申請された場合には、その申請者を支持するのかどうか自治体に判断が迫られることになる。しかし、自治体にとっては自分たちで結論を出せるのかという問題がある。

 日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)理事の丸山直昌氏は、“地名TLD”導入の動きを受けた自治体側の実情を紹介した。当初は“インターネット版ご当地ナンバー”のような感覚でとらえられていたが、運用は簡単なものではないとの認識も広がっているという。また、申請者を支持するかどうかの判断にあたって、行政の関与は最小限にとどめるべきと考える一方で、かといって無関心でいるわけにもいかず、「あまり前向きというよりは、ちょっと困ったという感じ」らしい。

“アプリケーションTLD”こそが、新gTLDのエルドラド?

 こうした“地名TLD”について、「ブランド面ではありだが、売り上げが厳しいのではないか」と述べるのは、ICANN認定レジストラとしてドメイン名事業も手がけるインターリンクの代表取締役社長・横山正氏だ。

(右から)ドメイントレードの梅津美恵子氏、JPRSの堀田博文氏、インターリンクの横山正氏

 横山氏は、TLDが増えることで考えられるシナリオとして、1)新gTLDの人気が上がる、2)新gTLDはジャンク化し、ユーザーは既存のTLDに走る、3)TLDがジャングル状態となり、ユーザーはドメイン名に価値を見出せなくなり、検索エンジンに走る――という3つがあるとした上で、確率が高いのはジャングル化するシナリオであり、そうなると「得をするのは検索エンジンだけ」とした。

 ドメイン名のセカンダリーマーケット(売買市場)事業を手がけるドメイントレード株式会社の代表取締役である梅津美恵子氏は、「もっと自由なgTLDが出てくるのではないか」と述べ、例えば「.アイドル名」という形式のgTLDを紹介した。そのアイドルのファンがそのgTLDのドメイン名を取得することで、アイドルの人気度がわかるといった仕組みだ。ほかにも会社名や宗教など、登録されたドメイン名の件数で企業の関心度や会員数がわかるなど、「我々が予想もしない、奇抜なアイデアが出てくれば」と期待を示した。

 JPドメイン名を管理する日本レジストリサービス(JPRS)の堀田博文氏は、何らかのサービスの名称をgTLDとする可能性を指摘する。例えば、あるゲーム機の名称がgTLDになっており、そのユーザーがセカンドレベルドメインを登録して、オンラインゲームサービスの会員になるといった仕組みであり、「サービスとgTLDが結び付くと面白い」と指摘した。

 横山氏も「Facebookが新gTLDを申請すると噂されているが、サービスとどのように結び付けていくのか関心がある」として、“アプリケーションTLD”の可能性を示唆した。

 なお、横山氏のプレゼンテーションは「新gTLDでエルドラド(黄金郷)を探そう。」というタイトルだった。ドイツでは約6.3人に1人の割合でドメイン名を持っているのに対し、日本では114.9人に1人、中国でも107.5人に1人だけだというデータを紹介。約18倍の開きがあることから、逆に潜在需要としては日本や中国はそれだけの市場があると考えることもできると指摘する。

 しかしその一方で横山氏は、「映画『インディ・ジョーンズ』でも道中にはたくさんのしかばねが転がっていた」とくぎを刺す。多くの人が新gTLDビジネスでエルドラドを目指したとしても、「その先にあるのは1つか2つ」だとして、ビジネス的に成功する新gTLDはわずかとの見方を示した。


このセッションでは、日本のIDN ccTLD「.日本」の導入についても、日本インターネットドメイン名協議会の桑子博行氏から解説があった「.日本」を管理するレジストリの選定基準が今後策定された後、2010年2月に公募が開始される。実際に「.日本」のドメイン名登録が行えるようになるのは、4月以降の見込み




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(永沢 茂)

2009/11/26 12:35