iNTERNET magazine Reboot

木曜コラム2 #7

Google翻訳は革命的ツール!

ピョンチャン五輪「たまご事件」の汚名挽回

昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 ピョンチャン五輪で、Google翻訳のせいで大量の卵が誤発注されたというニュースが報道されていた。ノルウェーのシェフがたまご1500個を注文しようとしたところ、誤訳で15000個が届いてしまったという「事件」だ。逆に私は、機械翻訳、中でもGoogle翻訳の進化はすばらしいと思っていたところなので、汚名挽回に加勢しようと思う。

Google翻訳は革命的

 昔話になるが、インターネットが登場してきたとき、読者から「インターネットは英語が分からないと使えないんですか?」という素朴な質問があった。確か、答えは「そんなことはありません、でも英語ができたほうがより使えます」だったと思う。当時のネットは英語の情報がほとんどで、日本語の情報は少なかったのだ。英語が使えれば、情報取得の幅が広がり、いち早く世界の出来事を知ることができた。

 いまは日本語の情報も充実し、十分に役に立つ時代になった。日本語の情報だけで利用している人が多いことだろう。しかし世界規模で見てみると、英語が事実上の世界公用語となっていることから、いまでもネット上の圧倒的多数が英語であり、「英語ができたほうがいい」という状況は変わっていない。実際、ネットビジネスで成功している人に英語が堪能な人が多いという現実が、それを物語っている。

 ちなみに、私は英語が苦手だ。翻訳出版も担当していたことがあったし、海外企業とのやりとりも多かったのにだ。英語が使いこなせたらどんなにいいかは身をもって知っている。確かに、インターネットに国境はないし、物理的な国境も飛行機で誰でも簡単に超えられる現代だ。しかし、真の意味での壁は国境ではなく、言語だったのではないだろうか。いまその願いが、機械翻訳によって叶おうとしている。特に、AI技術を駆使していると思われるGoogle翻訳の最近の進化はすばらしい。外国語ができない人にも、ワールドワイドなチャンスが出てきたという意味で、革命的といえるのではないだろうか。

下訳に使える

 私の仕事でいえば、英語の原稿の下訳はすでに実用の域にあると思う。年末に発行した「iNTERNET magazine Reboot」では、米国ジャーナリストのジョン・マルコフさんのインタビュー原稿をGoogle翻訳で下訳した。この原稿は、現地の記者(瀧口範子さん)が英語でインタビューしたものだが、それをテープ起こししたままの粗原稿を即行で送ってくれたものだった。それを単純にGoogle翻訳したのだが、質問と回答の主旨が概ね把握でき、記事の全体構成や分量調整に大いに役に立ったのだった。

 またプライベートでは、海外のECサイトの利用などで役に立つ。下記は米国Amazon.comでの参考例だが、このコラムの#2で紹介したニコン最新デジタル一眼D850の解説ページの一節(タイムラプス機能)をGoogle翻訳したものだ。

(原文)

8K Time-Lapse Using Interval Timer
Render jaw-dropping 8K time-lapse movies by shooting sequences of up to 9,999 full-size stills, again using Silent Live View Mode. Using the D850's Interval Timer Mode allows you to capture over 8K-size images with exquisite detail for time-lapse movie6 creation. And with no shutter vibration, your sequences will be tack-sharp.

(日本語訳)

インターバルタイマを使用した8Kのタイムラプス
サイレントライブビューモードを使用して、最大9,999のフルサイズの静止画を連続して撮影して、8Kのタイムラプスムービーを再生します。 D850のインターバル・タイマー・モードを使用すると、タイムラプスのムービー作成時に8K以上の大きさの画像を詳細にキャプチャできます。 また、シャッター振動がなければ、シーケンスは鋭く鋭くなります。

 これらの翻訳結果は完全ではないし、日本語としておかしな表現になっていることも少なくない。これらの結果を見て、「まだまだ仕事には使えない」と判断する人も多い。しかし本当にそうだろうか。完全に正しい文法の文章にすることより、意味を理解できることのほうが重要ではないのだろうか。我々のように文章を商売にする者ですらそうだが、一般の人にとってはなおさらだろう。その意味で、上記の結果は実用になると言えると思うのだ。

他言語への翻訳では再翻訳が有効

 日本語を他言語に翻訳する場合は、Google翻訳の再翻訳機能が有効だ。日本語を他言語に翻訳してくれたとして、その結果がどの程度正しいのかを見極めるのはむずかしい。英語ならまだしも、それ以外の言語となるとお手上げだ。そんなとき、再翻訳(逆変換)を使えば、翻訳された他言語の結果を元にしてまた日本語に戻してくれるのだ。その結果がおかしな表現になっているなら、他言語での表現もおかしいと推測がつく。その場合は、元の日本語を正しい結果が出るまで修正するといい。これならかなり安心できる。

 ここで、冒頭のピョンチャン五輪での「事件」を再現してみよう(あくまで余興)。

 情報は不確かで少ないのだが、ノルウェー語で「卵1500個お願いします」をGoogle翻訳でハングル語に一発変換して注文したとの情報(BQ NEWS)を頼りに再現してみる。

 日本語の「卵1500個お願いします。」をノルウェー語に翻訳すると、

「Jeg trenger 1500 egg」
(日本語訳:「1500卵が必要です。」)

となり、これを韓国語に翻訳すると、

「나는 1500 알이 필요해.」
(日本語訳:「私は1500卵が必要です。」)

となった。表現は微妙に変化したが1500が15000になることはなかった。詳細は分からないが、数字を誤訳するとは思えないので、本当にGoogle翻訳のせいだったのかは闇の中のような気がする。

 ちなみにこの場合、最初の文が「卵を1500個ください。」だったなら、韓国語のみならずGoogle翻訳が対応しているほとんどの言語で誤訳することはなさそうだ(再翻訳で確認)。機械翻訳が全盛になる今後は、自分が書く文章も他言語に翻訳されることを前提にして、やさしく正確に書く必要も出てくるだろう。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。