インタビュー

テレワーク難民の受け入れに“ひとりシェアオフィス”、駅・ビルに設置へ。さらには社内にも!?

株式会社ブイキューブ代表取締役社長の間下直晃氏

 「働き方改革」に取り組む企業が増えてきた陰で、「テレワーク難民」の問題が表面化してきたという。

 ある日の朝、株式会社ブイキューブの間下直晃社長は、都内某所の小さな公園のベンチでノートPCを広げ、テレワークをしていた。同社は、世間で働き方改革などと叫ばれ始めるはるか以前からテレビ会議システムの開発を手掛けてきた企業だ。従業員自身、どこの会社よりもテレワークの導入が進んでいるという自負もある。

 とはいえ間下社長も、そんなことで肩ひじ張って屋外でテレワークしていたわけではない。これは、昨年12月、関東で初雪を観測した凍えるような日のエピソードなのだ。

 間下社長はいったいなぜ、寒空の下でテレワークしていたのか? その理由も含め、テレワーク難民対策としても活用されているという同社製品について、詳しく話を聞いた。

テレワーク普及への課題は「場所」

 ブイキューブによると、テレワークが普及するのに必要な要素は4つある。そのうち「制度」「企業文化」「ツール」については環境が整ってきたが、残る「場所」が最後の課題になっていると指摘する。テレワークが行える「場所」がなかなかないというのだ。自社のオフィスという決まった場所でなくとも業務が行えるのがテレワークのはずなのにおかしな話だが、そうした場所を求めてさまようテレワーカーのことを同社では「テレワーク難民」と呼んでいる。

 じつは間下社長はつい先ほどまで、カフェの店内で優雅にテレワークしていたのだ。ところが、テレビ会議の時間が近付くと店をあとにすることになる。店内が静かすぎるのだ。メールのやり取りやテキストチャットなどを行うだけならいいが、テレビ会議となれば声を発することになる。周りの客にとって迷惑だし、そもそも話の内容が周囲に筒抜けになる場所で仕事の話をするわけにはいかない……。

 まさにこの日の間下社長のように、テレワーク場所を求めてさまようことの多い人にとって希望の光となるサービスが、昨年11月、脚光を浴びた。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が都内3駅に実験的に設置した「STATION BOOTH」だ。

「STATION BOOTH」外観イメージ

JR東日本が駅ナカにテレワーク用ブース、“ひとりシェアオフィス”実験提供

 STATION BOOTHは、内部の広さが1.21~1.44㎡ほどのキューブ状のブースだ。デスク、椅子、照明のほか、無料Wi-Fiや電源、USBポート、暖房、モニター、アロマも備えており、ちょうど1人が籠って使えるシェアオフィス空間となっている。JR東日本では、東京・品川・新宿の3駅に各4ブースずつ設置し、そのニーズなどを調査した。不特定多数が行き交う駅の構内でも、秘匿性のある情報を扱うような資料の作成やテレビ会議を伴うテレワークなどを安全・快適に行えるという。

「STATION BOOTH」内部イメージ

 このテレワーク用のブースの筐体を開発・提供したのが、ブイキューブである。独自の防音・遮音構造を備えた小型ブースとして同社が販売している「テレキューブ」という製品に、予約システムなどの機能を拡張したものが、STATION BOOTHとして採用された。JR東日本による実験提供は2月20日で終了したが、ほかにも都内数カ所でテレキューブが実験提供されている場所があり、利用可能だ。

 3月末現在、三菱地所との実証実験で、大手町パークビル1階オフィスエントランス(3台)、新丸の内ビル地下1階ホール(3台)、新東京ビル1階オフィスエントランス(3台)に設置している。また、森ビルとの実証実験でも、六本木ヒルズ森タワーUL階(1台)、六本木ヒルズメトロハット地下1階(1台)に設置している。

大手町パークビル1階の設置イメージ
設置場所・利用料金などの詳細は、「テレキューブコンソーシアム」のサイトで確認できる

 ブイキューブでは今後、テレキューブの設置場所を拡大する方針で、まず駅において、2020年までに30駅への設置を目指す。また、「設置台数が100~200台規模にならないと、インフラにならない」としており、2019年度中に駅以外の場所も含め、100台の設置を目標としている。さらに2020年には駅やオフィスビルのほか、レジデンス、商業施設、空港にも展開したいとし、将来的には全国で500台の設置を目指す。

“ひとりシェアオフィス”を設置してほしい場所、第1位は「駅」ではなく……?

 STATION BOOTHの実験提供について報じた各社の記事に対するSNSでの反応を見ると、おおむね好意的に受け止められていたようだが、その中でちらほら見かけた共通した声がある。「こういうブースが、うちの会社のオフィスにあったらいいのに」というものだ。

 結論から言うと、会社が希望すれば、それは可能だ。じつはテレキューブはもともと、STATION BOOTHのような公共空間への設置を想定したものではなかった。会議室不足に悩む企業や、オープンスペース化が進むオフィスなどでの導入を想定して開発されたものであり、企業向けに販売/リース提供されている。

 STATION BOOTHのベースになった1人で入るタイプは、外形サイズが1200×1200×2315mm(幅×奥行×高さ)、重量が約380kg。オープンプライスで、価格は個別見積もりとなる。

自社オフィスにある「テレキューブ」の前で

用途の第1位は「電話」、次いで「集中」、想定外だったのは「社長室」

 ブイキューブがテレキューブを開発することになったきっかけは、間下社長自身が「テレワークするのに欲しかったから」。今から3、4年前のことだ。その後、具体的な製品企画に着手したのが2017年春。世間でも同様のニーズがあるはずだと、特にマーケティング調査などは実施せず、「テレワークするにも場所がない。今後、絶対に必要になる。我々の感覚が正しいと考えていた」という。

 そして2017年末、テレキューブの発売にこぎつけた。商品化にあたっては、消防庁とも協議を重ね、消防法の観点でも問題がないよう設計した。

ドア部分はガラスだが、ブラインドを装備。ただし、あえて半分までの長さとし、完全には視線を遮断できないよう配慮している

 ブイキューブの自社オフィスには2017年夏より、正式に商品化する前の初期モデルの段階からテレキューブを設置し、同社の従業員が使えるようにしてきた。通常の会議室と同様、使いたい日時が決まっている場合は、会議室の予約システムから事前に予約が可能。また、空いている場合は、その場で使用できる。

 こうして社内でテレキューブの用途を見てみたところ、社外との「テレビ会議」で活用されている場合ももちろんあるが、最も多いのが「電話」ではないかとしている。業務上の連絡手段としてメールやテキストチャットが主流となり、音声通話の頻度が下がっている昨今のオフィスは、静かだ。電話する場合、どうしても周囲が気になってしまう。あるいは周囲に配慮して、席を離れて廊下などで携帯電話でかけ直すようなシチュエーションもよくあるだろう。そもそも、フリーアドレスを採用しているオフィスなど、固定電話がないところもある。そんなとき、テレキューブが電話ボックスになるわけだ。

 次いで目立ったのが、「集中タイム」だ。テレキューブに籠もることで、業務に集中できるとしている。

 また、実際にテレキューブを導入した企業での用途を見ると、従業員の休憩室・待機室に設置しているケースもあった。そのほか、ブイキューブが全く想定していなかった用途としては、「社長室」としてテレキューブを導入した企業があるらしい。

2人用や、オカムラとのコラボによる“オフィス家具タイプ”も投入

 最近、ITベンチャー企業などの新しいオフィスでよく見かけるのが、通常の会議室よりも小さい、1人~2人用の空間を多く設けている例だ。集中タイムやテレビ会議での使用を想定しているようだが、働き方改革で従業員の評価手法が変われば、それに伴い1対1での評価面接などの機会も増えてくるという。

 こうしたニーズを見据え、テレキューブは2018年7月、面談などにも使える2人用も登場した。外形サイズが2400×1200×2315mm(幅×奥行×高さ)、重量が約625kg。こちらもオープンプライズで、価格は個別見積もりだ。

「テレキューブ」2人用
デスクの形状を工夫。斜めに向かい合うポジションで、狭い空間でも程よい距離感を保てるようになっている。ホワイトボードやプロジェクター、2人分のコンセントなども備える

 通常はこうした空間を内装工事で設けるわけだが、間下社長によると、テレキューブと比較すると、工事コストが倍違うこともあると説明する。また、テレキューブは自由に移動できるため、オフィスのレイアウト変更にも柔軟に対応できる点も強みだとアピールする。

 なお、エアコンは搭載しておらず、床下のファンで換気し、体温でテレキューブ内部の温度が上昇しないようにしている。このファンについては、やや音が気になるレベルだった初期モデルに比べ、その後のモデルで静音化が施された。それ以外にも、内部の壁面の色の変更、ハンガー用フックの追加、作り付けのデスクの高さの調整、セットで提供する椅子をハイチェアからゆったりと座れるベンチシートに変更するなど、使いやすいよう改良を重ねている。

1人用の内部
ドアには、使用中であることを示すランプも追加した
厚みのあるデスク。裏面には人感センサーがあり、照明のオン/オフを自動化
初期モデルは、椅子や、デスク・正面の壁の色などが異なっており、その後のモデルで改良した

 また、2018年12月には、オフィス家具や建材製品などを手掛ける株式会社オカムラと共同開発した筐体「TELECUBE by OKAMURA」の販売も開始。ブイキューブによると、「従来のテレキューブのセキュリティ性に加え、働く場としての快適性と安全性のさらなる向上を目指した」。

 具体的には、椅子とデスクについて「オカムラがオフィス家具製造の実績で培った人間工学の知見に基づき、長時間使用しても疲れにくい高さや広さ、座り心地を追求した」。さらに、「遮音性の高い建材仕様のガラスドアを用い、内部には映画館などでも採用される高性能の吸音パネルを設置することで、騒音に関するストレス軽減を図っている」。防火性も強化し、安全性を向上させているという。こちらも1人用と2人用があり、いずれも価格はオープンプライスだ。

「TELECUBE by OKAMURA」

 間下社長はテレキューブについて、今後、働き方改革にとどまらず、遠隔医療などでの活用も期待できるとしている。