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ふるさと納税、寄附者の注目は“返礼品”から“寄付金の使い道”へと変化
「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクが報道関係者向け勉強会
2019年12月23日 12:00
ふるさと納税のポータルサイト「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクは、ふるさと納税に関する最新動向と今後の展望について解説する報道関係者向けの勉強会を実施した。
会合の冒頭では、同社取締役の川村憲一氏が、ふるさと納税の最新動向を解説した。ふるさと納税とは、地方間格差や過疎などによる税収の減少に悩む自治体に対して、格差是正を推進する制度であり、進学や就職などで地方から都会へ移った人が、生まれ育った地域に納税するのではなく、移り住んだ先の都会へ納税することで、租税収支のアンバランスを是正することを目的としている。
この制度は2008年度にスタートし、5年目の2012年度に「ふるさとチョイス」が始まった。その後、2014年度くらいから、各自治体において、ふるさと納税をした人にお礼の品(返礼品)を返す取り組みが増えたことに加えて、2015年の制度改正により、控除上限額が倍になったほか、確定申告をしなくても住民税の寄付金税額控除を受けられる「ワンストップ特例制度」が創設されたことなども後押しして、利用者や寄付金額が大きく伸びていった。
ふるさと納税は、寄附者から見ると、自治体へ寄附ができる制度であり、「お礼の品が贈られる」「寄付金の使い道が選べる」「税金の控除を受けられる」の3点がメリットとして挙げられる。川村氏によると、以前は返礼品や税金の控除に注目してこの制度を利用する人が多かったが、最近では2つめの「寄付金の使い道が選べる」ことへの注目が高まっているという。
「弊社では、高額所得者で『ふるさとチョイス』を数多くご利用いただいている方を集めてファンミーティングを開催しています。そこでお話を聞くと、『当初はお礼の品をもらえることや、税金の控除を受けられることがきっかけでふるさと納税をスタートしたけど、最近は寄付金の使い道をきちんとフィードバックしてくれる自治体を選んでいる』といった声が多くなってきました。」(川村氏)
また、同社では「ふるさとチョイスCaf?」という、ふるさと納税について知ることができて、そこで寄附もできるカフェを東京・有楽町駅近くで運営しており、そこで開催した寄附者向けセミナーでも、最近では「寄付金の使い道に共感してふるさと納税を行っている」という声が多くなってきているという。
自治体が選択してほしい使い道、1位は「子供・青少年」
同社が12月3日~6日に自治体へ行ったアンケート調査によると、ふるさと納税において各自治体が最も選択される「寄付金の使い道」は何かという問いに対して、最も多かったのが「おまかせ」、2番目が「子供・青少年」、3番目に多かったのが「文化・教育・生涯学習」、4番目が「自然保護等」、5番目が「医療・福祉」だった。
現状がこのような結果となったのに対して、自治体が選択してほしい使い道については、最も多かったのが「子供・青少年」、2番目が「文化・教育・生涯学習」、3番目が「おまかせ」、4番目が「医療・福祉」、5番目が「農林漁業・水産業・商工業」だった。
社会全般で高齢化が進む中で、ふるさと納税の税収を若い世代や教育のために使ってほしいという要望が寄附者としても意外と多く、また、自治体でもそのように考えているということが分かる。
ただし、ふるさと納税についてよく分かっていない人は「おまかせ」を選んでしまうケースが多いのも現実だ。自治体側の認識としては、「ふるさと納税で集めた寄付金の使い道について、情報公開はできていると思うか」という問いに対して、寄附者への情報公開については80%の自治体が、そして住民への情報公開については63%の自治体が「情報公開はできている」と回答している。
一方で、「寄附者が寄付金の使い道を意識できる環境になっていると思うか」という問いに対しては、「あまりないっていないと思う」「ほとんどなっていないと思う」と否定的な意見が半数を占める結果となっている。このような現状を踏まえて、トラストバンクとしても「使い道」にもっと注目してほしいということでさまざまな取り組みを進めている。
返礼割合の上限などを設けた法改正を実施
川村氏は、2019年度の制度改正に至った経緯についても説明した。総務省は2015年4月に各自治体に対して返礼品を高額にしないように要請し、2016年には商品券や家電、貴金属を返礼品にしないように要請した。
その後、2017年4月には還元率(返礼割合)を3割以下にするように通知したほか、2018年4月には返礼品を地場産品にするように通知している。ところが、この通知を一部の自治体が守らなかったことから、総務省は2018年9月に、地方税法を改正して規制を強化する方針を表明。2019年3月に地方税法改正案が可決し、6月に適用開始となった。
実はトラストバンクは、総務省が返礼品を高額にしないように各自治体に要請した2015年4月に、ふるさとチョイス独自の掲載基準として、「還元率が著しく高いもの」「換金性が著しく高いもの」「大会社の商品等」「その自治体にお金(返礼品の代金も含む)が落ちないもの」は制限するという旨を発表している。
この措置は、同社がふるさと納税という“ツール”を使う目的を「地域が自立し、持続可能な状態を作るため」であると考えており、「寄附者が地域行政に関わり、自治体や地域の事業者・生産者が自立のための力を育むことができてこそ、それを達成できる」と考えているためだ。このような考え方から、ふるさとチョイスでは全国共通のポイントやギフト券などのプロモーションは実施していない。
例えば返礼品にAmazonギフト券を付けたとしても、それでは地域の自立やノウハウの蓄積には結び付かない。寄附したお金が外に流れていくのでは意味がなく、同社はそのために手数料についてもできるだけ地域に届けるために、平均2~3%と低くしている。あくまでも、地場の産品がきちんと認知されて、それが広がっていくような取り組みを後押ししたいというのがトラストバンクの考え方だ。
法改正前は、返礼品の割合が5~8割を占める自治体もあり、その中には返礼品が地場産品ではなく、海外産のものを採用しているところもあった。また、販売促進のための人件費や広告費、ポイントバックなどの経費も首都圏の事業者に流れるため、それらを差し引くと地元に残る税収はわずかなものとなってしまう。
法改正により、「お礼の品の返礼割合は3割以内」「お礼の品はその地域の地元の産品に限る」というルールを設けることで、地場産業の発展に役立つともに、自治体の税収が寄付額の半分くらいを占めるようにすることで、地域住民への還元につながる。また、販売促進についても地域商社などを活用することで一緒に地域を盛り上げて、雇用につなげることができる。
なお、今回の法改正では、総務大臣の指定を受けた自治体だけが控除対象になることもポイントで、申請しなかった東京都や、指定を受けられなかった大阪府泉佐野市や静岡県湖山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町などについては寄附をしても控除の対象にはならない。
「当社も法改正に則りながら、かつ、われわれの掲載基準をしっかり持った上で、ふるさと納税の制度を健全に発展させていきたいと思います」と川村氏は語った。
ポータルサイト各社で協議を開始
川村氏のスピーチに引き続き、会場からの質疑応答の時間が設けられた。初めに、「選んだ使い道に確実に寄付金が届いているかということを、寄附者にどのように理解してもらっているのか?」という質問に対しては、トラストバンク代表取締役の須永珠代氏が、「寄付金が本当に寄附者が求めている用途に使われているかは、なかなか分かりにくいのが現状なので、ふるさとチョイスの『ガバメントクラウドファンディング』では、ただ単に“子育て”ではなく、“公園に行くまでの交通手段の拡充に使用”といった、より具体的な使い道を示し、寄附者に対しては実際に『このように使わせていただきました』と報告する機能を、より充実させたいと思います」と語った。
また、「ポータルサイトの中には共通ポイントなどによる競争が起きているが、ポータルサイト同士の競争についてはどのように考えているのか」という質問に対しては、「ポータルサイトの中には独自のポイントなどを提供していて、法律的に規制されているものではないが、それは地域のためにはならないため、弊社ではやっていません。そのような当社のポリシーを理解している自治体もあり、そのポリシーは貫きたいと思います」と語った。
このほか、返礼品を送付する際にかかる送料やポータルサイトへの掲載手数料が自治体にとって負担となっていることについては川村氏が回答した。
「送料については、詳細はまだ言えませんが、われわれが持っているネットワークを使ってなんとかできないということで、現在、取り組みを進めています。また、掲載手数料については、手数料の比率をできるだけ低くするだけでなく、ポータルサイトに掲載することで(自治体の取り組みが)きちんと共感されて、地域が自立できる状況を作るためにどういうことが必要なのか、現在、サービスの内容を深めている状況で、自治体の業務の改善につながるようなツールをご提供するといった取り組みも進めています。ふるさと納税はあくまでも、成し遂げたいことを実現するためのツールであり、これをどんどん広げて深めていくことが大事だと思っています。」(川村氏)
また、須永氏によると、現状では送料が負担となっているため、「それなら現地に来てもらおう」という発想で、体験型の返礼品が増えている傾向にあり、ふるさとチョイスでも、体験型の品が昨年比で1.75倍に増えているという。
このほか、自治体だけでなく、ポータルサイトでも適正なやり方を模索するべきではないか、という記者からの意見に対しては、執行役員の上野雄介氏が「6月の改正法の施行以降に、ポータルサイト各社が集まって協議を始めており、最終的な調整を始めています」と語った。今後は自治体だけでなく、民間のポータルサイトにもさまざまな変化が起きそうだ。