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メタバースも地方創生も、SBI北尾社長が語るグループのデジタルアセット戦略~「FIN/SUM 2022」レポート
2022年3月31日 14:30
フィンテックカンファレンス「FIN/SUM 2022:Fintech Summit」が、2022年3月29日から31日にかけて、都内およびオンラインで開催された。FIN/SUMは、金融庁と日本経済新聞社が2016年から共催する、国内最大級のフィンテックカンファレンス。
この記事では、SBIホールディングス 代表取締役社長の北尾吉孝氏による講演「デジタルスペース時代の夜明け ~Breaking Dawn of Digital Space Era~」の模様をレポートする。
一気通貫のデジタルアセットのサービス
北尾氏の講演は、デジタルアセット(デジタル資産、暗号資産)を中心にSBIグループの取り組みを語るもの。「デジタルスペース時代」「基盤技術への投資・導入や各種制度作り」「次世代の金融プラットフォーマーを目指す」「多様なビジネス展開」の4つのパートからなる。
まずデジタルスペース時代について。北尾氏は、デジタルアセットの時価総額が2021年11月に300兆円を突破したことを取り上げ、その中で「顕著なのは機関投資家が相当入り込んできたこと」と説明した。
そのうえで北尾氏は、「デジタル=グローバル」だとして、SBIグループが海外でもアグレッシブに有力パートナーと提携してきたことを紹介した。
さらに、暗号資産情報サイトのモーニングスター、新しく匿名組合方式で作った「SBI暗号資産ファンド」、SBI証券での販売、SBI VCトレードでの販売、暗号資産マーケットメイカーである出資比率90%の英B2C2社といった一連の事業を挙げて、暗号資産サービスを一気通貫で提供していることをSBIグループの特徴として語った。
ジョイントベンチャーや出資を紹介、メタバース業界組織の設立も予定
基盤技術への投資・導入や各種制度作りでは、北尾氏はまずSBIグループの基本戦略として「創業以来、徹底的な進歩と技術が変革を起こすと信じてきた」と、小規模なスタートアップを含めて時代を超えるような会社に投資してきたことを語った。
その実例としては、Ripple Labs社やR3社とそれぞれジョイントベンチャーを立ち上げたことを紹介した。
さらに国内については、Ripple Labsとともに推進するマネータップを紹介し、「全銀ネットに代わるものとして推進していきたい」と語った。現在9行が接続して機能を提供、3行がシステム接続済み、9月までにさらに4行を接続するという。
そのほか最近出資したものとして、相互運用を可能にするスマートコントラクト言語Damlの米Digital Asset社を紹介。さらにデジタルアセットバンキングの分野で、スイス金融当局から銀行免許を付与されたデジタル資産銀行Sygnum Bankへの5%出資を紹介した。
制度面では、日本STO協会やST研究コンソーシアムといった自主規制団体・業界組織の設立・参画について紹介した。
さらにメタバース分野について、「新たな業界組織が色々できていますが、やはり、きちっとした制度作りや政策提言、さまざまな情報発信ができるところでないとダメと思いました。そこで、私どもが直接業界組織を近々設立するつもりで準備をしています」と明らかにした。
ST、NFT、ブロックチェーン、CBDCへの取り組みを紹介
次世代の金融プラットフォーマーを目指す取り組みについては、デジタルアセットの分野ごとに紹介された。
ST(セキュリティトークン)
1つめはST(セキュリティトークン)。北尾氏は「デジタル金融の当面の主役はやはりSTだと思う」と述べ、BOOSTRY社の開発するブロックチェーン基盤ibetを用いたデジタル株式発行による第三者割当増資(2020年10月実施)や、一般投資家向け社債型STO(2021年4月)、三菱UFJ信託銀行が提供するProgmatを用いた不動産を原資産とした資産裏付型STの公募の実績を紹介。中でも成長期待が高いのは不動産裏付けのSTOではないかと語った。
また、STを取り扱う国内初のPTS(私設取引システム)として大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)を構築中で、2022年に開始予定であることを紹介した。
さらに、STの発行から流通・カストディに至る機能を一気通貫で提供するとして「だいたいのことが固まってきたら金融庁にご相談を申し上げると言うことになろうかと思います」と述べた。
そのほか、スイスSIX Digital Exchange(SDX)と、シンガポールを拠点とするデジタル資産取引所(ADX)を設立することについて、年内にライセンスをとってスタートすると語った。
NFT
2つめはNFT。SBIグループは、NFT売買プラットフォームnanakusa(旧名)を展開するスマートアプリ社を買収して、社名をSBINFTに、マーケットプレイスをBINFT Marketに変更した。
SBINFTでは、ローソンエンタテインメントと提携して、イベントチケットを保管可能な記念チケットNFTとして販売するサービスを春より提供開始する。そのほか、SBIアートオークションによる現代アート×NFT事業や、NFTによる学歴証明書についての専門学校バンタンでの事例なども紹介された。
ブロックチェーン/DLT
3つめはブロックチェーン/DLT。
活用例としてはまず、地方の中小企業におけるキャッシュフローの改善およびデータの透明性を向上させるサプライチェーンファイナンス事業の推進が紹介された。企業の信用力を活用し、企業の売掛債権を購入することで売り手企業の早期資金化をサポートするものだという。
また、SBIグループの香港現地法人BYFINとシンガポールのRootAnt社との共同事業として、R3社のCordaブロックチェーンを用いたサプライチェーンアイナンスプラットフォーム「SBI-Bancoプラットフォーム」を構築して、国内でも推進していくとした。
そのほか、SBIレミットによる国際送金サービスや、SBIトレーサリティによる上海ローソンでのおにぎり原料トレーサビリティサービスなどが紹介された。
メタバースやeスポーツなどへの取り組みを紹介
多様なビジネス展開では、メタバース、eスポーツ、地方創生への貢献、ブランディングの各分野におけるSBIグループの取り組みが語られた。
メタバースについては、VR・AR・MR技術の発展を経て暗号資産によって「仮想が現実と一体化する可能性がある。現実空間で過ごす生活時間の一部が、仮想空間での経済活動へ移るというのは、もう時間の問題になってきた」と北尾氏は語った。
そのうえで、法制度について言及し、「法(制度)的な問題、特に会計制度に関わるような問題が山のようにある」と述べた。
eスポーツについては、「デジタル世代の若年層は、TVなどのメディアよりも、SNSや動画、配信サイト等のインターネットメディアにつぎこむ時間のほうがはるかに長くなってきている。したがって、従来型の広告はリーチしにくい」と北尾氏。
そうした背景から、2020年6月にSBI e-Sportsを設立してeスポーツ分野に新規参入した。所属しているプロ選手のSNS登録者数や動画視聴者数を挙げ、デジタル世代との接点強化について語った。
地方創生への貢献としては、地域通貨事業や、APIのマッチングサービス「SBI APIマート」(仮称)、業種ごとにカテゴライズされたDXのデータベース、地域金融機関のeスポーツへの取り組みの支援、地方創生とメタバースの組み合わせが語られた。
そして最後は、SBIグループのブランディングについて。「ここから3年間、徹底的にデジタルスペースのSBIグループのブランド作りを、かなりの予算をかけてやっていく。この4月から本格的に展開していく」と北尾氏は語った。