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Dropboxが2022年の事業戦略発表、中小企業などに向けて新たな働き方「バーチャル・ファースト」を支援

「人にしかできないことをやるために、ITがどう貢献するのか」

Dropbox Japan 代表取締役社長の梅田成二氏

 Dropbox Japanは、2022年の事業戦略について説明。「製品ポートフォリオの拡張」「他社ソリューションとの連携強化」「新しい働き方の提案と実践」などに取り組む方針を示すとともに、新たに「バーチャルファースト・アンバサダー・プログラム2022」を開始し、Dropbox Businessのライセンス費用の優待などを行う。

 今回の事業方針説明は、2021年7月に社長に就任した梅田成二氏にとって初めての記者会見となる。梅田新社長は、「Dropboxの強みは、現場が使いやすく、本当に生産性が上がるツールである点。2022年は、現場からのデジタル化を推進していく。建設、ITサービス、メディアといった業界での活用実績に加えて、文教、地方自治体、中堅中小企業への展開を強化する」と、展望を述べた。

 梅田社長は、Dropbox Japan入社前は、日本マイクロソフトで、執行役員デバイスパートナーソリューション事業本部長として、パートナー企業とともにモダンPCの普及拡大に取り組んだほか、クラウドやデバイス事業をリード。製品マーケティングからエンタープライズ営業、ハイタッチ営業まで幅広い経験を持つ。また、アドビシステムズや住友金属工業での経験も持つ。1965年生まれの56歳で、京都大学大学院精密工学科を卒業している。

「スピードが速い、誰もが使いやすい」強みが現場で生きる

 Dropbox Japan では、2022年のスローガンとして、「現場力上がる、使えるデジタル」を掲げ、「現場が使いやすい、本当に生産性の上がるツールを提供し、日本のデジタル化の推進に貢献する」という。

 製品ポートフォリオの拡張では、2021年9月に、明確なコミュニケーションと時間短縮を実現する「Dropbox Capture」や、動画へのフィードバックをシンプルにする「Dropbox Replay」を発表。いずれもベータ版での提供を開始していることを示した。

 「これらは、コンテンツの収集と管理のための新しいエクスペリエンスを実現するものである」と梅田社長。「顧客のなかには、社内での製品説明会が物理的に開催できずに困っていたが、オンラインでの説明にビデオを活用するといった用途にDropbox Captureが効果的であったり、オンラインでビデオ編集の作業を共有できる点で、Dropbox Replayの評価が高かったりといった反響がある。コロナ禍で、Dropbox に追加された動画編集ファイルの数は1.5倍に増加している。プロフェッショナル用途だけでなく、一般企業が利用するケースが急増している」という。

 また、ドキュメント・ワークフロー向け製品群では、電子署名ソリューションの「HelloSign」のほか、2021年3月に買収を発表したドキュメント共有プラットフォームの「Command E」や「DocSend」などによる機能強化が見込まれている。「HelloSignは、既存顧客、新規顧客を問わずに、多くの引き合いが出ている」という。

 今後は、データを保管するという活用だけでなく、データを利用するといった方向に向けて製品ポートフォリオを拡張していくという。さらに、「法令や規制が導入を促進する触媒の役割を果たす可能性がある」とし、電子帳簿保存法やISMAP(Information system Security Management and Assessment Program:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への対応が必須であり、これを待ったなしで進めていくとした。

 梅田社長は、Dropboxの強みを「現場が使いやすく、本当に生産性の上がるツールである点」だと述べた。「ファイル同期のスピードが速いこと、誰もが使いやすいことが特徴である。コンシューマ起点で開発されたツールの強みが生きている」という。

日本発の「チャネルファースト」戦略が世界に広がっている

 一方で、日本においては、販売の100%をパートナー経由とする「チャネルファースト」の戦略を推進していることについても説明した。

 「1年前にこの方針を打ち出した。規模の小さな会社が効率的に市場カバー率を高めるためにはパートナーとの協業が重要である。当社のハイタッチ営業と、パートナーの営業が強みと弱みを補完し合いながら提案するのが最適である。この1年間で成果が出ており、販売パートナーは2倍に増加し、協業による売上げは5.7倍に増加した」という。

 また、「100%チャネルファーストの施策は、米本社でも評価されており、日本発の新たなビジネスモデルとして、アジアや欧州の一部地域で、同様の施策が始まっている」としている。

 さらに、他社ソリューションとの連携強化を進めていることを強調した。グループウェアやコミュニケーションツール、SFAやCRMなどの特定部門で利用するアプリケーションなどのソフトウェア、複合機などのハードウェアなどと、横断的に接続、連携する「共通ストレージ基盤」を提供。「データを活用するには、データが1カ所にまとまっていた方がいいとの声がある。他社のソフトウェア、ハードウェアとのAPI連携により、こうした環境を実現できる」と述べた。

 2021年11月には、米mxHeroのMail2Cloudとの連携を発表。「脱PPAPのソリューションになる。民間大手企業からの要望をもとに、連携を行ったものである」と説明した。

コロナ禍で新規顧客が増加、建設現場でもDX推進に貢献

 Dropboxの全世界の有料ユーザー数は、個人および法人を含めて1649万人、Dropboxを仕事で使用しているユーザーの割合は80%、Dropbox上に保存されているコンテンツの数は5500億に達しているという。最新となる2021年度第3四半期(2021年7~9月)の売上高は前年同期比13%増の5億5000ドルと高い成長をみせている。

 法人ビジネスでは、Dropbox Japanが全世界の成長を牽引しているという。日本市場は、コロナ禍においてリモートワークやクラウドへの移行によって、新規顧客が増加しているほか、既存顧客の更新率も世界トップレベルの水準を維持している。

 梅田社長は、今後の普及が見込まれる業種として、文教、地方自治体、中堅中小企業を挙げる。「日本では、建設、ITサービス、メディアが上位3位の業種となっているが、今後は、文教や地方自治体、中堅中小企業の領域が伸張すると見ている。課題は高い成長を遂げているため、体制が追いついてない点。これを変えていきたい」と課題を述べた。

 今回、新たに建設会社である奥村組の導入事例を公開。工事管理システムとのAPI連携を行うことで業務ワークフローを改善した。工事が開始されると、使う人が意識せずにDropboxのフォルダがシステム上に構築され、そこにさまざまなデータが格納され、工事が終わるとアーカイブとして保存するといった仕組みを用意。工事と顧客情報の密結合を行い、建設業務におけるDXを推進できたという。

リモートを軸とした「バーチャル・ファースト」にDropbox自身が移行し、働き方を変革

 Dropboxでは、従業員自身が「バーチャル・ファースト」という新しい働き方に移行し、実際に体感して得た知見を、製品開発に生かしているという。

 「Dropboxは、2020年10月にバーチャル・ファーストに移行することを発表した。社内調査では、オフィスに出社する社員と、在宅からリモートワークを行う社員が分断されたり、疎外感が生まれたり、キャリアの評価が異なることを嫌がる声が多かった。その結果、バーチャルをデフォルトにすることを決定し、3つの原則を定めた」とする。

 以下の施策が、その「3つの原則」である。

  • 「コラボーレーションコアタイム」。社員どうしが同期して作業するための約4時間の時間帯を設定
  • 「Dropbox Studio」。コラボレーションや打ち合わせ、チームビルディングなどのために集まるリアルなスペースの開設
  • 「バーチャル・ファーストツールキット」。リモートワークの原則をまとめたオープンソースのガイドを策定し、公開

 「Dropboxに入社して目からうろこだったのが、非同期と同期をうまく使った新たなワークスタイルを全社で実現している点だった。共同で仕事をする同期と、自分自身で仕事をする非同期の時間が設定されていることで、効率的な仕事の仕方が可能になる。非同期と同期のリズムを作ることができ、会議時間内に結論が出なかった場合でも、無理に結論を出さなくてもいいというコンセンサスが取れる」と、梅田社長は自身が感じた驚きを語った。

 また、バーチャル・ファーストによる生産性向上の手応えを、次のように語った。「SlackやTeamsで事前に資料をシェアし、時間があるときに考え、会議時間は、議論、ディベート、意思決定に絞り込むことができ、議論やプロジェクトが前向きに進むことが多い。社員の満足度調査でも、会議の使い方ではポイントが上昇している。また、人材採用のポートフォリオが広がるというメリットもあった。ライフステージの変化によって、働き方を変えたいという人たちの採用にもつながっている」。

 Dropbox Studioについては、対面によって得られる多くの情報量を活用したい場合などに有効であり、社員が出社するためのオフィスではなく、同期に最適な場所として活用するという。日本では、2021年12月にオープンしたところだそうだ。

 また、バーチャル・ファーストツールキットは、バーチャル・ファーストの実践から学んだ知見をオープンソースとして公開したもので、今後も更新していく予定だという。こうした取り組みに対し、梅田氏は「米国に本社を持つIT企業だから実現できるという側面もある。業種や企業規模、ビジネスモデルにあった合理的な手法がそれぞれにあると考えている」とも述べた。

中小企業を対象に「バーチャル・ファースト・アンバサダー・プログラム 2022」を実施

 Dropbox Japanでは、新たに「バーチャル・ファースト・アンバサダー・プログラム 2022」を実施することも発表した。

 同プログラムは、従業員300人以下の中堅・中小企業を対象に、新たな働き方を実践するバーチャル・ファーストへの取り組みを支援するもの。審査によって選ばれた企業に、1社につき最大20ライセンス分の費用を1年間キャッシュバックし、オウンドメディアであるDropbox Naviのプラットフォームなどを活用して、選定された企業のプロモーションも実施する。応募期間は2022年1月31日まで。

 アンバサダー・プログラムについて、梅田社長は「お客様と一緒に日本市場に適した新しい働き方を模索していくものになる」と位置づけた。

現場で使ってもらうことを大切に、ITは人の能力を上げられるツールに

 会見において梅田社長は、Dropboxの役割について「人の能力を増幅できるツール」であると述べた。

 加えて、次のようにも述べる。「大学を卒業して、最初に入社したのが鉄鋼企業のIT部門。いいと思って導入したITシステムが、使い方が難しいため現場で使ってもらえず、結果として効果があがらないということがあった。現場にいくと、『また大卒がおもちゃを持ってきた』と言われることもあった。現場に使ってもらえることが大切である。人がやっていることを機械で置き換えることも必要だが、人にしかできないことをやるためにITがどう貢献するのかも考える必要がある。現場で使われているDropboxは、まさに人の能力を増幅できるツールである」。このように、「現場が使いやすい」ことの重要さを強調した。

 また、社長就任から4カ月間を経て、次のように意欲を語った。「Dropbox Japanは、これからのニッポンの縮図のような会社だと感じた。バックオフィス機能は海外にあり、なにをやるにしても海外と調整が必要になる。国境をまたいだコミュニケーションが多いためだ。日本のビジネスの貢献度は大きいが、アイデアを本社に提案するといったことが少ない。貢献度と同等か、それ以上の発信を日本から行いたい」。