フレッツ光、200Mbpsコースなのに1Gbpsになる方法が!? IPv6で意外なメリット
最大1Gbpsの通信速度をうたうFTTHサービスが関西を中心に広がっているが、実は「フレッツ 光ネクスト」の標準的なコースである下り最大200Mbpsの「ハイスピードタイプ」の加入者であっても、最大1Gbpsになる方法があるという。一部のISPでオプション提供しているネイティブ方式(IPv6 IPoE)のIPv6ローミング接続サービスを契約するというものだ。
●IPv6 IPoEには帯域制御なし、アクセス回線のスペック上限まで使われる
IPv6 IPoEのサービスは、フレッツ 光ネクストの加入者向けに2011年7月より提供しているもの。VNE(Virtual Netrwork Enabler)と呼ばれるローミング事業者が提供するIPv6接続回線を、通常のIPv4のためのPPPoE接続回線と並行するかたちで利用できる。利用するには、NTT東西が提供するフレッツ 光ネクストのオプションサービス「フレッツ・v6オプション」の契約と、各ISPのIPv6 IPoEサービスの申し込みが必要だ。
なぜ、IPv6 IPoEだと1Gbpsになるのかは、NTT東西のフレッツ 光ネクストのサービス紹介サイトをよく読むと分かる。そこには、加入者宅の回線終端装置(ONU)とNTT収容局の間のアクセス回線のスペックは最大1Gbpsだが、加入者の通信速度はハイスピードタイプでは下り最大200Mbpsになるといったことが※印などで小さく書かれているはずだ。同時に、同じくハイスピードタイプの場合、IPv6 IPoEでは下りが最大概ね1Gbpsになるということも、やはり小さく書かれていることに気付くだろう。
東日本電信電話株式会社(NTT東日本)によると、フレッツ 光ネクストの網内(NGN)は1Gbps以上が出る構成となっているが、PPPoE接続に対してはNGN側で帯域制御をかけている一方で、IPv6 IPoE接続に対しては帯域制御をかけていないという。このため、通常のIPv4によるPPPoE接続では200Mbpsという制限がかかるが、制限がかかっていないIPv6 IPoE接続では、アクセス回線区間のスペックである下り最大1Gbpsになるというわけだ。
なお、このIPv6での意外なメリットはもちろん、IPv6そのものの特徴ではない。たまたまNGNの現在の運用がそうっているに過ぎない。
また、フレッツ 光ネクスト加入者向けのIPv6接続サービスとしては、IPv6 IPoEともう1つ、トンネリング方式(IPv6 PPPoE)のサービスがある点にも注意が必要だ。こちらはその方式の名前から分かるようにPPPoE接続であり、IPv4のPPPoE接続と同様、200Mbpsのコースであれば200Mbpsの制限がかかる。フレッツ 光ネクスト加入者向けのIPv6接続サービスとして採用している方式はISPによって異なるため、自身がフレッツ 光ネクストで使用しているISPがIPv6 PPPoE方式の場合は、残念ながらIPv6接続での下り最大1Gbpsの恩恵は受けられない(NTT東西のフレッツ光公式サイトに、IPv6 IPoE/IPv6 PPPoEのサービスを提供しているISPのリストが掲載されている)。
さらに、最大1Gbpsになるといっても、それはVNEが提供するIPv6接続回線だけの話だ。GoogleやFacebookをはじめとした大手ウェブサイトがIPv6の標準対応を進めているとはいえ、現時点でインターネット接続に通常使うのはIPv4のため、そちらは最大200Mbpsに制限されることに変わりない。
ところが、IPv4通信の方も200Mbpsの制限を受けないISPもある。ソフトバンクBB株式会社の「Yahoo! BB 光 with フレッツ」において8月より提供している「IPv6高速ハイブリッド IPv6 IPoE + IPv4」というサービスだ。
●IPv4通信もIPv6 IPoE回線で通してしまえば、200Mbpsの帯域制御から解放
IPv6 IPoEのローミング接続回線を提供しているVNE事業者としては現在、BBIX株式会社、日本ネットワークイネイブラー株式会社、インターネットマルチフィード株式会社の3社がある。Yahoo! BBの「IPv6高速ハイブリッド IPv6 IPoE + IPv4」サービスは、同じソフトバンクグループであるBBIXがIPS事業者向けに提供している「IPv6 IPoE+IPv4ハイブリッドサービス」を利用したものだ。
VNEは通常、ISPおよびその加入者に対してIPv6ローミング接続サービスを提供するのが役割であり、BBIXでもIPv6だけのローミング接続サービスを用意している。そのIPv6に加え、IPv4のローミング接続もBBIXのネットワークであわせて提供しようというのが「IPv6 IPoE+IPv4ハイブリッドサービス」だ。
具体的には、従来のIPv4のPPPoE環境にIPv6環境を付け足すのとは逆のアプローチであり、IPv6 IPoEで提供するIPv6ネットワーク上に、トンネリングによってIPv4通信を重畳する仕組みだ。加入者宅にレンタル設置する「光BBユニット」の機能によってIPv6/IPv4のデュアル通信環境を実現している。
ISP事業者にとっては、これだけでIPv6/IPv4のデュアル環境が提供できるため、ネットワークを「IPv6 IPoE+IPv4ハイブリッドサービス」に完全に移行できれば、既存のIPv4バックボーンと、VNEから提供を受けるIPv6ネットワークを両方維持していく二重投資を解消できる。
一方でユーザーにとっては、VNEのIPv6 IPoE回線上でIPv4通信が行われるということで、IPv4でもPPPoE接続を使わずに通信するかたちとなる。すなわち、IPv6通信だけでなく、IPv4通信についても下り最大200Mbpsの制限から解放される。
BBIXが提供している「IPv6 IPoE+IPv4ハイブリッドサービス」の概要 |
IPv6 IPoEには帯域制御がかからないという仕様は、BBIXも当初は半信半疑だったという。しかし実際に速度測定サイト(spchk.kddi.com、現在はサービス停止中)を使って調査したところ、IPv6接続で800Mbps台後半を記録した。また、「IPv6 IPoE+IPv4ハイブリッドサービス」によるIPv4接続でも、約700Mbpsの実測結果が出たという。測定サイトのロケーションがIPv6接続では東京、IPv4接続では仙台だったため、厳密には比較できないものの、トンネリングを行う分だけIPv4の方が若干遅くなったことが考えられる。とはいえ、体感的に差は感じられない程度だとBBIXは述べており、いずれにせよ200Mbpsは超えることが確かめられたとしている。
ソフトバンクBBでは8月に「IPv6高速ハイブリッド IPv6 IPoE + IPv4」を提供開始した後、“最大1Gbps”をアピールポイントにして「Yahoo! BB 光 with フレッツ」を販売しているが、販売店では「フレッツ 光ネクストの最大200Mbpsのコースを契約して、なぜ最大1Gbpsになるのか?」という疑問が寄せられ、ネットワークの仕組みの説明に苦労しているという。
なお、PPPoEの200Mbpsであれ、IPv6 IPoEの1Gbpsであれ、それらは規格上の最大値であり、実際の通信速度はベストエフォートになることは言うまでもない。1Gbpsのアクセス回線区間は複数の加入者宅(32分岐)で共有しているため、加入者の利用状況によって速度が低下することがあるとともに、ISP(VNE)のネットワークや接続先のサーバーの混雑状況なども影響する。
LTEなどモバイルデータ通信サービスが高速化するのに伴い、FTTHサービスは、低価格化や通信速度のスペック値など固定回線ならではのメリットを打ち出さざるを得ない状況になってきている。冒頭で述べたように、関西では最大1GbpsをうたうFTTHサービスが通信事業者各社より発表されており、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)は、最大200Mbpsのハイスピードタイプと同じ月額料金で、最大1Gbpsの「スーパーハイスピードタイプ 隼」を投入してきたほどだ。
一方、NTT東日本では現在のところ、個人向けには最大1Gbpsのコースは提供していない(法人向けには「ビジネスタイプ」を提供中)。しかし、最大200Mbpsのハイスピードタイプの加入者であっても、今回紹介したIPv6 IPoE接続であれば、IPv6回線で最大1Gbpsを利用できることになる。フレッツ 光ネクストにおけるIPv6接続サービスは、国やISP業界による“IPv6デフォルト化”施策もあって導入しやすくなってきている。現状ではエンドユーザーのメリットがほとんどないIPv6接続ではあるが、同方式に対応しているISPのユーザーは試しに使ってみるのも手かもしれない。
「Yahoo! BB 光 with フレッツ」についても、新規加入者だけでなく、既存加入者からの「IPv6高速ハイブリッド IPv6 IPoE + IPv4」への切り替えも受け付けている(NTT東西が提供する「ひかり電話対応ルーター」を併用している場合は、同ルーターの型番によって対応開始時期が異なる)。1つのウェブサイト/ウェブサービスにアクセスしている分には最大1Gbpsといってもあまり意味がないかもしれないが、世帯内で複数ユーザーがHD動画を見る状況などで、FTTH固定回線ならではのメリットを享受できるとBBIXでは説明している。
関連情報
(永沢 茂)
2012/11/22 06:00
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