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TeamViewer、個人向けからエンタープライズ向けのビジネスに転換してDXを推進

TeamViewer CEO オリバー・スタイル氏(写真提供:TeamViewerジャパン株式会社)

 独TeamViewer社の日本法人となるTeamViewerジャパン株式会社(以下両社併せてTeamViewer)は、10月7日に報道関係者を対象としたオンライン説明会を開催し、同社の日本市場に関する展開などに関しての説明を行った。TeamViewerは、PC(WindowsやmacOSなど)にホストソフトウェアを導入し、クライアント(PCやスマートフォンなど)からリモート操作(リモートデスクトップ機能)を行うためのツールとしてスタートし、現在ではそれに加えてオンライン会議やWebセミナー、コンピューター間でのファイル転送など複数の機能を備えている。

 元々は個人ユーザー向けに無償で公開されていたTeamViewerだが、現在はそうした非営利の個人ユーザーだけでなく、企業での商用利用や、IoT(Internet of Things)のリモート操作やARグラスを利用したリモート操作などさまざまな用途向けにも提供されており、活用の範囲が広がっている。

 今回の説明会では本社となる独TeamViewer社 CEOのオリバー・スタイル氏、日本法人TeamViewerジャパン株式会社 カントリー・マネジャー 西尾則子氏が参加し、TeamViewerの方針や日本における活動方針などに関して説明が行われた。

個人向けのリモートデスクトップからスタートしたTeamViewer、現在はエンタープライズ向けのビジネスへと進出

TeamViewerの現状(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 TeamViewer CEOオリバー・スタイル氏は同社の歴史からひもとき始めて、現在どのような方針で製品を開発しているのかなどに関しての説明を行った。

 スタイル氏によればTeamViewerはドイツで2005年に設立され、2020年の売上高は46億ユーロ、現在ワールドワイドには1500名の従業員がいて、25億のインストールベース(顧客のPCやスマホなどにインストールされているソフトウェアのライセンス数)があり、有償のプランに加入している企業などの顧客は60万社以上という規模になっているという。

 PCやスマホのユーザーであればTeamViewerの名前を一度は聞いたことがあるだろう。元々はPC(WindowsやmacOS)にホスト側のソフトウェアを導入し、PCやスマホにクライアント側のソフトウェアを導入することで、ホストとなるPCをリモートに操作(PCの世界ではこうしたソフトウェアを「リモートデスクトップ」と呼んでいる)できるというのがTeamViewerの元々の姿だった。もちろん現在でもそうしたリモート操作は可能だし、個人ユーザーなどが非営利(利益を生み出さない形での利用)で利用する場合には無償で利用することができる。

 しかし、企業などで営利目的に利用する場合にはサポートサービスなどを付与する形で有償になっており、複数のプランが用意されていて「ビジネス」プランであれば月額5000円(税別、年間契約のみ)、「プレミアム」プランであれば月額1万円(同)、「コーポレート」プランであれば月額2万円(同)となっている。

TeamViewerの歴史(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 そうしたTeamViewerだが、スタイル氏によれば2005年に会社が設立されてから、2015年にインストールベースが10億台に達するなど成長を遂げてきた。今回の会見では説明されなかったが、TeamViewerが転機を迎えたのはイギリスのプライベート・エクイティ・ファンド(民間投資会社)であるPermira社に買収されてからで、その後多くの投資が行われ、積極的な製品開発が行われたほか、グローバル展開も始まった。スタイル氏自身Permira社の出身で、2018年に現職に就任し、その後2019年に行われたフランクフルト証券取引所への上場(IPO)などをリードした。なお、Permira社のウェブサイトによれば、IPO後も投資は継続されており、2020年のTeamViewer通年決算報告書によれば、引き続きPermira社が27.9%(2020年末時点)で筆頭株主となっている。

グローバルに展開(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 スタイル氏は「2018年にはTeamViewer Tensor、TeamViewer IoT、TeamViewer Pilotなどのエンタープライズ向け製品をリリースした、さらに2018年~2019年にかけてはグローバル展開を開始し、東京、ムンバイ、上海、シンガポールなどにオフィスを開設した。また、2021年にはマンチェスターユナイテッド、メルセデスAMGのF1チームやFormula Eチームとスポンサー契約を結ぶなど戦略的提携も進めている」と述べ、製品のポートフォリオを個人向けからエンタープライズ向けにも広げており、2020年には25億のインストールベースを得るまでに業績やビジネスの急拡大を実現していると説明した。

TeamViewerジャパン株式会社 カントリー・マネジャー 西尾則子氏(写真提供:TeamViewerジャパン株式会社)

 日本のオフィスに関しては、TeamViewerジャパン株式会社 カントリー・マネジャー 西尾則子氏によれば「2018年の9月18日に7名の従業員から始め、2021年には東京のオフィスに24名で、アデレードに置かれている日本のサポートメンバーを含めると合計35名で運営されている」とのことで、日本法人の方も急拡大が図られている状況だ。

ヘルスケア、自動車のメンテナンス、ヘリコプターのメンテナンス、銀行の顧客対応など幅広い事例が存在

業界のメガトレンド(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 スタイル氏は「IT業界にとってはDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要なトレンドになっており、新しいユースケースが登場している。われわれはそうしたDXを必要としている企業に対して、ロボットをタブレットで操作したり、デジタルツインをリモートにしたり、産業デバイスをリモート管理したり、メンテナンスをリモートで行うようにしたりというソリューションを提供していく」と述べ、ITとそうしたリモート操作などの操作技術などを組み合わせて提供することで、顧客の課題解決を行っていきたいと説明した。

TeamViewerのソリューション(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)
TeamViewerの事業戦略(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 その事業戦略としてはXYZの3つの軸をそれぞれ拡大させていくことで、立方体の容積を拡大していくようにビジネスを拡大していくと述べ、それぞれXYZが利用シーン、産業自体の拡大、そしてグローバル展開だと説明した。

 スタイル氏は「DXによりそもそもわれわれがカバーしている市場は20%も市場が拡大している。今後より利用できるシーンを増やし、グローバルにお客さまを従来のSMBからエンタープライズに拡大していく。そしてよりグローバル展開を推し進めていく」と述べ、今後は大企業を対象としたような製品を増やし、それをグローバルに展開していくことで、ビジネスを拡大していきたいと説明した。

 そうした大企業での事例に関してスタイル氏はドイツのシーメンス・ヘルシニアーズ、ドイツ・トヨタ自動車、エアバス・ヘリコプターズ、オーストリアの銀行であるエステート・バンクの事例を紹介した。

シーメンス・ヘルシニアーズの事例(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 ドイツのシーメンス・ヘルシニアーズでは、MRIスキャナーをリモート管理するソリューションを提供しているという。たとえば遠隔地にある機器にトラブルが発生したときにも、技師などを派遣しなくてもある程度であればリモートでの管理で終えることができるという。また、リモートスキャンサービスという機能も実装されており、ベテランの放射線技師の不足に対応して放射線技師がリモートから操作を行うことなども可能にするという。

ドイツ・トヨタ自動車、エアバス・ヘリコプターズの事例(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 ドイツ・トヨタ自動車の事例では、修理を行うメカニックにARのスマートグラスを装着し、メカニックが見えている視野を専門家にそのまま見せることが可能になる。それにより専門家がしかるべきガイダンスをメカニックに伝えて修理が可能になる。

 エアバス・ヘリコプターズの事例ではAR技術を利用して検査を実施しており、40%の検査時間の短縮と、ペーパーレス化を実現することで精度が求められる記録のエラーを無くすなどの効果があったという。ERPのソリューションを提供するSAPとの連携により、SAPのシステムを利用したサービスも提供されている。

エステート・バンクの事例(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 オーストリアの銀行であるエステート・バンクはブラウザーを利用したリアルタイムのオンラインカスタマーサポートを行っているという。Team Viewer Engageというツールを利用することで、既存のIT環境とシームレスに統合し、セールス担当者が顧客に対して接客を行うことができる環境を実現しているという。

Team Viewer Classroom(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 また、TeamViewerが提供しているTeam Viewer Classroomというツールでは、ハイブリッドの学校運営が可能になるという。教室でのオフラインの授業、PCなどを使ったリモートの授業、どちらにも適用が可能で、手を挙げたり、投票をしたりといった学校での授業がオンラインでも、オフラインでもできる。欧州のプライバシーの保護規制であるGDPRにも対応しているという高いプライバシー性も特徴の1つだとスタイル氏は説明した。

日本市場ではまず認知度を上げるべくテレビCM放映などに取り組んでいる

日本における事業戦略(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 日本のTeamViewerの現状に関しては、日本法人のカントリー・マネジャーである西尾氏から説明が行われた。西尾氏によれば「2021年はブランド認知度の拡充に力を入れており、さまざまなマーケティング活動を行っている。テレビコマーシャルを作成して全国ネットに流しているのもその一環で、本来であれば今週末に行われるはずだったF1日本GPではお客さまなどを鈴鹿サーキットにご招待して、弊社の活動などについてご説明させていただく予定だったが、残念ながら日本GPが中止になってしまった。来年またそういう機会を設けていきたい」と述べ、2021年はブランド認知度を上げていくためのさまざまな施策を行っていると説明した。

 なお、F1でのスポンサー活動に関しては、今シーズンの始めよりメルセデスAMG F1 Teamの車両(44号車 ルイス・ハミルトン選手、77号車 バルテリ・ボッタス選手)のパワーユニットカバー部分というかなり目立つ所にロゴが掲載されており、かなりの大型契約であることを伺わせている。

ロシアGPでのメルセデスF1(写真提供:Mercedes AMG F1 Team、(C) LAT Images)
ロシアGPで優勝したルイス・ハミルトン選手の背中にもTeamViewerのロゴ(写真提供:Mercedes AMG F1 Team、(C) Jiri Krenek)

 西尾氏によれば「今年はビジネスパートナーの獲得と、DX推進に向けた新しい製品の提供を目指している。また、パートナーとの共同プロモーションを行ったり、アライアンスの強化を行っている」と述べた。

 また、今後に関しては自動車やOA機器、医療機器などにエージェントを組み込むなどのビジネス展開などがあると紹介した。実際本社ではF1のスポンサーでもあるメルセデス・ベンツやボッシュなどの自動車関連産業も顧客になっているとのこと。日本の主要産業である国内自動車メーカーも今後は顧客のターゲットとなっていく可能性が高い。

日本での事例(出典:チームビューワー オンライン記者説明会、TeamViewerジャパン株式会社)

 なお、西尾氏は日本の事例では、環境シミュレーション研究所による漁船に搭載しているIot端末のリモートサポート、さくらインターネットの水中ライブ中継を利用したオンデマンドの分析、京セラによる物流作業の効率化、リコージャパンのARでコピー機などのサポートエンジニアをリモートから支援などがあると説明した。