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DX推進人材は不足も、人物像の定義に悩む企業、キャリアパスが見えない個人~IPA調査

「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2023年度)」全体報告書

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は7月22日、「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2023年度)」の全体報告書を公開した。

 同調査は、IT人材に関する動向やデジタル事業を推進する上でのマネジメントのあり方、スキル変革などに関する経年変化を追う目的で、企業と個人を対象にして毎年行われているもの。企業対象の調査は国内の1013社を対象として2月9日~5月2日に実施され、個人対象の調査は企業に所属するデジタル人材1210人とフリーランスのデジタル人材391人を対象として2月7日~3月16日に、それぞれアンケート調査として実施された。

 公開された全体報告書は、アンケート調査の結果およびポイントの解説に加えて、アンケート調査を受けた個々人の「自律的な学び」に関する考察、現状分析、施策の紹介などがまとめられ、全74ページのPDFとしてIPAのウェブサイトから無料でダウンロードできる。

企業は求めるIT人材の要件の定義に悩み、外部採用から社内教育へ

 継続的な調査から見える特徴的な動向として、2022年度までは1001人以上の大手企業を中心としてDXを推進する人材の不足感が見られたが、2023年度の調査では、社員1000人以下の中堅企業、中小企業での不足感が大幅に増加している。

DXを推進する人材の過不足感。「量」「質」ともに、1000人以上の企業で「大幅に不足している」との回答が大きく増えている

 企業では、DXを推進する人材の獲得・確保のために「外部採用」を実施しつつ、「社内人材の育成」「既存人材の活用」により人材確保を行い、先端領域への人材シフトを進めようとしている。その理由としては、人材獲得・確保に関する課題として「戦略上スキルやそのレベルが定義できていない」「採用したい人材のスペックが明確でない」など、人材要件定義に関するものが多いことが伺える。

DXを推進する人材の獲得・確保の課題。「戦略上スキルやそのレベルが定義できていない」「採用したい人材のスペックが明確でない」といった回答が、「DX成果が出ていない」とする企業で特に多い

 全社戦略に基づきDX推進に必要な経営・ビジネス・技術における役割を担う人材像を設定しているか、との質問対して、設定できていると回答した企業は、1001人以上の企業でも4割弱、1000人以下の企業では2割に満たなかった。一方、設定できていると回答した企業では、DXを推進する人材が「大幅に不足している」との回答が少ない傾向が見られ、人材要件定義が人材確保に影響していると想定されるという。

個人はキャリアパスやロールモデルが見えないことに悩む

 個人を対象とした調査では、キャリアアップ・キャリアチェンジ志向が年々高まっている。しかし、キャリア形成上の悩みとして「キャリアアップのための計画的な配置・育成がされていない」のほか、「キャリアパスが不明確」「参考となるロールモデルがない」といった回答が多く、企業側でキャリアパスやロールモデルを提示できなくなっていることが伺えるという。

キャリアの志向性。「大きくキャリアチェンジしたい」や「高いレベルであったり、近しい別の職務・役割を担いたい」との回答が、年々多くなっている
キャリア形成上の悩み。「キャリアパスが不明確」が特に受動転換(会社主導での先端IT領域への経験した回答者)の中で、「参考となるロールモデルがいない」が特に転換志向(非先端IT領域の業務に従事し、転換を志向する人)の中で多い

 企業に対し、社員へのキャリアサポートについて質問したところ、3割超の企業が「特に実施していない」だった。実施している企業では「本人の意向を尊重した自己申告制度」が2022年度調査から大きく増えており、社員のキャリア自律を促していく傾向が見られるという。

 このほか、個人に対して組織への帰属についての考えをたずねた質問で、先端ITに従事する回答者では「現在の組織に所属しながら外部で兼業したい」「現在の組織に所属しつつ、副業をしたい」といった回答が2022年度から増えており、スキル発揮や学びの場としての組織へのニーズが高まっていることが伺える。一方で、転職に対する考え方では、転職に前向きな回答が増えており、先端IT領域では約8割、非先端IT領域では約6割が前向きな回答をしている。

将来的な組織への帰属の仕方の考え方。先端ITに従事する会社員では「現在の組織に所属しながら外部で兼業したい」「現在の組織に所属しつつ、副業をしたい」との回答が増えた
アンケート調査結果のポイントまとめ