iNTERNET magazine Reboot

「情報の空白地帯」を忘れないための資料

「東日本大震災 情報行動調査報告書」一般公開

東日本大震災が発生してから7年。このときの住民の情報行動調査をまとめた報告書「東日本大震災 情報行動調査報告書」が、情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)より、3月11日に一般公開された。今回はその概要を紹介する。(iNTERNET magazine Reboot編集長・錦戸 陽子)

インターネット普及後にも起きた「情報の空白地帯」
教訓を継承しICTの役割を考える

 東日本大震災発生時のメディアやICT利用に関する調査は、その後省庁などからも発表されているが、この調査は、ICT関係者を中心としたプロボノ、ボランティアの手によって2011年7月という早い段階で実施され、2011年9月に調査報告書として刊行された。

 岩手、宮城、福島の東北3県の住民を対象に、インターネットによるアンケート調査と個別面談調査を実施。被災地で住民に直接話をきく作業は、自らも震災を経験した東北のICT関係者や知人ネットワークの協力により行われた。

時間軸で変わる情報行動、地域差も大きい

 この調査では、地震発生「数時間後」「1週間程度」「1か月程度」「3か月程度」と4つの時点に分け、住民がどのような情報を必要としたか、またそれをどの機器やツールを使って情報を発信したり入手したりしたか、あるいは利用できなかったかを時系列で捉えている。

 利用できた情報ツールや機器は、地震発生直後では「ラジオ」がトップだった。「テレビ」「インターネット」「携帯」は、ふだん使っているにもかかわらず、大きく落ち込み、震災前の水準に戻るまでに時間を要したという当時の様子がよくわかる。

図1 [ネット調査]利用できた情報ツールや情報機器(%) N=2815

 また、「役に立った情報源」でも、震災当日は「ラジオ」が1位、「テレビ」「ワンセグ放送」と続く。1週間後には「テレビ」が1位となるが、「ラジオ」も引き続き利用されている。大規模な停電のなか、電池で動くラジオがたよりにされていたことがわかる。

図2 [ネット調査]役に立った情報源(%) N=2815

 さらに、この調査では、津波、ライフラインの途絶、原発の問題など、地域によって被害の内容が多様なことから、岩手・宮城・福島3県それぞれの内陸部と沿岸部、6つの地域区分で結果を分析している。

 岩手県の沿岸部では、震災直後に役に立った情報源は「特になかった」の回答も多かった。津波による被害や、通信インフラの損傷、大規模な停電が起こったこの震災では、使える情報源が全くない状態の地域もあったのだ。

図3 [面談調査]役に立った情報源、地震発生直後、地域別(%) N=186

教訓の継承とICTサービスによる支援が求められる

 この報告書では、災害が起きると、被災地外での情報のやり取りが非常に増加する一方で、情報を伝えたい被災地内では伝達できない「情報の空白地帯」が生まれると指摘。これは1994年の阪神淡路大震災のときと同じであり、過去の教訓は活かされなかったとしている。

 それでも、ICTがまったく役に立たなかったわけではなく、「携帯電話」はつながりにくく不満の声が大きかったものの、安否情報の確認には携帯電話の通話やメールがよく使われていることや、当時はまだ普及の途上であったSNSなどの新サービスの活用状況も掲載している。

 iSPPではまた、この調査結果をもとに、2012年に発行された書籍[*1]において、下記の提言を行っている。

  1. 被災者側からの情報伝達体制の確保
  2. 救命・救急、避難に役立つ、最新技術を活用したシームレスな情報伝達体制の実現
  3. 「情報そのもののローミング」の実現とそのための指針の策定
  4. 自治体情報システムの復旧支援体制の確立と「受援力」の向上
  5. 震災時のICT活用に関する国際協力活動・連携の推進
  6. 被災者の変化する情報ニーズに的確に対応するための検証活動

 7年前と比較すると、WiFi環境とスマホが普及し、SNSが盛んになり、インターネットの利用状況は大きく変わったが、災害への備えやICTのサービスやメディアの発信のあり方を考えるうえで、当時の状況がわかるこの資料は貴重である。