インタビュー

無人カーで買い物難民を救う、埼玉の中小企業が挑む自動走行

埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業に参画したステンレスアート共栄に聞いた

埼玉県の中小企業がAIを活用した小型無人搬送車を開発
【今回のハイライト】
中小企業が自動で走る小型無人搬送車の開発に挑戦
歩行者を検知し自動で回避
アバターによるコミュニケーションも実現

 埼玉県および埼玉県産業振興公社が、2020年7月から開始した「埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業」を実施している。前回はアバターロボットを使った取り組みを紹介したが、今回は、有限会社ステンレスアート共栄による「高齢化社会のアシストを目的とした小型無人搬送車を用いた無人車両実証試験」について紹介したい。

 この取り組みでは、AIを活用した小型無人搬送車を製作し、地方都市の商店街と買い物弱者を結ぶ流通インフラを構築。商品を店から購入者へ届けるシーンを想定し、公道に近い状況での実証実験を行う。

 ステンレスアート共栄は、1963年に東京都板橋区で金属研磨業としてスタート。現在、埼玉県富士見市に本社を置く社員数の45人の中小企業だ。いまでは、精密板金、溶接・研磨加工、2D/3D設計・解析、切削加工、アセンブリ、試作開発支援にまで事業を拡大している。

 ステンレスアート共栄の代表取締役社長である永友義浩氏は、「臆せず前に進む企業体質があり、新しいことに挑戦する風土がある。金属研磨業でスタートし、事業を拡大してきたのもそうした社風が背景にある」と前置きしながら、「設計に重きをおいたり、部品を生産したりといった事業を行ってきたが、将来は、メーカーのように、完成品までをトータルで提供できる企業への進化を目指している。そのためにも今回の取り組みはいい経験になる。さらに、アトラックラボとの協業を通じて、制御技術やAI技術を学ぶことができるという要素も大きかった」とする。

 プロジェクトをスタートしたのは、2020年5月。それにあわせて、埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業に応募。WG(ワーキンググループ)2として採択された。

 WG2では、ステンレスアート共栄が小型無人搬送車の開発および製作を担当。制御などの技術開発に関しては、無人機の設計や生産支援、AIを用いた自動運転システムの設計および開発で実績を持つ株式会社アトラックラボが担当する。両社の協業は今回が初めてだ。

高齢化進む埼玉県、小型無人搬送車で買い物難民を救う

 埼玉県は、全国で最も速く高齢化が進むと予測されている。さらに都市部から山間部まで様々な地形があり、高齢者の増加や外出困難者、買い物難民が生まれやすい環境にある。

ステンレスアート共栄の代表取締役社長である永友義浩氏(右)とプロジェクトに参加する同社スタッフ

 永友社長は、「自動搬送技術を応用した自動走行ロボットにより、高齢者や外出困難者、買い物難民といった人たちを支援できると考えた。今回の研究開発を通じて、人と共生ができるロボット車両を活用し、新たな形の流通インフラを実現することで、社会課題を解決したい。埼玉県からモデルケースを生み、日本の社会に貢献したい」と意気込む。

 ステンレスアート共栄でプロジェクトに参加しているのは8人。全員が現業を持ちながら、空いた時間を使って取り組んでいる。溶接部門、設計部門などから優秀なスタッフを選抜。書類提出などの業務も伴うことから総務部門の社員も参加している。

 一方、アトラックラボでは、伊豆智幸代表取締役が中心になって協力体制を敷いた。伊豆代表取締役は、「当社は制御技術を提供する会社であり、それを活用したアプリケーションは、協業する企業に任せている。今回の協業では、ステンレスアート共栄が、どんな形の小型無人搬送車を開発するのかが楽しみだ」と語る。

自動運転の制御はアトラックラボが担当

 アトラックラボでは、AIを活用した自動走行や、人を回避する技術のほか、高精度GNSS(衛星測位システム)や、RTK(Real Time Kinematic)を活用して数cm単位での測位と制御を行い、正確な場所を走行する技術や、オープンソースを用いて無人車両やドローン、無人艇の自動運行を可能とする技術などを開発。自動運転の小型車両が芝刈り機を牽引して庭の芝を刈ったり、人を認識した車両が人に追随して走行したり、無人艇が池のなかの測量を自動で行ったりといったことを実現している。

 「サイバー技術を、フィジカルに活用できるのが強み。当社が開発した技術は、自動車、建設、農業といった様々な分野で利用されている」と伊豆代表取締役は語る。

 アトラックラボの技術にはもうひとつ特徴がある。

 それは、同社が開発した技術は、モジュールとして、オープンソース化され、GitHubを通じて公開しているという点だ。

 「顧客向けの技術開発は、受託契約ではなく、開発後に広くシェアができるようにしている。モジュールを組み合わせたものが顧客の資産になる。キーテクノロジーを多くの人が使えるようにすることで、短期間にプロトタイピングが可能であり、低コストで開発ができる。多くの人たちに付加価値を提供できる」と語る。

 今回の事業においても、その仕組みを活用している。

まずはフレームのみで実験、そして試作1号機を製作

 ステンレスアート共栄とアトラックラボが開発している小型無人搬送車は、ベクトル制御による高効率モーター駆動を採用。GNSSやビジョンを用いた自律運転が可能であり、カメラやレーダーを搭載し、それらの情報をもとにしたAIによる障害物自動回避機能を搭載。4Gおよび5Gによる運行監視が可能であり、利用者とコミュニケーションができるようにアバター機能を搭載し、搬送車に搭載されたディスプレイを通じた対話もできる。車両は後輪が駆動し、10cm程度の段差も走破。前輪はキャスターとなっており、後輪の左右の回転の違いによって、曲がることができる。

 目指しているのは、小型無人搬送車によって、地方都市商店街と買い物弱者を結ぶ流通インフラを構築することだ。AI 技術を用いた無人搬送車でありながら、商店街単位でも購入できるレベルにまで価格を抑えた車両およびシステムにしたいという。

 2020年8月に開発した最初の試作機は、フレームのみで構成した。

まずはフレームのみで機能を確認

 「まずはシャシーだけで構成し、大きさを決め、フレーム強度や駆動範囲、基本制御動作を確認することを目的とした。走行させた結果をもとに、車体の軽量化や荷物の可搬性、ユーザビリティなどの改善に取り組んだ」(ステンレスアート共栄の永友社長)という。

 試作機の走行試験は、埼玉県秩父郡の秩父ミューズパークで行った。支援事業によって、埼玉県が用意した実証フィールドである。

 「車両に搭載したセンサーの高さや位置を変えたり、安全性の問題から隙間や突起を少なくしたり、低重心化や買い物カゴの利用を想定したボディデザインを行った」という。

 この試作機をもとに開発した1号機では、カゴを本体内に収納して搬送を可能とし、人がドアを開閉して、商品などを取り出すことができるようにした。

アルミボディで作った試作1号機

 だが、1号機の走行実験からも、いくつかの改善点が浮き彫りになった。

 「1号機では、開閉部が車両の横にあり、手前側に開く構造としていた。そのため、運ばれてきた荷物を取り出そうとすると、前かがみになる必要があった。2号機では、それを改善するために車両の前方向を開く形に改良し、アクチュエーターで自動開閉する構造にした。高齢者が利用することを考え、荷物を取り出しやすいデザインに変更した」という。

 また、木が多い場所を走ると、GPSが利用できないということが分かり、座標をもとに走らせることができる改良も行った。さらに、1号機では58kgだった重量を、45kgに軽量化。アルミによるボディ構造から、同社が得意とするステレンスを採用することで、柔らかみのあるデザインと、コンパクト化を実現。アンテナ部の構造を見直し可搬性も高めた。また、搬送する内容物に合わせて棚方式を採用することもできるようにし、カップホルダーを使用して飲み物を運べるようにした。

約20kgの商品を積んで20km走れる試作2号機

 「両サイドアクリルにして中が見えるようにしたほか、丸みを帯びたかわいらしさを感じるデザインも採用した」という。

ステンレスボディとなった試作2号機

 2号機では、約20kgの商品配送、約20kmの走行距離、10km/h以下を目指した。

 「高齢者が住む過疎地では、すぐ近くに店舗がないということも想定される。歩いていけない距離を小型搬送車でカバーするために、10kmの距離を往復できることを想定した。5km圏内であれば、なにかトラブルがあっても、戻ってこられる連続走行能力ともいえる。また、ペットボトルや野菜などの重たいものを安全に運ぶことができ、高齢者1人が1週間分の食材を一度で運べることを想定。10kgの重量には確実に耐えられることを前提とした。ここでも安全性を見て、20kgまで対応できるようにしている」とする。

1号機から2号機への改良点

 このように十分余力を持って、安全性をしっかりと確保する設計は、堅牢なモノづくりを行ってきた同社のノウハウが生かされている部分だといえる。

 また、シャシーをシンプルにし、セニアカーの部品を流用するなど、専用設計や専用部品を用いないこと、アトラックラボのオープンな制御技術を活用することなどによって、コストダウンも図っている。市場導入する上で、最適な価格を実現するための努力も進められている。

 小型無人搬送車の実現に向けては、実際の環境に近い形で、安全性や走破性の走行試験を行うことが必要になるが、道交法による制限などもあり、なかなか試験が行えないのが実態だ。

 「走らせてみないと分からないことがある。シャシーも単に強くすればいいというわけでなく、ねじれ剛性を確保しないと、走破性に悪影響を及ぼすことになる。平らな道をまっすぐ走るのならばいいが、急転回する場合や、急こう配を上る場合にも適したシャシーづくりが必要である。また、そうした動作の際に、荷物が倒れない構造にしなくてはならない。実際の走行実験によって得られるものは少なくない」とする。

埼玉県の協力でできた実証実験

 ステンレスアート共栄は、1月29日に秩父ミューズパークで小型無人搬送車2号機の走行試験を行うとともに、2月18日には、埼玉県環境整備センターでも実証実験を行った。

 1月の実証実験では、注文を受けた飲み物を、石ブロックが敷かれた歩道や、道路の段差を乗り越えながら、位置情報をもとに、敷地内のベンチに座っている顧客に配送。ディスプレイを通じて注文者を確認し、飲み物を受け渡し、自動でもとの位置まで戻った。途中、人が飛び出してきたり、進路を邪魔されたりした場合などの挙動についても検証した。

 石ブロックの歩道は、舗装された道路よりも、条件が悪いなかでの実験だったが、飲み物を倒すことなく、悪路も走破することができた。

排水溝などの段差も無事走破することができた

 「より多くの人が歩いていた場合や、対向車があった場合に、センサーがどう反応するか、人を感知して停止する場合にもう少し距離を保ちながらせ停止したほうがいいのではないかといった点では、改善の余地があることも理解できた」とする。

歩行者を認識すると停止
歩行者が向かってきた場合は後退して自動で回避する
車両はカメラを搭載しており、利用者とコミュニケーションが取れる

 また、2月の実証実験では広い敷地内を活用して、小型無人搬送車を周回させ、8kmの距離を走破する試験を実施。これも、公道に近い環境で走行することができたという。このように公道に近い環境で走行実験が行えたのも、埼玉県および埼玉県産業振興公社の支援が大きく影響している。

 「地域の協力や理解を得ることで、広い場所を利用した実証実験が可能になったことは、大きなメリットだった」とする。

社外のJEITAが加わるメリットとは?

 また、今回の支援事業では、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、事業の推進を支援する形で、プロジェクトマネジメントの役割を担っている。

 ステンレスアート共栄の永友社長は、「現業とは別に取り組んでいるプロジェクトは、どうしてもスケジュールが遅れがちになる。解決できない課題が発生した場合には、もう少し時間をかけて解決しようということになり、それが全体のスケジュールの遅れにもつながりやすい。JEITAに参加してもらい、最初に提示したスケジュールを守ることを、会社の外からしっかりと管理してもらうことで、予定通りの進行が可能になった。納期がないものや、長期的な納期の案件に対しても、しつかりと目標を決めて、スケジュール通りに進めることの重要性を改めて学ぶことができた。この経験を社内で生かしていきたい」とする。

 納期が長期化している場合、前半は作業がゆっくり進み、後半になって一気に追い込むというのはよくあることだ。こうした課題を解決する仕組みを導入する上でも、今回の経験が生きそうだという。

 埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業は2月26日で終了するが、今後、ステンレスアート共栄では、このブロジェクトをどう進めていくのだろうか。

昨年7月から開始した埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業は2月26日で終了

 ステンレスアート共栄の永友社長は、「支援事業終了後に、社内で一度総括をして、社員の気持ちを聞きながら、次のステップに取り組んでいきたい」とする。

 支援事業では、高齢化社会のアシストを目的とした小型無人搬送車の開発が主眼となったが、「社会実装を考えると、ひとつのターゲットに絞り込むよりは様々な使い方を想定しながら、ある程度枠を広げて検討したり、実験をしたりする方がいいと考えている。自動搬送車の可能性や安全性を高め、完成度をあげるためにも、あらゆる条件において実験を進めていきたい」とする。

 自動搬送車を実用化したり、事業化したりするには、超えなくてはならないハードルが多い。日本では道交法の改正を待たなくてはならない部分も多いだろう。また、市場性についても検証していく必要がある。

 永友社長は、そうしたことを捉えながらも、「高齢者支援や無人車両の実用化といったテーマは、社会課題の解決という観点や、新たなサービスの創出といった点でも、世界中から注目を集めるものになる。このプロジェクトを一過性のもので終わらせるのではなく、社員がどんなことをやりたいかといったことを聞きながら、社長プロジェクトとして継続していきたい」とする。

モノづくり全体を体験することで得られた気づき

会社としてのこだわりでステンレスボディにした試作2号機

 一方で、今回の取り組みを通じて、モノづくり全体を体験することができた点も大きなメリットだとする。

 「これまでは、図面をもとに、部品を作る仕事が中心だったが、実際に、モノづくり全体を体験し、実証実験を行ったことで、メカトロの制御の重要性に気づかされ、実際に動かすことで、なぜ改良が図られたのかという意味を理解できるようになった。1号機から2号機に改良した部分を図面の上で知るだけでなく、実験を体験したことで、その理由はなぜかといったことを理解した上でのモノづくりの大切さを、社員が身を持って体験できた。プロジェクトを通じて、新たな世界を見ることができたのは確かであり、この体験は財産になる」とする。

 今後も、社員の自発性、創造力の育てる取り組みのひとつとして位置づけ、若手の育成にも活用できるプロジェクトに進化させたいという。

 「こうした体験が、会社にとって、将来の礎になればいい」と、永友社長は語る。
新規プロジェクトという枠を超えた取り組みだといってよさそうだ。