Google、ソニー、TSUTAYAが考える電子書籍の課題とは
~インプレスグループ電子出版ビジネスセミナー
株式会社インプレスホールディングスは27日、都内で「インプレスグループ電子出版ビジネスセミナー」を開催した。第3部のパネルディスカッションには、Google、ソニー、TSUTAYAの関係者が参加。電子書籍の出版に実際に携わる立場から、市場を取り巻く課題などを議論した。
●グーグル佐藤氏「垂直統合型ではなくよりオープンな体制」
パネルディスカッションの実施に先立って、参加する3氏がそれぞれ15分程度のプレゼンテーションを行った。まず登壇したのがグーグル株式会社 ストラテジックパートナーデベロップメントマネージャーの佐藤陽一氏。同社の書籍全文検索サービス「Googleブックス」および書籍オンライン販売サービス「Google eブックス」を担当している。
グーグル株式会社の佐藤陽一氏 | 「Google eブックス」への参入を検討している出版社へ依頼事項一覧 |
佐藤氏はGoogle eブックスのビジネスモデルについて、アップルやAmazonが標榜している垂直統合型の販売・課金モデルに対し、よりオープンな体制になっていると説明。Googleのサイト内だけでなく、外部の一般書店が運営するサイトでも販売できる点を大きな特徴とした。一方、スマートフォン向けの販売施策も独自に強化。Androidマーケットでの電子書籍販売も米国市場では一足早く開始したという。
Google eブックスは日本国内展開をスタートすべく、今まさに準備中。佐藤氏は「我々のサービスでは(日本国内で普及している)ドットブックやXMDFをサポートせず、EPUB形式のみ。そこでGoogle eブックスでの販売を条件に、別フォーマットからEPUB形式への変換をコスト面で優遇するサービスも提供したい」と表明している。画像ベースのPDFをOCR処理して全文検索に対応させることも可能としており、「とりあえず電子書籍を出して読者の反応を見たい」というニーズに応えられるとアピールした。
●端末のマルチフォーマット対応で市場の最適化を図るソニー
ソニー株式会社 電子書籍事業担当ビジネスプロデューサーの野村秀樹氏は同社の専用端末「Reader」の2010年発売版をプレゼンした。Reader端末について当初は、無線LAN経由での書籍購入ができず「機能不足」との声が多かったという。
しかし、野村氏は「実際には、ウェブやメールに邪魔されずに読書に集中できるとか、コンテンツの検索がしやすいPCから平均8~9冊もまとめ買いしてくれるという実態が浮かび上がった」と解説。米国市場で経験を積んだソニーでも、立ち上げ期にあたる日本の電子書籍市場のマーケティングは一筋縄ではいかないことを伺わせた。
ソニーは各国で電子書籍販売を展開しており、EPUBフォーマットを積極的に採用する。しかし日本では、すでにドットブックやXMDFで制作された電子書籍も相当数に上るため、機器側のマルチフォーマット対応によって、市場最適化を図っていく。
ソニー株式会社の野村秀樹氏 | 電子書籍戦略の概要 |
●「売るべき電子書籍の点数が決定的に少ない」TSUTAYA.com元木氏
株式会社TSUTAYA.comからはEC BOOK・電子書籍UNIT LEADERの元木 忍氏が登壇した。日本最大級の書籍販売店チェーンを展開する強みを活かし、店舗とウェブの連動企画を積極的に行っていると説明するが、“大成功”と言えるだけの例はいまだ登場してないとも明かす。
元木氏は、売るべき電子書籍が決定的に少ない現状に触れ、本来なら販売者であるTSUTAYA.comがみずからコンテンツ制作する方向性を提示。その成果といえるのが26日発表の「eBOOK+」という。「紙版書籍の制作時に余ってしまった、“パンの耳”的な素材をツタヤ側で素早く加工し、オンラインで売っていこうというのがコンセプト」と、元木氏は補足していた。
株式会社TSUTAYA.comの元木忍氏 | 電子書籍の問題点を例示 |
●紙版との価格差問題、UGCの必要性などに言及したパネルディスカッション
個別プレゼンに引き続き、パネルディスカッションが行われた。司会は、株式会社インプレスホールディングスの取締役の北川雅洋氏が担当。3氏に質問を投げかけるかたちで進行した。
まずテーマとなったのが、紙版と電子版の価格差の問題だ。ソニーの野村氏は「Readerのオンラインストアの数値を見る限り、『安いから売れる』『高いから売れない』という傾向はほぼない。『高くても欲しい本であれば買う』というのが実態だろう」とコメント。ただし、政局報道といった旬の短い本を瞬間的かつ大量に売りたい場合に期間限定値下げをするなど、戦略的な値付けは有効であると補足する。
また、TSUTAYA.comの元木氏は、かたちある紙版書籍よりも、ものとしての実態がない電子書籍は低価格であるべきとの認識は、一般顧客に根強くあると指摘。電子版ならではの作り込みの必要性を認めていた。
セミナーの模様 | 聴講客からの質問にも答えた |
市場拡大の方策についても、それぞれの立場から意見が寄せられた。ソニー野村氏は「まずはビジネスができる市場を作ることが最優先。その時に我々が明確に否定しているのは『オンラインストア1社限定』のコンテンツ。ソニーのストアだけでなく、他のストアでも売ってくださいと必ずご説明しています」と、まずは自社のシェア確保よりも市場の成長が優先課題であるとのスタンスを示した。
グーグル佐藤氏も、コンテンツの囲い込みを否定する方向性に同意。その上で、出版社に限らず、一般ユーザーによるコンテンツ、いわゆるUGC(User Generated Content)的な電子書籍が積極的に公開される必要があるのではないか、と答えた。佐藤氏はこの根拠として、UGCの代表核であるYouTubeの普及を挙げていた。中身の薄い電子書籍が濫造される状況を“スパムeBook”と批判的に呼ぶ表現もあるが、低コストでコンテンツを公開できる状況は、中小企業が大半と言われる出版業界全体にとっても、少なからずメリットがあると指摘。
セミナー参加者からは、「3氏が考える理想の電子書籍は?」という質問が投げかけられた。佐藤氏は「例えば学術系の電子書籍では、参考文献の項目をクリックすると、実際にその書籍を開けるようになってきている。ネットとの親和性を活かし、再利用や共有という要素をより押し出すべきでは」と返答した。
一方、元木氏は「ベストセラー本は、本を普段買わない人が買うからこそ、生まれているように思える。多様なデバイスで『読める』ことが重要で、フォーマットや縦書きにこだわるより、とにかく市場に出してみては」と提案した。
関連情報
(森田 秀一)
2012/1/30 06:00
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