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「新型コロナ対策」でネットのトラフィックが増加? 平日は最大15%増、IIJが分析

ピークはあまり変わらず

  株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)は、新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響をまとめた開発者向けブログ記事を公開した。全体としては平日昼間のトラフィックが少し増えたものの現状ではなんとか既存の容量に収まっている状況としている。

 新型コロナウイルス(COVID-19)により、企業でも在宅勤務が推奨される中、小学校、中学校、高校が休校となった3月2日以降、リモートワークのビデオ会議や、臨時休校の子どもの動画視聴が急増し、インターネットのトラフィックが激増しているとの噂とともに、SNSなどでは、個別のサービスや回線の逼迫に対する推測や不満が拡散されている。

 ただ、全体的なインターネット回線の状況に対する情報は、あまり提供されていない。IIJによれば、フレッツ光/フレッツADSLの自社サービスにおけるトラフィック状況は、全国の学校において臨時休校が開始された3月2日以降に、傾向が明らかに変わったという。

 COVID-19の国内感染拡大がみられ始めた2月17日の週には、まだリモートワークは実験的な段階だったが、翌2月24日の週は、月曜が振替休日だったものの26日から電通や資生堂などの大手企業が大規模なリモートワークを開始した。

 そして3月2日以降、在宅勤務を行うユーザーも急増し、外出を控える人が増えて街から急に人が減った。これ以降は、ダウンロード量が夕方からピークを迎え、夜中過ぎから急速に減り、早朝に最少となった。休日には昼間のトラフィックが多くなるが、アップロードはダウンロードより1桁近く少なく、はっきりしたピークもないという。

3月2日を境に、特定サービスではなく全体のダウンロードが平日昼間に増加、ただしピークは変わらず

 3月2日より前(ピンクと赤)と後(緑と青)の2週間を比較すると、前には平日昼間のダウンロード側が、通常の休日より少ない程度ながら増加し、ピーク値もわずかに増えた。アップロードも平日昼間に数パーセント程度増えていたが夕方には収まっていることから、IIJではビデオ会議などのリモートワーク関連だと推測している。なお、都道府県別に見ても傾向は変わらないという。

国内全体におけるダウンロード(上)とアップロード(下)のフレッツトラフィック推移

 平日昼間のトラフィック増の要因を調べるため、東京都における2月26日と3月4日のSampled NetFlowのデータを見ると、ダウンロード量は全体で1.19倍に増加していた。

 ただ、送信元事業者(AS)別では、CDN事業者の割合が多少増えた程度で、主な事業者の構成比はほぼ同じだった。具体的には、Googleが1.16倍、Amazonが1.16倍、Appleが1.14倍、Netflixが1.17倍、Facebookが1.10倍で、特定のサービスだけが増えたのではなく、全体が増えていたという。

IPoE IPv6ではダウンロードのピーク値が伸び、全体の割合はPPPoEの20%程度

 トラフィックのピークが増えていない要因については、フレッツ網ではPPPoEで終端装置の輻輳も要因となり得る。このため、こうした問題のないIPv6 IPoEのトラフィックを確認すると、ダウンロード側ではピークが伸びているが、その割合は数パーセント程度だった。一方で、平日昼間の増加はPPPoEより少なく、この傾向はアップロード側でも同様だった。

 なお、IIJでは、IPv6 IPoEにインターネットマルチフィードの「transix」を利用しており、直接IIJのフレッツ網は通らない。量的には現状でPPPoEの20%程度だという。また、フレッツを使ったブロードバンドサービス全体の傾向は、これまでの経験によれば自社のトラフィック動向とほぼ同様だという。

国内全体におけるダウンロード(上)とアップロード(下)のIPv6 IPoEトラフィック推移

3月2日以降、平日1日全体でダウンロードが15%、アップロードが6%増

 全体としては、3月2日を境に明らかに平日昼間のトラフィックが増え、平日1日全体では、アップロードで6%、ダウンロードで15%ほどだという。この15%という値については、平日と休日の違い程度である一方、IIJでは、通常半年から1年ぐらいかかる増加が1日で起こった、とも考えられるとしている。

 ただ、ピーク値はあまり増えておらず、その要因についてフレッツ網の光分岐やPPPoE終端装置で輻輳している可能性もあるとする一方、主なコンテンツ事業者からのトラフィックが一様に増えていることから、特定サービスではなく、平日昼間に在宅する人の増加により、インターネット利用全体が増えたとことによるものとしている。

 利用が増えたとみられるリモートワークによる影響については、平日昼間のアップロードの増加分について、主にビデオ会議と推測。ただし、量的には大きくなく、自宅でビデオ会議をする人がまだ限られるからではないかとしている。

 リモートワークを効率良く行うには、自宅のネットワーク環境やPCなどの機材の整備に加えて経験の蓄積も必要で、ビデオ会議の実施にあたり、企業側でもVPNのライセンスや帯域不足などの問題が起きているとし、環境が整わなかった場合も多いとしている。

 IIJによれば、COVID-19以前から、全体的なトラフィック増えていたという。その背景として、Windows 7のサポート終了や消費増税駆け込み需要でリプレースされたPCによって動画再生環境が改善されたことや、企業の働き方改革とオリンピック対策によるリモートワークの導入の進展、放送の送信や5Gモバイルサービスなどへの期待などによる動画視聴への関心が高まりなどを挙げている。

COVID-19がネットインフラ整備の重要性を再認識する機会に

 これまでは一部が実施する実験段階だったリモートワークやリモート教育が、3月からはこれまで以上に大規模に実施される。一部の人の利用で十分な品質が出ていたビデオ会議、リモート授業、動画視聴などについて、より多くの人が一斉に利用できるかが試されているとしている。

そうした環境を十分に整えるには、この先何年もかかるとし、今回、いざというときには社会全体がオンライン頼みになることが明らかになったとして、今回の騒ぎが、インターネットインフラ整備の重要性を再認識するいい機会になると期待を表明している。