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国内開催は19年ぶり、誰でも参加可能なネット資源の国際会議「ICANN64」、神戸で3月9~14日開催

今からでも駆けつけるべき理由と注目される話題

 3月9日から14日まで、「第64回ICANNミーティング(ICANN64)」が神戸ポートピアホテル/神戸国際会議場(神戸市中央区)で開催される。同ミーティングは、インターネット資源に関するポリシーなどをグローバルに議論・調整する場として定期的に開催されているもので、今回、世界各地から2200名が参加する予定となっている。

 日本では2000年に横浜で「ICANN6」が開催されて以来19年ぶり・2回目の開催となるICANN64では、どのような議論が行われるのか? 3月4日に一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)で行われた事前説明会の内容の中から、ポイントとなる話題を紹介する。

 なお、ICANN64はオープンな場として設けられており、関心のある人は誰でも自由に参加可能。ウェブでの事前登録を行えば当日参加もでき、参加費も無料だ(登録可能な時間帯は8時~18時30分、ただし最終日は13時まで)。国内開催ということで、主要なセッションについては日英の同時通訳も用意される。日本語で質問や意見の表明ができる貴重な機会でもある今回のICANN64。インターネットにおける最新の話題に興味のある方は、参加を積極的に検討してみてはいかがだろうか。

「ICANN」とは?

 ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)とは、ドメイン名やIPアドレスなど、インターネットの基盤となる資源に関するグローバルな調整を行うために、1998年に米国で設立された民間の非営利法人である[*1]。おおまかには、トップレベルドメイン(TLD)の委任、IPアドレスの割り振り・割り当て、ルートゾーンに対する管理・調整などをその当事者による民間主導で行う組織だと考えればよい。

 この“当事者による民間主導”という点と、意思決定のあり方として、IETF(Internet Engineering Task Force)以来のインターネットの伝統である“オープンネス”“ ボトムアップ”“透明性”を尊重するかたちを取っていることが重要である。インターネットのことは、利用者も含めて、インターネットに関わる当事者で決めていくというスタイルだ。ICANNの活動は全世界に開かれたものとなっており、関心のある人は誰でも自由に参加できる。メーリングリストでの議論・検討やオンライン会議のほか、年3回行われるICANNミーティングがフェイスツーフェイスの場として開催されている。

 ICANNミーティングでは、技術からポリシーまで幅広い内容が議論される。前述した、TLDの委任をどうするか、IPアドレスの割り振りをどうするかといった話題にとどまらず、Whoisで表示される情報の取り扱いや、プライバシーの保護、ICANNそのものの今後の活動戦略といった話題も対象となっている。

[*1]…… ICANN情報(JPNIC)

「ICANN64」で注目される話題は?

 では、今回のICANN64ではどのような話題が議論されるのであろうか。ここ数年では、2012年に実施された第3回の新gTLD募集[*2]や、2016年のIANA機能の監督権限の移管[*3] [*4]という大きな話題があった。今回のICANN64では?

 ICANNアジア太平洋担当バイスプレジデント兼マネージング・ディレクターのジアロン・ロウ(Jia-Rong Low)氏は、最初にICANNミーティングに初めて参加する技術者向けの「How it works」セッションで扱われる以下の5つの項目を紹介した。

  • DNSの基礎
  • DNS不正使用(DNS Abuse)
  • ルートサーバー運用
  • Registration Data Access Protocol(RDAP)
  • DNSSEC

 このうち、DNS不正使用(DNS Abuse)はDNSの悪用のこと[*5]である。

 また、ICANNの将来に関する項目として、以下の2つを紹介した。

  • 2021~2025会計年度 戦略計画
  • ガバナンスに関するICANN理事会セッション

 これらはICANNそのものの活動に直結する話題であり、その議論は重要であろう。

 続いて、ポリシー策定関連の項目として、以下の2つを紹介した。このうち、EPDPについては後述する。

  • gTLD登録データ暫定仕様
    - 迅速ポリシー策定プロセス(EPDP:Expedited Policy Development Process)
    - Whoisシステムに影響を与えたEU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)関連
  • 次回の新gTLD募集手順

 技術関連としては、以下の2つを紹介した。

  • Tech Day
  • Emerging Identifiers Technology

 Tech Dayは、ICANNが関心を持つ技術的話題や課題についての情報交換や議論をする場[*6]で、Emerging Identifiers Technologyは、新しい識別子の技術などについての情報交換や議論をする場[*7]である。今回のEmerging Identifiers Technologyでは、DNS over TLS(DoT)やDNS over HTTPS(DoH)に関する話題が扱われるようだ。

「EPDP」「GDPR」「DNS Abuse」に注目

ICANNアジア太平洋担当バイスプレジデント兼マネージング・ディレクターのジアロン・ロウ(Jia-Rong Low)氏

 筆者が個人的に注目している項目として、gTLD登録データ暫定仕様におけるEPDPとGDPR関連の話題がある。なぜなら、この話題は、非公開登録データの扱いと、そのデータへの標準化されたアクセスモデルをかたち作るものであるからだ。

 インターネットにはWhoisという仕組みがあり、ドメイン名やIPアドレスなどの登録者情報をインターネットユーザーが参照できるようになっている。Whoisによる登録者情報の公開は、インターネットを運用する上で技術的な問題が発生した際や、ドメイン名と商標などに関するトラブルなどを自律的に解決する際に、必要となる連絡先(コンタクト情報)を得るために使われることを想定したものである。

 しかし、最近では個人情報保護の流れや、EUのGDPRへの対応のため、Whoisにおけるコンタクト情報の非公開化が進んでいる。そのため、正当な目的を有する利用者がWhoisデータの非公開部分にアクセスできるようにする(アクセスを認定する)ための標準的な仕組みが求められるということになる。

 この仕組みは、「Unified Access Model」と呼ばれており、現在、ICANN事務局がその枠組み案を欧州データ保護会議(EDPB:European Data Protection Board)と一緒になって議論を進めている[*8]。そのため、今後、個人情報を扱う組織や人々にとって有用な、何らかの情報が出てくることが期待できる。

 また、DNS Abuseに関する話題にも注目したい。ICANNでは「DAAR(Domain Abuse Activity Reporting System)」[*9]というかたちで、TLDにおけるドメイン名の登録と悪用のデータを調査・報告するシステムを運用し、そのデータを公開[*10]している。

 このDAARによってレポートされた結果(参照先は2月号)を見ると、計測されたTLDにおけるフィッシングやマルウェア、スパム、ボットネットのコントロールで使われているドメイン名のパーセンテージが分かりやすくグラフ化されている。このような情報が継続して公開されれば、将来的には、そのTLDの信頼性を評価する指標の1つになるかもしれない。何がどのように調査され、どのように評価されるのか、早めに知っておくとドメイン名のブランディングなどを行う際に役立つはずだ。

日本語で質問・議論できるセッションも

 冒頭で述べたとおり、ICANN64は、日本において2000年に横浜で開催されたICANN6以来、19年ぶり、2回目の開催となる。会議は主に英語で行われるが、日本語での同時通訳が提供されるセッションが数多く用意されている[*11](英語が苦手な方でも、情報収集の一助となるだろう)。

 ICANNは、インターネットコミュニティの合意によって作られた組織である。ICANNの活動はインターネットそのものの円滑な運用と健全な発展に寄与するものであり、今回のICANN64も、日本を示すccTLD「.jp」のレジストリである株式会社日本レジストリサービス(JPRS)など、ドメイン名関連事業者、インターネット関連団体など数多くの組織に支援されている。インターネットコミュニティの合意によって作られた組織を支えるのも、またインターネットコミュニティなのだ。

 ICANN64では、インターネットコミュニティへの貢献をオールジャパンで実現するために、関係する企業、団体、行政等が一体となって設立した「ローカルホスト委員会」による日本語のページが作られている[*12] [*13]。よろしければ、参考にしていただきたい。

ICANN64ローカルホストウェブページ
QUICK GUIDE日本語版