インタビュー
若者はリンクもスクロールも嫌――記事の体裁が新鮮すぎる「BuzzFeed Kawaii」に聞く、ミレニアル世代のネットメディアへの接し方
2019年4月10日 06:00
ネットメディアというと、皆さんはどんなイメージを持つだろうか。Impress Watchのように“自社サイト”があり、読者は“サイトに見に来る”というのが一般的だろう。
ところが、「BuzzFeed Kawaii」は全く異なる。同メディアは、ミレニアル世代を対象に、美容、ファッション、グルメ、お出かけ情報などを発信するメディアだ。驚くべき点は、コンテンツではなく、その“形態”にある。
なんとTwitterアカウントの体裁をとっており、文章も含めて画像化された投稿が“記事”。ネットメディアでは通常、Twitterは自社サイトに誘導するために使われるが、そうではなく、Twitterアカウント自体がメディアなのだ。その証拠に投稿にはリンクはなく、画像のみとなっている。
1つの記事は、情報がびっしりと載った2つの“画像”からなる。パソコンで見ると文字が小さく感じるが、スマートフォンで見るとちょうどぴったりくる。フォロワー数は、4月上旬の時点で26万人以上。これまでの記事の中で最もエンゲージメントが高かったものは、14万件の「いいね」が付き、4万5000件ものリツイートを集めた。
なぜ、このようなメディアを立ち上げたのか? 若者のメディアへの接し方はどう変わってきているのか? 「BuzzFeed Kawaii」立ち上げメンバーの1人で、今はチームを率いるキャサリン ジヘ・ゴウさんに話を聞いた。
「リンクで飛ぶのも、スクロールも面倒」から誕生
「Twitterの画像投稿の中には一記事分の情報を入れてある」とゴウさんは語る。それまでもBuzzFeed内で若い女性向けに記事を書いていたゴウさん。しかし、もう少し読者目線でスピーディーに情報を届けたいと考えていた。
「若者世代に話を聞くと、URLをタップするのは面倒だし、スクロールも面倒くさいという。それなら、Twitter上で完結するのが一番親切で適切では、と考えた」。記事内容は、1つのツイートの画像内で収めるようにしている。「どうしても入らない場合はURL付きもあるが、基本はなし。7割のツイートには付けていない」。
「Twitterにいる、こういう人に届けたい」というユーザー像ありきで書いた記事は、全てTwitterで配信する。BuzzFeed Kawaiiの自社サイトに掲載されているのは、あくまでも、Twitterアカウントで届けた過去の記事を一覧で見られるようにするためだ。
BuzzFeed自体も、各種プラットフォームにコンテンツを発信する“分配型メディア”だ。自社サイトはあるが、FacebookやTwitter、LINE、SmartNewsなど、コンテンツを届けるプラットフォームを増やしてきた経緯がある。BuzzFeed Kawaiiは、より特化させたメディアという位置付けなのだ。
同社ではもともと、いろいろなチャレンジができるが、その中で実験的に生まれたのがBuzzFeed Kawaii。半年間の試験期間を経て、18万フォロワーまで増えた段階で正式発表し、この2月に本格始動となった。
コンビニコスメ、冷凍食品……身近な役立ちそうな記事でヒット
BuzzFeed Kawaiiの読者層は、F1層。
「若い人たちが普段使っているSNSのユーザー数ランキングを見たところ、1位がLINE、2位がTwitter、3位がInstagram。Twitterはユーザーが多く、弊社でもユーザーが多いので『いいかもしれない』と考えた」と、ゴウさんはTwitterを選んだ理由を語る。BuzzFeed Japan社自体、インターンも入れて4、50人くらいの社員の半数は20代という、とても若い会社だ。
これまで特に広告などを打ったことはないが、フォロワーはずっと右肩上がりで順調に増え続けた。ゴウさんは、日々、世の中で話題になっているもの、Twitter上でツイートがバズった理由、バズりやすい言葉や画像を研究し続けてきたという。
BuzzFeed Kawaiiで投稿するのは身近なネタが多い。リツイートや「いいね」が最も多い、エンゲージメントの高かった投稿は、コンビニの冷凍食品についての記事だ。また、「プチプラコスメなど、生活に役立ちそうな話題が人気」とも。
「『デパコス並みにお得なコンビニコスメ』など、ギャップがあるもの、手に入れやすいものが人気。読者の方々は、いろいろ試してみたいとか可愛くなりたい、わくわくが欲しいと思っているのでは。」
BuzzFeed Kawaiiの編集部は、「フォロワーと同じ生活で、ほぼスマホの生活」というゴウさんと、インターンの大学生3人のみ。ゴウさんは、ファッション誌はほぼ全て読み込んでいる。「ファッション誌から新しいネタのヒントを得たり、ドラッグストアで売れているものを見に行ったり、どんなポップだと目にとまるかなどをチェックしている」。
いいね/リツイートは、あとから自分で読み返すため
ゴウさんが気にしているのは、いかにコミュニケーションが生まれるかという点。BuzzFeed Kawaiiの投稿から、ユーザー同士で「美味しそうだね」など会話が弾むことを期待する。「コミュニケーションの場になると、ほかの人にも話題が広がり、可能性も広がる」。
Twitterは140文字という文字数制限があるが、BuzzFeed Kawaiiでは文章も含めて画像化されているので制限がない。「読者のいいねやリツイートは、自分であとで見返すためでは」と分析する。「文章を画像にすると検索の対象にはならないが、情報が多く載せられるので、いいね/リツイートしてあとで読もう、となる」。
投稿では、紹介する全ての商品に数字を振っている。その結果、「1持ってる」「2美味しそう」など引用リツイートにつながっているそうだ。
「若い世代はマガジンアプリ上で雑誌を見ている人も多いと聞いているので、小さな文字に抵抗がない」とゴウさんは分析する。とにかくスマホ最適化を心がけており、画像がどこかで切れずにすべてスマホの一画面で見せるように意識している。
BuzzFeed JapanではPinterestにも公式アカウントがあり、中でもBuzzFeed Kawaiiのボードが一番人気だという。「ピンの保存率が高い。商品を選ぶときの参考にとっておくのではないか」。
ニュースをInstagramで配信――媒体に合わせた見せ方が大切
「今後、Twitterのフォロワー数をもっと増やしたいが、Instagramなどの違うプラットフォームも検討していきたい」とゴウさん。ただし、媒体によって見せ方は全く違うため、そのまま同じものを流すことはできない。
例えば、BuzzFeed Japanが運営するレシピ動画メディア「Tasty Japan」は、FacebookとYouTubeでは規格が違うので動画の見せ方も変えている。動画だけでなくレシピも見たい視聴者のことを考え、Facebookでは別途、URL経由でレシピ情報も紹介する。一方、YouTubeでは動画の下の説明欄にレシピを掲載するなど、プラットフォームごとに変えているのだ。
BuzzFeed自体もかなりミレニアル世代にリーチしており、クイズなどの世代に受けるコンテンツをたくさん出している。「同じニュースでも、Facebook、LINE、SmartNewsで読んでいる人は違うはず。その層が広がるのはいいこと」。
違うプラットフォームを好む層へリーチしようという試みは欠かさない。例えば、Instagramの「BuzzFeedJapanNews」アカウントでは、Instagramでニュースを見せることに挑戦している。写真に記事タイトルのような文字が載っており、2枚目の画像と説明欄で記事内容が見られるようになっているのだ。
「うちのニュースは、多くの人はTwitterやFacebookアカウントで見ているはず。今後、Instagram好きな人たちにも知ってもらい、ニュースを読むきっかけになればと考えている。見るプラットフォームは人によって違うので、どうやって順応していくかが大切」。
現在、BuzzFeed Kawaiiは読者に日々読んでもらい、エンゲージメントを増やすことを重視している。「いずれは広告販売も考えているが、まずはメディアを好きになってもらいたい」(PR Managerの三品容子さん)。
自分がいつの間にか「メディアはこうあるべき」という固定観念に囚われていたことに気付いた。これからのメディアは、読者像に合わせて柔軟に形を変えて、見せ方自体を変えていくことも大切なのかもしれない。
高橋 暁子
ITジャーナリスト。LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/