震災前のストリートビュー画像「消去することはない」、時系列での表示も検討


 グーグル株式会社は、11日に開催した「ストリートビュー」に関する記者説明会の中で、東日本大震災の被災地におけるストリートビュー画像の今後について言及した。

 この説明会は、ストリートビューの「スペシャルコレクション」として新たに公開した東京湾の水上風景などについて行われたもの。当初は3月14日に開催の予定だったが、東日本大震災の発生により延期されていた。今回、新規スペシャルコレクションの紹介のほか、Googleにおける震災対応の取り組みについても説明されたかたち。

グーグル株式会社製品開発本部長の徳生健太郎氏グーグル株式会社アソシエイトプログラムマネージャーの村上陽祐氏

世界のGoogleとユーザーの協力で、震災対策サイトを開発・公開

 製品開発本部長の徳生健太郎氏はまず、災害対策サイト「Google Crisis Response」で立ち上げた東日本大震災のサイトについて、「決してGoogle Japanだけでやったものではない。世界のGoogle、そしてユーザーもボランティアでご協力いただいた。それなくしてはできなかった」とコメントした。

 Google Crisis Responseは、非営利活動であるGoogle.orgの取り組みとして運用しているもので、最近ではオーストラリアの水害やニュージーランド・クライストチャーチの地震の際にも立ち上げられた。しかし、今回のようにGoogleのオフィスがある地域を地震が直撃した前例はなかったという。それでも、これまでの運用実績からある程度ひな形があったために、Google各国の連携により、東北地方太平洋沖地震の発生40分後には、東日本大震災のGoogle Crisis Responseサイトが公開できたとしている。

 消息情報を登録・検索できる機能「パーソンファイダー」は、地震から2時間後には公開された。徳生氏によれば、担当スタッフが阪神・淡路大震災を経験していたこともあり、上司からの命令ではなく完全にボトムアップで、社員がウェブマスターの回りに集まって取り組んだ。地震当日は東京では交通機関がまひしたこともあり、ほとんどの社員がオフィスに残り、開発作業を続けたとしている。

 東日本大震災のサイトで公開されたのは、Google Crisis Responseですでにひな形があった機能だけではない。「自動車・通行実績情報マップ」や「避難所情報マップ」などは、日本の社員がアイデアを出して開発した。

 グーグルの社員にとどまらず、ユーザーの声がきっかけで開発されたものもある。例えば、パーソンファインダーが提供されても「PCも電気もないのにどうやって使えというのか?」「写メでいいのではないか?」といった指摘が寄せられたという。確かに、避難所では情報がオンラインで整理されているわけではなく、避難者名簿も紙に書いて貼り出されるかたちだ。そこで「Picasa」の共有機能を活用し、それらを撮影して携帯メールで投稿してもらう仕組みを取り入れた。

 投稿された写真から人名などの情報を認識してデータベース化するにあたっては、殴り書きされたような文字を認識するのは、さすがにGoogleのOCR技術でも追い付かなかったという。そこで人力でこれらを読み取ってテキスト化してくれるボランティアを募り、5000人以上が協力。人力の分だけでも現在までに1万枚以上の写真から、14万件をデータ化したとしている。「オンラインが必ずしもすべてではない。大衆の力が、インターネットでつながっている限り有効であることが証明された」と徳生氏はコメントしている。

 また、日本(特に地方)におけるインターネット利用は携帯電話の占める部分が大きいとし、早い段階で被災地向け情報を携帯電話向けに変換して閲覧可能にしたことも紹介した。

携帯写真メールで安否情報を受け付け被災地向け情報の携帯サイト

被災地の衛星写真を時系列で公開、ストリートビューでも検討

 「Google Earth」「Google マップ」などでは、津波被災地の状況把握などといった支援の観点から、最新の衛星写真や航空写真もいち早く公開した。3月13日には高解像度の衛星写真を公開、3月31日までには詳細な航空写真も公開している。

 徳生氏は、津波を受けた仙台空港について、被災前の2003年4月17日、被災後の2011年3月14日と3月17日、がれきの撤去などが進んだ3月31日の写真を紹介。Google Earthでは、タイムスライダーを動かすことで、最新の画像だけでなく、時系列に克明な現地の様子を確認できるとしている。

仙台空港付近の衛星写真

 アソシエイトプログラムマネージャーの村上陽祐氏は、ストリートビューに関して説明。復興支援などの観点からのストリートビューの活用については、震災発生からまだ1カ月ということもあり決まっていないとした。

 また、被災地におけるストリートビュー画像について、被災前の過去の風景を写した画像を残して欲しいという声が、具体的な数は明らかにしなかったが、同社に多く寄せられていることを認めた上で、今後の更新について検討中だとした。実際のところ、震災後はストリートビューは撮影しておらず、現地の交通事情などもあり、今後いつごろ撮影すればよいのか検討している段階だ。しばらくは震災前の画像が公開され続けることになる。

 仮に震災後の状況が撮影されれば、ストリートビューはより新しい画像に差し代わることになるはずだが、過去の画像について徳生氏は、同サービスの原則として「画像データを消去することはない」と説明。また、「歴史的事実を残すことも意義として重要と考えている」とし、どのような見せ方にするかは詰めていないが、Google Earthで時系列で閲覧できるような仕組みをストリートビューについても導入したいとの考えを示した。


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(永沢 茂)

2011/4/11 19:36