「日本企業をやめて世界企業になる」社内公用語を英語にする楽天の国際戦略


 楽天株式会社は6月30日、「世界27カ国・地域への進出」「グローバル流通総額20兆円」「海外取扱高比率70%」を掲げた国際事業の将来目標を発表した。同社は2010年に入り、Baiduとの合弁による中国EC市場参入、米Buy.comや仏PriceMinisterといった現地ECサイト企業大手の買収など、国際展開を加速させている。同日、楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長はじめ、これら国際展開のパートナー企業の幹部らが参加し、アナリストや報道関係者向けに戦略説明会が行われた。


6月30日の国際戦略説明会に集結した、世界の楽天ファミリー企業の幹部たち

 三木谷社長は、楽天がこれまで対象としてきた日本市場の今後について、世界における日本のGDPシェア自体が下がっていくこと、グローバルにおけるBtoCのEC市場が拡大する一方で日本の占める割合は下がっていくこと、BtoCのEC市場成長率では中国はじめフランスや米国が日本を上回っていること挙げ、「海外展開は楽天にとってオプションではなくマスト」と表現。2009年に1%だった海外取扱高比率を拡大していくのは自然な流れだとした。

 なお、今回掲げた3つの数字は、2010年度末までにまず10カ国ということは説明されたが、具体的な期限は示されていない。このうち流通総額について三木谷社長は、楽天市場はじめ楽天トラベルなど含めた楽天グループの流通総額が2009年度に約1.8兆円だったものを、「最低でも20兆円」に拡大するという意味だとした。なお、現在までに楽天が進出した国・地域は、前述の3カ国に加えて、台湾、タイ、インドネシアの計6カ国・地域となっている。


楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長国際事業での将来目標

 世界のさまざまな地域に進出するにあたっての楽天のスタンスは、ビジネスモデルを統合するのではなく、プラットフォームを共有化することだという。これについて三木谷社長は、米国企業が世界の企業を買収するなどして進出する際にありがちな、米国本社のビジネスモデルを押し付ける方法と全く異なるアプローチだと説明する。

 具体的には、楽天はBtoBtoCモデルのインターネットモール(楽天市場モデル)を運営しているが、米Buy.comはこれまで主に同社自身による直販モデル、仏PriceMinisterはCtoCモデルを中心としてきたという。楽天では、グローバルで統一したブランドで世界展開を推し進めるのではなく、各国・地域ごとに買収や合弁により拠点となる事業を立ち上げ、それらの国・地域の実情に合わせ、これら3つのモデルを複合的に展開する考えだ。例えば、直販モデルは黎明期・新興市場で有効なのに対し、CtoCモデルは成長市場で有効なのだという。

 こうした考えのもと、「サービスモデル」については現地法人のリーダーシップのもとで楽天と調整しながら進め、その一方で「戦略」「行動規範」「オペレーション」「テクノロジー」の4つを共有するのが楽天の経営モデルであり、「楽天主義(Rakuten Shugi)」だとした。

 これを徹底するためには、幹部同士だけでなく、現場レベルでのコミュニケーションが必要となる。そのための共通言語として、日本の楽天グループの社内コミュニケーションも2012年度までに英語化する計画だ。まずは役員会議を英語で行うことからはじめ、経営会議、毎週の全体朝会、社内資料の英語化へと段階的に拡大する。今後は、中間管理職もファミリー企業に派遣し、「楽天主義」を徹底していくという。また、2011年度の国内新卒採用では、全体の約2割にあたる68人の外国人を採用予定だという。

 海外のファミリー企業にノウハウを伝えるための人事交流もスムーズに行えることができるほか、開発部門はインドに、ブランドマーケティング部門はニューヨークに設けるなど、楽天の本社機能自体を部分的に海外に移転することも考えられるという。これについて三木谷社長は、「日本企業であることをやめて世界企業になること」と表現した。なお、今回の戦略説明会も、一部の質疑応答を除いてすべて英語で行われた。

 三木谷社長は、EC事業のほか、電子マネー「Edy」についても海外から強い関心が寄せられているとし、「グローバルに展開したいと思っている」と語った。


仏PriceMinisterのピエール・コシュースコ・モリゼ会長兼CEO米Buy.comのニール・グローバーCEO

Biduとの合弁事業「楽酷天」のユーハオ・ジャンCMO兼シニアバイスプレジデント台湾楽天市場の江尻裕一総経理




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(永沢 茂)

2010/7/1 11:01