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海外からの配信にも消費税課税を、国内ネット事業者などが共同で要望

 インターネットサービスにおいて、海外から日本国内向けにサービスを提供する事業者には消費税が課されないため、国内事業者が不公平な状態に置かれているとして、ヤフーなど国内ネット事業者がこの問題についてのフォーラムを28日に開催し、公正な消費税課税を求める声明文を採択した。

「インターネットサービスにおける公正な消費税課税を求めるフォーラム」が会合を開催
青山学院大学の三木義一教授

 フォーラムの進行を務めた青山学院大学教授の三木義一氏は、現在の日本の税制では、インターネットサービスを国内から提供する場合には消費税が課税されるが、国外から提供する場合には課税されないという問題があると説明。また、事業者が国内であるか国外であるかの区別は、サービスを提供する事業所の所在地で判断しているとした。

 このため、たとえば電子書籍の場合であれば、海外から配信しているAmazonのような事業者には消費税がかからず、一方で国内事業者には消費税がかかるため、国内事業者が不利になっていると指摘。現在の消費税率は5%だが、今後8%、10%と税率が上がれば、国内事業者にとってはさらに大きな問題となり、こうした不公平な状況を解消するのが政府の役割だとした。

 一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の幕内浩氏は、消費税格差問題を巡るこれまでの動向について説明。2012年7月には財務省がこの問題についての研究会を設置し、11月には中間報告を取りまとめたが、12月に政権交代があったことなどでこの中間報告は公表には至らず、2013年1月の自民党税制調査会でもこの問題については2014年度以降の検討課題という判断が下されたという。

 一方で、海外の動向としては、OECD(経済協力開発機構)が多国籍企業などの租税回避措置、いわゆるBEPS(Base Erosion and Profit Shigting、税源侵食と利益移転)に対する行動計画を7月に公表しており、8月には日本の政府税調でもこの問題について議論したという。今後は、経済産業省が2014年度税制改正要望を公表するとともに、経団連でも9月に税制改正提言を公表する予定で、消費税率の引き上げを控える中、速やかに所要の措置を講じるよう求める予定だとした。

 ヤフー株式会社の別所直哉氏は、付加価値税に関するOECD勧告とEUの制度について紹介。OECDにおける電子商取引の議論では、国境を越えたサービス取引においては消費地国のルールに従って課税されることを基本原則としてルールの検討が進んでいると説明した。

 また、EUにおいても、EU域外の事業者が電子的サービスをEU域内の事業者や消費者に販売する場合には、付加価値税を徴収することがルール化されており、2010年までにEU各国が国内法制において対応済みであることを紹介。各国で消費地課税が原則となってきており、日本でもこの動きに従ってほしいと訴えた。

OECDにおいては消費地課税を原則とした制度の議論が進む
BtoB取引についてのドラフトも策定
EUでは域外事業者への付加価値税課税を実施

 フォーラムに参加した企業各社も、海外の事業者にも公平に消費税を課すことを求める意見を表明した。

 株式会社IDCフロンティアの山中敦氏は、データセンターやクラウドサービスを提供する立場から、顧客企業の多くはサービス提供やコンテンツ配信を行っているが、海外から配信する方が得だということになれば国内ITインフラ産業も衰退してしまうとして、消費地課税への転換により公平な競争環境が整備されることを望むとした。

 株式会社イーブックイニシアティブジャパンの戸田暁弓子氏は、既に電子書籍の配信において、消費税を課税されていない企業と競争しなければならない状態にあると説明。現状では、消費税分だけ価格を安く設定しているが、その分だけ利益を圧迫しており、早くこの状況を解消してほしいと訴えた。

 株式会社紀伊國屋書店の牛口順二氏は、インターネット配信以前からこの問題には苦しめられてきたとして、大学や図書館などが海外事業者から学術図書や学術雑誌を直接輸入した場合には消費税が免除されてきたため、かつて10社以上あった国内学術雑誌取次事業者が現在では数社のみになってしまったと説明。ようやく拡大基調に入った国内の電子書籍事業でも、同じことを繰り返すことは避けてほしいとした。

 ヤフーの別所氏は、Yahoo! JAPANの主要事業であるネット広告においても、国内事業者には消費税が課税されるが、海外事業者には課税されないため、今後消費税率が上がればさらに影響が大きくなるとした。また、事業者間取引(BtoB)であれば仕入税額控除があるから影響はないという意見もあるが、実際の営業現場では目に見える価格しか意識されていないという現状があるとして、正しく納税している事業者を競争上差別することのないようにしてほしいと訴えた。

広告配信も海外事業者には消費税が課税されない
仕入税額控除も実際の営業現場では意識されないという
支払った税額に応じた控除がされないケースも
サービス購入者の所在地による課税への切り替えを提言

 専修大学教授で出版デジタル機構会長の植村八潮氏は、「消費者であれば誰でも安い方を選ぶのは当然のことで、今後消費税率が8%、10%になればさらにこの傾向は強まる。国内事業者を助けてくれというのではなく、税制を公平にしてくれということ。その上で競争して、海外の事業者に国内の事業者が負けてしまうのであれば仕方がないが、不公平な状況があるのであれば、それを解消するのは国の仕事だ」とコメントした。

 株式会社ドワンゴの杉本誠司氏も、「この問題は、国内事業者を助けてくれということではなく、現在課税できていない事業者にもきちんと課税してほしいということ」とコメント。「聞くところによると、払う側の事業者も決して払うことを拒んでいるわけではないとのことなので、制度を整備していただきたい」と訴えた。

 フォーラムでは、インターネットサービスの提供にあたって、国内外の企業に平等に消費税が課税されることや、そのための法令の改正などの必要な整備を求める声明文を参加者の賛同により採択。この意見を今後、経済産業省に要望書として提出することを確認した。

(三柳 英樹)