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経理担当者のテレワーク、どうすれば実現する? “リモート経理”実践企業の関係者らが実情を語る

 株式会社ROBOT PAYMENTが7月2日に開催した「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトの発表会では、テレワークや請求書の電子化で実績のある企業の関係者ら4人によるトークセッションが開催された。

トークセッション参加者の皆さん。報道関係者は現地かオンライン(Zoom)のどちらでも取材することができた

コロナ禍でも経理業務は滞りなく遂行できる

 トークセッションは、TDMテレワーク実行委員会委員長の長沼史宏氏が聞き手に回り、コロナ禍における経理業務の実情を各社に聞くというスタイルで進行していった。

 クラウドソーシングで知られるランサーズ株式会社ではテレワークについて、コロナ問題発生以前から部分的に取り組んでいたが、3月以降は全社的に実施したという。同社取締役の曽根秀晶氏は、この間の数カ月を振り返り、「スマート経営5原則」を社内・社外で共有したことが非常に重要だったと話す。

 「我々が(コロナ禍で)どう働き、どういう目標で経営していくのか。これを明確なガイドラインとしたことで、やりやすくなった。経理についても従来からデジタルトランスフォーメーション(DX)を実践していたため、全く支障なく進められた。」(曽根氏)

ランサーズ株式会社取締役の曽根秀晶氏

 中川祥太氏が代表取締役を務めている株式会社キャスターは、人材サービスを広範に提供しつつも、全従業員が“フルリモート”で就業する体制を創業以来約6年に渡って続けている。コロナ禍であっても業務には影響が出ておらず、業績はむしろ向上したと中川氏は明かす。ただ、3月上旬からの一斉休校については苦労があったようだ。

 また、経理業務のアウトソーシングを受託する立場としては、不安を感じる顧客の声などは耳に入っているが、新たに請求書の電子化に取り組む企業は増えているという。

株式会社キャスター代表取締役の中川祥太氏

紙の請求書が「データ活用」を遅らせる

 株式会社ROBOT PAYMENT執行役員の藤田豪人氏(フィナンシャルクラウド事業部長)は、コロナ禍で噴出した「紙文化」「ハンコ文化」の弊害論には留意が必要だと述べる。これらの問題はそもそも古くから存在し、コロナ禍でクローズアップされたに過ぎないからだ。

 「では、なぜ紙の請求書が使われてきたのがといえば、ガバナンスが効いているというか、問題なく業務が回っていたから、経営的には変える必要がなかった。」(藤田氏)

株式会社ROBOT PAYMENT執行役員の藤田豪人氏(フィナンシャルクラウド事業部長)

 しかし近年は、経営上のあらゆる情報を電子化し、データとして有効活用する重要性が叫ばれている。その状況下にあって、紙の請求書はデータ化を遅滞させる要因になり得るだけに、これまでの“前例踏襲”が引き続き有効な手法かは、疑問が残る。

 「また、『日本の経理をもっと自由に』プロジェクト発足にあたって経理担当者アンケートを行ったのだが、今回の緊急事態でテレワークができなかった人のうち、2割から3割が『転職を考えている』と答えていた。テレワークができないことに相当の不満があるのだろう。」(藤田氏)

 では、経理の仕事を現在の仕事環境にフィットさせるにはどんなアクションがいるのだろうか。中川氏は「企業マインドの問題というより、重要なのは『紙、なくそうよ』という(率直な思いではないか)。『紙を残した方がいい』という論は、世の中にあるものほぼ全て目を通しているが、(私から見れば)はっきりいって言い訳。全部無視していい意見」と断じた。

 藤田氏は、請求書に限らず、企業が業務をこなす上で“紙”はほとんど必要ないはずだと指摘。しかし取引先の顔色を伺うような風潮が根強いため、電子化に踏み切れない実情も確かにある。

 だが、それで結局、苦しむのは経理担当者だ。ROBOT PAYMENTが実施した調査によれば、電子化を望んでいるのに企業都合などでそれができてない経理担当者は推計184万人に達する。生産年齢人口にして約2%におよぶ労働者が、不満を持ちながらそれを解消できていないのならば、今回のプロジェクトを起点に問題をまず顕在化させるべきだとした。

「請求書電子化の先」には何がある?

 中川氏は、経理の目的は「収益を正しく管理する」ことであり、紙の請求書を使い続けることは工数的にも無駄だと改めて主張。紙の請求書を使い続けなければならない理由があるのならば、むしろ教えてほしいとも述べた。

 また、曽根氏は、経理の電子化が人々から仕事を奪うという懸念はナンセンスだとした。「インターネットの普及によって、もちろんネガティブなことはあるが、世の中に与えた好影響はそれ以上だったはず。請求書電子化の先には、経理業務がより付加価値の高いものへとシフトしていくことも期待される」(曽根氏)。

 日本企業の99%は中小企業とみられ、その多くは社内で1人ないし2人の少人数体制で経理を行っているという。しかし、経理のルーチンワークをこなすだけでキャリアパスを形成するのは難しい。藤田氏は、効率化によって余裕ができた時間を、学習や別業務などに充てられるようにすることもまた重要だと訴えた。

TDMテレワーク実行委員会委員長の長沼史宏氏がモデレーターを努めた