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横井庄一さんの生涯をまとめて絵本に、1年間で800冊“手作り”→疲れたころにAmazon PODに出会ってセルフパブリッシング

「よこいしょういちさん」著者の亀山永子さんらが出席し、「ネクパブPODアワード2019」授賞式

3月29日に行われた「ネクパブPODアワード2019」授賞式にて。(前列、向かって左から)優秀賞:鈴木加菜さん(藤川徳美氏代理)、優秀賞:伊藤潤さん、最優秀賞:亀山永子さん、優秀賞:西川秀和さん。(後列、向かって左から)選考委員の井芹昌信氏(株式会社インプレスR&D代表取締役社長兼株式会社近代科学社代表取締役社長)、小山透氏(株式会社近代科学社取締役)、土田米一氏(株式会社Impress Professional Works代表取締役社長兼株式会社インプレス取締役)、塚本由紀氏(株式会社インプレスホールディングス取締役)、下川和男氏(イースト株式会社代表取締役会長)、川原田陽介氏(アマゾンジャパン合同会社書籍事業本プロダクトマネジメント部長)

 株式会社インプレスR&Dが運営する「著者向けPOD出版サービス」を利用して出版された書籍を表彰する「ネクパブPODアワード2019」の授賞式が3月29日に開催された。横井庄一さんの生涯を描いた絵本「よこいしょういちさん」で最優秀賞に選ばれた著者の亀山永子さんらが出席し、POD出版に至った経緯などを語った。同アワードではこのほか、優秀賞に6作品、Amazon賞などの審査員特別賞に6作品が選出されている。

個人が紙の本を出版できる「著者向けPOD出版サービス」

 著者向けPOD出版サービスとは、インプレスR&Dの出版ブランド「NextPublishing」の中で展開しているサービス。Amazon.co.jpのPOD(プリントオンデマンド)サービスを活用して、個人や団体が誰でも紙の本をセルフパブリッシングできるようになっている。書籍のPDFファイルを著者が用意すれば、サービス登録料・使用料など不要で利用でき、実際にAmazon.co.jpで書籍が売れたときのみ、販売手数料と印刷費が発生する仕組み。書籍の販売価格からそれらを差し引いた額が著者に支払われる。

 この著者向けPOD出版サービスで発売された書籍は、昨年度は292点・販売額は1899万円だったのが、今年度は811点(前年度比278%)・販売額も7787万円(同410%)へと増加。アワードではこのうち、2018年1月以降にAmazonにおいて出版済みで、かつ2019年1月末時点でAmazonで販売実績のある作品を対象とし、著者からのエントリーのあった233点を審査した。

 なお、インプレスR&Dによると、POD出版サービスは、Amazonでの累計販売額がサービス開始から約2年半で1億円を超え、直近3カ月の月平均販売額は1000万円に上っていることから、「個人によるPOD出版が中堅出版社に迫る規模にまで急成長を遂げている」とアピール。同社では「これからもPOD出版サービスを通じて、出版の原点である著者およびユニークな知の流通を応援する」としている。

最優秀賞(賞金50万円)

「よこいしょういちさん」(著者:亀山永子)

「ネクパブPODアワード2019」最優秀賞の「よこいしょういちさん」(著者:亀山永子)

 横井庄一さんの生涯をモノクロの切り絵とやさしい文章でまとめたこの書籍は、もともとは手作りの絵本として亀山さんが制作していたものだ。この作品を手作りすることになったきっかけと、POD出版に至った経緯について、亀山さんは以下のように説明する。

 「横井庄一さんの生涯を知り、こんなに強く生きられるんだと自分自身が励まされたので、読み聞かせに行っている児童館の子どもたちにも知ってもらいたいと思いました。でも、どこを探しても横井庄一さんの生涯を描いた絵本がありませんでした。それでもあきらめきれなかったので、自分で切り絵や、横井さんの生涯を調べ、横井さんの奥さまにも話を聞いて、本を完成させました。」

 とはいえ、自費出版するにはお金がかかる。亀山さんは絵本を手作りすることとし、本を作っては近くの小中学校の図書館に持ち込んだという。その数は、約1年間で800冊を超えた。しかし、そのころには本を作ることに疲れてしまい、材料費も負担になってきた。そんなとき、POD出版のことを知った。

 「こうやって本の形になって、読みたい方が買って読んでくださるということがうれしく、何よりも横井庄一さんの奥さまがいちばん喜んでくださいました。今、本を出版したいという夢を持っていらっしゃる方に、POD出版のことがもっと知れ渡るといいなと思っています。」

Amazon.co.jpで購入

優秀賞(賞金20万円)

 優秀賞6作品の概要と、選出利用は以下の通り。

「Python クラウド量子計算 QISKITバイブル」(著者:中山茂)

 既存出版社でも出版実績のある著者がPOD出版した書籍。頻繁にバージョンアップがあるIT関連をテーマにした書籍は、著者が改訂版を出したくても、在庫を理由に出版社から出版を断られるケースも珍しくない。自分の著作なのに出版時期や表紙なども自由に決められない点に不満を感じた著者が、POD出版のメリットを生かし、最先端のIT技術を解説した書籍を出版したことが評価された。著者は地方在住で、現在70歳。このほかにも多くの著作をPOD出版しており、自宅で出版活動に取り組んでいることが、出版意欲のある人々にとって励みになる事例であることも高く評価された。

「似顔絵って難しいよね 似せるための観察方法と考え方」(著者:マジェリン&かっと)

 似顔絵師の夫婦2人で制作した似顔絵の技術書。似顔絵サンプル150点以上を掲載し、似せるために必要な観察方法と考え方を解説している。似顔絵教室で使う教科書だが、より多くの方に読んでもらえるチャンスがあると思い、AmazonでPOD出版した。2018年1月の発売以降、日々コンスタントに売れているロングセラーであることを評価。アワードの対象期間中に700冊以上、約170万円の売上実績があったという。

「超簡単メガビタミン入門1(著者:小西伸也)

 手技治療院を経営する著者が、分子栄養学を解説した入門書。一般の人には難解な内容を中学生でも理解できるよう、本文を対話形式で構成。例えを使って、気軽に読み進められるように工夫している。アワードの対象期間中に3200冊以上、約390万円の売上実績があった。

「分子栄養学による治療、症例集」(著者:藤川徳美)

 広島県で心療内科クリニックを経営し、出版社から書籍を出版した経験もある著者。約15000人のフォロワーを抱えるFacebookで情報を発信してきましたが、もっと多くの人に分子栄養学理論や治療症例を知ってもらいたいと、書籍としてまとめた。健康関連書籍ではやや高価な2000円という価格ながら、約2200冊、450万円以上の売上実績があった点が評価された。

「アレルギー検査のミ・カ・タ」(著者:伊藤潤)

 アレルギーを専門とする現役医師が、アレルギー患者への説明用に作った書籍。親しみやすいイラストも著者の手によるもの。オールカラーで作られており、全ての漢字にふりがなを付けている。POD出版では、執筆はもちろん、表紙のデザインやイラストなど、制作面の全てを自分で手がける著者が多く、完成した書籍への満足度も高いのが特徴。この書籍も、著者自身が読者のためを思い、工夫しながら楽しんで製作した様子が紙面から伝わり、好評価を得た。

「ビリー・ザ・キッド、真実の生涯」(飜訳:西川秀和、著者:パット・ギャレット)

 あるゲームに登場するキャラクター「ビリー・ザ・キッド」から史実にも興味を持つファンに、この本を読んでもらいたいと思ったのが翻訳のきっかけ。飜訳者がSNSで購入者を募り、POD出版した。SNSとPOD出版という、新しい時代の宣伝方式と出版方式の組み合わせで効果を出した点が評価された。SNSの宣伝告知により、24時間で100冊以上を販売する快挙を達成したという。

審査員特別賞(賞金5万円)

 審査員特別賞6作品の選出理由について、各選考委員のコメントは以下の通り。

Amazon賞「『やればできる』が身に着く 小学生 新体力テストの攻略本」(著者:岩﨑 千治)

 「新体力テスト」のテスト項目に合ったトレーニングがイラスト付きで説明されており、読みながらすぐに実践できる作りになっている。 目標設定の方法についても触れており、この1冊で「持続的な体力づくり」ができるよう工夫されている。内容自体の良さに加え、これまで費用面で断念されていた出版を「NextPublishing」で実現したことで、将来、自費出版を目指す方にも参考としていただけるような販売実績以上の成果を上げられた点も評価した。今後は、ぜひ続編にもチャレンジしていただきたい。(アマゾンジャパン合同会社書籍事業本プロダクトマネジメント部長の川原田陽介氏)

イースト賞「ふたごべん おべんとうづくりから気付いた、生きるということ」(著者:chica)

 2つ並んだお弁当の写真も簡潔な文章も素晴らしく、一人の著者でここまでの表現ができることに驚いたた。Instagramからの出版だが、個人の多彩な才能の開花を支援する「ネクパブPODアワード」にふさわしく、chicaさんの次回作、そしてあとに続く方が現れることにも期待している。(イースト株式会社代表取締役会長の下川和男氏)

近代科学社賞「管弦楽法の基本」(翻訳:平沢奏汰、著者:Nikolai Rimsky-Korsakov)

 原著はDover Publications; Revised版(1964年)で512ページにわたる大著。内容は、管弦楽の作曲・編曲に関するノウハウ、楽器の奏法と楽器を組み合わせる際のポイント、そして具体例がまとめられており、この分野での歴史的名著の誉れが高いとのこと。長く外国語でしか読めなかった原著がこのたび日本語に新たに訳出されて本書が出版されたことは、作曲・編曲に興味をいだいている人々はもとより、広く音楽に興味をいだく多くの一般人にとって、まさに福音となったことだろう。「NextPublishing」のPODという新たな出版手段によって本書が刊行されたことは、従来では実現が難しかった書籍の出版への門戸の幅が大きく広がっていることを実証してくれた。その功績はまことに多大なものがあると評価した。(株式会社近代科学社取締役の小山透氏)

インプレスホールディングス賞「一刻一生」(著者:池田青谿)

 米寿を迎える著者が30年に渡って制作した篆刻をまとめた作品集。誕生日を出版日に設定し、長男と1年かけて執筆や編集に取り組んだという。個人的な記録にとどまらず、読み物として成立するよう、ページレイアウトなどを分かりやすく構成。篆刻作品自体が美しく、また、表した語句の意味や出典・時代背景を、年代順に身近な世相と暮らしを交えて解説することで、文化的・史料的意義が深まっている。人生の節目に配れる本というかたちでまとめたことにより、旧交を温め、次作への意欲につながった喜びは、個人出版の醍醐味であり、POD出版の利用方法として正統的と言っていい。(株式会社インプレスホールディングス取締役の塚本由紀氏)

インプレス賞「消費税法 無敵の一問一答 課否判定一覧集」(著者:川上悠季)

 著者が制作したスマホアプリ「消費税法 無敵の一問一答」の収録問題を書籍化したもの。アプリの機能を補完するための書籍化という発想が面白い。税理士試験の受験生を対象としたコンテンツゆえ、毎年改正される税法に素早く対応するのにもPODは最適だという。電子書籍版も用意し、アプリの操作はYouTubeで紹介、別の書籍では自らイラストも手掛け、LINEスタンプにまで挑戦する若き税理士に拍手!(株式会社Impress Professional Works代表取締役社長兼株式会社インプレス取締役の土田米一氏)

NextPublishing賞「ウェイトトレーニング -実践編-」(著者:山本義徳)

 もともと電子書籍として発刊されていた2冊の書籍をまとめて加筆修正した作品。著者の山本義徳さんは昨年、別の書籍で最優秀賞を受賞していたが、今回の書籍は、さらにプロモーション、企画、販売、全ての点において実績を残している点を高く評価した。特にSNSを活用したプロモーションがうまく、イベントのあとには著書の売上がぐんと伸びる。著者本人だけでなく、ファンの方が情報を発信している点も理想的な展開。まさに“PODスペシャリスト”と呼ぶにふさわしい方で、POD出版ユーザーの方、これからPOD出版にチャレンジする方は、ぜひ参考にしていただきたい。(株式会社インプレスR&D代表取締役社長兼株式会社近代科学社代表取締役社長の井芹昌信氏)