iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その11

デジタルテクノロジーの活用が構造改革を促す 「xTech」の注目分野

さまざま産業におけるモノや人の動きなど、インターネット上に生み出されるデータを分析し、構造改革や新しい価値創造に役立てようという動きは、「xTech」(クロステックまたはエックステック)と呼ばれている。iNTERNET magazine Rebootの「xTechがビジネスを変える」(構成:インプレスDigital X編集部)では、医療、金融、交通、建築、農業の5分野における新しい取り組みを、日本のキーパーソンの寄稿や事例取材によってレポートしている。今回はその内容の一部を簡単に紹介しよう(見出しは本誌のまま)。(iNTERNET magazine Reboot編集長/錦戸 陽子)

MediTech-在宅医療へのパラダイムシフト

Amazon時代の医療に向けた湘南慶育病院の挑戦

 医療分野(メディテック)では、神奈川県藤沢市に昨年開院した湘南慶育病院の取り組みを、オープン直前に取材して紹介している。この病院は慶應義塾大学湘南藤沢キャンバス(SFC)と連携している。

 大きな柱の1つは「遠隔医療/在宅診断」を軸にした新しい診療スタイルの確立。自宅や外出先でも病院の診察が受けられるようにすることは、神奈川県が掲げている「未病の改善」対策に貢献する。院内には、慶應大学と連携した未病・抗加齢センターとネット診療センターを開設。超高精細テレビを患者の自宅に置き、インターネットを介して医師の診察が受けられる放送と通信を融合した「Hospital in the Home」を実現しようとしている。また、その中核として、電子カルテや検査データを病院外からも閲覧できるシステムを構築している。

 ビッグデータを活用したリハビリテーションの先進技術にも力を入れている。「スマートリハ室」という施設を設置。「BMI」(ブレーン・マシン・インターフェイス)と呼ばれる新しい装置を導入し、重度の麻痺を持つ患者の回復支援の研究を大学と共に推進している。

 医療におけるデジタルテクノロジー活用は期待が大きいが、現場導入には時間がかかっていた。湘南慶育病院は、「いまできるテクノロジーのメリットを最大限に引き出した」事例であると本誌では解説している。

「xTechがビジネスを変える」のMediTech

FinTech-「破壊」から「協働・促進」へ

金融サービスの質的変化とこれから

 金融(ファイナンス)とテクノロジーの造語であるフィンテックは、xTechの潮流の中でも最も早く注目された領域だ。しかし、この先はブームで終わらせないために取り組むべき課題があると三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の柴田誠氏が解説している。

 柴田氏は、冒頭で、フィンテックの意味合いが、「既存金融サービスのディスラプター」から「新しい事業機会を生み出すためのイネ―ブラー」へと変化してきたと述べている。低金利・低成長が続く最近では、金融機関自体の関心がデジタルイノベーションよりもデジタルトランスフォーメーション(デジタル技術による経営革新)のほうに集まっており、以前より組織的な取り組みへと変わってきているという。さらに、金融サービスとして、発展途上国だけでなく先進国においてもソーシャルプロブレムソリューション(社会問題の解決)の提供に焦点が当たってきているとのことである。

 日本の金融業界の課題としては、(1)先進技術の活用、(2)社会問題への対応、(3)エコシステムの拡充の3つを挙げている。具体的には、ガラパゴス化しないために技術変化を捉えることや、スタートアップ・インキュベーションプログラムのレベルアップなど、国際的なプレゼンス強化を念頭に置いた取り組みが重要だとしている。

TransTech-公共交通の革命

MaaS(Mobility as a Service)への脱却を目指すJR東日本の戦略

 JR東日本は、2016年11月に発表した「技術革新中長期プラン」で「モビリティ革命の実現を目指す」と宣言した。この内容を中心に、同社総合企画本部 技術企画本部イノべーションエコシステムプロジェクトの中川剛志氏が公共交通分野の革新について解説している。

 「MaaS」(Mobility as a Service)という言葉は、CES2018でも車メーカーの新コンセプトとして話題になっているが、JR東日本の技術革新中長期ビジョンでも、鉄道事業のビジネスモデルをMaaSとして見直し、新しい顧客価値を提供していくとしている。

 また、ビジョンの骨格は「安心・安全」「サービス&マーケティング」「オペレーション&メンテナンス」「エネルギー・環境」を掲げているが、これに基づいた具体的な取り組みとして、記事では(1)スマートメンテナンス構想、(2)JR東日本アプリ、(3)AIを使ったコールセンター(2017年度下期以降)について詳しく紹介している。

 これらは、現場の機器の状態や走行位置など、膨大なデータをリアルタイムで取得できるようになったことから取り組まれていることだという。

 JR東日本では、「モビリティ変革コンソーシアム」を開設し、大学・研究機関や内外企業とともに実証実験などを行うことも発表している。

「xTechがビジネスを変える」のTransTech

業界で培われた技術・プロセスとインターネットを結ぶ

 以上3つの記事の概要を紹介したが、このほか建築分野では、「コンピューテーショナルデザイン」を掲げて活動するnoiz共宰、豊田啓介氏から「ArchTech(アーキテック)-建築と都市の新たな可能性(副題:都市データのマスタープラットフォームはだれが握るのか)」と題した寄稿を、また、農業分野では、ルートレックネットワークスの佐々木伸一氏から「AgriTech-農業の革命(副題:解決すべき課題は少子高齢化だけではない)」と題した寄稿をいただいている。

 いずれも、これまで培われた業界の技術と先端デジタル技術との関係、プレイヤーとデジタルデータの関係など、各分野個々の問題が掘り下げて語られている。本誌でぜひ内容を確認していただければ幸いである。