インタビュー

Slackのエンタープライズプロダクト部門責任者にいろいろと聞いてみた

 Slack Japan株式会社が4月9日、新オフィスのお披露目を行った。そのために来日していた米Slack Technologiesのエンタープライズプロダクト部門責任者であるイラン・フランク氏に新機能の紹介を受けつつ、いろいろとお話を伺うことができたので、その様子を紹介する。

米Slack Technologiesエンタープライズプロダクト部門責任者のIlan Frank氏(右)とSlack Japan株式会社カントリーマネージャーの佐々木聖治氏(右)にお話を伺った

Office 365のOutlookやOfficeファイルをさらに便利に活用できるようになる

 Slackは、Microsoftの「Office 365」と連携し、生産性向上のためのアプリをバージョンアップする。ユーザーが使えるようになるのはもう少し先のことだが、細部にわたり使い勝手が向上している。

 まずは、ファイル機能のアップデートから。これまでもSlackは「Google ドライブ」といったクラウドストレージと連携し、保存されているファイルを直接共有することができた。今回のアップデートで、MicrosoftのOffice 365と連携し、「OneDrive」に保存されているファイルをSlackに投稿できるようになったのだ。その際、アップロードしたWord、Excel、PowerPoint、PDFといったファイルをクリックすると、Slack内で表示されるようになるという。

「OneDrive」からファイルをアップロードし、Slack内でプレビューを閲覧できるようになった

 「Outlook」とも連携できるようになった。例えば、Outlookでミーティングが設定され、参加者として招待された場合、Slackにメッセージが表示されたうえ、参加の可否をボタンクリックで決定できるのだ。さらに、オーディオやビデオを扱えるので、ビデオ会議の時間になったらSlack上から参加することもできる。

 Outlookの予定を参照し、会議の予定時間になると、Slackのステータスも「In a meeting」になる機能も搭載。現在は、オンラインかオフラインかといったざっくりとした切り返ししかできないが、より細かく、何をしているのかというステータスを共有できるようになる。

 また、1日分のプレビューをSlackに投稿することもでき、アプリを切り替えずに予定を把握できるようになる。

会議に招待されたら、Slack上から返事できる
Slack上の「Join Skype Call」ボタンをクリックしてビデオ会議に参加できる
「Outlook」のカレンダーから予定を参照してステータスを変更してくれるようになった
その日の予定をまとめて通知してくれるのは便利
スマホアプリからでも同様の操作が可能

 Outlookに届いたメールをSlackに投稿できるようになった。プラグインを入れることで、メール画面に「Slack for Outlook」というアイコンが追加されるので、クリックするとSlackに飛ばす際のチャンネルか人を選ぶ。コメントを付けたり、添付ファイルごと投稿することも可能だ。

プラグインを入れると、Slackのアイコンが追加される
アイコンを追加すると投稿画面が開くので、投稿先を指定する
コメントを入れたり、添付ファイルを含めるかどうかを選択する
Slackにメールを投稿できた

 Office 365との連携が強化され、ぐっと便利になったSlack。OneDriveとOutlookのユーザーなら、すぐにでも触ってみたい機能になっている。なる早のリリースを期待したいところだ。

グローバルではシングルサインオン機能、日本ではアーカイブ機能が人気

 Slackは、4種類のプランがある。気軽に試せる無料プランだと1万件までの投稿しか保持できず、それ以上は消えて行ってしまう。そこで、まずは1ユーザー960円/月(税別)の「スタンダードプラン」を利用することだろう。筆者が経営している飲食店でも、Slackのスタンダードプランを導入している。

 その上に、1800円/月(税別)の「プラスプラン」と、個別見積の「Enterprise Gridプラン」がある。プラスでは99.99%のアップタイムを保証するサービス品質保証契約やユーザーのプロビジョニングとデプロビジョニングといった内容が追加され、Enterprise Gridでは無制限のワークスペースやデータ損失防止などが追加されると書いてある。

 そこで知りたかったのは、プラスプランやEnterprise Gridのユーザーが、導入の際に一番重視している機能が何なのかということ。

 「IDプロバイダーを経由してSlackにアクセスできるシングルサインオン機能です。」(フランク氏)

 「日本のお客様の観点だと、ちゃんとしたパブリックカンパニーだとコンプライアンス対応をきちんとしなければいけません。プラスプラン以上では、情報をアーカイブして、何かあったときに追うことができます。そこが決め手になります。Enterprise Gridはもっとガバナンスを効かせられるので、プラスを飛び越えてを導入するお客さまが多くなってきています。」(佐々木氏)

 Slackにも多数の企業ユーザーから、日々いろいろな要望が寄せられている。その中から、どんなポリシーでどんな要望に応えているのだろうか。

 「法人からのリクエストには、2種類あります。1つは、セキュリティ機能です。会社のガバナンスに準拠するようにセキュリティを強化して欲しいという要望です。例えば、銀行の例だと、トレーダーの人だけに適用される厳格なセキュリティがあります。例えば、モバイル端末を紛失したときに遠隔操作でキャッシュを消去できる機能だったり、アメリカの金融機関ではトレーダーは同じ組織内のアナリストと情報交換をしてはいけないのですが、それを防げる機能が求められています。

 もう1つが、非ITユーザー向けの要望です。マーケティングや広報、営業の方がOffice 365を使っている場合でも使いやすくしてほしいという要望をいただいています。」(フランク氏)

 非ITユーザー向けにも力を入れているとのこと、納得だった。筆者が経営している飲食店では、早くからグループウェアやビジネスチャットツールといったコミュニケーションツールを活用しているのだが、いろいろと変遷し、現在はSlackを活用している。従業員のデジタルリテラシーは高くないのだが、なぜかエンジニアが愛するSlackが一番使いやすいと口をそろえたためだ。

 「日本語版では、メッセージバーの挙動を変えています。英語版ではEnterを押すと投稿されてしまいますが、日本語では変換時に投稿されないように改行になります。あとは検索です。Yahoo!さんは我々の最大規模のお客様ですが、Slackの日本語サーチはちょっとまだだねと言われまして、逆に彼らからアドバイスをいただいて改善しました。」(佐々木氏)

 ビジネス向けのクラウドストレージでよく話題に上がるのが、データの保管場所。インターネットとはいっても、ファイルを保存するデータセンターがどこかにあるのだ。銀行や医療機関など、国外にデータを保存することができない組織も多く、注目されるポイントだ。

 「現在は、すべてのデータはアメリカに保存されていますが、多国籍企業からはプライバシー関連の機能として自国内にデータを置きたいという要望が寄せられています。」(フランク氏)

 その国にデータを置くという計画は考えているとのこと。ただ、Slackは年内の上場を目指して活動しており、現在はIR活動自粛期間中とのこと。あまり将来の展望を語ることはできないとして、具体的なタイミングなどは伺えなかった。

 Slackは今後、AIに力を入れていくとは言っているのだが、具体的にはどんなところに活用していくのだろうか?

 「我々の考えるAIとは、ロボットが出てきてシフトを肩代わりしてくれるということではありません。Slack内にある情報をAIによって、ユーザーが効率的に仕事ができるようにしてくれるものです。具体例としては、2週間前に新しいChannel Searchを発表しました。検索しているユーザーは誰か、どんなつながりを持っているか、どんなチャンネルに属しているかなどを判断し、返す結果の優先順位を決めています。」(フランク氏)

 Slackは、日本経済の中心地の中心である大手町にオフィスを構えた。住所が「大手町1-1-1」という一等地で、周りには金融系をはじめ大企業がずらりと並ぶ。1つステージを上げた、Slack Japanの今後の動きにも注目していきたい。

柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは20年目で、デジタルガジェットからウェブサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛けている。国内4店舗・海外1店舗に展開する飲食業やウイスキー販売会社も経営しており、デジタル好きと経営者の両方の目線で製品やサービスを紹介するのが得意。