iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その7

グーグルで働くエンジニアによる 故郷・熊本での特別授業体験記

今回はiNTERNET magazine Rebootの記事の中から、教育をテーマにした記事を紹介する。シアトルに在住し、グローバルなIT企業で働きながら、休日には子ども向けコンピューターの教育活動をしている今崎憲児さんが、故郷の熊本で行った授業体験を綴ったものである。(iNTERNET magazine Reboot編集長・錦戸陽子)

※本稿はJunglecity.comの記事[*1]を再編集し、iNTENET magazine Rebootに掲載しました。

子どもたちに伝えたかった未来のために大切なこと

グーグルで働くエンジニアが母校で特別授業

熊本で育ち、現在、アメリカのグーグルで働く私は、地震の影響を受けた故郷に少しでも貢献したいと、出身校である熊本県宇城市松橋町豊福小学校の5~6年生と熊本高等専門学校の4~5年生に、「10年後の日本はどうなるか」をテーマに講演を行いました。また、豊福小の6年生にシアトルで実施している子ども向けコンピューター講座も実施しました。その模様を紹介します。

10年後にはなくなる仕事

 豊福小学校で最初に話したのは、「10年後にはなくなる仕事」について。そのヒントとして、まず、自動運転など現在のアメリカの最新技術の映像をユーチューブで次々と見せました。それを見ていた時の子どもたちの真剣な表情がとても印象に残っています。感想を聞いてみると、ロボットについて質問が集中しました。子どもはやはりロボットが好きなのですね。

 将来、自動化や人工知能により、一般事務員や秘書、販売員やカウンター接客、施設案内係、乗用車やトラック運転手といった職業がなくなるだろうと話したのは、彼らが大人になるころには、世の中の仕組みのほとんどが変わっていることを伝えたかったからです。

 子どもたちには、そのような変化に対応する方法の1つとして、STEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング 、マスマティクス)の勉強をさらにがんばってほしいと思います。

豊福小学校での特別授業

軍手を使って2進法を教える

 豊福小学校では日を改め、6年生の各クラスの教室で、SIJP[*2]で行っている講座から「軍手を使って2進数を手で数えるアクティビティー」「コンピュータロジック・リズミックゲーム」「背の順で並ぶソーティング・アルゴリズムゲーム(バブルソートとクイックソート)」を行いました。

 「難しい授業じゃなくて、ゲームだったので、全員が楽しみ笑顔になることができました」「パソコンとはとても難しいものだと思っていましたが、実際やってみたら意外と単純なものなんだなーと思いました」「コンピューターは0と1でできているということが初めてわかったので、びっくりしました」など、生徒から感想をいただきました。

2進数の授業で使った軍手

「10年後の日本」をディスカッション

 一方、高等専門学校では、「10年後の日本はどうなっているか」というテーマでグループディスカッションを行いました。生徒たちから、次のようなアイデアが出されました。

  • 3Dプリンターのさまざまな応用
  • パワードスーツなど人間を助ける技術が広まる
  • 現金や財布を使わなくなる
  • 量子コンピューターの利用が進む
  • ウエアラブルデバイスが普及する

 すでに高等専門教育を受けているため、各チームは専門知識を生かした高度なディスカッションをしていました。

 さらに、私がグーグルで働くまでの経緯を説明し、熊本からでも海外で働くという夢を実現できることを話しました。講演後には、数人の生徒から留学の相談を受けました。

チームプレイの大切さ

 両校で最後に話したのは、通知表について。学校では先生が生徒の通知表を作りますが、グーグルなど最先端IT企業では「peer review」といって、同僚からの通知表(評価)が重視され、評価が悪ければ、最悪の場合、解雇もありえます。友だちやチームといかにうまくやっていくか。そのためには、友だちの気持ちになって考えること、友だちとの時間を大切にすることが重要です。実はこの考え方こそ、私が最も伝えたかったことなのです。

 今回の授業後、生徒から温かい感想をいただき、感無量でした。その一方で、訪ねた小学校ではICTやコンピューター教育の導入が遅れているようで、デジタルデバイド(情報格差)も感じました。SIJPにできる範囲で、改善策を考えていきたいと思います。

今崎 憲児(いまさき けんじ)

現職はグーグルのテストエンジニア。神戸市生まれ、熊本県育ち。シアトルには2004年から在住。その間、アマゾンとグーグルでさまざまな職種を経験。今興味があるのは、子どもに対するコンピューター教育と熊本地震救済活動。個人サイトhttp://www.imasaki.net/about-j/