iNTERNET magazine Reboot
木曜コラム2 #4
キャリアメールから締め出されたPCメール
全員でのコミュニケーションはむずかしい
2018年1月25日 11:00
昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。
私はこういう仕事をしている関係で、私的なコミュニティではFacebookやメーリングリスト(ML)などのデジタルツールの管理者を頼まれることが多い。特にマメなわけでもないし、得意なわけでもないのだが、お役目として引き受けている。たとえば、高校の同級生コミュニティのMLの管理者をしているが、出身が熊本のため、地震被災以降、登録ニーズが増えている。ほかにも、趣味の武道コミュニティのWebとMLの管理者などもやっている。そんなの中で、一番苦慮するのがメンバー全員との連絡手段だ。
全員が参加できるのはメールしかない
仕事関係のコミュニティなら、メールは当然としてFacebookやSkypeをやっている人も多いのであまり困ることはないのだが、同級生や趣味のコミュニティとなると、仕事も志向性も利用環境もまちまちだ。特に問題になるのがデジタルリテラシーの違いで、一筋縄ではいかない。
いまは、FacebookやLINEなどのSNSが普及しているので、それが使えればいいのだが、中にはSNSは「胡散臭いのでやらない」という人もいるし、「使い方がわからない」という人もいる。それで結局は、昔ながらの電子メールに落ち着くというのが常だ。
つい最近、大学の仲良しメンバーの連絡網を作る必要に迫られ、やはりMLを作ることにした。しかし、昔はあまり問題にならなかったことが大きな障壁になっている。
ケータイがPCメールをブロック
それは、ケータイメールを利用している人がインターネットメールをブロックしていることだ。ケータイの世界ではPCメールと言われているが、PCからのメールは迷惑メールが多いということで、いまはPCメール全体をブロックしている人が多いのだ。ケータイキャリア同士のメール(キャリアメール)は通してくれるので、ケータイだけ使っているユーザーは、特に不便はないというわけだ。
この場合は手間がかかることになる。まず、メールアドレスを聞いてそこにメールしてみるのだが、「アドレス不明」で戻って来てしまう(本人はブロックしていることをあまり意識していないことが多い)。ほかのアドレスはないかと聞いても、いまはケータイアドレスしか使わない人が少なくない。しかたないので、ブロック解除のお願いをすることになるのだが、最近では「PCメールはブロックしておいたほうがいいですよ」と設定までしてくれる「親切な」キャリアショップがあるそうで、自分では操作がわからない人もいて、よりやっかいな問題となる。
どうにか該当ユーザーに私のメールアドレスをブロック解除してもらい、やっと全員に連絡できる。しかし、これで終わりではない。そのメールにそれぞれが「all」で返事をすると、PCメールからの人はまたブロックされてしまう。つまり、コミュニティ全員での連絡網を作ろうとすると、ケータイでブロックしている人にすべてのPCメールアドレスを解除してもらわなければならないのだ。ちなみに、最近増えてきたMVNOのメールもキャリアメールではないので同様のはずだし、MLにしても解決しない。これはハードルが高い。
迷惑メール対策
この本質的原因は、迷惑メールを送る輩が多いからだ。迷惑メール対策は、特別なメールサーバーを使うとか、個人認証付メールなら通すとか、これまでにそれぞれのサービス業者が工夫されてきたことだと思う。しかし、デジタル機器に慣れていない人にはどれもハードルがある。
スマホの利用率はパソコンのそれを超えて普及している。キャリアメールを主として利用している人のほうが、PCメールを利用している人よりメジャーだろう。いまや、PCメールのほうがキャリアのメール世界から締め出された感すらあり、分断を感じる。インターネットが商用化されて以来、誰でも誰とでも情報交換できることを目指して旗振りしてきた立場としては、この現実には情けない思いになる。
この問題の解決はむずかしいだろうが、老若男女の誰もがデジタル機器を使う時代である(私の母も80代だが最近スマホを買った)。放置はできないだろう。たとえば、日本ではデジタルに慣れていない人でもLINEをやっている人は多い。LINEは外部ツールを使えばメールからの情報を受け付けることができるそうだが、LINE自体でメールとの送受信ができるようにしてもらえるなら、メール世界との相互接続ができてとても便利だ。メールがいい人はメールで、LINEがいい人はLINEでという具合である。
だがこの問題を抜本的に解決するには、迷惑メールを撲滅するしかないだろう。「技術が作り出した問題は技術が解決できる」と、ある業界技術リーダーに教えられた。抜本的な解決を考えたい。古くからあるこの問題が解決できないとすると、これからやってくるIoT時代ではもっとやっかいなことになっていくように思える。
井芹 昌信(いせり まさのぶ)
株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。