ニュース

「ぎらついたミクシィを取り戻す」新社長・朝倉氏が掲げる3つの成長戦略

 株式会社ミクシィの笠原健治社長が6月25日に退任し、執行役員経営企画室長を務める朝倉祐介氏が新トップに就任する。かつては国内最大のSNSとして賑わった「mixi」だが、最近ではFacebookやTwitter、LINEが存在感を高めている状況。苦境のさなかに新社長を託された朝倉氏はミクシィをどう変えるのか。15日に会見が開かれ、新生ミクシィの経営陣が今後の方針を語った。

左からミクシィ代表取締役社長の笠原健治氏、取締役候補者の川崎裕一氏、取締役候補者の朝倉祐介氏、取締役の荻野泰弘氏、取締役候補者の松岡剛志氏

今までの延長ではダメ、新生ミクシィのテーマは「永久変革」

 「ミクシィは自己変革を図らなければならないタイミング」と語るのは朝倉氏。mixiは国内SNSの草分けとして2004年2月にサービスを開始。一時期は国内SNSで最大手という確固たる地位を築き上げたが、「そういったところを業績面に反映できていたかというと、自分たちが描いていた成長カーブではなかった」と反省する。

 その要因は、サービス開始当初と比べてデバイスや競合の環境が大きく変わったことを挙げる。「何より大きいのはデバイス環境の変化。ミクシィはフィーチャーフォンの広告ビジネスで最も稼いでいたが、スマートフォンの時代に移行して、今までやってきたものをそのままやっても儲かる状態ではなくなった」。

 新生ミクシィのテーマとしては「永久変革」を掲げる。「かつてはガラケーのパラダイムの中でソーシャルを形作ってきた自負がある。しかし、デバイス環境は大きく変化した。我々はその変化に先駆けて対応する永久変革集団であることを決意した。今あるアセットを生かし、中長期的な成長を果たすべく、自己変革を行なっていく」。

 中長期的な成長を実現するために新生ミクシィが取り組む項目としては、1)SNS「mixi」内外での収益拡大、2)外部事業への積極投資、3)アントレプレナーの輩出――の3点を挙げる。

新生ミクシィが取り組む3つの変革

スマホアプリを25倍に

 mixi内の収益拡大という点では、mixi関連のスマートフォン向けアプリを現状の2本から50本に増やすことに着手する。現時点ではmixiおよびmixiコミュニティのアプリが公開され、会員数は延べ1000万人を突破。その数はスマートフォン向けブラウザー経由の利用者の1.6倍に上り、「成長の余地が大きい」(朝倉氏)アプリ市場に本格参入する考えだ。

 ミクシィはこれまで、「すべての人に心地よいつながりを」をミッションに掲げてサービスを提供してきた。「新体制ではアプリの開発を通じて、つながりを強めるアプローチと、つながりを作るアプローチを取っていく」と、同社取締役最高事業責任者に就任予定の川崎裕一氏は語る。

 「mixiはよくFacebookやLINEと比較されるが、我々はつながりを作る会社。今後は全社一丸となりスマホアプリでつながりを作る。すべてを1つのアプリで提供するのではなく、ユーザーの課題を解決するアプリを数多く出す。各アプリを通じて(ウェブの)mixi.jpに投稿された結果、ユーザーがよりつながりを実感できるサービスになれば。それからアプリ経由の課金を伸ばしていきたい。」

 スマホアプリに注力するにあたっては、専門のエンジニアを現在の4倍に増やす。責任者として取締役最高技術責任者に就任予定の松岡剛志氏が指揮を取り、エンジニアの採用やトレーニングを行っていく。「我々のエンジニアはウェブでサービスを手がけてきたが、それをアプリのエンジニアに変えていく」(川崎氏)。

ノウハウ社外展開と積極投資でmixi依存から脱却

朝倉祐介氏

 mixi以外での収益拡大という点については、過去9年間のサービス運営で蓄積した技術力やノウハウ、ブランド、ユーザーとのつながりを外部に展開する。「ミクシィの人間はmixiを愛してやまない一番のヘビーユーザーでもある。しかし、ノウハウや資産はたくさんあるのだから外に展開しようということ」と朝倉氏は説明する。

 ミクシィは2012年8月、新規事業の創出を目的とした社内部署「イノベーションセンター」を発足。mixiやFind Job!に続く新サービスの開発に取り組み、これまでにテスト版Androidアプリを限定配布できる「DeployGate」やフォトブックサービス「ノハナ」といった事業を立ち上げてきた。今後はこうしたmixi以外のサービスでの収益拡大も強化する。

 社内公募制度だけでなく、戦略事業子会社を通じて自社のノウハウを外部に提供することも視野に入れている。まずは7月1日に「株式会社ミクシィマーケティング」を設立し、同社の広告・マーケティング事業やDSP事業、ネットポイント事業「モラッポ」などを社外に展開する。

 外部事業への積極投資については、7月1日に投資子会社「アイ・マーキュリーキャピタル株式会社」を設立し、事業ポートフォリオを拡大する。同社ではオンライン事業だけでなく、オフライン事業の企業への投資も検討し、投資額は50億円規模を想定。投資戦略としては株式売却利益ではなく、長期保有での利益創出を図るという。

 「ミクシィはキャッシュが潤沢にあるにもかかわらず、これまでは新規投資に生かせていなかった。外側にある事業を取り込んでいくことで、短期間で事業ポートフォリオを拡大できる。これによって、今までの成長の延長線上にはない『桁を超えた成長』を実現し、mixiへの依存体質を改善したい。」

mixi急成長で組織が老化、アントレプレナー輩出で30年続く企業を

 アントレプレナーの輩出については、「長期的なミクシィの成長には不可欠な要素」と朝倉氏が指摘する。「一介の学生ベンチャーがここまで成長したのは笠原のアントレプレナーシップによるもの。その一方、mixiが急成長したことで、企業体制が老生化してしまった。一気におじいちゃんになってしまった感覚。求められているのは過去の成功を断ち切り、ぎらついたミクシィを取り戻すこと」。

 アントレプレナーの輩出にあたっては、「真剣勝負の場所を整えることが重要」と、朝倉氏は自らの体験をもとに力説する。

 「自分の経歴を振り返ると、中学卒業後に競馬の騎手を目指しオーストラリアに渡った。減量苦で帰国してからは競走馬の育成や調教に従事し、その後は東大法学部、外資系コンサル、スタートアップ企業の経営者、ミクシィというキャリアを歩んできた。自分の腕一本で食っていく意気込みでキャリアを築くことで成長できた。そのように自分自身が鍛えられる場所を社内に用意したい。」

 朝倉氏はすでに、前述したイノベーションセンターに加えて、プロダクトオーナーに裁量と収益責任を持たせることで、mixiのサービスを迅速に開発できるようにする「ユニット制」を主導で進めてきた。ユニット制を採用した結果、mixiのサービスは約2.5倍に増えたという。

 「イノベーションセンターやユニット制で社員がバットを振れる場を用意してきた。私は外から入った人間だが、改めて中を見てみると、ここまで人材にめぐまれた会社は珍しい。ダイヤの原石に戦う場を提供することでアントレプレナーを輩出したい。競馬に例えるとG1クラスのレースに勝つ人材。アントレプレナーの輩出は、ミクシィの長期的な成長を支えるのに本当に必要な要素。10年、20年、30年をかけて骨太な企業を作る。」

笠原氏「1を10にするのが得意な人が主導権を持つのが望ましい」

笠原健治氏

 今回の新体制発足は、朝倉氏が執行役員経営企画室長に就任した2012年7月ごろから準備が進められてきた。朝倉氏にバトンを託す笠原氏は、「ミクシィの現状には満足していない。上場以降、満足することは多くなく、不満を抱えながらやってきたが、まだまだポテンシャルはあり、会社としてパフォーマンスを最大化できる体制変更になった」と期待を寄せる。

 成長の余地があるとしながらも社長を退く理由を聞かれた笠原氏は、しばらく考え込んだ後に「自分はウェブサービスを立ち上げて、育てることが好きな人間。その過程でフル回転できる部分がある。mixiは9年以上手がけてきて、自分が起業家としてかかわれる部分の発電量は発揮できたと思っている。今後はむしろ、1を10にするのが得意な人が主導権を持つほうがより望ましい」と話した。

 笠原氏は今後、新規事業開発に専念するとともに、取締役会長として同社の重要な意思決定に携わる。新規事業に関する具体的なアイデアは現時点ではないというが、「やるからにはmixiやfind job!以上に意義のあるサービスを提供したい。そうしたアイデアは年に数本しか浮かばないので、焦らずに取り組んでいきたい」と語った。

(増田 覚)